第12話ジャイアントマシン

 人が変革を求むるのか、変革が人を動かすのか。そのようなことを考えた哲学者はすでに溢れていた。だが一様に真実なる答えを出せてはいない、いや出せないのだろう。統括軍を中心としたその戦いは変革を求む人間達が行なっている。その先に真実は見つけられるのか、これも誰もが知るものではないだろう。いつになればそれを掴むことができるのだろうか。


 アルバトロスとシャイダン・サルバーカインがお初顔合わせを果たす。エドゥの乗るザンダガルはシャイダンのローディッシュ・パンターに圧倒され名目上は引き分けとされるが、事実上の敗北を味わう。ここまでトントン拍子にやって来たアルバトロスにとってそれは大きなものとなった。が、この前向き集団は前に進む。それが良い方か、はたまた悪い方か…、それを知ったる者はだぁれもいない。


「アルバトロスと統括軍のバトルシップは交戦状態を解き、双方射程距離圏外を脱しました。」

 その情報を耳にしてテンダーは一息つく。

「まさか別れ掛けすぐにこういう事態になるとは想像もつかなかった…。だがルト…いやバーナード艦長らは無事にこのダクシルースを離れることができたか…。」

「やはり、お嬢さんの事気にかかりますか?前よりはずいぶんと表情が明るくなったように見えますが。」

 秘書がからかうように言うことにテンダーも返す。

「親は最後に結局自分の子を心配してしまうもんだよ。よし、その例の戦艦に所属と艦名、そして責任者を問え。場合によってはこのダクシルースは入港申請を拒否する。」

「ラジャ!」

「何も知らぬとはいえ恩人に手を出すような無礼な連中だ、あまりいいおもてなしを期待はさせん。」

 ダクシルースからの打電にディオネーが答えたとき、多少の悶着はありはしたが入港許可が下りた。シャイダンは何故そのようにダクシルース側が彼ら統括軍が来るのを拒むのかについては重々理解していたのでそれについて文句は付けなかったが、その原因を作った一部の統括軍の暴走を未然に防げなかったことに頭を抱える。そしてバーナードの言っていたことを頭の中で反芻し少しばかり嫌気がさした。

(バーナード中将の言っていたことはこれか。当然と言えば当然だ、だが…。)

 それ以上考えてしまえば統括軍に身をささげ、それに反するものを許さぬとい彼の信条が揺らいでしまう。バカにまじめすぎるのは良くないとわかっていながらも、そういう生き方しかできない男だ。これも性格だと、あきらめる。


「試作機テスト運用についてだが、ダクシルースでの連中がやらかしてくれたことによってここらでの動きが取りづらくなってしまった…。おまけに例のランドクルーザーやことを嗅ぎつけて本部から来たシャイダン・サルバーカイン少将らもこの周辺をうろついているらしい。」

 統括軍新型ギルガマシン『ビッグ・スパイダス』はこれまでの多脚型マシンを一回り大きくし、それぞれの足の部分に四門の砲を、不整地でも移動を可能とするキャタピラーを備えているマシンである。が、それだけではなく、まだ試験運用でしかないが大型ビーム兵器を機体の上に装備している。まだ安定したエネルギー放出を行えない上に弾数はあまりに少なく、莫大にエネルギーも消費するため実戦投入には今一歩踏み出せないでいる。全高は十七メートルとザンダガルよりも高く、対ギルガマシンというより対艦兵器として製造された。

「余計なことをしてくれたものですが…、これは逆に我々にチャンスが回って来たと考えられるかも知れませんね。」

「…まぁ、普通に考えればそう思うな。テストにかこつけてアルバトロスを沈めることができれば我々に対する評価も変わる。そうなれば金食い虫などと言うものは誰もいなくなるというわけだ。」

 つらつらと話すテンピネス中佐は顔いっぱいに悪そうな笑顔を作り上げてみせる。要するに彼らは開発はされたものの、コストにおいても運用においてもその不安定さから誰も手を出さないようなマシンを貧乏くじ引かされ、なおかつテストまでするよう命令を下されていた。ある程度の動作確認は終えてはいる。そこは足回りをキャタピラー式にしたことで従来の多脚マシンよりもはるかに優れた運動性、そして厚い装甲が持つ防御力と優良な面は多かった。だが肝心の攻撃の要となる大型ビームカノンは未だに愚図り、それゆえ調整やらなんやらで成果が出せぬままに資金だけを食いつぶしていた。それにより金食い虫部隊などと不名誉な名までもつけられることとなった。

 本当はそんなものを開発責任者に問題があるのであって、別段彼らが悪いわけではないのだが、しいて言えば運が悪い。各足に備え付けられた二連速射砲は十分なのだが、対艦マシンとして作られたビッグ・スパイダスにとってそれは対空程度のものでしかない。

「アルバトロスとの戦いでこのビームカノンが火を噴けばたとえ頑丈なランドクルーザーと言えども一発で落とすことができる。そうなればこんな厄介なマシンは本部に送り返せるだけでなく、色々な場所で統括軍に食ってかかるアルバトロスを落としたということで本部に戻って楽々昇進コースも夢でないわけだ!フフフフフフ…。」

 考えが先走り皮算用しているところに水を差される。

「ですが隊長、例の陸艇にはザンダで強奪されたアテンブールが乗っているそうですよ。それにパイロットはあのエドゥアルド・タルコットとか…。」

「エドゥアルド…、ああ、聞いたことあるぞ。確か将軍の息子ヒッツ・エイベルを殺したとかいう奴か…。統括軍が奴らを消したいという理由がよくよく分かるな。だがアテンブールというマシンについては知らんな。」

 それを聞いて数名がテンピネスの方に向かって口々に言う。

「知らないんですか、隊長!このビッグ・スパイダスとともに発表されたバイペッドタイプのマシンですよ…。」

「なんでもAGSの小型化に成功したらしくそれを用いて宙に浮けるんだとか。」

「それに変形機能も備えており、人型から戦闘機になるんだそうですよ!」

 あまりにもアテンブールの機能美を熱く、また羨望しながら語るのでテンピネスはそれを制す。なぜならそんなものにたぶらかされてビッグ・スパイダスに対する興味関心を薄れさせれば士気にかかわることだからだ。

「甘いな、貴様ら。二本足で歩くマシンなんて所詮は人間のマネしかさせることが出来んよ。それに少しでも小突いてみなさい。すぐに後ろにパッタりと倒れてしまうだろう?」

「いや、そこはオートバランサーが働きますし…。」

「っぐ…、バッキャロウ!オートバランサーがいつでも作動するなんて思うな!その点足の多いマシンの安定感と重量感よ。貴様らにはこれこそ男のロマンだとわからないようだなぁ!」

「でも変形するマシンの方が格好良くないですか?」

「フフフ、そういうだろうと思ったからこそそれをここで決着つけさせてやるよ。このマシンでアテンブールとやらを倒しちまえば多脚マシンの方がバイペッドごときに劣らぬというのが分かるだろうて…。アルバトロスの居場所をすぐに洗い出せ!ビッグ・スパイダスに活躍の場を与えてやる!」

「隊長、それだと論点がすり替わっているように思えますが…。」

「じゃかましい!」

 賑やかな声とともにビッグ・スパイダスの準備を進める。ホントのホントにこれが彼らにとって最後のチャンスになりかねないからこそ、成功を収めなければならなかった。



 一方こちらも負けず嫌いな男がいた。シャイダンのローディッシュ・パンターに事実上の敗北を味わった男が。

「やはり叩き上げってだけはあるな。あの野郎口先だけではないということだ、それに奴のマシン。一見普通の量産タイプのマシンに見えるが良くできた整備と少しカスタムが加えられている。アルバトロス程度の設備じゃまかないきれないほどの。」

「とは言うもののだ、エドゥ。あれと互角にやり合うだけの力を持ってるのは世界広しと言えどもお前とザンダガルぐらいだぜ。あんなマシン相手にマトモに太刀打ちできるわけなかろうて。」

 ゴーヴの言葉にサミエルが付け加える。

「第一奴のマシンってのは重量級で各武装のパンチ力もザンダガルとは大違いじゃない。ザンダガルは俊敏性と機動力は充分にあるんだしさ。」

「ふぅむ…。パンチ力ねぇ…。トループ・レスロッドやリスタ、それにトレーグス程度ならば問題なく太刀打ちできるんだが、やはり相手がああも重いとどうしても貧弱に思えちまうな…。」

 唸りを上げる中でコツコツコツと複数の足音が後方から聞こえて来た。誰だ、と顔だけ向けるとビンセントとジュネスがエドゥを探し尋ねていた。

「そのザンダガルの貧弱さをなんとかするのは案外にできるかも知れないぜ。」

「前々まで機体に干渉するからといってアタッチメントを付けるべきでないと言ってあったがの、ザンダガルの可変時の関節の動きをコンピュータグラフィックスに入れてソフトを作成してみたんじゃが、そいつを使えばザンダガルに付ける追加武装が出せるんじゃないかと考えての。そんで持ってゴーヴに艦長が運び込ませたジャンク品があるじゃろ?なかなか良いものばかりが揃えられておったからちょっと手直しすればザンダガルを強化できる。ハッタリでなくて本当の重武装じゃぞ。」

「アルバトロスの設備程度でもそこまで出来る腕を持った職人ばっかりなんだ、エドゥ。舐めてもらっちゃ困るぜ。」

「聞かれていたのか…、だがホントにあのザンダガルに重武装なんかして大丈夫なのかよ…。」

 ビンセントはそれに答える。

「なんのためのAGSじゃと思うとるんじゃお前さんは。アンチグラビティシステムはその名の通り重力に逆らう為のもんなんじゃぞ。ザンダガルの機体を軽々と浮かすほどの力を持っとるやつがたかだか少し重りを乗っけただけで動かんようじゃ兵器として使い物にならぬと言うことじゃて。」

「確かに、一理ある。」

「それでも最後はエドゥ、お前の腕次第ってやつだろうがな。」

「あんたのキザっぷりについては特に思うことなしって感じだけれども、あのシャイダンってのはどうもいけ好かない感じだからね。エドゥ、次こそはあんなのには負けないで欲しいもんだね。」

「当たり前だ、あんな情けない姿をこの俺が二度三度も晒してたまるかってんだ。」

 彼らがシャイダンと次にお手合わせするのはいつになるだろうか。圧倒的な力の差を見せられてもなおそれに挑もうとするその彼らの姿勢に誰があっぱれと言おうか。真にエドゥが倒すべきヒッツ・エイベルという相手は確かに彼の手で討つことが叶わなかった。だがしかし、そんなつまらない奴よりも大きな敵が目の前に立ちふさがったことでエドゥの仇を討てなかった喪失感は満たされつつある。

 シャイダンが眼をギラつかせるエドゥを取り戻した。彼らの出会いがまたこの小さな世界の歯車を少し狂わせながら別の歯車へとガチリと嚙み合わせる。


「なんだかエドゥが来てからあなたの様子が変わったように思えるんだけれど。」

 格納庫にてルトが暇そうにとループレスロッドの砲身にまたがりながらニールスに話しかける。

 シューターを整備しながら彼女のその言葉に耳を傾けるニールスは一瞬ピクッと反応を見せるが一呼吸入れて平静を保とうとする。

「そうかな?またどうしてそんなことを言い出すのさ?」

 シューターの下から顔をのヒョコッとぞかせるニールスをルトがまじまじと見ながら言う。

「なんというか、職業柄なのか女の勘なのかはよく分かんないんだけれども、尖がっていたイメージが消えたのよね。そりゃまぁ、エドゥが来た頃は敵対心むき出しで尖りまくってたのだけれども今はなんとなく柔らかくなったというか、あなたの見た目も相まってすごく中性的に見えるのよね…。こんな言い方気分悪くしちゃうかしら?」

 やはりルトほどの観察力をもってすれば鋭いところを突いてくるかと感心しつつ、己の置かれた状況に危機感を感じた。実際にエドゥに自分の本当の姿というのがバレて以来、少し気を抜いていたという面がある。こういうのは得てして一度誰かと秘密を共有すると、それに自分一人で押される重圧を感じなくなりだして周りにじわじわと知られて行く。すると秘密が秘密でなくなったしまうのだ。

 ニールスの場合隠していたい事実の大きさがとてつもなく重たいものだったので、それをエドゥに知られ二分したときに一気に軽くなったように感じた。

(男として生きようなんて格好つけたくせに甘えが出ちゃっているんだ…。)と自分の意志の弱さを実感した。だがそれを考え出した時に本当に持っているべき自分というのも失ってしまいそうで怖さも感じた。だからこそ今ルトに向けて出る答えも、

「どうなんだろうね、気を張り詰め過ぎないことを知ったから、かな?」

 などという着地点があいまいなモノとなってしまった。

「ふぅん…。」

 ルトが納得したのかしていないのか分からぬような顔をしながらゆっくり大きくうなずく。

「そうね、ここにいる人たちっていかにもノー天気に見えるようなのばっかだものね。ニールスがいかにまじめな子だったって、ここの空気を浴びていればそうなってもおかしくはないわね。」

「フフ…。その言い方はひどいんじゃない?でもボクは嫌いじゃないかな、

 ルトの言葉を借りて言うならばそのノー天気さっていうの。それがなければ今頃ボクだってもっと腐っていたかもしれない。もしかしたらここにいる誰もがそうなのかも…。」

「…なんにせよあまり詮索されるのは気分がいいものではなかったわね。ごめんなさい。私も知られたくない事情を知られたばっかだったってのに無粋だったわ。」

 素直に謝るルトを見てニールスは申し訳なさを抱いたと同時に思ったことがあるので満面の笑みを添えて言ってみる。

「ルトも随分と素直になったじゃないか。」

 そういうとまたがっていた砲身からずり落ちそうになったルトが叫ぶ。

「アンタに関しては雰囲気が変わっただけじゃなくて、エドゥのせいでデリカシーもなくなってるのよ!」

 ルトに怒鳴られたことで「わぁぁ!」と声を出しながら逃げていくようにシューターの下へと再びもぐりこんだ。

(エドゥの病気が感染うつったかな…?)

 なんとなくモヤッとする感情をそういう風に決めつけながら何事もなかったかのように処理しておいた。

「ぶぇぇっくしょい!」

 そしてエドゥはくしゃみを一発かました。


「周りに他の艦の反応がないところを見ると、ほんとに一隻だけでこちらに来たんですね、あのシャイダンとかいう人物…。しかもあの様子を見るに、我々に接触するのがメインで、ダクシルースに行くことなんか二の次って感じでしたよね…。なかなかのツワモノじゃないですか?」

 マクギャバーは今更ながらにシャイダンという人物の行動の異常性を感じる。

 正直アルバトロスを囲んで落とすだけの戦力をシャイダンは平気で用意できる立場にある。があえてそれをしなかったこともまたこちらを挑発しているように思えてならない。

「なんにせよ、私が生きていると知られたのは結構まずいね。サルバーカイン少将がそれを言わなくとも、彼の部下たちはどこかで必ずポロリと漏らしてしまうだろうし…そうなれば一番怖いのはファイブ・ヘッズだ。」

「ファイブ・ヘッズ…。あの統括軍特殊部隊のことですか。」

「そう、奴らに知れてアルバトロスが襲われる、なんて事になったらほんとにシャレにならない。」

「わ、笑えないですね…。」

「笑えないよ…。」

「ハ、ハハハハハ…。」

 口の中が乾ききったマクギャバーの笑い声が、周りの人間にまで伝播して、一同その笑えない状況を考えまいと笑ってしまう。バーナードもそれにつられてアハハと愛想笑いをする。

 バーナードはシートに深く腰掛け、内ポケットからタバコとライターを取り出し、火をつける。少しプカプカとふかしながら表情を殺す。指に挟んだタバコの先から立つ煙を見て、口の中で小さく愚痴る。

「…だから笑い事じゃないんだってば……。」

 彼の表情と放った言葉を聞いた者はいなかったのか、はたまた聞こえないフリをしたのか。

 ブリッジにはタバコの煙とはまた違ったモヤモヤした空気が立ち込める。

「…ホントにだねぇ…。」


 アルバトロスがどんな状況に見舞われているかなど知らぬとは言えテンピネスには全くどうでも良い事だった。なにせこのお荷物マシンビッグ・スパイダスのテストを終わらせなければいけないからだ。

「隊長ォ!ランドクルーザータイプの反応をキャッチしました!多分この辺りをうろつく陸艇はアルバトロスの他ないかと思われます。」

「スパイダスを発進させたとしてどれくらいで接触するか?」

「およそ四十五分程ではないかと…。出せますか?」

「脚まわりや二連速射砲は問題ないのだが…。あいも変わらずあのビームカノンがなおもグズっているらしい……。技術のことはよく分からないのだが、なんでもビームを凝縮する装置のバルブがうまく締まらないとか…。」

「…その装置がきちんと作動しないとどうなるのですか?」

 別の部下がテンピネスの話を聞いて興味を持ち出す。テンピネスは先ほどエンジニアから聞いた話をそのまま彼にする。

「高出力のビームを敵艦に向けて撃ちたいわけだが、凝縮装置が働かないとなればビームのエネルギー自体が発射後乱射されるらしく、威力が何倍にも落ちるとの事だ。」

「それが今なおうまく調節できないのですよね。…となると逆転の発想ではないですか?」

「ぎゃ、逆転の発想?どういう事だ。」

「いえ、それに関しては言いたかっただけですが。…あのビッグ・スパイダスを我々が対艦ギルガマシンだと考えてしまっていたからダメだったんです。対ギルガマシン用として使えばあるいは…。」

 その一言は周りを騒つかせるには十分な重みがあった。テンピネスもまたハッと何かを理解した様な顔つきを見せて、答え合わせをするかのごとく続きを聞こうと再び耳を傾ける。

「…隊長にもわかっていただけた様で…。そう、元々大きな軍艦一隻を落とせる様に開発した兵器なのですよね。となると、無論それは小さなギルガマシンにも適用できるというわけです。ただギルガマシン相手だとマトが小さすぎる。ですが今、ビームが乱射される状態ならば拡散ビーム兵器としてギルガマシン相手に戦えるはずです。」

「高出力ゆえに拡散されてもギルガマシンに致命傷を与えられるだけの威力は残っている、か…。それに広範囲にわたる攻撃…これは、勝てるかもしれない…!君は天才だな!」

「おっしゃる通りの天才でございます。」

「少しは謙遜しなさい。しかし思い立ったが吉日とも言う。早速この事を整備班に伝えよ、実行可能ならば今からでもアルバトロスを、いや、アルバトロスの艦載機を落とす作戦にでよう!いくら空を飛ぶと言われるアテンブールでさえ拡散ビームカノンの前には手も足までまいて、フッフッフッ…ハッハッハッハッハッ!」

 今から成功を想像して楽しい高笑いをするテンピネス率いるビッグ・スパイダステスト部隊は対アルバトロスから対アルバトロスの所属ギルガマシン撃退作戦へとプランを変更し、早速オペレーションを開始する。

 彼らにとってその考え、いったいどっちに転ぶのか…。アルバトロスにとって鬼が出るか蛇が出るか!もしくは大きな毒蜘蛛に噛み殺されるのか…!

 巨大なマシンがエンジンをふかして土煙を立てながらゆっくりと進み出す。


 異様な動きをアルバトロスのレーダーがキャッチした。

「熱源反応、何かこちらに近づいている様子ですね…。ただ、駆逐艦にしては小さ過ぎますし、ギルガマシンにしては大き過ぎますし、かなり動きも俊敏ですね…。前方モニタに映像送ります。」

 マクギャバーの言う通りにギルガマシンにしては大きすぎるものが高速移動で迫ってきていた。

「確かに、だが統括軍のメカならばどんなものが作られていてもおかしくはないな、現にアテンブールがそのいい例だ。よし第二種戦闘配備、警戒態勢は怠るな。ククールス、あちらにまだ我々の存在が知られていない事を想定して自然に離れていくよう本艦を動かしてくれ。」

「了解、方向としては西北西にいくように見せかければいいですね。」

「そうしてくれ。」

「アルバトロス…気づかれていますよね、多分。」

「そりゃ奴らが一番スクープしたがる艦だもの。奴らがこのすぐ近くのどこかしらの基地から出ていればとうにバレてるよ。」

 バーナードがふぅ、とため息を吐いた途端、モニタに映り込む熱源が急にその温度を上げる。

「目標熱源に異常が、急激な温度上昇が見られます!……高熱源反応前方から接近、かなり広範囲に広がっています!…アルバトロスの右舷かすめます!」

「何っ⁉︎急速回避!左に舵をとれ!」

「りょ、了解!」

 ククールスがアルバトロスを回避運動に当たらせるがスパイダスから放たれた拡散ビームが右舷船体を複数箇所焼き、艦体を揺さぶる。

 その熱量と衝撃にに一同驚き一瞬全ての時が止まったかのように感じられた。

『艦長!今の攻撃はなんですか⁉︎敵はまだ遠いんじゃないんですか!』

 バーナードにも状況が読めないでいるのにそのような事を言われたところでどうしようもない。

「…一瞬、たった一瞬だが放射状に広がる閃光が見えた…。ビームだ、奴らビーム兵器を使ってこのアルバトロスに挑もうとしているんだ…!」

 一度だけのその攻撃はアルバトロスにいる全ての人間に対して精神的ダメージを与えるのに充分だった。

「ビーム兵器…奴らそんなものの開発を成功していたんですか⁉︎」

「現に我々が目の当たりにしたんだ…。それ以上の証拠があるか…!あれだけ遠距離から攻撃が届いた…。ギルガマシン出られる者だけでも発進させろ!それと先ほどの攻撃で出た被害状況を伝えろ。あれだけの威力のものを撃ってきたんだ、リロードに時間がかかるはずだ。抜かりのないように!」

 ギルガマシンの出撃命令が下され、エドゥもすぐ出られるようにスタンバイする。

「エドゥ、敵はビーム兵器を使うそうだ、それもかなり長距離の。いくらザンダガルが空を制すとはいえ気をつけろ。」

「がってんだ、とりあえず他のマシンが出るまでにその目標の情報を送っておく。じゃあ出るぞ、離れてくれ。」

「オーライ、ザンダガルが出るぞ、注意しろ!」

「いくぞ!ザンダガル、エドゥアルド出る!」

 ドフゥ…!

 カタパルトから放たれたザンダガルは空中でターンを描き、アルバトロスに並んで右舷の様子を見る。びっしりと黒焦げた線が数個アルバトロスに引かれている。

「これが、ビーム兵器の威力か…、ひでぇ、アルバトロスの表面装甲が溶かされてやがる…。」

 一目で異常性がわかるソレに言葉を失いかけたが、そうおちおちもしていられない。的なリロードが完了するまでにどんなものかと確認しに行かねばならないからだ。

 操縦桿を手前に引きグンッとザンダガルのスピードを上げる。アルバトロスに対して撃たれたそのビーム兵器の軌道をたどると敵の姿か、砂埃を激しく立てながら猛スピードで移動する物体をエドゥは確認した。

(…あんだけど派手に立てているのは威嚇のつもりか、もしくは余裕のアピールなのか…?どちらにせよさっき撃ってきたのはあれに間違いないっ!)

 ザンダガルでその目標を追うが、近づくたびエドゥは自身の目を疑う。

 ビッグ・スパイダスの上には統括軍のマシンが三機同乗していた。

(ガルージア…?にしてはあまりにも機体が大き過ぎる、それにバイペッド二足歩行を上に乗せて移動出来るようなマシンなんて…!)

 テンピネスもザンダガルの姿を確認し、その姿を目に焼き付ける。

「アレがアテンブールか…。あれだけ自由奔放に飛び回られちゃあ、確かに狙いを定めるのは難しいな。この方が安定するし、存外我々の功績は認められるかもしれんな。アハハハハ!」

「隊長、次点装填完了いたしましたがあのうるさいハエでも落としますか!」

 ビーム砲座に着く彼の部下が意気揚々とからの指示を待つが、今のテンピネスは自分でも驚くほどに冷静だった。

「いや、エネルギーの消費が激しい故、威嚇として使えるのは一発だけだ。それにアテンブール一機を落とすだけに使うのももったいない。出来るだけ多く集まったところでぶち込んでやれ。無論その時はアテンブールもろともドカンだ。」

 冷静ではあるが、その分欲張りが過ぎるところがある。しかしそれだけ余裕を持ってこのビッグ・スパイダスを運用している証拠だと確信していた。事実今の彼のその自身は部下にも伝わっている、そのことが全体の士気を上げることにも繋がっていた。

「アルバトロス、アルバトロス。こちらザンダガルのエドゥ、奴らみたこともないような巨大多客脚型ギルガマシンでそっちに向かって接近中だ。接触にそう時間もかからない。ザッと見た感じだと例のビーム兵器の他に各脚部に二連装砲を備えてやがる。足も相当速いようだ。」

『了解したエドゥ、こちらもすぐに主砲を撃てるように準備してある。合図とともに撃ち込むから当たらないように頼むぞ!』

「分かった、いつでもいい!」

 ゴゴゴ……ガコン…。

 静かにアルバトロスの砲塔が回り砲身が調整を始める。砲手は胸の前で十字を切り、トリガーを握る。

『主砲開け!』

 ヘッドホンから聞こえてくるブリッジの命令通りに安全装置を外し、

ーッ!』

 グワァァァン‼︎

 トリガーを引くと同時に地を響き渡るかのような轟音をあげながら弾が出される。その音とともに再びアルバトロスの戦いが始まる。

 今までよりは小さな相手ではあるが、確実に彼らを動揺させるだけの大きな力を持つ者達との戦いが…!

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