第3話 おじいちゃんの家<跡取りは女の子>

 まずは、ちょっと複雑な人間関係が絡み合う「おじいちゃんの家」のことを書いていきたいと思います。


 今はもうありませんが、おじいちゃんの家は京都で代々家紋(皇族やお公家さん)を抜く商売をしていた商家だったのだそうです。


 よく伯母(母の腹違いに姉)が「うちに来れば、花嫁道具がすべて揃うと言われてたんよ」と言っていましたが、多分それは、当時の人はお嫁に行くときに花嫁道具のすべてにお印や家紋をつけて持って行かれたからだと思います。


 そして、おじいちゃんの家はなぜか女の子しか生まれなかったので、跡取りの女の子に養子さんを迎えていたそうです。おじいちゃんの父親も養子さんですし、おじいちゃんの祖父も養子さんです。その前の人も、その前の人も・・、養子さんだったのだそうです。


 ですから、おじいちゃんが生まれたときは「うちの家に初めて男の子が生まれた。跡取りさんが生まれた」といって、それはそれは喜んだのだそうです。


 とくにおじいちゃんの祖母(曾おばあちゃんの母)は手放しで喜んで、ことのほかおじいちゃんを可愛がったのだそうです。



☆☆

 ここですみません、ちょっとお話は横道にそれますが(重要なことなので)、おじいちゃんの両親(曾おばあちゃん、曾おじいちゃん)と大番頭さんのことを少しお話しておこうと思います。


 おじいちゃんの家は、私が祖母から聞かされた限りではほぼ養子さんをとっていました。


 おじいちゃんの父親は、奈良の商家の三男坊です。


 おじいちゃんの祖父(曾おばあちゃんのお父さん)は、私の祖母がおじいちゃんの母親(祖母からすると義母、私からすると曾おばあちゃん)から聞いた話では、確か高槻藩のお殿様に使えたお武家さんの家の末息子さんだったのだそうです。


 どちらも家の跡取りの長男さんがいたので、おじいちゃんの父親も、おじいちゃんの祖父(曾おばあちゃんのお父さん)も人を介して、おじいちゃんの家に養子にはいるのですが…。



 因みに、それ以前は親戚筋にあたる公家のお家から養子を迎えていたのだそうですが、おじいちゃんの祖母(曾おばちゃんのお母さん)のお婿さんにつり合う丁度よい年齢の子が当時この親戚筋にはいなくて、「えらい算術の出来る頭のええ子がいてる」という話しを聞いて養子に迎えることになったのが、お武家さんである、おじいちゃんの祖父(曾おばあちゃんのお父さん)にあたる人です。


 当時(江戸時代末期ですね)は、家に跡取りの長男がいるのであれば、男の子とはいえ他家に養子に入らなければ、何もせずにただ生きているだけの一生部屋住みのままで終わったのだそうです。


 ですから、養子にいくことにはなんら問題はなくても、武家から商家に養子に入るのは、なにかとというか気位の点からも、手続きの点からも(藩からの許しを得ないといけなかったのだそうです)ややこしかったようです。


 ですが、おじいちゃんの祖父の父親が、


「武士の時代はもうすぐ終わりを迎えるであろう。そうなれば、気位ばかりが高い武士は生きてはいけぬ。これからは身分のあるなしに関わらず動けるものが勝つ、商人は売るものと、買うものがあれば海を越えることも出来る。だから、おまえは自由に生きてみなさい」


と小さな息子に言って、当時まだ八歳になったばかりの末の息子を商家(おじいちゃんの家)の養子に出したのだそうです。




 この話を聞いた時に、おじいちゃんの祖父の父親は、当時の時勢から未来をみる先見の目があったのか、それとも何らかの形で、いずれ武家社会が崩壊するであろうという情報を得る立場にあったのかなと、チラリと思ったことを覚えています。



 話しをもとしますと、おじいちゃんの家では娘の養子に迎える婿が決まると、小さいうちにもらい受けて、丁稚さんから修行をさせ、番頭さんに成れるくらいに仕事が出来るようになると、娘と結婚させて家の後を継がせたのだそうです。


 ですから、本当はわざわざ成人した商家の三男坊を婿養子に迎えなくても、おじいちゃんのお母さん、曾おばあちゃんの婿にすると決めていた人は別にいました。


 それが、大番頭さんです。


 この大番頭さんは(後から考えると)、私が祖母から聞いたお話の中に出てくる人たちの節目節目に登場する、とても大事な役割と果たしている人だったのだと思います。

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