[Lost]BEATLESS-L3

山本アヒコ

[Lost]

 講義終了の時間となった。教壇に立つ中年の男性は、持っている端末に軽く指を触れる。男性の背後、学生からは前方になる壁一面に展開していたホロモニターを消去。

 ホロモニターが消去されたのは、講義終了直後だ。かつて黒板に直接チョークで書き込んでいた時代ならば、学生達から講義の言葉があったかもしれない。しかし今となっては、ホロモニターに表示された文章や図形は、リアルタイムで学内サーバーに保管され、いつでも自由に閲覧する事ができる。

 学生達は次々と講義室を出て行く。鞄に物をしまう様子はほぼ見られない。数人が私物の端末を使用していただけだ。そもそも筆記用具も必要ない。ホロモニターに表示されたものは全て自動で保存されるので、そこに注釈を加えたければ目の前の机に投影されたホロキーボードで打ち込めばいい。手書きを好む人間は、専用のペンで書き込む。

「ふう……やっと終わったか」

 講義を受けていた一人の男子学生は疲れた声を出す。

「ふあー、ねむ……昨日は飲みすぎたか?」

 大きく口を開けてあくびをしていると、アラーム音が聞こえた。この音は知人からの音声通話を知らせるものだ。

『そっちも講義終わったか?』

「ああ。すげえ眠かった。なあ、毎日飲むのはやめないか? さすがにキツイ」

『そうか? まあ、まだ到着まで一ヶ月以上もあるしな』

「講義もだろ。休みまでまだまだ時間がある。飲みすぎで単位を落としたらシャレにならないぞ」

 通話相手は軽快な笑い声を返す。

『ハハッ、そうだな。じゃ、食堂に行こうぜ』

「ああ」

 通話接続が切れるのを確認すると、男はつぶやく。

「接続解除」

 その瞬間、講義室は消えた。目の前には小さなテーブルと壁。テーブルといっても壁から板が突き出ているだけで、インテリアとしては無機質にすぎた。

 壁は一面白色。テーブルも同じ色で素材も同じようだ。

 男がいる部屋は狭い。シングルベッドがひとつと小さなクローゼット、壁から突き出ているテーブルに椅子がひとつ。それだけで室内はほとんど埋まっている。ドア付近が狭くなっているのは、そこにユニットバスがあるからだ。もちろんそこも狭い。

 安いワンルームマンション以下の面積と設備。しかしそれでもこの部屋は上等な部類だった。二人部屋や四人部屋、カプセルホテルのような設備のものがほとんどだからだ。

 男は壁に投影されているホロモニターの数字を見る。それは目的地までの残り時間を表示していた。それはまだ残り一ヶ月以上あることを示していた。

「さすがに長いなあ。自分はインドアなほうだと思ってたけど、けっこう外出できないってストレスたまるんだな」

 男は言いながらヘッドセットを外す。ヘッドホンとゴーグル型モニターが一体化したそれは、離れた大学の講義室と遠隔接続するための装置だ。ゴーグル型モニターは透過素材になっていて、装着時に前が見えなくなる心配は無い。

 彼のいる部屋は白い壁で囲まれていて窓は無かった。白い壁に浮かんだ残り時間をしばらく見つめていた男は、やがて口を開いた。

「外の景色を見せてくれ」

 音声を確認したAIは壁にホロモニターを表示する。最初は窓ほどの大きさだったが、男は壁一面にそれを拡大した。

 壁に出現したのは、黒い闇に無数に浮かぶ光。何光年も先の星々。

 それは広大な宇宙の景色だった。しかし、今となっては彼に感動は薄い。すでに何度も見た景色だからだ。宇宙の闇の先に目をこらすが、まだ肉眼では目的地が見えない。

「……あ」

 携帯端末から音が鳴る。きっと先ほどの通話相手からだ。男が遅いので連絡してきたのだろう。壁に投影した宇宙を消去すると、急いで部屋を出る。宇宙が消えた壁では残り時間のカウントダウンが再びはじまった。


「遅せーよ」

 不満そうに男に言ったのは、金髪で派手な服装をした同年代の男だった。

「悪い、ミツト」

 謝りながら向かいの席へ座る。それを見たミツトは腕を組んで鼻から息を吐く。

「こっちは腹ペコなのに、我慢して待ってたんだからな」

「わかったって。飲み物ぐらいならおごる」

「お、ラッキー」

 ミツトはとたんに笑顔になると、テーブル上に描かれた小さな円の中心部分に指で触れる。すると彼の前にホロモニターが浮かぶ。そこには料理のメニューが表示されていた。

「何を食おうかなーっと。あ、ドリンクはビールな」

「昨日も飲んだだろ。しかも昼から飲むのか?」

「別にいいだろ。他にも飲んでるやついるし、ここは地球じゃないんだぜ」

 まわりを見るとたしかに多くの人間がアルコール飲料を飲んでいるようだった。しかし二人のように二十代ほどの若い人間は少ない。多くは中年か、白髪の目立つ年齢の人間が多かった。

 ホロモニターで注文するとすぐに料理がやってくる。運んできたのは笑顔の女性型hIEだ。それを二人は気にすることもなく、料理に手を伸ばす。hIEはすでにありふれた一般的なものでしかない。

 ミツトはビールを一気に半分ほど飲むと、大きく息を吐く。

「はー、しかし、思ったより宇宙船生活ってのは息がつまるな。いくらネットが繋がってるっていっても、それだけじゃあなあ」

「たしかに。それにちゃんと毎日講義にも出なくちゃいけない」

「それな。どうせテストで単位決まるんだから、講義出なくてもいいじゃねえか」

「うちの大学はそういう制度なんだから、仕方がないさ。 でも通信講義可能でよかったじゃやないか。それがだめだったら、俺たちは宇宙旅行なんてできないだろ」

「そうだけどよ……」

 ミツトは不満そうにビールに口をつける。それに苦笑しながらも、つい男はため息をついてしまった。

 ミツトと同じくこの宇宙船カンヅメ生活に疲れてきたのだ。到着まで約一ヶ月、自分の精神がもつのか不安だ。

「あいつらもきっとストレスたまって、酒で憂さ晴らししてるんだろうな」

 ミツトは背後を見ながら言う。そこでは中年の男達がいくつものグラスを空にしている。

 食堂は狭くもなければ広くもないといったものだ。二人が使っている小さなテーブルは壁際にいくつかあるだけで、中心の広い部分を占めているのは長い机と同じ幅の椅子だ。そちらのほうが有効にスペースを使えるからだろう。宇宙船という限られた面積では効率を最優先にする必要がある。

「でも、この宇宙船はグレードでいうと高級だぞ。そりゃあ最高級のスペースクルーザーとは比べ物にならないけど」

「けどよ、これで高級なら、一番安い船はどんなのだってことだろ? 安いっていっても数百万単位だぜ?」

「この船は個室だけど、安いのは大部屋でカプセルホテルみたいになってる。寝返りができないぐらい狭いらしい」

「そりゃあ最悪だな」

 二十二世紀が四分の三を終えた現在、宇宙旅行は夢では無くなった。多くの旅行会社がツアーを計画し、日に何度も宇宙船が地球と宇宙を行き来している。

 それでも費用はいまだ高額だ。まず航続距離が飛行機とは段違いであり、安全性の確保や水と食料の問題に、安くはなったとはいえ燃料は飛行機に比べてまだ高い。

「だけど、俺たちはこうして高級な宇宙船で宇宙旅行を楽しめてる」

「まあな。それもコイツのおかげだ」

 ミツトはテーブルの上に置いていた携帯型端末を手で軽く叩く。それが合図だったかのように、端末がアラームを響かせた。

「お、この音は」

「俺もだ」

 二人は端末に表示されたものを見て、同じく笑顔を浮かべた。

「やったぜ! いい小遣いになる!」

「ああ。向こうで豪遊できるな」

「はっ、何言ってんだ。俺たちは大金持ちだろ。な?」

「確かに。こうして宇宙旅行ができるぐらいには」

 二人の携帯型端末には、株取引で約百万円の利益を得たと表示されている。

 ミツトは端末にキスをするフリをした。

「頼むぜ愛しの《フォーチュン》ちゃん」

 彼の言う《フォーチュン》とは人の名前でない。AIの名前だ。

 フォーチュン・インダストリー社の製造した高度AI《フォーチュン》は、株取引専用高度AIだ。

 高度AIは二十二世紀の現在、様々な場所で使用されている。使用されていない業種が存在しないとさえ言えるかもしれない。

 株取引はすでに前世紀からAIが使用されていた。二十二世紀からはさらに顕著になったと言える。それはデイトレードの高速化だ。買った株の株価が上昇したら即座に売る、この手法はAI速度が人間を圧倒する。

 そこで起こったのが株取引専用高度AIの開発と、それの使用権の販売だった。大企業だけでなくいくつものベンチャー企業がAI開発を始め、その使用によって実績を積み上げ、その使用権を一般に販売する。現在の株取引は人間のものではなく、高度AIの戦場へと変化していた。

 それらの株取引専用高度AIのひとつ《フォーチュン》を二人は使用していた。フォーチュン・インダストリーは新規参入企業で《フォーチュン》が最初の商品だった。

 二人はこれの使用権を買う。使用料金が安かったのが理由だ。そしてSNS経由でお互いに《フォーチュン》を使用していることがわかり、また同じ大学で同学年ということもわかり友人となったのだった。

 そしてある日、二人は転換点を迎える。《フォーチュン》が莫大な利益を上げたのだ。金額にして数千万円。

 もともと月に数万円程度の利益を上げていて喜んでいたのだが、その金額が徐々に上がっていった。このまま上がっていけば大金持ちになれる。そんな妄想を笑いながら話し合っていたのだが、それがあるとき現実になってしまった。

 いきなり大金持ちになってしまった二人は混乱した。誰にも相談できないまま二人で話し合い「若いうちにしかできないことをやろう」となり、なぜか宇宙旅行に出発していた。

 宇宙旅行の費用は一千万以上。それでもなぜか後悔は無かった。宇宙船生活の閉塞感は予想外だったが、おおむね満足できている。

 目的地まで約一ヶ月。緩やかに退屈な宇宙船生活は続く。


   ******


 かつて宇宙は人類の進出を拒む暗闇だった。そこに人類がコロニーを建設し、移住を始めたのは2080年代。それから一世紀近く経過し、かつてはインフラの不足による劣悪な環境と地球以上の貧富の格差に喘いでいた宇宙圏は、地球と同等までとは言えないが、かなり高水準な生活が可能になった。

 その要因の一つは《量子テレポートを利用できる量子絡み素子の価格低下》だった。2150年代に量子絡み素子の大量生産技術が確立し、量子通信の一般使用が地球と宇宙に広がる。それにより宇宙と地球との情報通信にタイムラグが存在しなくなった。インターネットを含む全ての情報通信が円滑に使用できることになり、宇宙と地球との株取引が急激に加速し、宇宙企業による地球企業の買収・吸収合併まで起こるようになる。

 そうなると宇宙に住む人々が地球からの独立を求めると思われるが、そうはならなかった。実際にはインフラの多くを地球側にまだ依存している形であり、宇宙の独自通貨も存在しない。独立を強固に叫ぶ集団もあったが、少人数であり勢力は地球より遥か遠い。

 それに何より、宇宙には戦力が無かった。宇宙海賊に抵抗するための兵器所持は認められているが、大量の兵器を搭載した宇宙空母や宇宙戦艦、そして軍を持つことは許されていなかった。現在宇宙にいる軍艦は全て地球圏の勢力のものだった。

 ともかく宇宙圏の資金が豊富になった事により、コロニーの建築ラッシュがはじまった。量子通信が可能になり、地球の投資家たちが宇宙圏へ投資を始め、ベンチャー企業も宇宙へ進出し始める。

 宇宙の経済活動が活発化することによる弊害もあった。宇宙海賊による襲撃の増加だ。その被害を抑えるため宇宙軍は増強され、宇宙の安全圏は広がり、それまでほとんど無視されてきた宇宙圏の端とも経済の流れができた。

 その結果、木星で作られた燃料が火星、地球へと移送され、それを使用して地球から宇宙旅行へ出発する、という流れができた。航路には一定間隔で燃料補給基地があり、周囲は宇宙軍が監視して宇宙海賊を寄せ付けない。今となっては宇宙旅行の安全性は飛行機と変わりないほどとなっている。

 軌道エレベーターのロビーを見てみると、宇宙へ出発する家族を見送りに来た者や到着を待つ者が多い。宇宙へと向かうビジネスマンの姿も見ることができるだろう。

 そのような要因の結果、二人の大学生を乗客とした宇宙船はこうして無事に目的地へと辿り着いた。


「あー、やっと到着した。地面がなつかしいぜ」

「床は人工物だけどな。宇宙船とは重力が違うからか、何か変な感じがする」

 宇宙船の内部はほぼ地球と同じ重力に制御されていたが、この惑星はそうではない。

「しかし、本当に来たんだな」

 到着ロビーの天井は透明になっていて、宇宙に輝く星々が見えていた。これまで宇宙船で何度も見ていた光景だが、こうして地球以外の大地に立ってみると、それとは全く違う感覚がする。

「何ボーっとしてんだよ。さっさと手続きして観光しようぜ」

 ミツトが早口で急かす。それに苦笑しながらキャリーケースを転がし、到着手続きのカウンターへ向かう。驚いた事に宇宙港のカウンターにいたのは生身の人間だった。地球でも接客業の多くでhIEが使用されている現在では珍しい。

 それまで実感していなかった、地球以外の場所に人類が居住しているという事実を理解したような気がした。

 パスポートを手渡し奇妙な気分でいると、手続きは終わった。パスポートは紙製では無く、強化プラスチック製のカード型である。

 パスポートを返した男性職員は笑顔で言った。

「山梨クニアツ様、ようこそ火星へ。あなたに良い出会いを」


 かつて人類の新たな移住先の候補だった火星は、結局そうはならなかった。テラフォーミングのような大規模な改造をしても、投資した資金を回収することが不可能だったからだ。

 そのため火星は大規模な資源採掘場所となり、地表には巨大な採掘プラントが次々と建造された。それらは全て地球圏の国や企業のものであり、宇宙圏の所有物にはならなかった。従業員には宇宙圏の住人が多くいたが、彼らが採掘した資源は地球へと吸収される。

 そんな火星だが、地形的な問題や埋蔵量などの関係で採掘されなかった場所がある。そこに目をつけた企業があった。《トアーテック》という日本に本社を持つ企業だ。もともとは工場用工作機械を主力にしていたのだが、資金繰りに失敗し海外企業に吸収されるかたちで存続した。それがなぜか国内海外のいくつもの企業と合同で、火星の一部を買い取る。

 買い取った火星の一部を大胆に加工する。地面を掘り、長大な柱を突き立て、床を作り壁を作り天井を作った。

 そして出来上がったのが、小規模テラフォーミング・リゾート《ネオ・アトランティス》である。


 宇宙港からリニアカーを使用して一時間ほどで、クニアツとミツトの二人は《ネオ・アトランティス》に到着した。

「前から思ったけどさ、ネオ・アトランティスってダサくないか?」

「ネーミングセンスには目をつぶろう。大事なのは中身だ」

 大きな《ネオ・アトランティス》と書かれたボードが掲げられ、その下に並ぶいくつものゲートは、よくあるテーマパークと同じように見えた。

 ゲートの制服を着た職員、おそらくhIEに差し出された端末に手を触れると、クニアツの生体情報が確認され電子音が鳴った。

「はい大丈夫です。ネオ・アトランティス内のホテルに予約していますね。そちらで荷物をホテルに預けることができますので、よろしければお使いください」

 見るからに黒人の男性の姿で流暢に日本語で説明するhIE。全てのhIEは常にネットワークと接続し、AASCによって行動が制御される。その行動クラウドの中には世界中の言語データが存在しており、それを使用することでhIEはどの言葉を使用する人間とも会話をすることが可能になっている。

 荷物を預けると、二人はまずどうするか相談する。すでに情報は調べ、到着するまでに何度も話し合っていたのだが、なかなか決まらなかったのだ。

「とりあえず近くの店で土産もの見ようぜ」

「そんなもの帰る日でいいだろ。どうせ荷物になるし」

「いやいや、だってここ火星だぞ。何が売ってるのか気になるじゃねーか」

「それは、確かに……」

「んじゃ、行くぞ」

 そう言うやすぐに止める間も無くミツトは走っていく。仕方がないのでクニアツもついて行く。

 しばらく後、クニアツは少し肩を落として、ミツトは不機嫌そうにしながら道を歩いていた。

 二人が歩いているのはネオ・アトランティスの入り口を入ってすぐ伸びるメインロードだ。広い石畳の両側にいくつもの店舗が並ぶ、建築様式からするとヨーロッパあたりをモチーフにしていると思われる。

「くっそ、なんで土産があんなに高いんだよ!」

 ミツトは目をつり上げながら、手に持ったプラスチックカップに刺さったストローを噛む。

「忘れてたよ、宇宙旅行が基本的に金持ちのものだって……」

 クニアツはため息をついて力なくストローでコーヒーを飲む。

 地球から遠く離れた火星のリゾートへ来れるのは、一部の裕福な人間だけだ。突然大金を手に入れ舞い上がった二人は、その事実を忘れていた。というか、火星のリゾートを地球のリゾートと同じ程度にしか考えていなかった。

「おみやげの商品が全部一万円以上とか、最初は信じられなかった」

「だよな。ドルとユーロで値段書いてあったから安いかと思ったけど、調べたらすげえ高いじゃねえか。チョコレート一箱で一万ってバカかよ」

 二人が手に持っているプラスチックカップのコーヒーも、日本円にするなら二千円以上のものだ。中身は地球にある世界的コーヒーチェーンのもので、地球なら千円以下である。

 火星は地球から遠く、そこまで物を運ぶ輸送費を考えたらこれでも安いのかもしれない。

「それによく見たら、並んでる店全部有名ブランドかよ。誰が買うんだ?」

「火星限定品とかあるんじゃないか?」

 二人は商品の値段に文句をつけながら歩く。実際はそれらを買えるほどの金額を持っているのだが、庶民感覚が消えていないためそれらがあまりに高く感じるのだ。

「……店を見るのはもう嫌だ。違うところへ行こうぜ」

 クニアツも同じ思いだったので、携帯端末でネオ・アトランティスの施設を調べる。

「この牧場施設とかどうだ? 馬に牛に羊がいるみたいだ。宇宙で生きる家畜とかちょっと面白そうじゃないか」

「そうだな、いいぜ。牧場なら肉とか安そうだし」

 ミツトは火星の物価の高さがよほど気に入らないらしい。クニアツは小さく笑う。

 二人は自動運転のタクシーに乗り、牧場施設へと向かった。牧場があるエリアは壁で遮られていた。防疫と気温管理のためだ。ネオ・アトランティスではエリアによって気温が違う。人工砂浜と人工海のエリアは気温が夏ほどに高い。

 ゲートを通ると屋台のような店が並ぶ、市場に似せた場所に出た。店舗の材料が木と布なのは雰囲気作りのためだろう。

「火星にこういう場所があるのって不思議だな」

「俺はいいと思うぜ。値段も安いし」

「おまえはそればっかりだな。安いといっても、さっきと比べてだろ。地球と比べるとさすがに高い」

「観光地とかそういうもんだろ? ガキのころ熱海に行ったらそうだった」

 二人は火星産のハムやベーコン、チーズなどを珍しそうに見ながら歩く。

「なんかイベリコとか、よく聞く名前のがあるな」

「地球から家畜を輸送してるからそうなるんだろう。火星に生き物はいないし」

「火星人の肉とか食ってみたくないか?」

「俺は嫌だ」

 しばらく市場を散策している途中で、牧場に行く事を思い出した。市場を出るとバスやタクシーの停留所になっている。バスはこのエリアを定期巡回するようになっている。

「ちょうどバスが来たな。あれに乗ろうぜ」

「行き先は、羊牧場か」

「いいじゃん。ちょうどラム肉が食いたくなったところだし」

 バスが到着しドアが開いた瞬間ミツトは飛び乗る。クニアツはついて行くしかなかった。

 バスが出発して少しすると、景色は草原になる。遠くに牛の姿らしきものも見えた。

 緑の草原と牧畜には青空が似合いそうだが、今空にあるのは黒い宇宙と何光年も先の光だ。地球では見ることができない幻想的な光景にクニアツは魅入る。

 空は全て宇宙というわけではない。格子状の骨組みで透明な分厚い天井を支えていて、その隙間から宇宙が見える。それを含めても彼には素晴らしい景色に見えた。

 羊牧場に到着すると、羊を管理するhIEに勧められ、二人で放牧した羊を柵に戻す羊飼いの真似事をやってみた。しかしもちろんうまく行かず、さんざん走り回ったあと疲れて併設されたレストランでたらふくラム肉を食べた。このときミツトは値段に文句を言うこともなく食べた。

 羊を追いかけるのが思いのほか重労働だったため、二人は食事のあと牧場の羊を眺めて過ごしているとあたりが徐々に暗くなる。いつの間にか夜が近い。

「……ホテルに行くか」

「そうだな」

 牧場で羊と戯れるという、地球でもできるようなことで二人の火星一日目は終了した。


   ******


 火星にただ一つのリゾートネオ・アトランティスは上空から見ると、複数の円が触れ合っているように見える。円の形は大小あり、楕円形のものもあった。それぞれの円が別のエリアとなっている。牧場エリア、海岸エリア、森林エリア、都市エリア、といったように。

 この形は火星全土から見ても異質だった。火星の大地にある建造物のほとんどは天井が透明になって宇宙を見ることが出来たり、見た目を重視してデザインなどされていない。必要なのは機能美だからだ。

 銀灰色一色の建物、複雑に張り巡らされたパイプ。火星にあるこれらの建物は地中の資源を採掘、加工するプラントだ。

 都市よりも広い敷地の中で働く人間の数は、実はあまり多くない。人間のかわりにhIEが何千体も労働している。機械であるhIEは真空状態でも酸素ボンベは必要なく、宇宙服も必要ない。ただ宇宙線や温度変化による劣化、デブリの直撃による被害を防ぐために宇宙活動用のスーツを装着する必要はあった。

 火星のプラントは全て地球圏のものだ。宇宙開発が本格的に開始されたとき、地球圏の国と企業が主要な場所を全て押さえたからである。

 宇宙を、地球から外を住居とする人々は、まだ誰も自分の土地を持っていない。彼らの家はコロニーの中の、狭い一室。

 量子テレポーテーションを使用した量子通信が一般化され、宇宙圏での資金調達は容易になりインフラ設備も充実してきた。人口増加によりコロニーを増築したり、新たに建造することで宇宙圏独自のコミュニティーも増加した。それでも宇宙圏独自の通貨はまだ存在せず、宇宙に新たな国家は存在しなかった。

 それは当たり前でもある。地球圏の国々が、宇宙に新たな国家ができることを許さないからだ。

 人類の生存圏は火星だけでなく木星まで伸びている。しかし、かつては宇宙圏とはいっても地球に経済とインフラの全てを握られ、地球の遠い田舎の一地方といった扱いだった。だが年月が経過しそれらがある程度整えられると、火星・木星・地球は流通ルートとして一般化され、立派な経済基盤となった。

 そうなると宇宙圏の人々は独立を考え始める。すでに宇宙居住者の世代交代が進み、宇宙圏独自のコミュニティーが強固になっていた。それにより自身が地球に所属しているのではなく、宇宙圏のコミュニティーに所属しているのだと、そう考える人間も多い。

 最初期のコロニーは同じ国、同じ思想、主張を持つ人々のみで運営された。そうしなければ限られたコロニー内の秩序的な運営が行えないからだ。そのころはまだ自身が母国の国民だという意識があった。しかし宇宙居住者の第三世代以上ともなると、自分が地球にある国の国民だという意識は薄くなってくる。なにしろその国の大地を踏んだ事が無いのだから。

 彼ら彼女らが知る大地はコロニーの無機物でできた床であり、空は暗黒の宇宙と真空で瞬かない星々。昼と夜はただの時間経過であり、太陽は昇ることも沈む事も無く、ただそこにある。選挙権はあれど、その熱狂は数千万キロメートルの彼方だ。実感は無い。

 現在宇宙圏のコミュニティーでは若者を中心として、独立の気運が高まってはいる。しかし具体的な行動を起こすことはできない。それは今も経済やインフラにおいて地球圏を頼っている部分が多いこともあるが、何より武力の問題だ。地球圏と宇宙圏では戦力に呆れるほどの格差がある。

 地球圏を守るのは、国際近軌道軍。これは宇宙住民の攻撃から地球を守るため、数百の国々からなる同盟軍だ。国際近軌道軍は宇宙圏に取りこまれることを恐れて配備される戦艦の数や装備などを厳しく制限されていたが、宇宙圏での経済活動の増加による火星・木星間の流通ルート活性化により、宇宙海賊の襲撃を防ぐためにやむなく増強された。

 宇宙圏のコロニーには最低限の武装は認められているが厳しい制限がされ、国際近軌道軍が持つ宇宙戦艦などの所持は認められない。またそれらの兵器の開発も制限されている。

 そしてもう一つ、地球圏と宇宙圏では格差がある。それは超高度AIと高度AIの制限だ。

 シンギュラリティ突破により、人類に理解できない人類未踏産物、通称レッドボックスを製造する超高度AI。レッドボックスの製造だけでなく、様々な事柄の解決方法も超高度AIは行う。それによるハザードという災害が起こることもあるが、恩恵の方が大きい。これにより現在の人類の繁栄があると言ってもよい。

 超高度AIに劣るとはいえ、高度AIもすでに現在の経済活動になくてはならない存在だ。高度AIを使用しない企業は存在しないと言えるほどだ。人間以上の処理能力を持つ高度AIによって、社会は円滑に運営されている。

 しかし宇宙には、超高度AIと高度AIの持込と製造は厳しく制限されていた。それはもちろん地球圏が、宇宙圏の力が増大し独立することを恐れるからだ。

 広大な宇宙圏は、小さく強力な地球圏という力によって包囲されている。

 火星はもちろんその包囲網の中だ。今も火星の周囲を国際近軌道軍の戦艦が哨戒活動を行っている。複数の戦艦が隊形を組み、宇宙海賊の襲撃を警戒している。

 火星を防衛する艦隊の旗艦となる戦艦のブリッジで、艦長はモニターを見ていた。それは周囲をセンサーで索敵している現在の状態を表示している。

「今日も敵影反応無しですね」

 副官の言葉に目だけを向ける。

「いい事だろう。副官は戦闘が望みか? だったら今すぐ地球へ降りて、紛争地帯にでも志願しろ」

「嫌ですよ重力があるところなんて。宇宙なら気にせず操縦できますから」

「そのせいで宇宙港とのドッキングを失敗したら世話が無いな。修理費用は何万ドルだったか?」

「新兵時代のころの話題を持ち出さないでください。それにあれは訓練設備ですから」

 いつものやり取りに、ブリッジの船員たちが苦笑を浮かべる。しかしその数は少ない。この宇宙戦艦に搭乗している人間は少なく、その多くはhIEだった。国際近畿軌道軍は任務上宇宙という過酷な場所に従事することなる。となれば脆弱な人間より、水も酸素も必要としない強固な肉体を持つhIEを使用するほうが適切だった。

 実際、hIEのみで宇宙戦艦を運用する事は可能だった。非常時にはそうなる事もあるが、平時は人間によって運用することになっていた。

 人間によってと言うが、ほぼ全てはAIとhIEによって戦艦は運用されている。戦闘となっても適切な行動はAIによって行われる。人間がすることは、AIの行動を承認するだけだ。

「……ん?」

 ブリッジに電子音が鳴る。宇宙船の接近を知らせるものだ。

「多いな。何十隻いるんだ」

「予定によると四十五隻ですね。木星からの燃料運搬船と、旅客船。それに食料その他の流通用に、建設機械を運ぶ大型船までありますね」

「……今まで、一度にこれほどの数が火星に来ることがあったか?」

「いえ。ですが航行予定表には問題ありませんし、全て登録された宇宙船です。何か気になることが」

「ううむ、胸騒ぎがする……」

 こういうときの予感が外れたことがなかった。モニターに移るレーダー表示と船外カメラによる映像の船団に目を細めていると、緊急事態を告げるアラームが鳴った。

「何だ!」

「接近する船団の一部の船から飛翔体が複数射出されました。速度と形状からミサイルかと思われます。迎撃するためビームタレットを展開します」

 落ち着いた声でhIEが報告する。その間に戦艦のAIは迎撃体制を整えている。

「他の船も迎撃の用意を行っているな。しかしなぜだ? 海賊が船を占領したのか? しかし、あの数を……」

 艦長が思考していると、新たな報告がhIEより告げられる。

「国際近畿軌道軍の戦艦の複数が想定外の行動を行っています。主砲を味方の戦艦へ向けようとしています」

「何だと!」

 ホロモニターに拡大された映像には、たしかにこちらへ砲口を向ける味方戦艦の姿があった。

 艦長が命令を発する前に、複数の味方戦艦による砲撃で旗艦を含むいくつかの戦艦が爆発した。撃沈を免れた船も、飛んできたミサイルによって止めを刺された。

 味方を撃った戦艦と、ミサイルを発射した船団は何事も無かったかのように合流すると、まるで自らが火星を守護するように隊形を組む。

 やってきた船団の船がいくつか、火星の地表へと降下していく。接地した船は側面や背部の扉を開いた。それは正規の船ではありえないもので、改造が施されたものだった。

 船から降り立つのは、パワードアーマーを纏う人間が何十人も。その手には銃が握られている。さらには装甲車に、多脚型移動砲。テロリストや海賊ではありえない兵器の数々。

 それらは素早く小隊を作ると、火星にある設備を占領すべく行動を開始した。火星唯一のリゾート施設ネオ・アトランティスも目標だった。

 火星の支配権は、徐々に地球からこの正体不明の集団へと塗り替えられていく。


   ******

「なんだこれ?」

「音楽?」

 異変を感じた周囲の客達も騒ぎ始める。

 ここはネオ・アトランティスのリゾートエリアのひとつ、ビーチエリアだ。人工砂浜と人工海があり、気温は27度を保たれている。湿度は低くしてあり、真夏ほどには暑く感じない。だが海水浴をするには十分だった。

 クニアツとミツトの二人はこのエリアで泳ごうと思っていたが、まだ水着姿ではない。今二人がいるのは砂浜に行く途中にある都市を模した場所で、ここには多くのショップが建ち並んでいる。このエリアに来るのは初めてだったので、砂浜に行く前にここを見て回ろうと思っていたのだ。

 異変が起こったのは突然だった。急にエリア中のスピーカーから音楽が流れ出す。緊急放送や避難誘導用のスピーカーからもだ。音楽は管楽器を多用したもので、どこか宗教的な色彩を帯びている。

「変な音楽だな。聞いたことがねえな」

「急になんだろうな?」

 音楽に混ざって声が聞こえた。どうやら英語のようで、ひどく落ち着いていてきれいな発音をしている。まるでニュースキャスターが記事を読み上げるようだった。

 英語に続いてポルトガル語、ヒンディー語、アラビア語、中国語、その他いくつもの言語で音声は何度も聞こえた。その中に日本語もあり、その内容を理解した二人の顔色が青くなる。

「なあ、おいクニアツ。これ、本当なのかよ……」

 ミツトが上ずった声で問うが、それに答える余裕は無かった。周囲の人間から悲鳴があがったからだ。そちらへ目を向けると、人ごみを掻き分けながら進んでくる集団がいた。彼らはネオ・アトランティスの制服を着ている。

 クニアツはこの事態を収拾しに来てくれたのだと思った。そして「さきほどの放送は間違いです」と説明してくれるのだと。しかしその安堵の表情は、彼らネオ・アトランティスのスタッフhIEが持つ物体を見て驚愕へ変化する。

 数体のhIEが抱えているのは、黒光りする銃器だった。銃身は長く、マガジンも巨大なドラム型で、非力な人間ではまともに扱えそうに無い。しかしhIEは機械の体なので問題は無い。

 武装した制服姿のhIEの一体が、空へ向けて発砲した。悲鳴とともにうずくまる人間や、慌てて逃げようとする人々で周囲はパニックになる。

「ウソだろ! 撃ちやがった! なあ、どうする?」

「に、逃げないと……」

 そう言いながらもクニアツの足は突然の事に動かなかった。ミツトもパニック状態の周囲をただ見回して、何事かわめくだけだ。

 しばらくするとパニックは沈静化していく。いや、沈静化されたのだ。人々は徐々に一箇所に集められていく。その中にクニアツとミツトの二人もいた。

 数十人の群集は十体以上のhIEによって包囲されていた。その全てが銃を携帯している。周囲には他にもそうして包囲されている数十人のグループがいくつもあった。全部で何体のhIEが武装し、行動しているのかわからない。ただこれがネオ・アトランティス全てのエリアで起こっているとすれば、千体程度では足りないだろう。

 そんな周囲の様子をろくに確認する事もできず、人種も年齢もバラバラな群集の中に押し込められたクニアツは、混乱したまま流れに身をまかせるしかなかった。

 やがて周囲を包囲された人々は、そのままhIEに誘導されるまま、どこかへ連れて行かれる。観光用の大きな通りではなく、スタッフ用の通路らしき場所を移動させられる。

 やがて突き当たりに到着する。突き当たりは壁ではなく、大きなゲートだった。音をたてて上へ開くと、中はトラックが二台ほど入れる広さのエレベーターとなっていた。おそらく資材搬入用のものだろう。

「チクショウ、どこへ連れて行こうってんだよ!」

「騒ぐなミツト。撃たれたらどうするんだ」

 二人はhIEに言われるまま群集とともにエレベーターへ押し込まれる。ゲートが閉じるとかすかな音とともにエレベーターが降下していく。どこからか、すすり泣きの声が聞こえた。

 地下へ向かいながらクニアツは、もうこのまま地球へ戻ることはできないのかもしれない、そう考えることを止めることができなかった。そして思い浮かんだのが、数千万の貯金はどうなるんだろう、という事。思わず場違いな苦笑が浮かんだ。

「……こんな事になるなら、火星になんて来なけりゃよかったな」

 ミツトのつぶやきに、小さく頷いた。


   ******


 火星での異変はすぐに地球へと届いた。すぐに撃破されたとはいえ、最初の攻撃を耐えた戦艦の中には緊急通信を送信できたものもあった。また火星周囲には民間・企業コロニーはいくつもあるし、民間の宇宙船が航行してもいる。

 巨大な戦艦の爆発は大きなスペクトルを放つ。それは隠しきれるものではなく、センサーによって走査され、それが宇宙船の爆発の結果だと瞬時に判断される。

 通信を受け取った国際近軌道軍の超高度AI《オケアノス》は、ナノ秒で緊急事態警報を発令。鎮圧部隊を作成し、火星向けて出発させた。

 この規模は今世紀始まって最大の戦力であり、国際近軌道軍の約二割に相当するほどだ。全力で攻撃すれば、火星全土を荒野に変えることができる。

 国際近軌道軍の鎮圧部隊から遅れること数分、火星へと向かう宇宙船があった。いくつかの武装は見えるものの、国際近軌道軍の戦艦ほどではない。船体の形も軍とは違っている。

 その船は国際近軌道軍の船ではなかった。所属するのは《IAIA》国際人工知性機構である。


 IAIAが所有する宇宙船チャイカは国際近軌道軍の後ろを追いかけていた。それをモニターで見ながらIAIAのエージェントである男は違う事を考えていた。

「オーバーマン達は火星を占拠してどうするつもりだ? 国を持つだけか、それとも……」

 IAIAは超高度AIが正常に管理・運営されていることを監視するために設立された国際機関である。その目的の中に、オーバーマンの殲滅がある。

 オーバーマンとはコンピュータに人間の人格を転記したもので、これは将来重大な社会的混乱をもたらすことが予想され、徹底的にIAIAは狩りたてていた。

 IAIAがなぜ火星に向かっているかといえば、火星にあるリゾート《ネオ・アトランティス》を所有・運営する企業の人間にオーバーマンが複数存在する事が判明したからだった。その数は千を超えており、IAIAはさらなる慎重な調査を行う。

 その結果ネオ・アトランティスを建造したトアーテックを含む複数の企業が、宇宙へ大量の何かを運び出していることが発覚した。それは建築資材や工作機械などとされているが、それは偽装であり全く別の物を宇宙船で運搬している。その運搬先は多くが火星のネオ・アトランティスで、その他が宇宙圏の外れにある、主用では無いコロニーだった。それらのコロニーはとある宗教系コミュニティーのものだ。

 IAIAは宇宙へ運び出されたものが高度AIの可能性が高いと判断し調査を続けていたところ、今回の火星占拠事件が起こる。その情報を《オケアノス》から受け取ったIAIAの超高度AI《アストライア》はエージェントの派遣を決定した。

《アストライア》は火星を占拠したのがオーバーマンの集団だと結論付けていた。火星占拠が起こった直後、地球のトーアテックら企業のオーバーマン狩りを行い、収集した資料からもそれが判明している。

 オーバーマン達のほとんどがある宗教コミュニティーに属していた。それは物資を運んでいた辺境コロニーが所属するコミュニティーと同じものである。

 それはいわゆる新興宗教で、地球ではじまった。キリスト教系の土台を持ちながら、超人思想とも言うべき、人類はそれを超越した何かに進化するべきなのだという事を教義にしている。賛同者を増やしながら、二十二世紀はじめに宇宙へと飛び立つ。それから半世紀以上経過し、地球の企業もその傘下へ入れ、立派なテロリスト集団となった。

 オーバーマンは迫害される存在だ。だからこそ独立し、自らの国家を求めるのは自然だ。

「しかし、どこかおかしい。なぜ火星を占拠する必要がある。地球から近すぎて、すぐに鎮圧されるはずだ。それよりも地球の手が届かない場所で地道に力を蓄えるのが正しいはずだが?」

 火星に向かう宇宙船の中でエージェントは自問する。

 超高度AI《アストライア》もそのことは計算しているはずだが、その結果を伝えることは無い。《アストライア》にとっては過程は関係なく、結果として何が起こり、それを防ぐ方法を示すだけだ。IAIAは《アスライア》の出力装置でしかない。

「……現地のエージェントの報告を待つしかないか」


 IAIAが調査を始めたのは何年も前からだ。火星占拠が起きる前から各地にエージェントは潜入している。ネオ・アトランティスにもエージェントはもちろん存在した。

 ネオ・アトランティスに潜入していたエージェントは、身動きできない状態となっていた。今回は客として潜入したのだが、それが原因だ。他の客たちと一緒にhIEによって包囲され、地下へと監禁された。

(……定期連絡N782、現在のところ動き無し)

(了解。そのまま待機)

 エージェントは周囲を見回す。途方に暮れた人々が床に座り込んでいる。ときおりどこからかすすり泣きが聞こえるが、おおむね静かだ。誰かが叫んだり暴れたりする様子は無い。なぜならすでにそういう行動をした人間は、hIEによって拘束され、どこかへ連れて行かれたからだ。

「……殺す気は無いということは、人質目的か?」

 エージェントは静かにセンサーで周囲を探り続ける。

 エージェントの肉体は遺伝子操作と薬物で強化され、臓器はほとんどが機械式に交換、骨格もカーボンナノチューブで構成されていた。インプラントされた通信機器で遠く離れたIAIAの宇宙船や《アストライア》とも通信が可能だ。センサーも各種装備している。

「さて、脱出するのは簡単だが、やつらの目的を調べない事にはな……」

 周囲を包囲しているネオ・アトランティスの制服を着たhIEが、軍用hIE並みの性能であることを、すでに各種センサーで調べ上げていた。しかしその程度ではエージェントの性能には適わない。超高度AIと巨大な組織のバックアップがあると、それほどの格差が発生する。

 数百人の人間が拘束されているのは、広い倉庫らしき場所だった。壁際にラックが並んでいて、そこにいくつかのコンテナが並んでいる。ただその数は広さに対して少ない。

「人質を集めるために撤去したのか? それにしては余裕がある」

 現在集められている人間に比べて、倉庫の面積はかなり広かった。今の人数の三倍は余裕で収容できるだろう。

「ラックのコンテナの中身は食料と水か。この人数なら一月近くは大丈夫だが、この施設全体だと少なすぎる。複数に分散されているのか?」

 エージェントのセンサーでは倉庫外の様子を探る事ができない。壁にセンサーを妨害する装置が埋め込まれている。つまりこの場所は最初からそういう目的のために作られたのだ。

「事前調査でわかっていたことだが、まさかリゾート施設が人質と一緒に立てこもるための要塞だったとは、さすがに呆れる」

 ネオ・アトランティスのリゾート施設はただの張子だった。本体は広大な地下施設であり、そこは強固な要塞となっていた。地表すぐ下の装甲は十メートルの複合装甲。核攻撃さえも防御できるシェルターだ。

 エージェントがここに移動する途中で調べたところでは、多数の重火器が保管され、戦闘機や戦車らしき物もセンサーに反応があった。

 ここはリゾート施設などではなく、軍事基地だ。

「それでも地球と比べれば戦力は天と地ほどの差がある。人質を盾にしたところで、最終的には突入されて終わりだ。こいつらは何が目的だ?」

 待機を命じられた以上、自分が調査することもできない。他のエージェントが何かしらの情報を得るのを待つしかない。

 火星占拠初日はこうして終わった。


   ******


 国際近軌道軍とIAIAの宇宙船は数日で火星へ到着した。最高速度で進み続けた結果だが、燃料が無くなったので現在補給中である。

 IAIAの宇宙船チャイカは火星を目の前にして待機している。ブリッジに浮かぶホロモニターに表示されたネオ・アトランティスと資源採掘プラントのリアルタイム映像を見ながら、エージェントは腕を組む。

「火星にいまだ動きなし。無差別通信で火星独立、オーバーマン国家樹立を叫ぶだけ、ね。通信は完全にブロックできてるか」

「はい。火星からの外部コロニー、地球、木星への通信は全て防いでいます」

 量子通信は内容の改ざんや盗み見ることは難しいが、通信そのものを遮断する技術は存在した。ただしレッドボックスのため、人類はその原理を解明できていない。

「ネオ・アトランティスのエージェントからの定期報告も変化無しだったな。全く、何でもいいから動きを見せて欲しいな。火星の採掘プラントを占拠したあと稼動する様子も無いとは、何が目的なのか本当にわからん」

 そのとき通信を告げる電子音が鳴った。しかしその音は通常のものではない。

「特別緊急通信だと!」

 エージェントは驚愕した。それはまさか有り得るとは思えない通信だったからだ。

「ネオ・アトランティスよりコード404緊急通信です。これは人間が内容確認をしなければならない通信です」

 hIEが無表情で淡々と告げる。

 エージェントは一度つばを飲み込み落ちつかせると、通信を接続する。

 コード404緊急通信とは『超高度AI《アストライア》に報告した場合重大な混乱が起こる可能性がある事実』をIAIAの人間に報告する場合のみ行われる通信である。

 それは、もしかしたら万が一にでも有り得る可能性として、使われる可能性がゼロに近く知識として知っているべき項目でしかなかった。

 なぜならば、人間に理解できる知性を超えた超高度AI以上の判断を、人間ができるとは論理的にありえないからだ。

 しかし、そのゼロに近い確立で起こる現象が、現実に起こっている。

「……エージェントN782、コード404緊急通信で間違いないか?」

「そうだ。まずい事態だ」

 ホロモニターにネオ・アトランティスに潜入していたエージェントのリアルタイム情報が表示される。彼は敵hIEから逃走していた。

「敵に攻撃される程度で必要な通信だとは思えないが」

「いいか、あいつらはオーバーマンを作ってる」

 思わず口が開く。あまりに呆れた報告に、怒りで目つきが鋭くなった。

「何を言っている。敵がオーバーマンだというのはわかりきった事実だろう」

「そうじゃない。あいつらは新たなオーバーマンを作ってる。ネオ・アトランティスの客や採掘プラントの従業員を使って! 普通の人間をオーバーマンに作り変えているんだ!」


    ******


「そっちは資源採掘プラントの作業員か?」

「そういうアンタはこのリゾートの客?」

 エージェントが監禁されていた倉庫に新たな人々がやって来たのは、二日目だった。数は百数十人で、服装が作業用ツナギで社名のプリントもされている。

 これを幸いにエージェントは情報収集を行ったが、目ぼしい発見は無かった。あちらも同じく突然襲撃され、一日監禁されたあとこちらへ移送されてきたようだ。

 新たに人が増えた事で話し声がどこでも聞こえる。それを収集するが、やはり有益な情報は無かった。

「だが新しい動きがあった。近々何かがあるな」

 それは数日後、国際近軌道軍とIAIAの宇宙船が火星近郊に到着したころに起こる。

 それまでただ周囲で見張っているhIE達に動きがあった。

「全員立ちなさい。移動します」

 それを何度も繰り返しながらhIEは人々を倉庫から連れて行く。

 エージェントは情報を見逃さないためにも、全てのセンサーを最高出力で使用する。通路は使用したことが無いものだ。しばらく歩くと目的地に到着する。センサーによるとドアの向こうはかなり大きな空間があるようだ。

 ドアの先には横に長い部屋があった。縦幅もあるが、それよりもさらに横が広い。

 入り口から正面にはいくつものドアが横に並んでいて、白い壁とその雰囲気から病院を連想される。

 その横幅が広い部屋の左側半分の場所に連れてこられた人々は並ばされた。そうしていると右側半分にあるドアが開き、中から次々と人が出てくる。性別も人種も年齢もバラバラで、エージェントがまとめられている集団と同じく規則性が無い。

 エージェントは彼らをセンサーで走査し、その結果に驚愕する。

「まさか……」

 ドアから出てきた人々の状態からこの先に何があるのか予想し、占拠したグループが何を目的にしていたのかを知る。

「報告しなければ……しかし、これは……」

 エージェントが並ばされている側のドアが開く。その内部を見た瞬間、行動を開始した。

 まず近くのhIEの銃を奪い発砲。hIEの胸部に穴があき、活動を停止。他のhIEが銃を向けようとするが、それより早く銃口を向け発砲。一発ではなく連射した銃弾は吸い込まれるように次々とhIEへ着弾。銃撃で穴をあけられたhIEは全て沈黙する。

「待」

 ドアから姿を見せて何かを言おうとしたのを待たず、頭部を銃撃する。頭の上半分を吹き飛ばされた体は、音を立てて床へ崩れ落ちた。

 一瞬見えた動きから、おそらくオーバーマンだと思ったが、エージェントに何の感慨も無い。オーバーマンは狩りたて殲滅する存在でしかないのだ。

 周囲の敵を排除し終えた一瞬後、悲鳴が響きわたる。あまりの早業に普通の人間では追いつけなかったのだ。

 エージェントは先ほどドアから出てきた人々へ顔を向ける。するとおびえた表情で後ずさりしたり、恐怖でその場に座り込む。それはまさに普通の人間の振る舞いだった。

「チッ」

 エージェントは舌打ちをすると、床に転がっている銃をひとつ持ち、先ほど入ってきた入り口へ向かう。ロックされていたが、先ほど使用した銃で残りの銃弾を全て打ち込み、破壊した。撃ち尽くした銃を放り捨て、もう一度部屋の右側にいる人々を見たあと走り出す。

 この地下からの出口を探りながら、エージェントは通信を行う。

「緊急通信コード404」

 自身もまさか使うことは無いと思っていた通信だった。

「……エージェントN782、コード404緊急通信で間違いないか?」

「そうだ。まずい事態だ」

 背後から追ってくる敵hIEをセンサーに捉えた。

「敵に攻撃される程度で必要な通信だとは思えないが」

「いいか、あいつらはオーバーマンを作ってる」

 通信相手は一瞬沈黙した。すでに発見していた前方のhIEを射撃して破壊する。

「何を言っている。敵がオーバーマンだというのはわかりきった事実だろう」

「そうじゃない。あいつらは新たなオーバーマンを作ってる。ネオ・アトランティスの客や採掘プラントの従業員を使って! 普通の人間をオーバーマンに作り変えているんだ!」

 思わず怒鳴った。この重大性を相手に教えるために。

 相手もIAIAのエージェントだ。それがどういう事態なのか一瞬で理解する。

「それはつまり、オーバーマンになる意思の無い、一般人を無理矢理オーバーマンにする手術をしているということか」

「ああ。さっきオーバーマンにされた人間達を見た。肉体は人間のままだった。だが、脳は完全に機械化されている。データに無い形状だった。おそらく独自に開発したものだろう。手術室の中も一瞬見えた。映像データを送る。あの手術装置も開発したものかもしれない。かなり短時間で、手術後もその痕跡がわからない。オーバーマンにされた人間は、自分たちがそうなった事実を知らないようだった。特に混乱した様子は無い」

 そこまでを一気にエージェントは話終えた。その間に数体のhIEを破壊していたが、すでに銃弾は残り少ない。

「コード404で通信してきたということは、つまりはそういうことだな……」

 通信相手が重々しい口調で言う。

 2071年に制定されたデリー条約において、オーバーマンは人間ではなくAIとされた。つまりはオーバーマンに人権は存在せず、人格はあれどそれはAIというデータの振る舞いでしかないとされている。

 自らオーバーマンとなった人間は、それを覚悟している。人権を失い、一生IAIAの魔女狩りから逃げ続けなければならないと。

 だがそれを知らぬまま、強制的にオーバーマンに改造された人々はどうなるのか。突然自らの人権を失い、人間では無いとされた人々は叫ぶだろう。私には心がある、人格がある、私は人間だ。

 しかしその心と人格を生み出すのは、コンピュータに転記されたデータでしかない。コンピュータで出力される心と人格による振る舞いは、機械制御と同質だ。

 それでも人々は叫ぶだろう。私は無理矢理オーバーマンにされた被害者だ。オーバーマンになんてなりたくなかった。心優しき人々も叫ぶだろう。無理矢理にオーバーマンにされた人々の人権を認めろ。

 しかしIAIAは《アストライア》はどう判断するのか。自律制御ロボットは将来制御できなくなると、すでにリスボン会議で9基もの超高度AIによって判断されている。たった一つでも例外を認めれば制度の崩壊、オーバーマン主義者たちの台頭を許してしまう可能性もある。

 火星を占拠したオーバーマン達は人質の命だけでなく、人類のモラルそのものを盾にしようとしていた。

「……判断をお願いします」

 hIEを、もしかしたらオーバーマンかもしれないものを銃撃しながらエージェントはつぶやく。基本的に命令はアストライアからもたらされるため、あまりエージェント同士の序列は関係が無い。しかしこういった場合には組織としての序列、より上の者が判断をしなければならない。

 IAIAの宇宙船チャイカに乗るエージェントは苦悩の末、決断する。

《アストライア》がエージェントの報告をもとにした判断の結果は、一秒以内にもたらされた。


   ******


 国際近軌道軍は命令を受けると即座に行動を始めた。

 火星の周囲に浮かぶ元国際近軌道軍の戦艦を含む宇宙船に一斉射撃を行った。弾薬の消費など考えていない、一瞬で勝負を決めるための行動だ。数分後、火星の周囲には宇宙船の残骸しか残っていなかった。

 破壊された戦艦によるデブリの隙間を進み、IAIAの宇宙船チャイカがネオ・アトランティスへ向かう。そして砲撃でネオ・アトランティスの天井を吹き飛ばす。天井の穴から真空の宇宙へと内部の大気が猛烈に吸いだされ、ゴウゴウと音をたてて整えられたリゾートを吹き荒らした。

 その穴から《チャイカ》は中へ降下し、地表が近くなると外部ハッチを開く。そこから十数人の人影が降りてくる。実際は人間ではなくhIEだった。

 hIEは幅が一メートル、高さが二メートルほどの機械を地面へ置いた。機械は箱型で、四隅にある杭が射出音とともに地面へ深く突き刺さり、機械を固定した。そして低い音とともに機械が駆動する。ガリガリと削る音とともに地面が振動する。

 約一分後地面を削る音が止まったその数秒後、これまでとは比べ物にならない音と振動が発生した。ミサイルを間近で発射したようなものだったが、hIEは全く動じることは無い。

 地面に設置した機械を外すと、地面に深い穴があいている。この機械は地面の下にある分厚い装甲を貫通するためのパイルバンカーだった。

 宇宙船のハッチから長いホースを持ったhIEが近づいて来る。ホースは宇宙船の中へ続いていた。そのホースを地面の穴の中へ送り込む。規定の長さまで送り込むと、穴とホースの隙間をゲル状の物質で埋める。数秒後にゲルは硬化。

 ホースから送り込まれた物体は、すみやかに地下施設へと充満する。見た目は煙のようにしか見えないがナノマシンだ。ナノマシンは銃を持ち徘徊するhIEの内部へ侵入すると、制御装置を奪い行動不能にする。全身を機械化したオーバーマンも同様だ。コンピュータに転記された人格データはナノマシンによって消去された。

 監禁されていた人質達へもナノマシンは届く。その見た目から火災が発生したのかとパニックになりかけるが、すぐに沈静化する。人々が意識を失ったからだ。ナノマシンとともに麻酔成分を持つ気体を注入していた。

 オーバーマン化された人々も、肉体は人間のままなので体から力が失われ倒れる。しかし機械化された脳は意識を保ち続けた。体が動かない恐怖の中、悲鳴をあげることもできず、ただ横たわる。

 ナノマシン注入十分後、地下施設の制御掌握を確認できると《チャイカ》から次々とhIEが降りてくる。ネオ・アトランティスの各地へ散会すると、地下への入り口を開け侵入する。倒れたhIEを見つければ確実に破壊した。また動き出す可能性があるためであり、オーバーマンを確実に始末するためだった。

 数分後IAIAのhIE達は例の手術室に辿り着く。そこには百人以上の人間とオーバーマン達が倒れていた。

 hIEはセンサーで人間とそうでないものを判断し、後者を死体袋へと詰めていく。中身が詰まった死体袋をhIEは何十個もまとめて運ぶ。引きずっているものもあるが、それを気にする必要は無い。オーバーマンは人間では無く、怪我をさせる心配は無意味だ。

 火星でオーバーマンに改造された人数の総数は、幸いなことに五百人を超えることは無かった。


    ******


 火星で突如発生したテロリストによる占拠事件は、四百人を超える被害者を出した。その被害者はテロリストとの戦闘に巻き込まれた事によるものとされたが、遺族達は納得していない。なぜならば遺体が無いからだ。

 ネオ・アトランティスの天井が破壊された事で宇宙空間に投げ出されたか、テロリストによって処分されたと公式には発表された。しかし事実は違う。IAIAが密かに処分した。

 オーバーマン化された人々は脳を全て機械化されている。解剖やCTスキャン、火葬などでそれが判明してしまう可能性があるため、遺体を人目に晒すわけにはいかなかった。

 取り除かれた脳はデータを転記されたあと処分されてしまっていた。これは占拠したグループが、彼らを自らの仲間にしようとしていたためではないかと推測できる。オーバーマンとなった者は、人類圏に居場所は無い。同じオーバーマンの元で生きるしかないからだ。

 火星占拠事件後、宇宙旅行者は激減した。投資家も宇宙へ伸ばす手は短くなった。しかしそれもすぐに回復するだろう。まだ宇宙は地球にとってのフロンティアであり続けている。


 火星占拠事件から数日後、まだネットニュースでは話題に上がり続けている。

 ネオ・アトランティスに潜入していたエージェントは、事件の報告書を作成していた。

 実はデータをもとに報告書は、AIによって事件後すぐに作成されている。しかし人間による主観データによって精度が高まる可能性があるため、個人による報告書の作成が義務付けられていた。

 データの被害者一覧に、山梨クニアツ、須賀ミツトの名前が存在していたが、それは全体のわずかな部分で、また彼らに特別な何かがあるわけではなく、オーバーマンによって脳を取り除かれたかわりに機械を入れられた憐れな被害者という事実以外何も意味があるわけではなかった。

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[Lost]BEATLESS-L3 山本アヒコ @lostoman916

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