セレブホテルではコレお約束 コートダジュール

 お客さんのお伴というお役目上、いろいろなホテルに泊まります。その中には単に高級ホテルという言葉では片づけられないスーパーデラックスなホテルも。

 当然ゲストはリッチな個人客。一般のツアーには縁のない、まあ別世界の名門ホテルです。

 

 いつかそんなホテルに・・という方へ、この別世界で快適に過ごすためのヒントをひとつ。


 それが”ハウ・マッチ?はタブー”。


 普通、何かの値段をチェックするのはごく当たり前の事。常識デス。でも、所変われば品変わる。世界中からセレブが集う場所では“普通”の常識は当てはまりません。


 例えば、コンシェルジュにディナーのご相談。そこでは・・。


「どんなお食事がご希望ですか?この辺りには美味しいシーフードレストランもあるしエレガントなフレンチもありますヨ」

 

「ロケーションのご希望はございますか?海辺にいい雰囲気のレストランがありますし、旧市街を一望できる素敵なところもございます」

 

「行き帰りのお車を手配いたしましょうか?」


 この間、最後まで予算については一切話が出てくることはありません。話がでてこないということは・・話をする必要がないから。

 

 つまり・・。

 スーパー・デラックスな名門ホテルに泊まるゲストは、ほとんどがお金の心配がない人たち。中には生まれてからそんな心配一度もしたことない、という人たちもいるでしょう(うらやましい・・)


 そんな彼らの思考回路はいたってシンプル。

 食べたいものを食べ、欲しいモノを買い、行きたいところに行き後はカードを出してサインする。ただそれだけ。一般ピープルなら考えるであろう“これ幾らかな?”とか“ちょっと高いな・・”とかの邪念?はまず入りません。

 彼らの判断基準はそれを欲しいかどうかだけ。


 ホテル側もゲストはそういう種類のお客さんたちであることを前提にサービスしています。ですから提供するサービスには“質”のみを追求する傾向が顕著。

 この別世界ではリーズナブルとかコストパーフォーマンスという言葉は、ほぼ存在いたしません。


 そういう空気感の中で“それってお幾ら?”と訊くのは・・。


 だいいち、値段を訊いてどうします?

 例えばミシュランスターレストランだって普通に食べればひとり三万円ちょっと。あとは推して知るべし。その程度の金額(あくまで、この別世界ではデスヨ・・)で逡巡するのは相手を困惑させるだけ。


 まさか名門ホテルのコンシェルジュ・デスクで“もう少し安いところを”とは・・言えません。


 でも、思わず訊きたくなるときもありますけどネ。


 南仏のとあるホテルでの事。

 コートダジュールの海岸線を見下ろす素晴らしいロケーションの名門ホテル。そちらの評判のレストランでディナー。

 

「どうぞ、こちらへ」

 通されたのはシックなバーサロン。革張りの椅子に厚いカーペット、そして年代物?の家具。全体に重厚な中世の雰囲気。でも、少しも堅苦しい感じがしないのは、大きな窓があって開放感があるからかな。


 それにディナータイムといっても、日はまだ落ちていないから窓からは眼下の青い海や行き交うクルーザーが眺められます。窓が一枚の絵。


「少しここでゆっくりしたいわね」

 と皆さん。同感です。


 すると給仕がメニューを持参。

 なるほど。ダイニングの席に着く前に、まずここでメニューを検討しながら寛いでくれということ。分かっていらっしゃいます。


 ちらほらメニューを眺めているとソムリエさんが何やらボトルを抱えて登場。曰く。


「本日はクリュグのロゼ、素晴らしい出来の○○年物が入っております。食前酒にいかがですか?」


 は?クリュグのロゼ?年代物?

 クリュグといえば、お馴染みのドン・ペリニヨンより格上の高級シャンパン。その年代物を食前酒に・・ですか。

 

「イガラシさん、彼何だって?」


 同行のひとりにそのまま説明。すると・・。


「あら、美味しそうじゃない。飲みましょうよ」


 明るくご返答。そうですよネ、支払は僕ですから。


 このときだけはさすがに、この年代物はいったい幾らか訊きたくなりました。でも・・訊けません。やっぱりこのレストランでそれはタブー。


 ええいっと、半ばヤケ?で人数分をオーダー。まあ、清水の舞台から飛び下りるカンジ。


 でもテーブルにピンク色に染まったシャンパングラス(しかもラリック)が並ぶと壮観。しかもこのシックなサロンで地中海を見下ろしながらのシチュエーション。そして年代物のクリュグのロゼ、そりゃあゴキゲン。

 でもホント、お幾らか気になる・・。


 そしてダイニングルームに移動しての食事。まあ、これは“素晴らしい”の一言。暮れていくコートダジュールの海岸線を愛でながらの至福の時間でございました。


 食事が終わって、さあ御会計。気になっていた年代物のシャンパンの料金とご対面。


 そのお値段は・・日本で頼んだらこの数倍はするんだろうなあ、というちょっとホッとする数字。まあ清水の舞台ほどは高くなかった、とだけ申し上げておきマス。

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