第10話



【クラブ武器】

ATK(MATK)18固定。

スロットなし。

スタートルの街が拠点となっている現段階で、最も高い攻撃倍率、ステータスを持つ武器。

特種効果エクストラスキルや属性はなし。



わたしが数時間前にドロップした武器。

固有名【スート エスパーダ】

ATK23

スロット1。

特種効果エクストラスキルが【MPドレイン+1】が付いている。



現在、スインベルン・オンラインの最前線はfd──────フィールドダンジョン[ゼリアスの森]。

今現在わたしプレイヤーネーム【レイン】Lv15が足を踏み入れているマップこそが、ゼリアスの森。


最初のfd。この時点で特種効果【MPドレイン+1】が出てしまった事に、わたしは少々不安...に近い恐怖を感じている。

一応、id Lv30──────インスタンス ダンジョンLv30まではテストプレイを済ませているので、底意地の悪い変更は無かった。

しかし、インダン30の先はまだ未テストだ。【MPドレイン+1】はその名の通り、攻撃する事でMPを吸収、吸血するスキル。DPSに関わらず一回攻撃で固定数値のMP吸収となる。

MP(HP)ドレインの固定数値は+の数値に依存する。

+1で、一回攻撃がヒットする事でMPが20回復。

初期攻撃スキルを使うのに、どの武器スキルでもMP100必要。

そう考えればたった20。


しかしこのスキルの有能な点は “1hit毎に回復判定” がある所だ。

弱くても、ダメージが0でも、hitさえすればMPドレインが発動する。スインベルン・オンラインでは通常攻撃でMPが回復する、AMPhシステム。しかしこの【MPドレイン】シリーズはhitで発動する特種効果。スキル中でもその効果は惜しげもなく発揮される。


ターン戦闘やオートアタックではなく、アクション戦闘での【MPドレイン】は超が付く有能スキル。レベルキャップが50に近付く頃には【MPドレイン+1】はテンプレ特種になるだろう。


その特種効果エクストラスキルがレベルキャップ30の段階で入手できる事がオカシイ。


現にわたしはfdに入って一度もMP回復ポーションを使用していない。初期剣術【スラスト】は何度も使用しているが、MPがー!と思った瞬間は一度もない。


まぁ、それは後で質問するとしてだ。

今はこのfdのボスであるブソゴブこと【ゴブリン アーマント】を討伐する事を優先したい。

なぜなら、わたしは今【れいん】ではなく【レイン】なのだから。


ゼリアスの森のラストマップまで進んだわたしは、この辺りでフォンを操作しマップを立体化させる。周囲にプレイヤー反応がないか調べると奥...[ゴブリンの祭壇]前に多くのプレイヤー反応をマップが感知、祭壇前のマップに無数の青丸が表示される。


祭壇前まで移動し、わたしは驚く。

3月27日 木曜日。平日の昼過ぎだというのにプレイヤーの数は20名弱...予想以上に多い。この集団の中にパンミミやメルセデスの姿はない。

20名弱という事フルレイドの半分...レベルや装備にもよるが、ゴブリンアーマントに勝てない数ではない。


「君は...ボス参加希望?」


集団を一歩下がった位置から見ていたわたしへ、リーダーらしき男がチャット───と言ってもVRでは言葉の会話だが、わたしへ質問を飛ばした。

一気に全員の視線がわたしのキャラアバターへ刺さる中、数秒迷って答える。


「ボスを倒すなら、参加したいかな」


何とも歯切れの悪い答えを返してしまったが、リーダーらしき男は笑顔で頷きチラッと視線を上へ向ける。

プレイヤーの視点───画面にはキャラネームやHP、ミニマップの他に現実時間とスインベルン・オンラインの太陽時間が表示されている。

男が見たのは恐らく、現実時間だろう。もちろんフォンでも時間などは確認できる。


「14時35分、そろそろ始めよう」


男は呟き、祭壇入り口に散らばる瓦礫に乗り、プレイヤー達の視線を集めると、中々のいい声で叫ぶ。


「そろそろ始める!現在22名のプレイヤーが集まってくれた!これだけの数ならfdのボス、ゴブリンアーマントにも勝てる!」


ふむ。


「ゴブリンアーマントはαではレアモブ、βではボスだった。この2つの情報で共通している点は武装を破壊するとDEFが大幅に低下し、SPDが上昇する点だ!多分本サービスでも同じだと思う」


間違ってはいない。

しかし正解でもない。

ゴブリンアーマントの武装を破壊するとDEFは大幅に低下し、SPDが大幅に上昇する。

そして武装破壊前のブソゴブはデバフを使ってこない。

しかし武装破壊後はデバフ持ちの剣術を使ってくる。

この情報を言うワケにもいかないが、無視してlstでもされれば最悪な気分になる。


わたしは発言すべきか迷っていると、斜め前のプレイヤーがクチを開く。


「それはあくまでも、αとβの情報だろ?もっと言えば所詮はテスト段階の情報。本サービスでもテストのまま実装されるって...考え甘くないか?」


少々トゲのある言い方をしたプレイヤーは【クラブボウガン】を背負う男性プレイヤー。

防具がわたしと同じ店売りの【ハードレザーチュニック】を装備している。武器はクラブだが防具は店売り...多分彼は本サービスから参戦したプレイヤーだろうか。

それならばトゲのある言い方も納得できる。


「えっと...名前は?」


このレイドのリーダーが質問するとボウガン使いの男は一瞬、目を細めるも、答えた。


「リリック。そっちは?」


「俺は ぽこたん だ。リリックさんの言う事は確かにある。でもその情報は運営しか持ってない情報だろ?」


ボウガン使いは【リリック】、リーダーは【ぽこたん】と名乗り、すぐにリリックの発言に対して議論が始まる。


「そうだな。でも本サービスの情報を微量でも入手する事は出来ないか?」


リリックの発言にぽこたんは黙る。返事を待っていたリリックだったが、理解出来ない。という表情のぽこたんを見て呆れ溜め息を吐き出し、リリックが声を響かせる。


「レイドをやるなら、タンクとヒーラーでスカウターを組んで、初見ボスの情報を集めておくのは基本だろ!?それにスイベルではデスペナがlstだ。レイド募集前に仕切りが情報収集を済ませておくのが普通だろ」


なるほど。

このリリックという男はスインベルン・オンラインは本サービスからの参戦だが、別のMMOの最前線を経験した事のあるプレイヤー。対するぽこたんはα、βでスインベルン・オンラインをプレイ済みだが最前線の経験はほぼ無い。

さっきの発言もゲームやアニメで、それっぽいのを見て覚えていただけだろうか。


「おい!お前仕切りでもないのに、」


「仕切りが大変なのはわかってる。でも、多分って言葉で情報収集してない事実を隠して、本サービスで追加された何かにレイドが半壊。lstするヤツも出て、話は広まりレイドってのに不満を持つヤツも現れる。それは避けるべきだろ。それにお前はボスの追加ワザでlstしても文句言わないのか?」


恐らくぽこたんのフレンドであろう男がリリックへ噛み付くも、リリックはその男を噛み砕き黙らせた。


今回はリリックの言う通りだ。

スカウター ───偵察パテを組んで、ある程度のボス情報を入手し、レイド募集するのがMMOではセオリー。デスペナルティが存在しないゲームでもfdボスなどの現段階では “一回しか戦えないボス” 相手はスカウター、情報まとめ、レイド募集、討伐。この流れが当たり前。デスペナルティでlstが付いて回るスインベルン・オンラインでは定番化させるべきスタイルでもある。わたしが発言するか迷っていた内容もこれだ。


「...今日はこれで解散させるべきだ。下手にボスに挑んでlst者が出れば、取り返しのつかない事になる。俺は抜けさせてもらう。後日また募集していたら参加させてもらうが、同じ感じは勘弁してくれよ」


リリックはそう言い残し、祭壇を去った。

集まっていたプレイヤーも半数がリリックと同じ意見だったらしく、スタートルの街へ戻って行った。


「悪い。今日は解散にする」


ぽこたん は力なく呟き、フレンド達と街へ向かう。


言い方にはトゲがあったが、リリックの言ってる事は間違いではない。ボス戦で仕切りをして、死者を出さずに討伐すればぽこたんの名前は一気に広まる。しかし欲張ってはイケナイ。lstという正直クソシステムが付いて回るこのゲームでは、無茶するにもそれなりのシステム知識とステータス、プレイヤースキルが必要になるんだ。


レイドリーダーの立場ならば自分の武器以外の知識も必要になる。いや、レイドリーダーじゃなくても、そういった知識はあった方がいい。


人を集めようって行動出来た君は充分凄い。


ぽこたん。頑張れ。






ぽこたんのレイドはリリックの発言で解散、わたしもスタートルの街まで戻りログアウトした。


あのままボスに挑んでいれば、高確率で連繋を失い、下手をすればリリックの言った通り、lstするプレイヤーも出たかも知れない。


ぽこたん も リリック もこのゲームを真面目に楽しんでいるからこその行動と発言だ。


今回は解散で終わったが、この結果に誰が悪いとか、そういう事はない。


時刻は15時07分。

約30分、祭壇前にいた事がビックリだが、MMOではよくある事。

わたしは17時の会議までどっぷりプレイするつもりだったが、まぁそれはいい。


ウォーターサーバーから水を頂き、現実世界の身体に流し込む。

Curiosity社のプレイリングルームがわたしの独占マップみたいになっているが、誰も文句言ってこないし、このまま独占させてもらおう。


携帯端末を手に取り、会議までの暇潰しを考えていると一通のメッセージが届く

友人から夕食のお誘いだ。

会議は17時~20時の予定なので、20時過ぎには行けるよ。と返信し、何となくメインルームへ向かった。


秘密基地めいた扉がエアーを吐き出し開かれると、メインルームには会議をするメンバーが全員いた。


「おっはよー、れいんちゃん」


と、滝口さんが今日も元気に。


「あら?早いわね。もうログインしないの?」


と、愛ちゃんがコーヒーを片手に。


「丁度いい、会議を早めに始めよう」


と、ボスの赤城さんが。


会議と言っても重苦しいモノではなく、スインベルン・オンラインの今後の事や、スインベルン・オンラインの事、とりあえず、ゲームの話をする会だ。


実装前に武具やスキル、マップをテストプレイするプレイヤーのわたし。


スインベルン・オンラインのドロップ率やモンスターポップ率を調整する滝口さん。


スインベルン・オンラインのCG全般を担当する愛ちゃん。


クエストを担当の青葉さん。クエストフラグや受注条件設定などをする。


モンスターや武具、マップのイラストレーター恭介さん。この人が描いたイラストをベースに愛ちゃんのチームが3D化、CG化さする。


PvPやモンスターのAI、攻撃判定やPK判定、主に戦闘に関して任されている神沼さん。


武具やアイテムの性能やスキルを考案し、実装出来るレベルまで形を作るチームのソフィ。スキルは神沼さんのチームと考える事もある。


スインベルン・オンラインのボス、赤城さん。彼がダメと言えば全部ダメになる。




今回はこの8名で会議をする。


8名でCuriosity社のスインベルン・オンライン開発フロア───七階の会議室へ向かう。



本サービスが始まって、初の運営チーム会議。



会議と言われれば妙な緊張感が産まれる不思議。


この緊張感が正直苦手だが...会議に参加しなければならない立場でもあるので我慢しなければならない。



ゴブリンの祭壇前でのレイド会議。


Curiosity社でのスインベルン・オンライン運営チーム会議。


どっちも妙な雰囲気漂う、高難度クエスト。



プレイヤーも運営チームも、楽じゃない。



さて、わたしも頑張ろう。



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