第24話 地下世界の蟻
アント達が支配する地下世界。無数の横穴が存在し、奥深くまで続いているとても危険な場所。一度来たボク達にとってもそこは魔境であり、未知の世界だった。それでもボク達が知らなかった旨味も存在した。
「おい、また鉱石が見つかったぞっ! 掘れ掘れっ!」
「おう!」
洞窟を進んだ先の壁にはボク達にはわからないけれど、採掘ポイントという場所が設定されているらしい。これは採掘や鑑定などのスキルを持っていないとみつけることすらできないようだ。
「やっぱりあったんだね。まあ、無いとおかしかったんだけど……」
「β次代では普通に地上でも採取できたのですが、製品版では無理でしたね。これで装備が安くなるかもしれません」
「安くなるの?」
「おそらくですが、プレイヤーが作った武器がでてくるようになります。それによって多く作られるので安くなるかと」
「その辺りもリアルと同じなんだ」
「そうですね」
いままでプレイヤーは鉱石をこちらの住人から買うしかなかったけれど、これからはここで採取して作れることができる。それによって流通する武具の量が増えるので、高い値段では売れなくなってくる。だから、安くなるという感じだね。
「前方からアントの集団です! 全員、気を付けてくださいっ!」
「「おおぉぉぉっ!」」
ディーナの声が聞こえて全員が戦闘態勢を取る。男性陣の力が凄く強い。可愛い女の子達がいるので、いいところを見せたいだけなのかもしれないけれど。ボクは嫌な予感がして最後列にいる。
これまで無数の横穴や分岐を通り過ぎていたけれど、全部の道を確認したわけではない。だから、恐る恐る他の道にも顔を覗かせてみている。いまのところ、それでも大丈夫だけど、これからどうなるかわからない。
「パパっ! 敵ですっ!」
「ふぇ? 後ろは大丈夫だけど……」
後ろは見ながら警戒しているから大丈夫なはず……そう思ったらアイリに弾き飛ばされた。さっきまでボクが居た場所にアイリがおり、そこに上から大量のアントが振ってくるのがみえた。同時にボクは壁を蹴って高速で戻ってアイリを抱いて前へと飛び込み、メイシアに押し付ける。
「パパッ!?」
「ユーリっ!?」
「お兄ちゃんっ!?」
皆の驚いた声が聞こえる中、ボクはアントの群れに飲み込まれる。大きな口に生える牙が目の前にあり、キリング・マンティスに殺された時などがフラッシュバックして怖くなって目を瞑りながら両手を前に出してクロスする。
「なにこれ?」
痛みがないどろころか、感触が無かったので目を開けてみる。ボクの周りはアントに埋め尽くされている。でも、アントはボクの身体には攻撃できずに金色の粒子みたいなバリアで防がれている。どうやら、純粋にボクの防御力を突破できていないみたいだ。ボクの竜麟はレベル4なので物理攻撃を4割削減する。その状態から防御力を適用するので、アントでは力不足みたい。でも……
「気持ち悪いっ!」
クロスしていた両腕を勢いよく振りほどき、身体を回転させて噛みついていたアントを吹き飛ばす。プルルよりも硬いアントはその程度では殺しきれないみたい。だから、体内の竜脈と体外の龍脈を操作して闘竜技・金竜と人形操作を発動させる。するとボクの身体は金色の粒子に包まれて運動能力がパワーアップする。メイシアの戦乙女の加護もあるので更にパワーアップして、スーパーモード。
迫りくるアントを殴ると一撃で硬い皮が陥没してぐちゃっと潰れて半分に折れた。頭に回し蹴りをしたら吹き飛んでいく。相手は口から汚い唾液を吐いてくる。
かかるのは嫌なので、後ろに飛んで空中でバク転をしながら、アントの身体に着地して潰す。背後から迫ってきたアントには裏拳を叩き込んで身体を吹き飛ばす。
「ユーリ、大丈夫ですかっ!」
「大丈夫だよ!」
「よかった、です」
心配そうなメイシアの声に答えると、後ろに居たアントが小間切れになった。そこに居たのは戦鎌を二本構えたアイリと大きな槍を持ったメイシアだ。
彼女達はメイシアが槍を横薙ぎにしてアントを纏めて吹き飛ばし、態勢が崩れたところをアイリが斬り裂いていっている。
「そっちは大丈夫?」
「壁が邪魔で長物の武器は使いづらいです」
そういいながら、バックステップで下がったメイシアは次の瞬間には前進して槍で突き刺していく。
「アイちゃん!」
「任せる、です!」
アイリは真ん中で別けた状態のダブルハーケンで戦っている。ボクみたいな素手ではないけれど、持つ場所が短くなっているので手早く斬り裂いていっている。このダブルハーケンは両方、刃になっているのも狭い状況で戦える理由だと思う。
「中央も襲撃を受けています! 気を付けてください!」
ディーナの声が拡声されて響く。視線をやれば真ん中の方も新しい穴ができていて、そこから現れてたアントに襲われている。
「メイシアとアイリは中央の援護に向かって!」
「でも……」
「パパを残していくのはできねーです」
「こいつらだったら、ダメージ入らないから大丈夫! 中央の方が危ないと思う!」
「確かにそうですね。中央には支援職や回復職、後衛火力がいます。レイド戦を控えているのに彼等が全滅するのはいただけません。アイちゃん、いきましょう」
「わかったぞ、です。でも、死んだらら許さねえーです」
「うん、頑張るよ」
アイリが何度もボクとメイシア、あちらをみて嫌々ながらも向こうに行ってくれた。
「さて、ボクもやろうか」
「お兄ちゃん、退いて。そいつら殺せない」
「ん?」
後ろを見るとアナスタシアの前にはアントの血で作ったであろう禍々しい球体が存在している。それは戦場になっている洞窟内からもどんどん集まってきている。
「わかった」
やってきていたアント達を回し蹴りを放って吹き飛ばし、その場でしゃがんで天上に飛び下がる。上に何か嫌な気配がしたところに飛ぶと、そこからアントが顔を出していた。そいつを視認して身体を空中で駒のように回転させて軌道を修正。蹴りを放って叩き潰してから地上に降りる。
「お兄ちゃん、動きがだんだん人間止めてきてるよ?」
「身体を外部から強制的に動かしてるからだね」
話ながらも前に人が居なくなったアナスタシアはその手にある禍々しい魔法を解放する。
「行け、ブラッドスフィア」
放たれた球体はアントが押し寄せてくるボク達が通ってきた通路にアントを無視して飛んでいく。ボク達から離れた位置に到達すると、内側から爆発して散弾のように飛び散った。飛び散った血の球体は貫く槍へと変化して広範囲のアント達を虐殺した。
「遅延魔法?」
「事前に発動タイミングを決めてあるのじゃなくて、発動位置が決まっているの。だから、こんな感じになったんだよね」
一部は効果範囲から通り抜けて、アナスタシアに襲い掛かってきた。ボクが守ろうと進むより先にアナスタシアは前にでて傘を持ちながら足で踏みつけ、踏みつぶした。他にのアントは傘で薙ぎ払っちゃった。発生した音は明らかに普通の傘がだすような音じゃなくて、鉄のような音だ。
「もしかして、その傘って金属?」
「そうだよー。とっても重いんだよ」
「近接戦闘も結構いけるの?」
「うん。私、吸血鬼なだけあって力は強いよ」
「ボクと同じか」
「最初はだよ。成長していったら、
「それもそうか」
上から降ってきたアントをアナスタシアが傘で貫く。ボクはアナスタシアの傘の上に足を置いて、そのまま飛び上がる。
「私の傘を踏み台にしたっ!?」
ジャンプして上の通路に入る。そこは奥からアントがいっぱいやってくるので、そいつらを殴って殴って殴りまくる。自分に支援魔法のウィンドアクセルや火属性魔法レベル3で覚えるヒートウエポンを使って身体を熱くしながら叩きまくる。
※※※
戦闘開始から28分。約30分が経って敵は来なくなった。おびただしい数のアントを処理したので、ドロップアイテムがいっぱいだ。ボクは剥ぎ取りをしなくてもいいので、勝手にウエストバッグのストレージにいっぱい入っている。ボク達のは五人分なのでかなり容量が大きい。
「治療しますので、怪我人の方はこちらに来てください」
「ヒットポイント減ってる奴は来い。マジックポイントが減ってる奴は瞑想して回復してくれ」
神官の人達が呼びかけてヒットポイントが減っている人はそちらに集まって、魔法使いの人達は瞑想というのでマジックポイントを回復していく。ボクの場合は心臓と龍脈があるのでスキルとしては必要ない。
ボクも手が空いたのでメイシアとアイリを探しに向かうと、メイシアは治療をしていた。アイリはその後ろで血を落としたりといった装備の点検や整備を行っていた。
ちなみに男性神官の方には人はあまりおらず、メイシアや女の子達、女性陣の方に男性は集まっている。
「しかし、予想以上に多いな」
「狩られていませんでしたし、増えているのでしょう」
「それにしても限度があるがな」
視線をそちらに向けると、ディーナとグレン達が話していた。ボクもそちらの方に向かうけれど、その前にアイリが気付いてこちらにやってきた。
「パパ、お怪我はねーですか?」
「ないよ。見ての通り、無傷だからね」
「いや、血塗れでわからない、です」
「あははは、確かにそうだね。アイの方は大丈夫だった?」
「竜族たる私があの程度の雑魚モンスターに手傷を負わされるなんてねーです」
「油断は駄目だよ」
「はいです」
実際、竜族は上位種族らしいからこの程度は相手じゃないんだろうね。それにアイリもボクとメイシアのスキルで強化されているし。
「治療が終わればすぐに移動します。いままで狩られていなかったのか、先程のようなモンスターハウスがいくつも存在しているようです。皆さん、壁の内側も気にして進みましょう」
「「「了解」」」
返事をしたり、手で理解したと合図をしていく。これをみてふと思ったのは、ハンドサインとかも決めた方がいいのかもしれないということだ。
「お兄様、血塗れですが……大丈夫ですか?」
「うん、平気だよ。ディーナも大丈夫そうだね」
「今は大丈夫ですが、帰ったらメンテナンスをお願いしたいです」
「わかったよ。それよりも、この襲撃ってもしかしてボクのせい?」
「モンスターが集まってきたのはおそらく……」
「やっぱり、パーティーは組まない方がいいのかな……?」
少し沈んだ気分になる。妹達はもちろんのこと、メイシアやアイリと一緒に遊ぶのは楽しいし。
「パーティーでしたら問題ありませんよ。私達は理解していますから。ですが、レイド戦や野良パーティーは避けた方がいいかもしれません」
「ありがとう。野良パーティーとレイド戦も控えるようにしようかな……」
でも、レイド戦って多分だけどメインの一つみたいな感じがするし、できたら参加してみたいんだよね。人形の宣伝にもなるだろうし。
「あ~レイド戦なら大丈夫だと思いますよ」
「そうなの? でも、今回みたいなことにならない?」
「今回みたいに案内されていくのなら、隠密系で誤魔化すかどうにかする必要がありますが……現地集合の場合は問題ありませんよ」
「そっか。確かに現地で集ったらなんの問題もないね」
思わず両手を合わせて喜ぶ。アイリもボクと同じように真似をする。
「お兄様、その癖は治ってないんですね」
「幼い頃から人形の勉強としてあやとりばかりしてたからね。直そうとは思っているんだけどね」
「いえ、大変可愛らしいのでこのままでいいと思います」
「絶対に直す」
「今の恰好なら完全に美少女ですから、そのままでお願いします」
「断固拒否。ボクは男だよ、ディー」
ディーナがボクに抱き着いて頬っぺたをぷにぷにしてくる。大人しくされるがままになる。ボクはボクでアイリを撫でてあげる。
「その格好で男と言われましても……」
「まあ、もうすぐ解除できるけどね」
一年間の修行は
「残念です。とっても似合っているんですけど……」
「確かに似合ってるぞ、です。流石は姫様だ、です」
「姫様言わない」
「諦めて性別不明にしたらいいんじゃないですか? 色々と美味しいですよ」
「ネカマプレイをしろと……」
「あ、知っているんですね」
「調べたから」
「ちなみに性別不明にするのなら、ネカマにはならないと思います。それにこのゲームは効率重視で男女の装備を気にせず装備する人も一定数いますからね。今回のメンバーの中にも……ほら、あの人とか」
「えっと……え”」
ディーナの指差した場所ではフリフリの衣装を着た筋肉粒々の男性や同じような姿で女性の水着を着た人もいた。思わず声をだしてアイリの目を塞いじゃった。
「あの人達が中衛を支えてくれた人達ですよ」
「うわぁっ、うわぁっ……ボク、あんなのと一緒にされたくない……」
「お兄様はそれはもう、無茶苦茶に似合っているので問題ありませんよ。どこからどうみても金髪美少女です」
「あ~う~」
悩んでいると、何時の間にか長い金色の髪の毛をツインテールにされてしまっていた。うん、ステータス画面から見たボクの姿はまさに絶世とか渓谷とか言われるレベルではないけれど、それでもかなりの美少女でツインテールも似合っていた。
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