冷静な人々 その5――夫の両親

 そうそう、息子が生まれたその翌日に、夫の母が高速をぶっ飛ばして(笑)孫の顔を見にきてくれたのです。嬉しかったなぁ。私、お母さんのこと大好きなんですよね。だから、本来なら「お義母さん」と書くべきなんでしょうけれど、なんか……(悩)。


 夫と結婚してよかったと思う理由は挙げればいろいろあるわけですが。その中で最も大きな理由を挙げるとすれば、やっぱり夫の両親と家族になれたことでしょう。とにかくね、素敵な人たちなのですよ。お父さんとお母さん、すごく仲良しだし(笑)。


 お母さんね、私に一度も「子どもはまだ?」みたいなことを聞いてきたことがないんです。本当はすごく待ち焦がれていたと思うんですけどね。小さい子の相手をするのが大好きだし、動物も大好きだし(え?)。でも、夫婦の問題だからと私たちの考えを尊重して何も言わずにいてくれたんですよね……。


 けどね、決して疎遠だったわけじゃないんですよ。お父さんもお母さんも、いつだって私たち夫婦のことを気にかけてくれて、味方でいてくれました。二人は決して夫婦の問題には口出しをしません。でも、何かあればいつでも相談に乗るからと。そうして温かく見守ってくれていたのです。


 当然というか、子どもの名前を決めるときもです。もっとも「こういう名前を考えいるのだけど――」と相談はしたんですけどね。そうしたら「ふる~い本だけど、見てみる?」と、本棚から名づけの画数辞典みたいな本を持ってきてくれて。そのあまりの古さに皆で苦笑いしたりして(爆)。なにしろ、夫や夫のお兄さんの名前を考えたときに参考にした本ですからねぇ。


 お母さんは多趣味でスポーティーで、印象としては明るくさっぱりとした人です。そして、優しくて繊細の人でもあるのです。


 いつぞやの夏休み、夫と一緒に彼の実家に帰省しました。その日のお昼に、お母さんが冷やし中華を用意してくれたんです。手先が器用なお母さんは、手芸が趣味で料理だって上手です。丁寧に切りそろえられた具材がのった冷やし中華は、とってもきれいで美味しそう。すると、お母さんが言ったのです。


「今日はちょっと気取って錦糸卵なんてのせてるけどね。いつもはスクランブルエッグみたいにしてポンなのよ」


ふふふと笑うお母さんの笑顔がとても可愛らしくて、今でも印象に残っているエピソードです。なんていうのかなぁ、チャーミングな人ってこういう人を言うのだろうなって思うのです。そして、お父さんはそんなお母さんが大好きというわけです(笑)。


 こういう言い方もなんですが、自分たちを囲む人たちが「健全な人々」であるというのは、大変恵まれていることだと思います。何を持って健全いうのかは、ちょいと難しいところではありますが。例えば、誤解を恐れずに言うならば――生活基盤が磐石で経済的な援助が不要であるとか、精神的に安定しているとか、常識や良識を兼ね備えているとか。


 もしも、私や夫の両親が支援や見守り(或いは注視とも……)の必要な状況だったら――。正直、私のキャパでは子育てなんて無理だったでしょう。


 私ね、あーだこーだと理屈をこねて「母性が芽生えない自分」と折り合いをつけてきたわけなんですが。やっぱり、キレイに割り切れて吹っ切れたわけではないんですよね。「この人(息子のことですね・苦笑)、私なんかのところに来ちゃって……」みたいな気持ちがやっぱりあって。


 でもね、周りの人たちのおかげで少し楽になれたんです。職場の人たちが私の妊娠を喜んで出産を楽しみにしてくれたときもそうでしたね。たとえ母性愛が足りなくとも、それを補填する分の――いや、それ以上の有り余るほどの愛と祝福が、生まれてきたこの人を覆っているのだと。そんなふうに思えたのです。


 ザ・他力本願(爆)。お父さんやお母さんが、孫と出会えたことを心から喜んでくれている。それは私にとって大きな救いでした。もちろん、私の両親とて祝福してくれたんですけどね(苦笑)。


 私って生来の根性ナシなんですかね(汗)。おそらく通常は「私が育てなきゃ。ママが頑張らなきゃ」となるとこなんでしょうが。私はと言うと――「私一人で育てるんじゃない」と。某シンジくんの「逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ」よろしく、何度も自分に言い聞かせていたのです。もっとも――私の場合は思いきり「逃げ」の姿勢だったわけですけどね(苦笑)。

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