チップの話 4  チップの威力はどこまでも・カプリ、パリ

 チップはレストランやホテル等ガイドブックに書いてあるところだけのものではありません。コレ何とかならないかなあ・・と思ったら取り敢えずチップ。

 もちろんチップはオールマイティーではありませんが役に立ってくれることも多いデスヨ。


 例えばイタリアはカプリ島での事。カプリ島といえば南イタリア有数のリゾート地。日本人観光客も数多く訪れます。

 そしてコチラで一番の見どころが世界的に有名な“青の洞窟”。でも、ココを見るのはかなり大変。


 というのも洞窟への入口が3、4人乗りの手漕ぎボートに寝そべってようやく通れるくらいの狭さ。なので、ちょっとでも波がある日は見学中止。

 旅行のパンフレットには“天候によって見学できない場合があります”と但し書きがありますが、コレ僕的には“天候によっては見られることもあります”の方が適切かと・・。


 まあ、そんな難易度の高い“青の洞窟”に数年越しの二回目のトライでやっと入場。洞窟の中は神秘的なブルーウォーターと闇の美しい小宇宙。確かに苦労してでも来る価値はあります。

 ボートは洞窟の中を船頭がカンツォーネを歌いながら一回り。終わるとまた寝そべって洞窟から脱出。


 で、起き上がってみると後ろからくるはずの連れのボートが見当たりません。

 え・・?


 そして、少し待ってようやく出てきたそのボートに乗ってたSさんが一言。


「イガラシさんのマネしてさ、船頭さんにチップ渡して“ワンモアラウンド!”って言ったらちゃんと通じてもう一回りしてくれちゃった!」


 やるもんです。こういう経験は楽しいですよネ。


 まあ、たまにはチップが効きすぎてこんな事もありますが・・。


 今度は、商社のお客さんとパリに数日いたときの事。ある晩ぽっかり予定が空いてしまったので有名なフレンチカンカンでも観に行こうかということに。

 ホテルで送迎つきのツアーに申込み、総勢10名近くで夜の街へといざ出陣。行き先は、そう“赤い風車”の名で世界的に有名なアソコです。


 わりと早い時間に到着したせいか客席はまだマバラ。まあ、ショーまで時間がありますからね。で、案内された席はステージのけっこう近く。でも・・一番端っこ。

 ホテルからのツアーだから席は決まっているんだろうなあ、料金も高くなかったし。この席でしょうがないか、と考えていたら・・。


「イガラシさん、ここちょっと見にくくない?」


 やっぱり、そうきますか。

 そこで取りあえず・・チップ。


 どこまで効き目があるかはわかりませんが、まずはチャレンジ。僕たちのテーブルに案内したムッシュにチップの握手。そして、彼の顔がほころんだところで一言。


「よろしくネ。ところで、もう少し真ん中の席がいいんだけど移れないかな?」


 ダメもとで頼んでみたのですが・・。


「オーケー、ちょっと待ってください」


 そう言って座席をチェックして戻ってくると。


「どうぞコチラへ」

 何とアッサリ中央のシートをゲット。チップの威力は絶大でございました。


 この話をある友人に酒の席で話したところ、近くパリ出張があるので試してみようと大盛り上がり。

 そして友人帰国後に再会。チップの成果を訊いてみました。


「僕もあそこに行ったからチップを試したんだけど・・」

 彼、どこか浮かぬ顔。

「ひょっとしてチップは効果なかった?」

 と、聞いてみたところそうではない様子。


「僕もホテルでナイトツアーに申し込んだんだよ。そうしたらやっぱり10人くらいの大人数になっててさ」

 ふむふむ。


「そして席もやっぱり端の方だったんだ。そこでチップの話を思い出して10ユーロ札を手のひらに仕込んで・・」

 その調子。


「案内してくれたウエイターに握手したら、言ってたとおり顔がほころんで・・」

 よし、いいぞ!


「ここだ、と思って“席を変えてヨ”って言ってみたらウマクいってさ。コチラへどうぞって真ん中の席の方に連れていかれたんだけど」

 やったじゃない、成功。


「でもさ、ふと振り返ると僕のお客さんの後ろからぞろぞろとついて来る一行がいるんだ」

 ひょっとして・・。


「そう、一緒にホテルから来た人たちでさ。みんなでひとつのグループだと思われたみたいで全員いい席に案内されたわけ。となりのアメリカ人夫婦なんて感激しきりで抱き合っちゃったりしてさ・・」

 それは・・まあ。


「なんか納得いかないというかスッキリしないんだよなあ。だって、僕のおカネだよ、チップは。せこいかもしれないけどさあ。僕たちだけでいいじゃない、席を移るのは。それなのに何もしない彼らまで・・。チップのおかげでいい席で観れたのはいいんだけど嬉しさも中くらいナリって感じだよ。やっぱり納得いかん!」


 それで浮かない顔してたのネ。でも、その気持ちよ~くワカリマス。君も私も小市民、いいことしたんだからいいじゃないかと頭ではわかっていてもなかなかね、気持ちは別。せこくてケッコウ、てやんでい!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る