飛ぼうと想えば

枡田 欠片(ますだ かけら)

第1話 逃げろ!

例えば、不思議の国のアリスは、うさぎの後を追いかけたんだ。

浦島太郎は、亀を助けた。

どっかのおじいさんは、転がって行く、おにぎりを追いかけたんだっけ?


いずれにしても、物語の主人公は、何かキッカケがあって、物語の中にすべり込む。


私は…。


私は、ただ塾から帰っていただけだ。

家まで、アト少しって所で、偶然見てしまったのだ。人が、人を殺しているところを…。

しかも、拳銃を向けていたのは、警察官だった!


最初は悪いヤツを撃ったのかと思ったけど、違うみたいだった。私を見た時のあの顔…。


鬼みたいだった。


そして、その鬼みたいな顔でこっちに走ってきた。私は、逆の方向に走って逃げた。


”殺される!”


直感が、そう訴えてきたんだ。


「待ちなさい!」

大声でもないけど、低くよく通る声で、警察官は、追いかけて来た。


ますます、確信する。あれが”仕事”だったら、私なんか関係なく、”後処理”をするはずだ。


見られたら、マズイから追いかけてくるんだ。

とにかく人がいる所へ!どっかの家に逃げ込もうか?


”ダメだ”スグに考えを頭から払った。


相手は、警察官だ。知らない人だと、間違いなく私よりも、あっちを信用する。

とはいえ、走れば走るほど家から遠くなるし…。


とりあえず、人がいっぱいいるところまで逃げよう!駅前とかなら大丈夫かな?


「待ちなさい!!」さっきよりも大きく聞こえる。


振り返ったら、結構近くまで来ていた。このままじゃ駅前にでるまでに捕まっちゃうよ!


とりあえず、公園があったので、そこに逃げ込んだ。

どっか隠れるところ!辺りを見回したけど、何もない。


「おーい!」


声が近くまできている。しかたないので草むらの中に飛び込んだ。夜だし!じっとしてれば結構いいかも!?


ちょっとしたらアイツが入って来た。キョロキョロと回りを見ている。


し、心臓が!信じられない位ドキドキする!


ヤツはゆっくりと注意深く遊具の陰とか見てる。

やがて、目星をトイレに着けて、中に入って行った。女子トイレに堂々と!


”信じられない”と思ったけど、これはチャンスだ!


ヤツがトイレに入ってる間にここから出よう!音がしないように、草むら出て、反対の出口に向かった。


カラーン!


空き缶?!


オモイッキリ蹴っ飛ばしてしまった!


「待て!」トイレから出て来たヤツは、猛ダッシュでこっちに走ってきた!


「イヤーー!」思わず変な声を出してしまった。空き缶は、くずかごに捨てろよなあ!

マナーを守らない事が、こんな惨事を招くとは、思いもよらなかった。


とりあえず逃げろ!私はまた、住宅街の中へ走りだした。


おねがい!誰でもいいから助けて!もう泣きそうだよ!


おっきい声で叫んでみようか?何もしないよりマシだと思った。

と、その時、遠く前の方で何かがスーッと動いた。


自転車?


間違いない。人だ!自転車に乗った人だ!誰もいないより100倍いい!

もう、一人で逃げるのも限界だ。


「スミマセン!」


もう、この人に賭ける!イザとなったら泣いてすがろう。

その人は、自転車から、降りて、その場に止まっていた。

私は、最後の力を振り絞ってその人に駆け寄る。

近づいていくと、その影は、遠目で見るより、小柄に見えた。女の人かな?

今の場合、そのほうが安心するかも!

ところが、すぐそばまで来たとき、意外な事がおきた。


先に向こうから声を掛けてきたのだ?。


「内田さん?」


その人は、囁くように、私の名前を呼んできた。

街灯に、ぼんやりと浮かんだ顔は、私にも見覚えがある。


「森野さん?!」よりによって?!


呆然とするなか、ヤツの足音がスグそこまで来ていた。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る