理数系男児

愛日光

第1話 日常

放課後。いつも4人が集まるのは、2年生ながら部長を仕切るアキラの居る美術室だ。

漫画を読むアヤト、携帯を弄るレオ、絵の作品を仕上げるアキラ、机に項垂れたアカヒコ。

部員2名の美術部だが、1年の女子部員が先に帰り、美術室に居るのはいつもの男4人だけ。

静かな教室内には鉛筆を滑らせる音と、時折漫画のページを捲る音だけが響く。


「なあ、ピザって10回言ってみ。」

「やだ。」


沈黙を破ったのはアカヒコだった。

だがそれもアキラの即答に消されてしまう。


「なんだよ暇なんだよ構えよー。」

「部活行け部活。」


アカヒコは「ちぇー」と口を尖らせポケットから携帯を取り出す。

17時47分。外は晴れていてまだ明るい。

それにしても高校2年生の春。そろそろ刺激が欲しい所。


「アキラぁ、」

「何。」

「ヤろ。」


唐突な誘いにアヤトとレオは吹き出した。

アキラもゴンと鈍い音を立て頭を机に打ち付ける。


「馬鹿じゃない!?僕達居るんだけど!」

「お客様ヤんならトイレにでも行ってきて下さい。」

「えーだってコイツ声でかいからトイレとかだと余裕で職員室まで声届…」

「死ね変態!!」


アカヒコの文句をアキラが遮る。

アキラは持っていた鉛筆をペン立てに直すと、机に座り腕を組んだ。


「つか大概彼女とか作ってくれない?おれの負担考えた事ある?腰が限界なんだけど。」

「女って簡単にヤらせてくんねぇしどうせなら感度高い方が楽しいだろ。」

「性行為は遊びじゃねえよ?」


アキラは大きな溜息を吐くと3人の集まっている机へと移動する。

そして椅子に座ると肩に乗っていたかえるさんを机に乗せ、指先で愛で始めた。


「おれ付き合うなら年上の女性が良い。そしてデロデロに甘やかされたい。ねーかえるさん。」


そうアキラが言いながら腹を撫でるとかえるさんは嬉しそうにコロコロと喉を鳴らす。


「この前エロ本見て吐いてたのに?」

「おれは性行為とかしなくていいの。」

「これだから童貞非処女は…。」

「あ?」


目つきの悪い赤目がギラリとアカヒコを睨んだ。

だが当人のアカヒコは何ともない様でへらへらと笑っている。


「まあアヤトの童貞臭さには負けるけどな。」

「ちょっと、なんで矛先僕に向いた。」

「つかここ4人中3人も童貞なんだしそんな恥ではないよ。」

「非処女に言われたくないんだけど。」


アヤトの言葉を無視してアキラは腕時計で時間を確認すると立ち上がった。


「おれトイレ行ってくるわ。」

「それなら俺も。」


アキラはそう言ってドアの方へと向かうと、アカヒコが続いて立ち上がりアキラの後を追う。

2人が美術室から出ると、アヤトはぱたんと読んでいた漫画を閉じた。

レオは携帯に向けていた顔を上げる。


「あれはヤるな。」

「だろうね。」


レオの言葉にアヤトは頷き漫画を机に置いた。


「漫画どうだった?」

「結構面白いよこれ。読む?」

「ハイスコア出せたら読む。」


レオは再び液晶に目をやり、アヤトは次巻を取り出すと再び静かな沈黙が訪れた。



嫌にスッキリした様子のアカヒコとぐったりとしたアキラが戻ってきたのは18時30分を過ぎた頃だった。


「今日は早かったね。」

「まあな。途中で教師の見回り来たしだいぶスリルあった。」

「へえ…」


あまり知りたくもなかった情報を聞かされ薄い反応をするしかないアヤト。

既に突っ込む気力も無くなっているアキラにも流石に少し同情してしまう。


「今日どうする?コンビニ寄る?」


アカヒコが荷物を纏めながらそう問い掛ける。

外は少し暗くなったもののまだ遊んで帰る余裕はありそうだった。

皆が合意し支度と戸締りを済ませ、職員室に鍵を返却すると外に出る。

春になったが、夕方の風は少し寒い。


「あー…もう高2かぁ。」


歩きながらぽつりとアヤトはそう漏らした。

レオは原チャリを押しながらその言葉に空を仰ぐ。


「早いよな。高校入ってもう1年終わってんだ。」


高校に入った時は赤の他人だった4人。

アカヒコとアヤトは同じ中学だったとは言え、話した事なんてなかった。

最初は性格の違いだったりプライドだったりが問題でガタガタだった仲も、1年足らずでここまでお互いが大切な仲になった。


「あと2年で終わりか…。」


溜息混じりでそう零すアキラ。

そんなアキラの頭を小突くアカヒコ。


「高校終わっても4人一緒に居ような。」


アカヒコがそう言うと4人は顔を見合わせくしゃりと笑った。

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理数系男児 愛日光 @akira-919

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