掌編『午前0時のラブレター』について

掌編を一つ掲載した。


『午前0時のラブレター』というタイトルで──。


この物語は、SNSを利用する人にとっては、多分だれにだって経験するだろう淡い気持ちをモチーフにしている。


実際、わたしもブログ仲間とのあいだで、作品や日常の記事に対するコメントを書いたり、また書いて頂いたりした時期があった。


つまり、怖ろしいことに、見ず知らずの人間とブログを通して意思の疎通をしていたのだ。


相手は、どこのだれだかわからない。つまり、年齢も性別もはっきりしないし、背は高いのか低いのか、体型はどうなのだろう、声は甲高いのか、それとも低音なのだろうか、爪を噛む人だったら嫌だし、いや、そもそも相手は正常なのか、それとも異常者なのか……もしかして、犯罪者? なにもわからないのにである。


(わたしの公開していた情報は、関西在住の男性であることとニックネームだけである)


それでも、掲載される写真やイラストを見たり、日常の記事を読んだりし、それについてのコメントのやりとりなどしていると、いつの間にか仲のよい「ブロ友」であるかのように錯覚し、一日に何度も相手のブログを訪問したりして、非常に気にかかる存在になったりする。


もちろん、それで実際に逢ったりするのはタブーであり、与えられた情報以上に求めたりすることは決してなかった。いまでもそのスタンスに変わりはない。


そのころ、一つのブログに出逢った。ブログ主は、仮に明日香さんとしよう。

明日香さんは学習塾の講師であり、歌手の平井堅の大ファンであり、プーさんと呼ぶ旦那さんがいる。もちろん旦那さんとは夫婦円満で、お二人の仲のよい話なども記事として掲載される。


彼女の仕事柄、受験などの関係でブログは何週間も更新されない期間がある。しかし、更新されなくても、彼女のブログへは日に数百人も訪問者があり、コメントが書き込まれて行く。


でも、ひとたび


─── 鼻の穴にピーマンさん、一番コメありがとう~ \(´▽`)/ ───


と、彼女のユーモアのあるコメントと絵文字が現れると、ブログは再開され、ファン一同ひと安心するのだった。


彼女の記事で、明日香さんの誕生日を知ったわたしは、あるたくらみに胸を躍らせた。彼女と、そして彼女のファンである私の、ブログを通じての付き合いの裏側を、おもしろおかしく、そして物悲しく、哀れに書いた物語、つまり『午前0時のラブレター』という掌編を書いたのだった。そうして、たったひとり彼女にだけ読んでもらったのだ。もう、12年も昔の話になる。


数年後、彼女はブログに於いて、旦那さんのご病気のたいへん重篤なことだけを語り、以後ブログが滞り、ついには更新されなくなってしまった。この記事を書くにあたって、今一度覗きに行ったけれど、やっぱり今現在も更新はなされていない。


もう、再開されることはないのだろうか?


もし、再開されれば、一番コメ目指してすっ飛んでいくのだけれど……。


その彼女と約束したわけではないが、非公開にしていたこの掌編をカクヨムに掲載したのは、なにか座敷牢にでも入れてあるような嫌な感じもあり、解放したかったからだろうか。


この物語は、比良井という男が、定年退職後に始めたブログで知り合った女性に、彼女の誕生日にあわせてブログ内で、ちょっと小洒落た思いつきにより好意を伝えようとする……が、しかし、えっ! という、少しせつないショートストーリーである。


そういえば、昔、江戸川乱歩が『算盤が恋を語る話』って小説を書いたけど、結局、恋愛に小細工は通用しないってことかなぁ。


                              <了>




















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くらぼんが、来る! 銀鮭 @dowa45man

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