金竜の人形師

ヴィヴィ

金竜と始まりの街

第1話 アバターメイキング




 ボクの目の前には純白の翼が生えた美しく綺麗な金糸のような長い髪の毛をしたブレスプレートとかいうらしい鎧を身に着けた巨大な女性が立っている。彼女の掌の上にボクは居る。


「私は運命の女神、フェイト。貴方の名前を教えてください」


 女神の言葉に目の前にスクリーンが現れる。そこには“名前を入力してください”と書かれていた。

 ボクの名前は青羽悠里だから、名前はユーリにしよう。このゲーム、ワールド・オブ・オリジンを進めてくれた従妹の怜奈と恵那もその方がわかるだろうしね。


「ユーリで」

「ユーリですね。では、これからアバターメイキングを開始します。容姿はどうなさいますか? ランダムで作成も出来ます」


 自分で作るか、現実の自分をそのまま使うかという選択みたい。ボクは自分の姿にあんまり興味が無いからお任せにしよう。


「お任せで」

「畏まりました。アバターを読み込んだ身体データよりランダムで作成致します。続いてメイキングポイントの説明に入ります。メイキングポイントは種族、職業、ステータス、スキルを選択するのに必要な物です。こちらは初期値で1000ポイント差し上げております。また、このメイキングポイントを使用してメイキング限定ガチャを引く事が出来ます」

「ガチャ?」

「はい。このメイキング限定ガチャにはレアな種族や職業、スキルが入っております。初回のみ無料ですが、追加で500ポイントを支払う事により何度でも引き直しが可能です。それ以降は1回100ポイントを消費します。それとリッセトは出来ませんのでご了承ください」


 これって怜奈と恵那の言うガチャか。とりあえず、人形を作りたいだけだし別にいいのを引いたらいいんだけど、虹がいいらしいしそれを引くように言われたんだよね。


「じゃあ、500を使って引き直し可能で」

「畏まりました。では、こちらをどうぞ」


 女神様がガチャの機械を召喚してくれる。機械の上には99999の数が書かれている事から、これが残りの数か。とりあえず、ボタンを押すと様々な色の光が出て来る。金色、銀色、金色、虹色。最初に手元に来たのは金色。Sランクと書かれた極大魔力。魔法やスキルを使うのに居るマジックポイント、MPを大幅に上げるスキルのようだ。だけど、いらいないので引き直す。

 次は銀色。こちらはAランクと書かれていて、断罪の剣と書かれている。効果は剣に対して使用すると闇属性のモンスターに対して絶大な効力を発揮するようで、効果時間はMPに比例するようだ。これも要らない。

 どんどん引いていく。虹は中々出ないみたいで、だいたい100回に1回くらいの確率って聞いた。


「あ、虹」


 虹はEXランクと書かれていて、内容はデスペナルティ無効だった。デスペナルティって何?

 別に必要に感じないしいいや。次だ次。次の虹は子猫召喚とかいうのだった。効果は子猫を呼んで癒されます。ただ、それだけ。エクストラ……枠の外っていうのは確かにそうだね。



 ※※※



 200、300と繰り返していくけれど、これといって欲しい物はない。



 ※※※



「1000回目っと」


 出てきたのは虹でスキルは羅刹撃。効果は一撃だけ100倍の威力を発揮する。ただし、使用者は戦闘不能になりドロップは得られない上に武器が破壊される。クールタイムは1日となっている。

 うん、いらない。でも、明らかに他とは格が違う。これって数をこなすとどんどん上がっていくのかな?

 回してみよう。とりあえず、一万回? でも、どうせなら全部引こう。



 ※※※



 99999回目。ここまでかかった時間は約9時間。ふざけた時間だよね。で、最後のを引いてみる。

 ボタンを押すと光り輝くエフェクトが発生し、ガチャが消滅した。


「え?」

「申し訳ございません。ガチャが壊れてしまいました。新しいのをどうぞ」

「ちょっ⁉」


 新しいガチャが渡された。そこには999,999,999と表示されていた。


「えー」

「仕様です」

「その喧嘩、勝ってあげる!」

「止めてください」

「やだ」


 回す。ひたすら回す。もう確認なんてしない。



 ※※※



 約33時間後、ようやく999,999,998回をやりきった。ただ無心に瞳のハイライトを消して挑んだ。そして、ラスト1回を回す。

 出たきたのはEXランク・魔竜の心臓。効果はHPとMPの自動回復にかかる時間が100分の1になる。


「うん、これでいいや」

「ほっ」

「ん?」


 女神のほっとした声が聞こえてガチャを見ると、残り回数が1だけあった。


「もう1つあるから、引こう」

「くっ」


 引くと黄金に輝く金色の竜の姿があった。これはメイキングの種族にするか召喚石として使用できるみたいだ。翼も複数枚あって、カッコイイ。なにより硬そうだ。


「ら、ラストワン賞、おめでとうございます」

「ふぇ?」

「プレゼントとして今まで引いた中からお好きな物を一つ、追加で差し上げます」

「じゃあ、魔竜の心臓で」

「デスヨネー。こほん。ようやくですが、種族を決定しましょう」

「じゃあ、金竜で」

「はいはい、わかっていますよ。スキルは魔竜の心臓ですね」


 種族は金竜で、スキルに魔竜の心臓が追加された。


「では、残りポイントは500です。ここから職業とステータス、スキルを決めます。まず希望する職業はありますか?」

「うん。人形作家。もしくは人形師」

「金竜でそれですか⁉ 戦闘職にすればいいじゃないですか!」

「それが目的だし。金竜とか防御力目当てだから」

「はぁ……まあいいです。では人形師の消費ポイントは100です。習得スキルは人形作成マリオネット・クリエイト人形操作マリオネット・コントロールです。残り400ですね。」

「金竜のステータスは?」

「全て400です。詳しい項目はこちらです」


 ステータス 

 HP……自分の体力

 MP……自分の魔力

 STR……筋力。物理攻撃や所持重量などに影響する。

 VIT……耐久力。防御力や体力に影響する。

 AGI……敏捷。動きの速さや回避に影響する。

 DEX……手先の器用差。生産や命中に関する。

 INT……賢さ。魔法の習得や魔法攻撃に関係する

 MID……精神力。魔法防御力や魔力の量に関係する

 LUK……運の良さ。あらゆるの行動に影響する


「普通の人は?」

「ヒューリンは100で、エルフや獣人などそれぞれの分野に特化した者達は200です。天使や悪魔、竜人などは300です」

「出鱈目だね」

「その分、成長するのが遅いですけどね」


 詳しく聞くと、上位種族である金竜はレベルアップにかかる経験値の量が他の種族に比べて約5倍らしい。その代わり、色々と凄いスキルがあるらしい。竜族の筆頭スキルとして物理攻撃に対する防御力が大幅に上昇する竜麟。これはオーラのような物で、普通の武器などで与えられる物理ダメージが10%減るらしい。レベル1ごとに10%ずつ減り、最終的には普通の物理攻撃は通らないそうだ。ただし、魔法には弱く受ける魔法ダメージが2倍になり、属性次第では4倍になるようだ。これが竜人の持つスキルのようで、金竜は魔法の方に関しても最大で5割まで減らせるようだ。

 そして、上位竜種の目玉は竜化らしい。本物の竜となり大暴れが出来るとの事。クールタイムは5日で効果時間が10分だけらしいけれど、能力値がかなり上昇するそうだ。


「うん、どうでもいいね」

「ちょ!?」

「だって、生産職だし要らないし」

「……デスヨネー。こほん。次はスキルです」

「服とか作れる?」

「人形作成のスキルに含まれるので問題ありません」

「じゃあ、人形に意思を持たせるのは?」

「AIを作って貰うか、精霊を宿したりする事ですね」

「じゃあ、精霊に関する事かな」

「残念ながら種族的に取れません。ゲーム内でイベントをこなして使役してください」

「じゃあ、金属加工系で。あと、金竜って素材になる?」

「ええ、なりますよ。それも極上の素材です」

「じゃあ、苦痛耐性と瞬間再生を……」

「苦痛耐性は取れますが、瞬間再生は無理ですね」

「ちっ」

「舌打ちされました⁉ まあ、金属操作で100ポイント。苦痛耐性で50ポイント。これで残り250ですね」


 後は何かいいのが有ったかな? ああ、思い出した。


「直感と幸運を欲しい」

「幸運は50、直感は100です」

「じゃあ、それで。後はガチャでいいや」

「まだ引くんですか……」

「うん」

「いや、もうないんですけど……」

「選んでいい?」

「駄目です。ですが、こちらで選んで与えておきます」

「じゃあ、よろしく」

「それでは、これでアバターメイキングを終わらせていただきます」

「うん、よろしく」


 確定ボタンが出てきたので決定を押すと視界が切り替わって繭みたいな物に包まれた。


「オリジンの世界をどうぞお楽しみください」

「あ、ログアウトしていい? 流石に眠い」

「はいはい、どうぞ! その間にしっかりと作っておきますよ!」


 ボクは現実へと戻った。




 ※※※




 流石に身体はベッドに寝たままだとはいえ、眠かったのでそのまま眠る事にした。




 ※※※




 寝ていたボクはお腹に衝撃を感じて目を開ける。すると肩を少し過ぎた辺りまで髪の毛がある可愛らしい少女がボクのお腹の上に乗っている。


「おはようお兄ちゃん、朝だよ。今日はお客さんが来る日なんだから起きないと駄目だよ?」

「おはよう、恵那。ああ、そうか……」


 そういえば二日くらいゲームに繋ぎっぱなしだったのか。身体を起こすとお腹がくぅーと鳴ってしまう。改めて時計を確認すると不思議な事に時間が思ったよりも進んでいない。


「ゲーム、そんなに楽しかったの?」

「いや、まだアバターメイキングを終えたばかり」

「何したらそんなに時間が掛かるの!? あそこは不思議技術で時間の速度が速くしてあるから直ぐ終わるはずなのに」

「ガチャを全部引いてやった」

「なにしてるの⁉ 無駄な事して……」

「いや、それが無駄じゃなかったんだって……」


 説明すると、恵那は飛び退いて部屋に向かおうとする。


「何をする気かな?」

「そんなの、恵那も作り直してくるに決まってるじゃない!」

「あれ、一人一つじゃないの?」

「お金を払ったら、一度だけできるんだよ」

「そっか。でも、学校が終わってからにしなよ。ボクは別にどうでもいいけれど、おばさんが五月蠅いし」

「あと怜奈もだね。仕方ないや……」


 項垂れてしまった恵那の頭を撫で、立ち上がって服を着替える。


「じゃあ、リビングで待ってるから!」

「うん」


 直に出て行った恵那を気にせず着替えて姿見の前に立つ。今日はお客さんが来るからしっかりとしないといけない。


「はぁ……」


 しかし、姿見の前に立つとどうしてもため息が出る。姿見に写るボクの姿は童顔で、髪の毛で目が隠れている。これくらいはまだいい。でも、身長が145cmから150cmくらいしかない。怖いので正確な事は図っていない。それに鏡に写るボクの姿は女の子にも見える。


「っと、ご飯ごはん」


 リビングでは恵那と怜奈が制服姿で待っていた。怜奈は髪の毛が長く、肘の辺りまである。こちらも綺麗な黒髪でさらさらしていて撫で心地がいい。恵那は可愛く、怜奈は綺麗だ。怜奈は日本人形みたいだ。二人にはモデルをしてもらったりもしているので、服を作ってあげたりもしている。


「おはよう」

「おはようございます。ご飯、できてますよ」

「何時もごめんね」

「置いて貰っているんですから、これぐらいはしますよ」

「そうそう。それに服だって作ってくれてるしね!」

「恵那は甘えすぎです」

「まあ、別にいいんだけどね。どうせついでだし。それよりも時間はいいの?」

「あっ⁉」

「急がないと!」

「うん! じゃあ、行ってきます!」

「気を付けて行っておいで。防犯用の道具も持った?」

「スタンガンとブザーを持ってるから大丈夫!」

「ん、それじゃあいってらっしゃい」

「行ってきます!」

「またね!」


 二人を見送ってからパンとサラダを食べる。それから仕事を確認して、ネットを見る。オークションや注文品を確認していく。オークションでは結構な値段で取引してくれているので助かる。祖母の代からの常連客も居てくれるからってのもある。

 発送の準備を行って、業者を呼んで準備を終わらせておく。それが終ればネットで食材を注文して晩御飯の仕込みをしておく。昼ご飯は怜奈が作ってくれているので気にしなくていい。抜いても気にしないのだが怜奈が五月蠅い。




 ※※※




 来店してくれたお客様に人形の引き渡しも終えた。今日と明日の人形も作ってある。オーダーメイド以外は仮組が終わっているので時間が開いている。家の掃除も終わっているし、後はやる事……特にないか。ゲームで人形を作るくらいだし、中に入るとしよう。ログアウトの時間を設定できるみたいだし、二人が帰って来る前くらいに戻るとしよう。








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