第42話 森で出会った7人と金竜(?)



 俺の名前はミゲル。気持ち騎士をやっている。騎士は戦士の上位職なのでまだなれていない。それもこのイベントで解決できるだろう。うまいこといけば竜騎士になれるかもしれないしな。


「まだ着かないのか? もう2日も経ってるぞ」

「そもそも教えられただけだから、嘘をつかれている可能性もある。痕跡がこの崖から落ちてきたとしか思えないからな」


 今回、一緒にイベントに参加している斥候のトマと重戦士のクラウディオは迷いの密林の中をだるそうに歩いている。俺と違ってクラウディオは全身鎧に大盾だから無理もない。リアルじゃ装備不可能な武具でも、この世界ならいける。それでも移動力はかなり低い。


「いや、そもそも迷っただけじゃない?」

「マップを作っても変わりますしねぇ~。それに熊さんは嘘はついていない感じがしましたよ?」


 弓兵のザザと治癒術師アーマリエも話に入ってきた。この2人以外にも後2人の系7人で俺達は迷いの密林を探索している。まあ、臨時パーティーというやつだ。この迷いの密林は最低でも5人以上、10以下でないとまともに戦えないし、探索もできない。

 マップがころころ変わるのだ。マップが変わる理由は複数あり、判明している一つが木々の配置が変わることだ。ここには動く木のモンスター、トレントや同じく動く植物のモンスター、ラフレシアなどが複数生息していて、どんどん道が変わっていく。

 対抗策としては太陽の位置からでる影を使って方角を調べたり、星を使って調べる方法もある。普通はどれも時間がかかるのだが、レンジャー系や森に住むエルフ、妖精には方位を知るためのスキルがある。すばらしく一番手っ取り早いのは妖精や植物の精霊を召喚するか、使役して案内してもらうことだ。チュートリアルの方では一切役に立たなかったが、こちらではちゃんと有効だった。


「襲われていたのは事実よ。モンスターに襲撃された跡がしっかりと残っているもの」

「それを考えると可能性は二つある。一つは熊さんが言った通り、そのまま襲われて必死に逃げたから迷ってどこかわからなくなっていること」


 エルフの女性レンジャーであるザザが調べたことを教えてくれる。それを元に魔魔法使いのラウラが考えて導き出されたことを教えてくれる。


「それってなんだよ?」

「簡単よ。熊さんが襲われる原因。金竜だったら?」

「なるほど、確かにそれなら襲われている理由にはなるし、俺達を別の方向に誘導してもおかしくない」

「だけど、こちらは保護するために動いているんですよ?」

「金竜からしたら保護ではないと考えている可能性もある」

「でも、熊だぜ?」

「熊ですしねえ……」

「うん、普通なら獣人と考えるのが正しい」

「だよな」


 でも、確かに言われてみれば納得できる理由だ。それに怪しいことは他にもある。


「確認してきたぞ」


 空から巨大な灰色の翼を持つ男性が俺達の近くに降りてきた。彼の名前はバード。鷹の獣人であり、方角を調べたり高い位置から偵察などをしてもらっている。といっても、翼が片翼3メートルもあるので、俺達が木々の上まで投げ飛ばさないと飛べないという問題点もある。狭いところではあまり役に立たないが、それでも飛べることは大きい。ちなみにこの翼、地上では折り畳めてもかなり大きいので苦労している。


「どうだった?」

「上に死骸があった。どうやら、ここから落ちたことに間違いがない。それに――」


 バードが何かを話そうとした瞬間、俺達がいる迷いの密林が揺れた。地震とはいかないが、地響きが鳴り響いて鳥達は一斉に飛び立っていく。


「――はじまったようだな」

「何があったの?」

「巨人族と対象と思われる金竜かどうかはわからないが、竜族が接触した。方角的に俺達が目指している場所だ」

「そこで戦闘が発生か。金竜の可能性が高い」

「そもそも竜族だってわかるのか? 竜族にも完全に人化する奴や角を生やしていたり、瞳が増えていたり色々だろう」

「角はなかったが、耳がとんがっていて翼があった。魔族の可能性もあるが、身体の周りに金の粒子を纏わせて近接戦闘をしていた。こんなことができるのは竜族だけだ」


 確かに竜族で金色の粒子を発しているのなら、金竜の可能性が非常に高い。魔族の可能性もあるが、この世界の魔族は物理が苦手で魔法が強い。つまり、後衛タイプなのだ。まあ、例外も存在しているが、それでも肉体面が馬鹿みたいな巨人族相手に近接戦闘をやることはまずない。


「俺は金竜の可能性が高いと思う。すぐに助けにいくべきだと思うが、どうだろうか?」

「賛成。目的の人物の可能性が高い」

「俺達もいいが、この上だな。どうする?」

「それならいい方向がありますよ。バードさんがトマさんを抱えて一緒に崖の上にあがります。そこで縄梯子を結び付けて降ろしてくださればいいです。ミゲルさん、どうですか?」

「確かにその方がいいな。ただ、時間がない。輸送も同時に行う」

「それでいこう」


 アーマリエの提案に皆が乗って崖を登ることにする。まずはトマを抱えたバードを俺とクラウディオで向かい合って両手を握った場所に乗せて、一気に上に振りあげる。そのタイミングでバードも飛び上がって上で翼を広げて動かす。地上にいる俺達に物凄い風圧が襲い掛かってくるが、無事に飛べた。


「うおっ!?」

「また地震か」


 地面がグラグラと揺れて遠くから凄まじい音が聞こえてくる。巨人族が暴れているのだろう。これは急がないとまずい。


「ん? ラウラ、なにやってんだ?」

「金竜発見の目印をあげる。援軍を呼んだ方が確実」

「なるほど」


 ラウラが空にどでかい火球の魔術を放ち、上空で爆発させる。その後に火を焚いて狼煙をあげていく。これですぐに人……いや、竜ががくるだろう。


「おい、次はお前達だ。ラウラとアーマリエを結び付けろ」

「わかった」

「よろしく」

「お願いしますね」


 バードが上からロープを降ろしてくる。それを2人に結び付けてから、俺とクラウディオは装備を脱いで仕舞ったバックを渡して上空で滞空していたバードに引き上げてもらう。俺達は縄梯子を上がり、崖の上で2人からバックを返してもらって装備する。どうしても、金属鎧や大剣などの大型武器は重いから仕方がない。


「準備が出来次第すぐに向かうぞ」

「了解。前衛は後衛に被害がでないように……」

「いいことを思い付いた。バード、乗せて」

「は?」


 ラウラが驚いているバードに両手を広げて抱き着いた。俺達は驚いて2人を見詰めていると、ラウラが自分とバードの身体をロープで結んでいく。


「抱きしめて」

「おい」

「これで私は空から魔法を撃ち続けられる。回避と移動は全部任せた」

「ずるいぞっ!」

「まったくだっ!」

「後で覚えていろよ……」

「ふっふっふっ、計画通り」


 そういえば、女の子を空のデートに誘うために鳥族にしたといっていたな。といっても、VRでまともに飛べる奴なんて物凄く少ないから、女の子受けがいいのは事実だ。この世界だと飛行訓練は飛び降り自殺と同じようなものだし。


「変な事をしたら曝しますからね」

「あい」


 バードがラウラの脇の下に手を入れて抱きしめて、そのまま崖から飛び降りて翼を動かす。すぐに浮力が勝ち、上空に上がっていく。


「あちらは任せてこちらは突撃するぞ」

「了解よ。さっさといくわよ!」


 5人で動物が逃げている森の中を駆け抜ける。モンスターは全て奥へと向かっているようで、襲い掛かってくることはないようだ。


 森を駆け抜けていると、揺れがどんどん激しくなってくる。同時に気配察知のスキルから嫌な感じがどんどんしてくる。まるで禍々しい存在がいるかのようだ。


「なんだか、臭い……」

「これは腐敗臭?」

「血の臭いもするな」


 臭いについて考えながら走っていると、前方の木々の先から光が見えてくる。そのまま光の先へと踏み出す。目の前に広がったのは地獄のような光景だった。


「うそ、でしょ……」

「うわぁっ、なにこれ……」

「地獄か?」


 俺達が見た光景は悲惨の一言につきる。木々は全てがドロドロに溶けて気泡をだしていて、地面は紫色に変色してしまっていた。また、そこかしこに頭部のない豚の頭に人の身体オークや熊、大ムカデが転がっている。彼等の身体は腐敗していて、溶けていっている。


「戦いはもっと奥だな……」


 奥の方から叫び声が聞こえてくる。そちらに目をやると、5メートルはあろうトロール達と戦っている赤黒い髪の毛をした美しい女の子がみつかった。彼女は130センチメートルくらいで、両手に戦闘用の鎌を持っている。

 振るわれるトロールの棍棒を避けて走りより、通り抜けざまにふくらはぎを一閃して立てなくしてしまう。もう一体のトロールが棍棒を振り下ろしてくる。その棍棒を鎌で叩いて軌道を変え、倒れたトロールに直撃させた。しかも、命中したのが頭で潰れてしまった。


「おぉぉぉっ!?」

「あはっ♪」


 楽しそうに笑う彼女は翼を動かすと同時に浮かびあがり、驚いて止まっていたトロールの首筋に鎌を振るう。一刀両断とはいかないまでも、喉が裂けて血が噴き出る。


「ふぅ~」


 少女がそこに息を吹きかけると、トロールが変色して暴れ出す。それを彼女は少し下がって金色の粒子と黒色の粒子を纏った足で回し蹴りを放つ。その威力はすさまじく、吹き飛んでいって他のトロールの集団に命中してなぎ倒していく。


「強いな」

「やばいだろ……」


 彼女は即座に集団に飛び込んで混乱しているトロールの肩に飛び乗って鎌を振るい、脊髄を斬っていく。トロールが持つ本来の回復力を発揮するまでもなく殺されている。

 喉を裂かれてトロールは起き上がろうとしても、激痛で暴れ続けて周りの連中を攻撃して混乱を増長させている。ただ、それも無理がない。なんせ身体が腐敗していっているのだから。


「どうするんだ?」

「このままいけば……攻撃される可能性もある」

「むしろ、それが高いかもしれないわ」


 楽しそうに笑いながら、無邪気な表情で腐敗する毒も利用して虐殺を繰り返していっている。そんな彼女に対して森を、木々を突き抜けて飛来する棍棒が襲い掛かる。その棍棒は彼女の身体の半分を吹き飛ばしてそのまま奥へと消えていく。


「?」


 不思議そうに思って自らの身体をみる彼女。俺達は慌てて助けようと動くが、その前にラウラから俺達の前に攻撃が飛んできた。


「どういうつもりだ!」

「駄目。死ぬ」

「あ?」


 棍棒が飛来した方角に目をやると巨大な山のような存在が歩いてきていた。歩くだけで振動が伝わってくる。それはトロールなんかよりもさらに巨大な一つ目の巨人だ。


「あはっ、あははははははっ! 邪魔っ、邪魔、邪魔邪魔邪魔ぁぁぁぁぁっ! パパを探す邪魔をするなぁぁぁぁぁっ!!」


 抉り取られた身体の部分から黒い霧を発生させる彼女。その霧は周りの死体に触れると溶かしたのかそのまま霧となり、彼女の身体へと戻る。すると驚いたことに吸収したのか、傷口が完全に治ってしまった。


「おい、あっちをみろ……」

「嘘だろ……こんなの、いくら竜族だってありえないだろ……」

「まじか」


 抉り取られて撒き散らかされた身体の方も周りの死体を吸収して再生し、彼女とまったく同じ姿になっていた。いや、禍々しい嫌な気配は増えている。

 複数になった彼女達は一つ目の巨人、サイクロプスへと突撃していく。本体であろう子以外が、自らのダメージを一切顧みない特攻戦術。傷を負った身体も再生して数がどんどん増えていく。増えた個体からは金色の粒子が消えて黒よりも漆黒といった感じの粒子が増えていっている。それに比例して周りの地面が腐敗しだし、毒を巻き散らかしていく。

 彼女達は足を執拗に狙いながら、振るわれた棍棒を駆け登って口の中に入り込む。口だけではなく、耳や鼻からも入って内部から攻撃していっている。それでもサイクロプスは再生力に勝っているので倒せない。だが、そでも蓄積されていっている毒には叶わないようで、足がやられて倒れたサイクロプスは蟻に群がられるように複数の彼女達に身体を生きながらにして腐敗させられていった。




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