第7話

翌日、槙は改めて村上にお祝いの言葉を述べた。


「来年、絶対に箱根の切符掴んでくださいね。俺、父さんの写真と一緒に沿道に駆けつけますから」

「須藤、ありがとう。ホント嬉しいよ」

「俺は短距離で頂点目指します」


村上は嬉しそうにニッと笑って拳を差し出してきた。

槙も笑って拳を差し出す。

二人の拳がコツンと鳴った。


「あーっ、先輩っ、槙と何かやってるっ!俺も、俺も!!」


傍を通りかかった凱斗が、ワサワサと飛び込んできた。

うわっ、危ないなあ!

二人は苦笑いしながら凱斗を招き入れた。


「先輩っ、待っててくださいね!俺、絶対先輩の大学行きますから。一緒に箱根、走りましょう!ねっ、約束です!」 


村上ににじり寄りながら、凱斗はグイグイ拳を突き付けた。


「須藤~~、助けてくれよ……」


仕方なく拳を繰り出して、村上が困った顔で槙を振り返る。


「ははっ、いいじゃないですか、先輩。かわいい後輩が追いかけてきてくれるなんて」


呆れたように腕を組みながら、槙は意地悪な顔でニヤリと笑った。

その顔を横目で眺めながら、村上は心の中で呟いた。


“須藤、ホントにありがとな。俺、頑張るよ。父の分も須藤卓を目指していく。オマエも、頑張れ”


「おーい、槙、ストレッチ始めようぜー」


遠くから克也の呼ぶ声がする。

はじけるような笑顔で、槙は駆け出した。

その煌めいた笑顔を見送って、村上は卓と同じ形の目を想いながら、気持ちを新たに上を向いた。

大気はまだ夏の余韻を残して、未練がましく熱を抱え込んでいる。

それでも、時折涼しい風が頬をなでる。

もうすぐ空も高くなるだろう。

走るにはうってつけの季節がくる。


「先輩、俺たちもそろそろ」


凱斗が無邪気に笑いながら、長距離コースに向かって走り出す。


「そうだな」


村上も凱斗の後を追うように、軽い足取りで駆け出した。

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夕暮れ滴 積田 夕 @taro1999

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