第58話





 さて、後はディーナ達に任せておけばいいかな。報酬のお金も支払いは実際に彼等を指揮した竜族とディーナに任せればいい。

 他の報酬としては800万G以外にも竜族の魂を手に入れて渡した場合、竜魂転生を無料でして、できた卵を引き渡すこと。それと抽選で5組までワイバーンなどの亜竜をテイムするのに協力することだ。

 こちらはランダムでいいけど、卵の方に関しては渡す相手をしっかりと見極めないといけない。監視だけはつけてしばらく様子を観察しておくので、巫女の誰かを派遣すればいい。そもそも、育て方とかを学ばないとちゃんと成長しないし、それで弱いからって捨てられたら使われない人形のように可哀想だ。


「そういえばフェリル。先代……お父様達は騎士の任命とか、特殊なクラスを与える事ってしていたの?」

「近衛騎士などの任命はされておられましたが、クラスを与えられるかはわかりません」

「なるほど。騎士の任命とかはボクでもできる?」

「もちろん可能ですが、そもそも我等竜族は役職がある方が珍しいです」


 そう言えばそうか。普通に竜族、ドラゴンは種族レベルを徹底的に上げた方が強くなるよね。物理的に身体能力を強化できるし、最初から強靭な肉体その物が凶器といえるレベルだ。

 それにそれぞれの属性を持つドラゴンブレスだってあるから、遠距離攻撃も問題なし。自然界の力だって龍脈を通して使えるから魔法みたいな事だってできる。

 なるほど、確かに必要なんてないのかもしれない。でも、これからは色々と必要になるし、もっと効率的なレベル上げの方法とかも考えないといけない。少なくとも戦い方の継承はちゃんとしないといけないしね。


「そう言えばフェリルさん、竜族に伝わる口伝とかの伝承や書類とかってあるかな?」


 アナスタシアが玉座の横に乗ってきて、ボクに抱き着きながらフェリルに聞いていく。アナスタシアの柔らかくて冷たい肌が触れて心地よく感じる。


「口伝や伝承はありますが、書類などは必要ありませんのでないですね」

「そっか。でも、口伝とかがあるのならいいかな」

「どういうこと?」

「いや、こういうゲームって失われたクラスとか、スキルとかがある物なんだよ。だから、竜族限定のクラスやスキルが他にあるかもしれないからさ」

「なるほどね。それでどんなのがあるの?」

「そうですね……言い伝えられているのであれば、初代竜王陛下は全ての島を周り、修練したというぐらいです」

「全て、ね。じゃあ、お姉ちゃんは全部のダンジョンを攻略したら、新しいクラスかスキルが手に入るかもしれないよ」

「絶対に無理。それとお姉ちゃんじゃないからね」

「ですね」


 フェリルが修業していた修練所、ダンジョンって水中だし、エクスのダンジョンは火山だ。普通に考えて低レベルのボクが行ったら瞬殺されるのは確実だろうね。

 フェリルの協力があればどうにかできるかもしれないけれど、経験値を稼がないといけないよね。それに力をつけないといけない。


「まあ、アナも火山は無理だったよ。溶岩の中を進むとか、無理無理」

「そうだよね~」

「綺麗だったから、動画とか撮れたらいいのにね~」

「動画か……」


 動画なら、動画配信サイトで竜界の情報を発信すれば移住への宣伝にもなるよね。それに竜界はどこも綺麗な大自然な場所ばかりだし、観光するだけでも充分に人を呼び込める。


「ディー、この世界で動画を撮れる機材って何かあるのかな? スクリーンショットはあるけど」

「掲示板に上げる奴ですか?」

「うん。ある?」


 仮想スクリーンを展開して作業していたディーナに声をかけて聞いてみると、手を止めてこちらに振り向いてくれる。


「はい。確か、高額な値段で売られておりましたね」

「それって直ぐに買える?」

「魔導人形のネットワーク上で販売されているので、ダウンロードでならすぐに買えます。良い物でしたら二千万は軽く超えますね」

「フェリル、竜界の資金で出せる?」

「主様の捜索でかなりの金額を使いましたので、残りは少ないですが、可能です」


 確かにボクを捜索するためにかなりの金額をばら撒いたはずだし、余り出費をするのは痛い。


「必要な物だから、経費で落として欲しい。無理なら後でボクが補填するよ。今はお金がないけど……駄目?」

「用途をしっかりと教えていただければ問題ありません」

「宣伝のためだよ。訓練所にある各迷宮を巡ったり、竜界の情報を来訪者の皆に伝えて、竜界に所属してもらうんだ。人界から撤退するから、来てもらえるようにアピールしないといけない」

「畏まりました。では、金額はお支払い致します」


 フェリルがあっさりと答えてくれた。普通なら軍事機密とか色々とあるのだろうけれど、竜族にはほぼないしね。大切な場所は聖域くらいかな。


「それでは購入しますが、いくらの物を買いましょうか?」

「フェリル?」

「最高級の品物でお願いします。竜王陛下である主様が主導となって買われて使われるのですから、生半可な品物では認められません」

「品位という奴ですね」

「でも、今はお金がないから仕方がないよ?」

「そうでもないですよ。機材から買えば高いですが、私は万能型魔導機械人形である私その物が最高級の機材と言えます。ですので、ソフトウェアさえダウンロードすれば撮影が可能です。後は撮影した動画をネットワークのクラウドに上げておけばあちらの世界に持っていけます。有償ですけど」

「ですよねー」


 まあ、普通に考えれば有料コンテンツになるのはわかりきっている。このゲーム、課金アイテムは基本的に強さに直結しないサービスが基本だし、経験値増加アイテムもない。転移アイテムどころか移動用の動物すら売っていない徹底ぶり。

 装備アイテムの課金とかも一切なく、それらは生産して作れというスタンスらしい。相手のモンスターが持っていた武器だって耐久度が設定されていたりするので、修理したり鍛え直したりして使うしかない。

 また、工夫して作った方が強い武器ができたりもする。そのくせ、資源は有限で取り過ぎると枯渇するので取り過ぎや環境破壊も気をつけなくてはいけない。


「代金はボクが支払うから、購入しておいて。ディー達のお小遣いじゃ大変だろうしね」

「お願いします」

「お小遣いアップして欲しい~! 月々の代金だけで結構大変だよ~」

「それは叔母さんにお願いしてね」

「「は~い」」


 まあ、このゲームは通貨還元レートがあるから、月額の使用料を稼ぐ事ぐらいは頑張ればできる。このゲーム自体の収益がどうなっているのかは知らないけど、広告費などで儲けを出しているのかもしれない。

 実際に現実にある商品もあるし、食料品とか化粧品とか、現実と同じか少し下になるようにしてあるのでスキャンした自分の身体がどう感じるかがわかる。

 例えば食事だとどんな味かがわかり、化粧品だと自分の肌に合うかどうかまで試せるし。

 他には軍事技術の実験場にもなっていたり、代理戦争のような物に使われたりもしているとの噂まである。真偽は定かじゃないけどね。まあ、現実で戦争するより、仮想空間で戦争する方が人的資源や自然環境の破壊に繋がらないからいいとは思う。


「購入しましたので、お兄様が竜界の魅力を伝える動画を撮りましょう」

「待って。なんでボクが撮られる前提なの!?」

「それが一番宣伝効果が高いからです」

「主様、よろしくお願いいたします」

「まあいいけどね。アイと一緒で人形劇とかもしていいならいいよ」

「構いません。それでお願いします」

「うん。それなら頑張ろう」

「では着替えと化粧をしないとね!」

「え”」

「綺麗に映った方が集客率アップですから、仕方ないです」

「せ、せめてフローラルなものでお願い! いや、そうだ! ボクが自分で作るから!」

「ではデザインは決めさせてもらうからね!」


 なんとしても合意を取らなくてはいけない。いくらこの身体を人形だと思っていても、自分で操っているわけだし、女性物は着たくない。でも、人形に着せる服を作る上で資料としてなら必要だし、リアルにもなるから損はない。でも、やっぱり女装したくはない。






 ―――――――――――――――――――――――――――――――――







「とりあえず、ボクは自分の服を作ってくるから後はよろしく」


 数十分によるデザインを決めるコンペティションを行い、ようやく決まった。とりあえず、ズボンだけは死守した。短パンになってしまったけれど仕方がない。女装そのものは嫌だけど、フローラルの物ならまだ我慢できるしね。


「畏まりました。素材は城にある物なら構いません」

「は~い」


 といっても、お城にある素材で衣服なんてないんだよね。そもそも、竜族って竜麟で服を形成しているらしいから、服なんて必要ないし。つまり、使える物は買ってきて貰った服やボクの手持ちの素材ぐらいしか使えない。

 さて、皆から少し離れた場所で服を作るとしようかな。まず、手持ちの服から良さそうなのを選んでそちらをメインにして改造する。

 出来る服に関するステータスは低いけれど、紹介用の動画を作るだけなら問題ない。というか、ボクはデスペナルティ無効を持っているからゾンビアタックができるし、平気平気。ただちょっとボクが怖い目に会うだけだしね。それも竜王陛下に比べると全然そんなこともないだろうしね。

 とりあえず、上はネクタイを付けるようなシャツみたいな奴と黒いジャケットを用意した。一応、下はスカートみたいな物で前を開いた奴をつけてズボンが見えるようにした。ボクの場合は格闘をするから、足技とかも使うし、スカートとか使い勝手が悪い。


「主様、お客様です」

「ん?」


 新しい服を作っていると、いつの間にか時間が過ぎてしまっていたみたい。周りを見るとフェリルがこちらにやってきていた。


「お客様?」


 誰だろう? 神族と魔族の人はもう帰ったし、他に約束していたとするとドラゴンナイツの人達かな。


「はい。来られたのはドラゴンナイツのイルルヤンカシュ様とジルニトラ様とのことです」


 やっぱりドラゴンナイツの人達か。要件はおそらく報酬に関してだろうね。


「迎えに行けばいいかな?」

「いえ、会うのでしたらこちらにお通ししますので、主様はお待ちください」


 竜界を纏める竜王姫としては正しいんだろうけれど、同じ来訪者のプレイヤーとしては迎えに出向くほうがきっと正しいよね。


「これからお願いしたい事もあるから、ボクが迎えに行くよ。こちらから色々と頼まないといけない立場だし、お世話になったからね」

「……畏まりました。それではご案内いたします」

「お願いね」

「お任せください」

「ディー、アナ、メイシア。ちょっとドラゴンナイツの人達を迎えに行ってくるから、迎え入れる準備をしていてくれないかな?」

「お任せください。アナもいいですよね?」

「任せて。とりあえず、お茶会の準備をしておくからね」

「お菓子と紅茶は私が用意しておきますね。」

「よろしく」


 ディーナ、アナスタシア、メイシアに準備をお願いする。アイリはどちらにしたらいいのかわからないので、本人に聞いてみる。


「アイ、どうする? どっちも時間はかからないけど」

「……お礼を言いたいので、パパについて行く、です」

「わかった。一緒に行こうか」

「はい、です」


 アイの手を握ってフェリルの案内に従って移動する。といっても、この島の沿岸部までだけどね。


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