[Low]BEATLESS-L3

山本アヒコ

[Low]

「落としましたよ」

 その声に振り向くと、女性が私へ微笑みかけた。

 おそらく美人の範疇に入る容姿。髪の毛は肩ほどの薄い茶色で、瞳はそれより明るい色。私はありがとうと口を開きかけ、女性の表情に違和感を覚えた。

 それはとても整った笑顔だったからだ。まるで様々な商品のコマーシャルに使われるモデルの、その見本となるかのような。そしてよく見れば、女性の顔のつくりそのものも、完璧な左右対称だった。

 そこで私は気付く。彼女が<<hIE>>であるということを。

「……ありがとう」

 一瞬口ごもった私の様子を気にもとめず、hIEである彼女は私へ、その手に持っていた物を手渡した。それは透明なビニールに包まれた、プラスチック製の小さなスプーン。さっきコンビニでゼリーを買ったので、店員が袋へ入れたのだ。私は他に飲み物と新発売らしいパスタを買ったため、小さな袋いっぱいになってしまい、そのせいで袋からスプーンが落ちたらしい。

 私が受け取ると、彼女は微笑を崩さないまま優雅に背中を向け、ゆっくりと歩き去った。その背中を見ながら、あの制服を使用している企業はどこなのだろう、そんなことを考えながら私は再び歩き始めた。


 私は公園で昼食を食べ終わると、会社へ戻る。フロアの入り口にはやたら見た目が頑丈そうなセキュリティドアが鎮座している。その前に立つと首からさげた社員の個人認証カードを読み取り、ドアが開く。ドア自体は透明でガラスと見た目が同じなのであまり頑丈そうには見えない。しかしそれなりの企業である私の勤め先はセキュリティに関して気を使っていて、ガラスのような見た目とは違い爆弾程度では壊れることが無いらしい。

 ただ私としては、こんな普通の事務処理のフロアにここまでする必要があるのかと疑いたくなる。実際はそれがただの数字だけだったとしても、見る人間にとってはとんでもない価値があるだろうという意識はあるが、それが一般人である自分には全く理解できない。

 自分のデスクへ行こうとしていると、フロアの端で数人の女性従業員が固まって喋っている。それらのグループは他に数個あった。私の職場であるここは、女性の人数が多い。女性はどうしてもそういったグループを作ってしまう。いや、男性も同じだろうか。

 それらの女性グループに混じらない人間もいる。私のように。人見知りというわけではないが、どうも私はああいう中にいると疲れてしまう。幸い学生時代から付かず離れずの位置を保つことには優れていて、同じ女性から嫌がらせを受けたりなどは今も無い。

 椅子に座り仕事を始めようかと思っていたら、フロアに入ってくる人の姿が目に入った。私と同じように彼女の姿を見た数人の女性がお喋りをやめ、その姿を何とも言えない表情で見ている。

 その女性はフロアに並べられたデスクの間を通り、ふと足を止めた。そこで私は彼女と目が合っていることに気付く。

「どうしましたか?」

「……ううん。何でもないの」

 彼女は私の言葉に、完璧な左右対称な顔に整った微笑みを浮かべると、自分のデスクへ歩いていく。その背中をつい目で追ってしまう。

 彼女は私と同じこの会社の制服を着ている。白いブラウスに灰色のベストと同色のスカート。だけどひとつ、私と彼女では身につけているものが違っている。私たち社員はみんな首から個人認証カードをぶら下げているが彼女はそれが無く、そのかわり左胸に長方形のプレートを身につけていた。そこには個人認証カードと同じように顔写真と名前があるが、それらより目立つ大きさで<<hIE>>という文字が刻まれている。


 彼女は会社が購入した<<hIE>>だ。私が勤める会社は各部署ごとに最低一体のhIEが働いている。女性だけでなく、男性型もいる。

<<hIE>>とは、人間型の道具、機械で作られた人間。アンドロイド。これらは2069年の現在では、それなりに普及している便利なツールだ。見た目は人間と変わらないが、彼ら彼女らに感情は無い。コンピュータがそれらしいふりをしているだけだ。

 この会社では何年も前からhIEを活用している。私もこの部署でずっと同僚として働いていた。しかし今hIEの彼女を見る社員たちの目は、戸惑いが浮かんでいる。

 それは仕方が無いのかもしれない。実際私もそうなのだから。

 彼女の名前は<<シトラス>>という。似合う似合わないの文句は会社の上層部に言うしかない。彼女を購入したのは会社で、その名前も容姿も決めたのは会社なのだから。

 シトラスはこの前まで同じフロアで働いていたhIEの『後継機』だ。それまで働いていたhIEのデータを引き継ぎ、最新型の体と交換した。

 hIEはどれだけ人間と同じ姿と形をしていても、人間とは違う物体だ。表情を変化させてもそれはふりをしているだけで、そこに感情などは無い。同僚として同じフロアで働いていても、私はhIEに親近感や友人としての気持ちなど無かった。

 しかし今から一ヶ月ほど前、シトラスとともに働き始めたとき、そのあるはずが無い感情を揺さぶられた気がしたのだ。


 私はデスクの引き出しの中に、いつもキャンディを常備している。味は大好きなストロベリー。私はなぜかストロベリー味のキャンディが大好きだった。本物のストロベリーはそこまで好きではないのに。

「あっ」

 私は一粒ずつ包装されたキャンディを食べようとして、それを床へ落としてしまった。思わず舌打ちして椅子へ座ったまま体を曲げ、床のキャンディへ手を伸ばそうとすると、私より先にキャンディへ伸びる手があった。それは<<シトラス>>の手だった。

 人と同じ質感の指でキャンディをつまみ、それを私の手の平へそっと乗せる。私は礼を言おうか悩んだ。

 hIEに対する人の反応は、大別すれば拒否と無反応ではないかと思う。私もこれまで何度かhIEに拒否反応を示す人間を見たことがある。たびたびニュースでhIEが人間の手によって襲われ、破壊される犯罪が報道されている。私はそんなふうにhIEに拒否反応は無い。だからといって親しみも感じない。やっぱり人間に似ていても、hIEは結局ただの機械とコンピュータでしかない、そう思っていた。

 手の平に乗ったキャンディを見ながら、このままデスクの方へ姿勢を戻そうと考えたとき、何気ない様子でシトラスが言った。

「鈴木さんは、いつもストロベリー味のキャンディを食べているんですね」

 それは他愛無い世間話程度の言葉だ。しかしその一言は、私の心を波立たさせた。

 いつもストロベリー味のキャンディを食べている、それは事実だ。それなりの期間私と同じフロアで働いている人間なら、それを知っていてもおかしくない。シトラスの前にいたhIEとは一年以上働いていた。なのでそのデータを引き継いだシトラスが、ストロベリー味のキャンディばかり食べているのを知っていてもおかしくない。

 でも<<シトラス>>は以前いた<<hIE>>とは全く別物なのだ。顔も体形も声も、何もかもが違うのに、まるで昔から私を知っているかのように話す。私が知っている<<彼女>>と何一つ共通点の無い姿なのに<<シトラス>>は<<彼女>>でもある。

 つまりは<<シトラス>>という形の中に<<彼女>>の人格を入れ替えた。hIEには感情が無く、それこそ<<人格>>など存在しないことを知っているのに、私はそんなふうに思ってしまった。そしてその事に、どうしようもない嫌悪感がしたのだ。

 それはまるで、禁忌を犯したかのような。


 hIEの外見は、非常に厳格な管理がされている。それは実在する人物や、すでにあるhIEと全く同じ容姿のhIEを使った犯罪を防止するためだった。なのでhIEの外見は、メーカー側が決めた、製品ごとのおそろいになっていた。そのため私の会社では、取引先でもあるメーカーのhIEで揃えたため、同じ外見のhIEが何体も社内に存在していた。そうなると自分の知っているhIEと違う部署のhIEを間違える可能性があったため、hIEの胸に大きな部署の名前を書いたプレートをつけることになった。

 しかしそれは去年までの話だ。アメリカと日本で法律が変わって、2068年にhIEの外見はこれまでの全部おそろいではなく登録制になり、自由にhIEの外見を変えることができるようになった。自由といっても決められた容姿の中から選べるだけで、自分が思うがままに変更できるわけではない。それでもhIEの見た目はバラエティー豊富になった。

 会社でも「同じ顔の人間が何人もいるのは気持ちが悪い」という不満が多くあったが、これにより全く見た目が同じhIEは存在しなくなり、そういった不満は解消された。

 私も最初はそれでいいと思っていた。予算の関係上か、会社のhIE全てを一回で全部交換するのは難しかったらしく、新しい外見のhIEは段階的に採用されていく。私のいる部署は最後のほうにまわされ、結局hIEの交換がされたのは一年後だった。社内で聞こえる話の様子では、特に問題は起こっていないし、私は元々興味も無かったので何も考えていなかった。

 それがまさか、人の姿をしたものが、違う人の姿に変化しただけでこんなにも自分が衝撃を受けるとは、思ってもみなかった。

 例えばコンピュータのハードディスクの中身を、違うハードディスクに移し替えたとしても何も感じない。起こったことはそれと同じ事なのに、人と同じ姿をしたものの中身を、違う人の姿をしたものに移し替えたという事実が、なぜこんなに気持ち悪く感じるのか。


 フロアの隅に固まるグループの女性たちは、デスクでディスプレイを見ながらデータを打ち込む<<シトラス>>の姿を見ながら、何やらこそこそと話をしている。hIEの一般使用が始まってまだ十年もたっていない。その中で起こった『外見の自由化』という転換期にまだ慣れていないだけだろう。私もきっとそうなのだ。そう思うことにする。それでもため息がつい漏れてしまったのは、仕方がないことなのだろう。


   ***


 人間よりコンピュータが賢くなったのは今から二十年ぐらい前。それよりもっと以前から、コンピュータは人間よりずっと高度なことをしていたと思うけれど、それでも何とか人間が理解できる範疇に収まっていた。けれどコンピュータはついに人間の理解が及ばない次元へ到達してしまった。超高度AIのシンギュラリティ突破。

 2051年、アメリカの<<プロメテウス>>が技術特異点突破した。これは学校で必ず教えられる近代史の代表だ。人類の知能を凌駕した超高度AIが無ければ、今の世界はありえない。そして今私がいる日本もそうだ。

 今から六年前、まだ私が十代だったときに関東で大地震が起こった。東京も甚大な被害を受け、首都機能は完全に停止。日本という国の土台を揺るがせかねない大事件だった。

 そこで活躍したのが日本の超高度AI<<たかちほ>>だ。この<<たかちほ>>は去年完成して、次々と復興計画を作り、それを実行した。これでやっと<<ハザード>>と言われる関東大地震からの復興が本格始動し始めて、それは今も続いている。私が住んでいる場所は関東から離れているのでその様子はネットのニュース程度しか知らないが、それでもその余波はここまで届いている。

 ただこの<<たかちほ>>の建造について中国と揉めているらしく、今もそれがたびたびニュースになっていた。私はなぜ中国が超高度AIを建造した事に抗議するのかわからない。たかちほがあればより早く日本は復興できるのに。


 ハザードからの復興を裏付けるかのように、この場所は活気に満ちている。大勢の人間がひしめき、その話し声がうるさいと感じるほどだ。甲高い子供の声と、ときおり幼い泣き声が遠くから聞こえてくる。

 私は休日にショッピングモールへ一人で来ていた。時刻は二時半を少しまわったころ。人の通行の邪魔にならない柱の陰に隠れるかのようにして立っていた。しばらくすると待ち人がやってきた。

「ごめーん! 待った?」

「待ちくたびれたよ」

 まったく謝罪の気持ちが無い声に、私も不満をこめていない声を返す。

「おわびに奢ってもらおうかな?」

「それはカンベンしてよ。まだ給料日前なんだからさ」

 私たちは適当な会話をしながら、ショッピングモールにある飲食店が並んだ一画へ向かった。店はすでに彼女が決めていた。私は食べるものは何でもいいので、彼女と食事するときはいつもまかせている。

 嬉しそうにメニューを開く、私の目の前に座っている人物は数少ない友人でもあるララサ。高校時代に知り合い、今もずっと親しくしている。

「ゆっくり食べたいけど、休憩時間そんなに長くないからさー」

 ララサは悔しそうに目を細めるが、その口元は笑っている。ララサの仕事はこのショッピングモールにあるファッションブランドショップの店員だ。休日は不定期で、会社勤めをしている私とは休日が合うことが少ない。なのでよく私が休日のとき彼女の職場まで出かけ、こうやって昼食をいっしょに食べている。

 ララサは仕事中なので自由な時間は一時間かそれより少し多いぐらいだ。たったそれだけの時間だが、私たちにとってはそれで十分だと思っている。

 こういう話を誰かにすると、寂しくないのかとか、人間関係が希薄だなどと言われるが、常にべったりとくっついているだけが人間関係では無いと思う。

 食事をしながら会話を楽しんでいると、つい職場でのhIEについて口にしてしまっていた。

「あー。ついにミカのところにも新しいhIEが導入されたんだ」

「私のところにもって?」

「今働いているところに来るのかはわからないけど、主要都市のショップに接客用のhIEを導入するんだよね。この前、研修に行ってきた」

「あのとき言ってた研修ってそれだったんだ」

 接客用hIEはすでにいろいろな場所で使用されている。二十四時間営業のコンビニや、ファーストフード店。ホテルのフロントマンに、このショッピングモールのインフォメーションブースにもhIEはいた。

「でも、ララサのところみたいな店でhIEってどうなのかな?」

 服の流行というのものに強い影響があったとしても、選ぶのは個人の趣味だ。ララサもよく言っているが、服を勧めるには相手を気持ちよくさせなければいけない。服を気に入り、それを着た自分を気に入ってもらわなければ服を買ってはくれないのだ。

 hIEに感情は無い。それらしくふるまうことは可能でも、ただ服を相手に見せるだけではその商品に興味を持ってもらえない。

「そうなんだけどさ、やっぱり最新の技術ってすごいのよ。知ってる? 最近は託児所でhIEがたくさん使われてるんだって」

 たしかそんなニュースを見た覚えがあった。少子化が進んでいる現在だが、それでも保育所や託児所の需要は無くならない。しかしその業務の過酷さで人が集まらず、それにより少人数での超過勤務が常態化し、それによって人が次々辞めていくという悪循環。

 そこへ現れたのがhIEだ。見た目は人とかわらないが、疲労も無く働ける奇跡の労働者。ララサによると爆発的に保育所と託児所でhIEは導入されているらしい。

「自分の子供をhIEに預けるのって心配にならないのかな?」

 日本でhIEが一般に使われるようになったのは2060年からだ。まだ十年もたっていない。いや、もう十年たっているのか。それでも私にとっては最近になって現れた『新しいツール』でしかない。普通の存在としてhIEを、どこにでもある自動販売機や車のようには感じられなかった。

「そういう人もきっと多いよね。でも、その研修でhIEを見て印象がずいぶん変わったよ。少なくとも、あの仕草は新人よりかなり洗練されていたから」

 研修の内容を聞くと、最初は普通に接客の練習をしていたという。それからしばらくした後、講師の女性がこう言った。

「先ほど接客の実技をやった中にhIEが混じっています」

 それを聞いたララサを含め全員が、お互いの顔を見比べる。なぜならさっき見た中にhIEがいたようには思えなかったからだ。ザワザワとした話し声がいくぶん静まったところで、講師はhIEを指差した。

「いやあ、あれはビックリしたよー。本当に見た目は人間そっくりだし、動きも全然見分けがつかなかったよ。接客の実技もたしかにマニュアル通りすぎるかもしれないけど、かなり完璧だったし」

「そうなんだ」

「上の人達も最初はhIEを使うのには反対だったらしいよ。でも、法律が変わってhIEの外見を自由にできるようになったじゃない。あれで決まったんだって」

 モデルという仕事があるように『人としての姿かたち』に人間は敏感だ。ファッションブランドの広告には、着飾った美しい男女の姿が並んでいる。それは人間という生物が自然に成長して、必然として与えられた姿とかたちだ。それに私たちは羨望を感じる。

 整形手術で姿とかたちを変化させることは可能だ。しかしそれでも限界はある。しかし工業製品であるhIEには、姿と形に限界は無い。ただそれまで製品ごとのおそろいという枷をはめていたが、それが法律の変更で外された。hIEの姿かたちは自由になった。

「そのおかげで、スタイル抜群で美人の店員が大量生産されるってわけ。これで接客まで完璧になったら私失業しちゃうかなー」

 わざとらしく大きなため息をつくララサに私は苦笑する。

「でも、それが何で託児所にhIEがたくさん使われることになるの? ただ外見が変わっただけでしょ」

「外見が変更できないっていうのがこれまで託児所にhIEがなかなか使われない理由だったらしいよ。子供の成長に影響があるって」

「なにそれ?」

「hIEは見た目が製品ごとに同じでしょ。だから託児所用のhIEだったら、全部同じ人間の見た目のhIEになるの。考えても見てよ、全く同じ人間が何人も並んでいるところを」

「……子供だったら泣いてるかもね」

「実際そんな何十人も使うことは無いだろうけど、ね。あと、保護者の意識かな。やっぱりさ、いくら機械だからっていっても、全く同じ見た目の人間が何百か何千もいて、その中の一人が自分の子供を世話してるって、なんか気味が悪いし……」

 思わず食事の手が止まった。

 これが映画に出てくるようなまさにロボットという外見だったなら、人々は特に拒否感が無かったかもしれない。製品としての価値は同じだ。しかし『人としてのかたち』がその価値を落としていた。人の姿を真似したことで、ロボットは『人の姿をしたなにか』になっているのだ。

 

 結局食事をするだけでララサの休憩時間は終わってしまった。ショッピングモールの閉店は夜九時だが、その後の片付けやいろいろで帰宅が深夜になることが彼女は多い。今日もそうらしいので、夜に会うのは取りやめになった。ララサが明日が休みだと飲みに行ったりできるのだが。

 ショッピングモールの中を適当に歩く。ララサと会うためによく来るのだが、店舗が定期的に変わるので新しい店を見つけるのが密かな楽しみだったりする。

 ふと目についたものがあった。それは広いスペースを持つ子供向けおもちゃ売り場だった。カラフルな看板の下に、背が高く肩幅の広い人影が見えた。それはやたら角ばったシルエットをしている。

 金属質な青色の表面が、照明に輝いていた。身長は二メートルより高く、肩は盛り上がったプロテクターでアメリカンフットボールの選手のようだ。これはロボットなのだろうか。それとも、ロボットの形をしたhIEなのだろうか。

 その足元に数人の子供たちがまとわりついていた。全員男の子だ。ぺちぺちと小さな手で金属の足を叩いたり、高い場所にある顔を見上げて見つめている。

 ヘルメットに覆われた目の部分の光が点滅し、何か言ったようだ。それを聞いて子供たちがいっせいに大きな声を出す。

 あれは人の姿かたちをしたものでは無い。しかし子供たちはそれを相手に楽しそうにはしゃいでいる。

 あの姿を求めたのは、製作する人間だ。hIEに感情は無く、その姿かたちに疑問を持つはずも無い。それを思うのは、私だ。なぜあのhIEを作ったのか。hIEをそこまで人間のふりをさせることに意味はあったのか。

 無意識に私の足はそちらへと向かっていった。ある程度近づくと、奇妙な人間がいることに気付いた。それはスーツを着た男性だ。

 男性は金髪で、色素の薄い目を子供たちと戯れているhIEの背後に向けて立っていた。その場所はおもちゃ売り場のフロア内で、はっきり言って浮いている。男性はタブレット型端末を持っていて、目がその画面とhIEの様子を何度も往復していた。

 その様子を観察していると、男性は不意に背を向ける。私はなぜかそれを追っていた。

 おもちゃ売り場の中に入る。子供では到底手の届かない高さまで棚はおもちゃで埋まっていた。棚と棚の間は広く、人がすれ違うのは簡単そうだ。

 私はおもちゃには目もくれず、スーツ姿の男性の背中を追った。するとフロアの雰囲気が急に変化する。さっき通ったフロアは男の子向けで、ここからは女の子向けのフロアだ。成人した男性が一人で来るには似つかわしくない。子供のために買いにくることはあるだろうが、しかしスーツの男性からはそんな雰囲気を感じなかった。

 スーツの男性は立ち止まる。その視線を追うと、小さな女の子と話している店員の女性がいた。このおもちゃ売り場の店員はみんな同じ制服を着ているのですぐわかる。

 女性店員はひざを曲げて子供と同じ目線で、笑顔で話しかけている。女の子は少し恥ずかしそうに、だけど口元に笑顔を浮かべながら何かを喋っている。その様子を少し離れた位置から男性はじっと見ていた。さっきと同じくタブレットと見比べているようだ。

 私はゆっくり近づいていくと、ある事に気付いた。女の子と話す女性店員の顔が、完璧な左右対称だということに。これは私の特技なのだが、顔を見るだけでそれがhIEかどうか判断できる。実際はこれが特技だなどと思ったことは無い。逆に他の人が人間かhIEか分からないのが信じられない。あんなに完璧な左右対称な顔は、hIEにしかできないというのに。

 私はなぜそうしたのかわからないが、背後からスーツ姿の男性に声をかけた。小さな声で、そっと声をかけただけなのに、男性は大きく悲鳴を飲み込んだような声を出して、激しく肩を震わせた。その様子に私のほうが驚いてしまった。

「っ!」

 男性はまるで鷹に襲われた小動物かのような動きで、私へと顔を振り向かせた。遠くからではよく見えなかった顔の詳細がわかった。鼻は高く鷲鼻ぎみであごは細い。金髪で目の色素も薄いが、その顔立ちには日本人の面影がある。どの国の人種かまではわからないが、男性は日本人とのハーフのようだ。今では二国以上の血を持つのは珍しくも無い。

「……あっ……」

 男性は口を開閉させるが、そこからはかすれた声の断片しか聞こえなかった。たれ下がった眉毛と泣きそうな目は、まるで私がいじめているように感じた。私としてはまさかそんな反応をされるとは思ってもいないので、何も言うことができず混乱したまま男性を見つめる事しかできない。

「どうしましたか?」

 その声が聞こえた方向へ顔を向けると、さっき女の子と話していたhIEが立っていた。

「えっと……」

 男性の方へ目を向け、ついそこで固まってしまった。男性が必死な様子で逃げていたからだ。思わず「えっ」と声に出してしまいそうだった。

 目を戻すと、微笑を浮かべたhIEが私を優しく見つめている。

「そ、その、あの男の人があなたをずっと見ていて、何しているのかなと思って声をかけんですけど……」

「あの男性は私の製造メーカーの研究者です」

「えっ、そうなんですか?」

「はい。今日は私たちのデータ収集のためにあの方は来ていたのです。あちらのフロアにいたhIEを見ましたか。あれも私と同じメーカーのものです」

「そうなんだ」

 あのスーツの男性はロボットのようなhIEも同じように見ていた。タブレット端末を見ていたのは、そのデータを確認していたのだろう。

「でも、だったらどうして逃げたのかな?」

「あなた様が背後から声をかけたので驚かれたのではないでしょうか」

「別に脅かしてないし、小さな声でそっと言ったのに? あれ、私が声をかけたのを知ってるってことは、その時見てたの?」

「見ていたというのが私の目に該当する、カメラに映っていたという意味では違います」

 hIEはセンサーの塊である。不特定多数の人間が生活する環境では、多数のセンサーが無ければhIEは人間らしくふるまうことは不可能だった。そのセンサーは目であるカメラや耳である音響センサーだけでなく、多種多様な物が装備されている。それらのセンサーで私の行動を把握していた。そうhIEである彼女に説明され、知らなかった私は思わず感心した声を出した。

「なるほど、そうだったんだ」

「はい。ですがこれらの機能もまだ完璧とは言えません。まだ発展途上の技術なので、先ほどの男性などが研究を進めています」

「それであの人は、あなたのデータを調べていたと……」

「私は最近開発された最新型hIEです。もちろんテストは何度も行いましたがそれでは無く、実際に使用した場合のデータ収集を今回やっています」

 私はhIEの全身を観察する。人間相手にやると顔をしかめられかねない行為だが、hIEである彼女をつま先から頭まで舐める様に観察しても、その微笑を浮かべた表情が変化することはない。

「最新型っていうのはどこが違うの」

 hIEの外見は、よく見ても多くの人には人間と見分けられない程度に完成されている。ものによってはオリンピックの選手ほどの身体能力を持つhIEが存在するが、人間と違い筋肉が発達した外見をしているということは無いので、それを見分けることは困難だ。

 私が見る限り、hIEの姿はごく一般的な若い女性の体形をしている。どちらかというとスタイルと姿勢が良すぎる気がしないでもないが、それは許容範囲だろう。

「あなた様はhIEの制御方法が二種類あるのをご存知ですか。自律制御方式と他律制御方式です」

「その二つはどう違うの?」

「自律制御方式はその名前の通り、それぞれのhIEがその個体の判断によって行動が制御されるものです。他律制御方式はhIEの行動をその個体が制御するのではなく、hIEの外部からその個体を制御するものです」

 その意味を少し頭の中で咀嚼する。

「つまり、自律制御はhIEが自分の頭で考えて動いて、他律制御はラジコンみたいにコントローラーで動かすってことなのかな?」

「はい。その考え方で合っています」

 そう言うhIEの微笑みは、まるで生徒が完璧な正答をしたのを称える教師のようだ。

「少し付け加えさせてもらえれば、他律制御方式は外部からhIEを制御してますが、そのコントローラーを握っているのもhIEです。hIEを制御する誰かがコントローラーを握っているのではなく、hIEを制御する命令プログラムが外部から送られているのです」

 そう言われても私の頭ではうまく理解できなかった。考えてみるとhIEがコントローラーで操作されても、それぞれが自分で動いても、そのプログラムを作ったのは人間だ。人のようにふるまうhIEは、人によって人らしく制御されている。自律制御でも他律制御でも、結局は同じ事なのではないだろうか。

「……そう。で、あなたはどちらの方法で制御されてるの?」

「自律制御方式です。私はメーカーが作成した最新型の自律制御方式プログラムで制御されています」

 つまり目の前のhIEは、自分で考えて自分を動かしているということである。それだけで考えてみると、何も人間と変わらない。そこで不意に会社の<<シトラス>>の姿が脳裏に浮かんできた。シトラスも自分で考えて行動しているのだろうか。

「……自律制御と他律制御では、どちらのほうがより普及しているのか知ってる?」

「自立制御方式です。なぜなら他律制御方式は、外部から制御するためのネットワークのインフラ整備が不十分だからです。この状態ではhIEの行動が大幅に制限されてしまいます」

 日本ではどこにいても携帯端末で通話サービスやインターネットへの接続が可能と言っても過言ではない。しかしそれでもhIEのような高度で複雑な機械を外部から制御するのは難しいようだった。

「へえー」

 そう口にしたところで、自分がずいぶん長い間hIEと会話し続けていたことに気付く。同じ職場の<<シトラス>>とすらこんなに会話したことが無いというのに。そう思ったところでなぜか焦りを感じ、目を彷徨わせてしまった。

「で、でも、やっぱり最新型っていうのはすごいのね。まるで本物の人間と話してるみたいだった。つい長く話しちゃったし」

「褒めていただいてありがとうございます。しかし、まだ完璧というわけではありません」

「そうかな。すごく人らしく見えるけど」

「そうでしょうか。こうやってあなた様と会話することが、本当に『人のふるまい』として正しい行動なのでしょうか」

 まさかhIEからそんな言葉が出てくるとは思わず、私は目を丸くする。

 hIEは微笑を崩さないまま、穏やかな聞きやすい声で言う。

「私がこうしたふるまいをしているのは、プログラムによってそう制御されているからです。人らしいふるまいとして、こうして行動するように。それが正しいとされて今私は行動していますが、それがhIEとして正しいのでしょうか。まだデータが不足している状態で出された結論は、それが正解だと決定されることはありません」

「データ不足?」

「hIEが制御された行動は、膨大な人のふるまいのデーターを集め検証し、それらしくふるまわせています。それはまだ、完成形では無いのです。先ほどの男性が収集していたデータは、私の制御を完成させるために必要なものなのです」

「完成されていると思うけど……」

 私がこれまで会話してきた中で、目の前のhIEに不快感を感じたことはない。また『できそこないの人間』を相手にしたかのような感覚も無かった。また『感情を持たないロボット』を相手にしたような感覚も。

 私は目の前の相手が、感情を持たないhIEだということを理解している。たとえ人と同じ姿かたちをして微笑みを浮かべていても、それは人のふるまいをする機械だと。しかしそれでも、人のかたちと同じものが、人と同じふるまいをするならば、そこに何かの感情を見てしまうのが人間なのだから。犬や猫を見て、その感情を推し量るように。

「いえ、まだです。こうして私があなた様と会話をしているのは、そうするように制御されているからです。しかしこれが正解なのでしょうか。もしかしたら、あなた様と会話をしない事が正解なのかもしれません」

「え?」

「hIEの制御方式は、人のふるまいから抽出されたデータです。それらの中には『あなた様と会話をしない』というふるまいも入っているはずです。でも今はそれを選択していません。なぜなら私の制御プログラムでは『その行為を選択しない』ようにされていたからです。そのことは正解なのでしょうか」

 正解に決まっている。なぜなら私はこうして会話をしているじゃない。そう思ったが、口が動いてはくれなかった。

「私の制御プログラムは完璧ではありません。まだ発展途上の制御方式で選択された行為は『正解であると決定されてはいない』のです」

 人間も会話をする時、言葉を選んでいる。友人なら親しげに砕けた言葉遣いで、上司や年上なら敬語で。なぜそうするのかというと、私が私をそう『制御』しているからだ。そうした方が正しいと自分が思っているから。でも、それが正しいとはわからない。人の数はあまりに多く、その『心という制御方式』はあまりにも混沌としているのだから。

 人の心に制御されたふるまいをデータとして使用しているhIEのふるまいが、いつになれば『人らしいふるまい』に完成するのだろう。

 言葉を無くし立ち尽くしていると、hIEが初めて微笑み以外の表情を見せた。それは相手の同情を誘うような、あまりにも申し訳なさそうな表情。

「あなた様をご不快にしたなら申し訳ありません。ですがこのデータは次の制御プログラムに使用され、それにアップグレードされた時には、きっとあなた様を不快にさせるような事にはならないでしょう」

 そう言ってhIEは深々と頭を下げた。


   ***


 今日は久しぶりにララサと二人で街を歩いていた。お互いの休日が同じだったからだ。今もショッピングモールのファッションブランドショップで働いているララサは、休日が不定期だった。

「けっこう美味しかったねー」

「そうね」

 最近流行っているという洋食屋に行ったところだった。これから適当に服や靴などを見てまわろうなどと話をしていた。正直に言うと私は服装にそこまでこだわりが無いのだが、ショップ店員であるララサは非常にファッションにうるさい。無頓着な私を見かねて、よくこうやって服を見繕いに連れ出すのだ。

 すでに季節は冬になり、コートを着ていない人間はいない。吐く白い息が口から漏れている。しかし、息が白くない人間もいた。

 いや、それは人間ではなく人型のロボット、hIEだ。

 2071年の現在、hIEは急速に普及している。街中でその姿を見かけることも増えていた。今日も何体かのhIEを私は見ている。

 ちらりと目を隣のララサに向けるが、彼女は前から歩いてくるhIEを全く気にしていなかった。本当は気にしていないのではなく、ララサはhIEを本物の人間と思っているのだろう。一瞬見ただけでは人間とhIEを見分けることが難しい。私のように人間とhIEの顔をすぐ見分けることができない人には。

 今もよくララサが働いているショッピングモールに行くが、あれ以来あそこのおもちゃ屋には近づいていない。もし新しい制御方式にバージョンアップされたあのhIEがいたならば、どういう反応をすればいいのかわからないからだ。

 2071年の今年、hIEには大きな転換期となった。それは『リスボン会議』だ。これは社会に広がり始めたhIEについての国際会議だった。なぜこの会議が開かれたのかというと、hIEによるトラブルが増え始めていたことが原因だ。

 その中でも深刻なトラブルがあり、これがリスボン会議の直接的な動機になったと言われている。それは軍で扱っているロボットが、兵器の発射ボタンを操作して、爆発してしまったという事件だった。

 リスボン会議が開かれ、これにはオブザーバーとして九基もの超高度AIが参加し、その結果『自律系ロボットは将来制御しきれなくなる』という結論になったのだ。これによりhIEの制御方式は、ほとんどが他律制御式に移っていく。他律制御の研究をどのメーカーも率先して進めている。いまでは自立制御方式のhIEはほぼ皆無だ。

 つまりあの時私と会話していたおもちゃ屋の『自立制御方式hIE』は、すでに『他律制御方式hIE』に変わっている可能性が高い。もしまだ外見があのhIEと全く同じものが存在していても、その中身は『私が会話したhIEとは全く別物』なのだ。制御方式がhIEの行動の根幹となるもの、つまり人の心や人格であるならば、それを入れ替えられたhIEは『別人』だとどうしても思ってしまう。hIEはただの機械なのに。

 会社で今も同じフロアで働いている<<シトラス>>もすでに他律制御方式に変更されている。私はおもちゃ屋でhIEと会話してから、シトラスとは距離を取っていた。会話もしていない。なので今のシトラスが、私の知っているシトラスとどう変化したのかもわからない。だからといって知りたくも無かった。あれ以来私はhIEを目にすると、何ともいえない気分になる。嫌悪感ではない。hIEに対しての気持ちではなく、私自身がhIEに対して反応してしまうことで、言い表せない何かが胸を波立たせるのだ。

 そんな事を考えていたからか、私の顔を見て眉間にしわを寄せているララサに私は気付かなかった。

 


 休日で人通りの多い道を歩いていると、後ろから声をかけられる。

「やあ」

 やけに親しげな声に、つい私は振り返ってしまった。そこにはまぶしいほどの笑顔を浮かべた男性が立っていた。金髪で前髪を横に流してきれいに整髪剤で整えている。仕立ての良いスーツを見て、ララサの目が変わった。どうやらかなり良いブランドのスーツらしい。ララサがこの目になるのは高級ブランド品を見たときだけだからだ。

 ファッションに疎い私はスーツより、その色素の薄い両目に注目してしまっていた。そこには自分への自信が溢れたかのような輝きが満ちていた。それが真っ直ぐ私に向けられている。

「……誰ですか?」

 そう言うと男性は外国人特有のオーバーリアクションで肩を落とし、顔を上に向けて手で目元を覆った。そんな反応をされても困る。本当に見たことも無い男性なのだ。

「残念だ。まあ、仕方が無いかな。あのころとは僕はずいぶん変わったからね」

 落ち込んだ様子から一転、再び私に向けられた両目はまるでそこから圧力が向けられているかのように感じられた。その顔は良く見ると鼻が高く鷲鼻ぎみだが、白人のベースの中に日本人の特徴が混じっていて、どうやらハーフのようだ。

 それに気付いたとき、脳裏にかすかに浮かんだ顔があったが、明確な姿にならない。

「一回会っただけだから思い出せないかな。ほら、ショッピングモールのおもちゃ屋で」

 そこで後ろから声をかけて、驚いた男性の顔を思い出した。すでに二年も前のことなのに。しかし目の前の男性は、あの時の男性とは全く思えなかった。声をかけただけで泣きそうになっていた気弱そうな男性が、こんな自信に溢れた男性になるとは信じられない。

「本当に、あのときの……?」

「なにミカ、知り合いなの?」

 私は曖昧に首を縦に振る。それに男性は嬉しそうに笑顔を浮かべた。

「よかった。覚えていてくれて嬉しいよ」

「でも、あのときとは全然様子が違う……」

 男性は胸を張り、まるで映画俳優かのように親指を自分に向けた。

「あれから多くの人生経験を経て、確固たる自分を手に入れたのですよ」

 白い歯を見せて笑う男性は、二年前に見たあの男性とは、どう考えても結びつかなかった。どうすればたった二年でここまで変わることができるのか。

「よければどこかでお茶でも。お友達も一緒に」

「え、でも……」

 あまりに急な展開に、こういう事に慣れていない私は戸惑うしかない。思わずララサに助けを求めるが、彼女も困惑しているらしい。男性はおそらく魅力的であろう笑顔を浮かべてこちらを見ている。


 急ブレーキを踏む音がした。ここは車道の横にある歩道で、私が立っている場所の横に箱のように四角くて黒い車が停車する。ブレーキ音に驚いてそちらを向いた瞬間、車のスライドドアが開いた。

 それから先に起こったことはあまりに現実離れした光景で、驚くより戸惑いしかなかった。車から出てきた映画に出てくる特殊部隊のような装備をした男たちが、一斉に私に話しかけてきた男性へ襲い掛かったのだ。男性はあっという間に地面へ倒され、両腕を背中で拘束されてしまった。それはまさに一瞬の出来事で、鮮やかな動きはこれらの行為のプロフェッショナルなのだと一瞬で理解させられるものだった。

 私とララサは言葉を発することもできず、ただ立って成り行きを見ているだけだ。男性は腕だけでなく足首をバンドで固定され、さらには猿ぐつわまでされて車の中へ担ぎ込まれてしまった。

「すみません」

 通行人と一緒に呆然と立ち尽くしていた私は、その声で我に返る。声がしたほうへ顔を向けると、そこにはスーツを着たおそらく三十代半ばの男性が立っていた。それは普通なのだが、顔はなぜか幅広のサングラスで隠れている。

「私はこういう者ですが、少しお話を聞かせてもらえませんか」

 男性は手を差し出す。その指先には名刺がはさまれていて、そこには『<<IAIA>>日本事務局』という文字が大きく書かれていた。


 あの後すぐ警察の車がやってきて、スーツ姿の男性とともに警察署へ連れて行かれた。生まれて初めて取調室という場所へ入った。ララサとは警察署で違う部屋に入れられたので、心細くて仕方が無かった。

 部屋に通されて粗末なパイプ椅子に座らされると、一人きりにされたがすぐにスーツ姿の名刺を渡してきた男性が入ってきた。他の人は誰も入ってこなかった。

「さて、聞きたいのは何かと言いますと、あの男性とはどういった関係ですか」

 私は二年前のことを思い出せるだけ喋り、混乱していたのでhIEとの会話のことなど聞かれていないことまで喋ってしまったが、男性は落ち着いた顔でじっと聞いていた。ショッピングモールで一回だけ、ほんの少し会ったことがあっただけで今日急に話しかけられて驚いた。早口でそうまくし立てるようにして言い終わると、私は大きく息をはいた。心臓の鼓動が激しい。ただでさえ警察署などに連れて行かれて緊張している。話し続けたせいでのどはカラカラだ。

 じっと表情を変えず私の話を聞いていた男性は、音も無く立ち上がる。私が目を向けると、いかにもわざとらしい微笑を見せた。

「別にあなたを逮捕しようとか、そういう気持ちはありません。ただあの男性はとある事件の重要参考人だったので、彼と話をしていた方から話を聞いているのです。今のところあなたに彼と関係があるようではないので、すぐに帰れますよ」

 私が何か言う前に男性は素早い足取りで部屋から出て行ってしまった。かわりに制服姿の警官が入ってきて、ドアの横に立った。私を監視するためだろう。私は少しトイレに行きたくなったが、それを言い出すこともできず、ただこの部屋から出れるときを待った。


 私とララサが解放されたのは、一時間ほど後だった。疲れきった私たちは何も言わず、警察署から逃げるように歩く。

「結局、なんだったんだろうね……」

「……ミカはあの人と知り合いだったんでしょ?」

「知り合いなんかじゃない。だって一言も会話してないんだから」

 歩くことすらおぼつかないほど精神的に疲れていた私たちは、近くの喫茶店に入ることにした。飲み物を飲んでなんとか人心地つくと、私は堰をきったかのように口を開いた。

 それは警察署で男性に話したのと同じ内容だ。頭が混乱していて、ララサとこの状況を共有してもらいたかった。二年前声をかけ、逃げられた相手に今度は声をかけられ、その相手が全く別人のようになり、そして拘束され私は警察署へ連れて行かれた。まったく意味不明だ。吐き出さないと頭が割れてしまいそうだった。

「ふーん……つまりはほとんど初対面の相手だったってわけ?」

「そうなのよ。なのに、こんな事になるなんて……意味がわかんない……」

 私はテーブルに両肘をついて頭を抱えた。

「あー、また警察に何か聞かれたりするのかな……」

「それは心配しなくていいんじゃない? だってミカは一回会ったことがあるだけでしょ。私としては、ミカの気持ちがわかって良かったなって思うし」

「私の気持ち?」

 ララサの言葉の意味がわからず首をかしげていると、ララサはくすりと笑った。

「自分じゃ気付いてないけど、たまに落ち込んだというか、何か考え込んでる顔をするときがあったんだよね。それも二年ぐらい前から。それって、さっき言ってたhIEのせいだったんだ」

 私はあの男性についてだけでなく、警察署で話したときと同じように、あのhIEのことについてもララサに喋っていた。

「なんでそんな顔するんだろって思ってたんだ。だって、特に何かある場所ってわけじゃなかったから。でもあれ、hIEを見つけたときに顔が変わってたんだ」

「そ、そんなに変わってた?」

「うん。笑えるくらい」

 ララサが茶化した様子で言うと、私も思わず笑いながら小さく怒りの声を漏らした。それを聞いてララサはさらに笑う。でもそのおかげで、かなり気分が持ち直した。

「……で、ミカはhIEをどう思ってるの?」

 そう言われても、考えてもわからないからモヤモヤするのだ。

「えっと……ララサはhIEの制御方式が二種類あるのを知ってる?」

「なにそれ」

「簡単に言うと、自分で考えて動くhIEと、自分じゃなくて離れた場所から動かすhIEがあるの。でもこの前にリスボン会議っていうのがあって、自分で考えて動くhIEは危険っていうことになったの。hIEの事故とかニュースで見てない?」

「何か聞いたことがあるような……たしかミサイルのスイッチを勝手に押したんだっけ?」

「うん。それでhIEは外から動かすことにしようってことになったんだ。それで、私の会社のhIEもそれになって、たぶんおもちゃ屋のhIEもそれに変わってるんだと思う。それが何だか、うまく言えないけど……」

 自分で明確になっていないことなので、私はそこで言葉を失ってしまう。ララサは腕を組んで目を閉じると、うーんと口に出してうなり、しばらくして目を開けた。

「ミカはさあ、難しく考えすぎなんだよ。もっと楽に考えたら?」

「どういうふうに?」

「あのね、私昔に犬を飼ってたんだよ。小学校のころ。もう死んじゃったけど」

 急に変わった話の内容に、私は小さく頷くしかなかった。

「それはちゃんとした生き物の犬だったんだ。けっこう可愛がってたんだよ。散歩に行くとたまに勝手に走ってどこに行ったりしたけど、でもさやっぱり憎めなくて。で、この前同じショップで働いてる後輩がさ、犬を飼い始めたっていうから見に行ったんだよね。そこですごい驚いたんだ」

「どうして驚いたの?」

「その犬は茶色いダックスフンドでさ、目がくりくりっとしててすごいカワイイの。私も一瞬で好きになって、抱いたり撫でたりしてかまいまくってたんだ。それでしばらく遊んでたら、エサをあげたくなって。私犬がエサを食べるところが好きでさあ。それで後輩にエサはどこにあるのって聞いたら、エサは無いって言うんだよ」

 ララサは目を大きくさせ、両手を広げてその時の驚きを表現して見せた。

「他に犬用のトイレも無いって聞いて、私怒ったよ! そんなの飼ってるって言わないよ、って。そうしたら後輩が笑ったんだ。これは本物の犬じゃなくてaIEですよ、だって」

 人型ロボットをhIE、動物型のロボットをaIEという。aIEは動物を飼えない場所でも問題はなく、また生物ではないので動物アレルギーを発症することも無い。また食事や排泄をすることもないので、そういった面倒も無いのだ。放っておいても餓死することもないし、ところかまわず粗相をすることもない理想のペットと言える。

「犬がaIEだって教えられたとき、なんだか愕然としちゃったんだよね。こんなに可愛くて、目もくりくりしてて、鳴き声や動きとか、抱っこしたときの感触なんかも本物そっくりなのに偽物なんだって。それでその犬をかまうのをやめちゃったんだけど、後輩はずっと遊んでるの。かわいいねーなんて言って、抱っこして撫でてキスしたり」

 そこでララサは喋り疲れたのか一旦口を閉じ、一口水を飲んだ。

「私はさあ、aIEだと分かって気持ちがちょっと冷めたけど、でもそれって私のワガママなんだよね、本物の犬がいいっていう。でも後輩にとってはそのaIEが自分にとっての飼い犬なんだよ。それが本物でもロボットでも、それは関係ないんだよ」

 でもそれは、その人が本当にaIEが欲しくて買ったのだろうか。本物の犬が飼えないから仕方が無くaIEを買ったのかもしれない。aIEはhIEと同じで、動物と人間という違いがあるが、それぞれのふるまいを真似ているだけなのだ。それらが自分に向けてくるものは親愛ではなく、制御プログラムでしかない。

「作り物に愛情を持ったりするのって、意味が無いと思う。無駄だから」

「意味が無くていいんだよ。どう言ったらいいのかなあ……」

 ララサは片肘をテーブルについて、その手の上に頭を乗せる。反対側の手はテーブルの上を指先で叩いている。

「私がダックスフンドのaIEを可愛いと思ったのは、それが『犬っぽい』からなんだよ。後輩だってaIEが『犬っぽく』なくて、例えば二本足で立って喋ったりしたら『本物の犬を相手にしたようなこと』はしないと思うんだ」

 aIEはhIEに比べて外見や機能などが自由だ。ララサが言ったように二足歩行や人の言葉を喋らせることもできるし、様々な種類の特徴を混ぜ合わせたミックス犬だったり、背中に羽が生えた犬なんていうものもある。

「hIEはすっごく『人間っぽい』よ。ミカみたいにすぐ見分けられない私にとっては、本物と同じように見える。だからつい普通に人と接するような態度になるんだよね。でも、仕方が無いじゃん。だって『人間っぽい』からさ、こっちも『人間っぽく』対応しないと、なんか気持ち悪いし。ミカもさ、hIEを『人間っぽい』感じで相手にすればいいの。そう思わない?」


   ***


「調査してみましたが、あの女性は本当に一度会っただけのようですね」

 暗い部屋に男の声がした。ライトは一つしかなく、それに照らされているのは、椅子に縛り付けられたスーツ姿の男。それは鈴木ミカに話しかけ、拘束されて車へ運び込まれた男性だった。

 ここは一般人には知られていない、IAIA日本事務局の拠点の一つだ。

 靴音が近づき、その姿が光で浮かび上がる。スーツ姿に幅広のサングラス。警察署で鈴木ミカと話をしていた男性だ。

「私がどういった存在かもちろん理解していますね」

 彼が差し出した名刺に描かれていた<<IAIA>>とは、2054年に設立された超高度AIを管理する国際機関を意味する。サングラスの男はそのIAIAのエージェントだった。彼は男性を確保および適切な『処理』を行う任務を与えられていた。

「……父さんは、どうなったんだ」

 椅子に拘束されたまま、男性が静かに言った。サングラスのエージェントは表情を変えない。それを上目遣いに見る男も表情は静かだ。

「あなたの父親は別のエージェントが適切に処理しました」

「死んだのか」

「死んだというのは適切な表現ではありません。脳まで機械化されたオーバーマンは人間としてではなく、AIとして扱われることになっています」

 人間の知能、人格を完全にデータ化して永遠に生きることを望む人間は、かなりの数存在した。そしてその技術は超高度AIによって確立された。それによって生まれた『オーバーマン』だったが、IAIAの超高度AI<<アストライア>>によってオーバーマンは人間ではなく、AIであるとされた。そして<<アストライア>>はオーバーマンを人類として扱うことは、論理的制約が無いため人類社会にとって危険な存在であるとした。

 その結果2071年にインドのデリーで開かれた国際会議、そこで人間知能を完全にコンピューター化することを禁止する国際条約、デリー条約が結ばれる。

 条約締結国はすみやかに国内法が整えられ、既存のオーバーマンもAIであるとされた。しかし反対した国もある。オーバーマン技術を確立した超高度AI<<ベムス2066>>を運用する、男性の母国でもあるロシアだ。ロシアはすでに多くのオーバーマンが生まれていた。

 IAIAはアストライアのバックアップを受け、苛烈な魔女狩りをはじめた。それによりオーバーマンとして生まれ変わった、拘束されている男性の父親は、IAIAによって『処理』されてしまったのだ。

「IAIAは息子であるあなたもオーバーマンではないかと疑い調査しました。その結果、あなたがオーバーマンである証拠を発見。そして確保しました」

 男性は椅子に拘束されたまま、じっとサングラスに隠れた目を見上げている。そこでエージェントの表情が始めて変化した。困惑したかのような形に口元が歪んだ。

「オーバーマンは脳だけでなく、肉体も機械化します。当たり前ですね、永遠に生きるためには生物である肉体は不必要です。老いてやがて腐ってしまう。しかし、あなたは違う。その肉体は、本来のあなたのままだ」

 確かにこの男性は脳こそ完全にコンピュータ化しているが、そこから下の肉体は間違いなく生物のままだった。オーバーマンの機械化された体は、ほとんどが軍のhIE並みのポテンシャルと、強力な兵器を内臓している。それは自分の身を守るためであり、IAIAの魔女狩りから逃れるためでもあった。男性を拘束するときに強化外骨格を含む重装備の男たちが多人数で襲い掛かったのも、そういう危険があるからだった。

 エージェントは生身の肉体を持つ男性が信じられないとばかりに、肩をすくめて見せた。

「さらにその脳にあたるコンピュータも他のオーバーマンとは違う。普通はその体、機械化されたサイボーグボディの中に人格をコピーしたコンピュータが存在する。自分の体なのだから、その中に自分の意識があるのが普通です。しかし、あなたは違う。自分の人格がコピーされたコンピュータが、体の外部にある。あなたは体の外から自分の体をコントロールしているのです」

 一般的なオーバーマンはhIEでいう、自律制御方式だ。というより人間そのものが自律制御方式なのだから、オーバーマンもそうならざるを得ない。しかしこの男性は、己を他律制御方式に作り変えてしまっているのだ。

「個人的にあなたをオーバーマンと呼ぶことに抵抗があります。だからといって、他に良い呼び方も思いつかないのですけど。しかし、あなたが人格をコンピュータ化した原因というのが、異性に好かれるため、という調査結果は本当なのですか?」

 サングラスに隠れていても、その奥に戸惑った瞳が見えるようだった。男性は実に自慢げな顔で、ニヤリと唇の端を上げた。

「おかげでずいぶん多くの女性と楽しめたよ」

 男性は二年前まで、少し話しかけられただけで逃げるほどの対人恐怖症だった。しかし今ではこんな状況でさえ落ち着いてみせることができるほど、強靭な精神力を持っている。なぜかというと、自分の人格に『hIEの制御方式を組み込んだ』からだ。

「……あなたは極度の対人恐怖症だった。異性に対しての性的興味が非常にあったが、そのせいで何もできず鬱屈した感情をもてあましていた。自分のこの対人恐怖症を解消しなければどうしようもない。そこで思いついたのが、人格のコンピュータ化」

「そう。自分の人格をコンピュータ化すればなんとかなるんじゃないかと思った。けど、その技術は役に立たなかった。人格をそのままコピーするだけで『データ化した人格を自由に変更できる技術』じゃなかったからさ。以前の僕と同じ人格をコピーしたところで、対人恐怖症のサイボーグが完成するだけさ」

 男性は笑みではなく、皮肉をこめたかつての自分への嘲笑に唇を曲げた。それはすぐに確かな笑顔に変わる。

「でもその絶望は、君たちIAIAのおかげで希望に変わる」

「リスボン会議ですね……」

「そうさ。自律制御方式より他律制御方式が良いとされたことで、僕の意識がそちらに向いたんだ。それまで自分のたった一つの人格と体というものに固執していたからね。一つの体の中に一つの人格、そのテンプレートから外れられなかった」

「しかし、あなたはその人類の規範から大きく道を踏み外した」

 男性は優秀なhIEの制御方式の研究者でありエンジニアだった。それを目指した動機の根幹は、データ化した人格を変更することに使えるかもしれないから、というものだ。しかしそれは意味を成さなかった。だが人格の変更そのものはできなかったが『人のふるまい』を変更することはできた。

 今男性の脳であるコンピュータに送られているのは、外部にある人格がコピーされたコンピュータからの『人としてのふるまい』のデータだ。それは数多の人々のふるまいから抽出され、選別されたデータ。その中でも『女性に好印象を与えるであろうふるまい』である。そしてそのデータは、常に更新されていた。

 男性が作成したhIEの制御プログラムには、女性に好印象を抱かせるふるまいを抽出し集めるプログラムを混入させている。男性が勤めているhIEメーカーは世界的にも有名なもので、世界中にプログラムが混入されたhIEが散らばっている。hIEに搭載された各種センサーは、それらのデータを逐一どこかにある人格がコピーされたコンピュータへ送り続けていた。彼の人格は一秒ごとに更新され、洗練されていく。

 だがそれは、彼の本来の人格では無い。体に送られている命令は、全て女性に好意的に見えるように調整された、hIE制御方式で抽出された人のふるまいである。しかしそうなるように設定したのは、男性自信の意思だ。

 自分の人格の反応より、コンピュータによる制御方式を優先する。

 男性の人格は確かに存在している。しかし肉体のへのフィードバックは無い。人格は、人らしくふるまう肉体が受けたデータをただ受け取るだけだ。男性が求めてやまなかった女性との会話、触れ合ったときの感触と暖かさ、そして性的な充足感を。

 そもそもなぜ人格を肉体の外部に隔離したのかというと、脳と同じ大きさのコンピュータに人格を入れることはできるが、それだと処理能力が足りず外部から送られてくる肉体制御用のデータを処理するのが難しかったからだ。自分の欲求を満たすには、自分の人格が邪魔だというのならば、そんなものは別の場所へ移動させてしまえばいい。自分の人格をどうにかするという必要が無くなった男性は、もうそこに価値を感じていなかった。

「自分が人類だろうがAIだろうが、そんな事はどうでもいい。人格がコンピュータにコピーできるってことは、結局人間の意志なんてオンとオフしかないってことさ。楽しいか、不快か。僕はただ女性と充実した時間を楽しみたい。ただそれだけなんだ」

 エージェントは靴音高く近寄ると、男性の胸倉を掴んだ。拘束されている椅子が大きな音をたてる。

 エージェントは鼻が触れそうなほど顔を近づけた。その歯は音がしそうなほど噛みしめられていて、抑えることができない怒りを表していた。それを椅子に拘束されたまま男性は、薄い笑みを浮かべて見ている。

「……あなたのプログラムは、十代の子供の好意を得るためのふるまいも、データとして収集していた。そして、それを使用した……」

「ああ。おかげで最高のひと時を味わえたよ」

 エージェントは拳で顔を殴りつけた。椅子に拘束されたままの体が、派手に転倒する。

 男性の性的な興味の対象は、ローティーンから三十代までだった。世界中のテーマパークやおもちゃ屋で集められた、ローティーンの少女から好意を得られるふるまいのデータを使い、男性は十人以上の十四歳以下の少女と性行為を行っていた。それは全て合意の上というわけではない。多くは警戒心を解き、人気の無い場所や車の中などに連れ込んで行為におよんだものだ。

「痛いじゃないか」

「あなたのような、人のふりをしただけの人でなしは、この世界に不必要な存在だ! オーバーマンは全て排除するっ!」

 エージェントは胸元に手を伸ばし、シャツごとその下にある物を握りしめた。それを見た男性の眉が動く。

「まさか、まだ神様が人を作ったなんて思ってるタイプの人間だったのか? 人の人格が完全にコンピュータ化されるっていうのに」

 超高度AIの尖兵であるエージェントは、胸元のロザリオを握り締める。

「人を人らしく制御しているのは、神です。それが真実です」

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