妊娠中期

声を大にして言いたい!今時の若者こそ妊婦に優しかったよ!

 さて、身体的にはさしたる問題もなく妊娠中期を迎えた私ですが、ここでまた、ちょっとした変化がひとつ。なんと、仕事へ出ることになったのです。


 ちょうど、悪阻がおさまってきた頃のことでした。以前に働いていた職場の方から「アルバイトしない?」というメールが舞い込んだのです。すごく嬉しくて「ぜひぜひ」と飛んでいきたい気持ちでした。


 でも、何しろ妊婦ですからねぇ。最長でも36週までしか働けませんし。力仕事はできませんし、いろいろと配慮をお願いすることになるでしょうし。それでも、もし可能なら仕事をさせて欲しいという気持ちはありました。


 そういうわけで、私の状況を包み隠さずお伝えしつつ「そんなんでもよければ、ぜひ……」とダメもとで返信をしたんです。そうしたら「体調優先でぜんぜんいいから。とにかく困ってるからきてっ」と言っていただけまして。私、本当に運がいいんでしょうね(笑)


 職場は非営利団体で、仕事は秘書のような事務職のような研究補佐員です。私はわりとPCを使ってあれこれ作業ができたので重宝がっていただけたみたいです。私自身もお役に立てている実感があって嬉しかったし、何より楽しかったです。


 世間ではマタハラ(マタニティハラスメント)の問題が取り上げられたりしていますが、私は本当に職場環境に恵まれていました。男性も女性も、年配のかたも若いかたも、皆さん本当に優しくしてくださいました。


 女性の職員さんは、お子さんが中学生以上だったり、お孫さんがいらっしゃったりと、大先輩ママさんが多かったんですけどね。皆さん、ご自分の子どもさんたちがまだ幼かった頃を懐かしむように、私のことを見守ってくださいました。


 そうそう、笑える思い出話として経験談(失敗談?)をたくさん聞かせてくださったりして。印象に残っているのは「お風呂なんてね、二日くらい入れなくたって死にやしないのよ、大丈夫」というアドバイスでしょうか(爆)


 でもね、冗談ぬきで本当に救われたんですよ、このアドバイスに。だって、保健所や病院でレクチャーされるアドバイスって「これがベスト!」という理想形が多いから。現実的でないとまでは言わないけれど、それを遂行しようとするとしんどいものがあるわけです。けど、最初は手の抜き方なんてわからないじゃないですか。だから、完璧にやらなきゃとドツボにはまってしまうのですよね。


 慣れない育児をする中で「風呂なんて二日くらい入れなくても死なない」というアドバイスは、風呂の問題に関わらず(笑)育児全般に有効でしたよ。よい意味で「適当に」というのかな? 「気負わずに、気張らずに」と肩の力を抜いて気を楽にもつことができました。


 職場へは電車通勤していました。といっても、時差出勤でしたのでラッシュでもみくちゃになるということはなかったのですけどね。それでも、帰りの電車は帰宅の人で込み合うこともありました。


 そんなとき、席を譲ってくださる優しい方がいらっしゃいました。本当にありがたいことだなぁと思いましたよ。私は貧血とも無縁でわりと元気な妊婦だったと思うのですが、それでもありがたかったですよ。その優しさが素直に嬉しかったですし。


 それに、元気な妊婦とはいえ、急停車による転倒とか怖いですからね。妊娠中期は安定期といわれますが、お腹も出てきますし。初期の頃よりも転倒などの外的要因に気をつけなければいけないんですよね。


 私はおそらく本当に運がよくて、電車の中でも席を譲っていただくことがけっこうありました。今思い返してみると、声をかけてくださったのは若い人ばかりでした。沿線の大学の学生さんでしょうか。若い女性はとくにマタニティマークに敏感に気づいてくださって、声をかけてくださいましたよ。


 ちなみに「お姉さま方」はというと……(苦笑)むしろ、男性のほうが優しかったくらいです。先日、某テレビ番組でも同じような話を聞きました。女性のコメンテータの方ですけどね。子育てを終えた年輩の女性こそ妊婦に対して優しくない、と。


 まあいろんな気持ちがあるんでしょうけどね。自分が若い頃は世間はもっと厳しかった、とか。自分たちは厳しい中を耐えて頑張ってきたのだから、おまえたちも甘えるな、とか。なんですかねぇ、こう言い方もあれですが「女性の敵は女性」というか……(汗)あーあ、自分も女なわけですど、ほんっと女ってなぁ(苦笑)


 もちろん、一概には言えないと思いますよ。実際、思いやりのある素敵なお姉さま方はいらっしゃいますもの。子どもに優しく声をかけてくださったり、子連れで外出する大変さに共感してくださったり。経験者だからこその優しさをもって接してくださるかたがいらっしゃるのも本当です。


 その後も妊娠の経過に問題はなく、私は36週まで仕事を続けさせていただきました。その間、周り人たちには本当にたくさんの元気と勇気をいただきました。


 その頃はもう「妊娠を素直に喜べない自分」とはある程度折り合いがついていたと思うんです。でもやっぱり「完全に」ではないのですよね。そういった中で、職場の方々の温かい祝福は私の救いでした。


こういう言い方はお叱りを受けてしまうかもしれませんが――。


私は素直に喜べていないかもしれないけど、世界は祝福してくれている、と。


他力本願、ですかね……(汗)


 妊娠が判明した当初は、「おめでとう」「嬉しいね」と言われることを、どこか辛く心苦しく感じていました。けれども、少しずつ心境は変化していったんですね。


「喜べていなくてごめんなさい」から「喜んでくれてありがとう」と。


 自分を責めることはやめて、周囲の人たちがくださる祝福に素直に感謝するようになりました。そうして、筆頭協力者の自分にしかできないことを、粛々とやっていこうと思ったのでした。

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