第18話 再生と新生 壱

       再生と新生 壱


 『あ~っ。その柱、ボロボロにしたのは誰なの?夕べなんかくす

ぐったかったのよね。誰なの?・・・

 あっ。そうか。あの犬と猫たちね。もう、爪とぎなどに使わない

ようにと言ったでしょ。これ、どうするのよ。』


 「あ~あ。柱がボロボロにされている。ニシさん、どうします?」

 「あらま。どうしようか。・・・ユミちゃん、オーナー呼んで来

てくれないか。」

 「は~い。」

 「滝くん。これいつ見つけた?」

 「さっきです。隅っこの方だったので気付かなかったんですが、

いつからこうなっていたのでしょう。どう見ても犬か猫の仕業です

ね。」


 「あっ。オーナー。これどうします?」

 「あっ。誰だ?こんなにしたのは。・・・うちの猫だな。仕方が

ないね。職人を呼んでわからないように完璧に補修して。完璧にね

・・・。アハハ。じゃ、よろしく。」

 「えっ。新しくするんですか?ニシさん。どうやって?」

 「いや、新しくするのは無理だよ。この部分だけを削り取って、

別の木を繋いだらいいんじゃないかな。」

 「そうですが。難しそうですね。」

 「そっか。でも、その方法しかないだろ。」

 「確かに、その方法でうまくやれれば、見た目は変わらないけれ

ど、今の柱のことを考えると、同じ年代の古木を使いましょうよ。

探すのがちょっと面倒ですが・・・。」

 「あっ。そうだね。滝くんの言う通りだよ。よし。その古木を探

そう。滝くんよろしく。」

 「あ~、ニシさん。それって滝くんに丸投げじゃないですか。」

 「え。そんなことは無いよ。滝くんの提案を採用しただけじゃな

いか。それに、その古木なら倉庫にあるから、滝くんならどれなの

かわかるかなと思ってね。」

 「わかりました。ちょっと探してみます。」


 『ニシさん。ちょっとマキさんに誤解をされたようですね。本当

はニシさんも倉庫に古木があるのを知っていて、それを使おうと考

えていたのでしょ。滝くんが良い提案をしたから、それに乗ったの

ですね。うふ。』


 「ありました。これなら年代もピッタリですね。」

 「よし。じゃ、職人を呼ぶから、後は滝くんよろしく。へへへ。」

 「あ~。そういうことだったのね。ニシさん、自分が面倒くさい

から滝くんにやらせようと思ったでしょう?白状しなさい。」

 「はい。その通りです。へへへ。でも、滝くんの勉強にもなるか

らね。」

 「アハ。そうですね。職人さんの仕事も見たいので俺がやります。

 「うんうん。じゃよろしく。」

 

 何か、会話が噛み合わなかったような気がするけれど、これも勉

強だ。やっぱり、新しくするより再利用の方が、この“白い家”に

は合っていると思う。


 「新生より再生の方がいいですね。」

 「確かにそうね。私の服もほとんどが布の再利用だから、そのコ

ーディネートが面白いのよね。ただ、新しい布と古い布との組み合

わせもそれなりに新鮮で面白い。」

 「そうか。マキさんの服って再利用なんだ。それで所々に昔の人

が着ていたような柄の布が使われていたのか。知らなかった。でも、

何故古着や古い布を使うのですか?新しい方が見つけやすいし、自

分なりのデザインもできるのでは・・・。

 それに、古い布は意外と高額でしょ。」

 「うん、そうだね。古着や古い布を探すのは苦労するのよね。古

着や布のお店はあるけれど高額で手が出ないし、イメージしている

ものに近いのを見つけるのが難しいのよ。

 でもね、そんなところが私は大好きなの。手間というか、時間を

かけて見つけ、丁寧に設える。そんなところに楽しさや達成感の喜

びがあるのよ。それに、古着だったら前に着ていた人の温もりや気

持ちが入っているような気がして、絶対に無駄にできないと思うの。

それが私の創作意欲を掻き立てるのよね。」

 「へぇ~そうなんですね。じゃ、この“白い家”と同じようなも

のですね。」

 「そそ。そうなのよね。この“白い家”にも様々なモノが関わっ

ていて、それが上手くコーディネートされているのだと思うね。

 ただね。古いモノばかりを組み合わせても、そこから全く新しい

モノ、新鮮さを感じるモノってそう簡単には生まれないよね。すご

く難しいと思う。古いモノだけでも新しさを感じる人もいるけれど、

私は新しいモノとの組み合わせも面白いし、大切だと思うの。古い

モノばかりだと飽きちゃう。へへへ。」

 「アハ。それって、マキさんの感性の中でのことですよね。俺が

観ていると古いモノ同士のコーディネートでも、十分に新しさを感

じましたよ。これって俺の感性が良いってことかな。アハハハ。」

 「何それ?」

 「いや。そこには、結構拘りがあるんだろうなって・・・。」

 「アハ。あるがとう。褒められているのかな。うふ。

今度ね、ユミさんに協力してもらって、小物との組み合わせを考え

ているの。イヤリングや帽子だと普通にファッションの範囲でしょ

う。でも、そこにお箸とか器や古い器具をコーディネートして、関

連付ければ面白いと思わない?」

 「あっ。いいですね。じゃ、この“白い家”とのコラボもあるん

じゃないですか?」

 「あっ。そうね。それも考えて見ましょうか。何かそれで1つの

作品ができるかもね。うふ。」

 「おお。それいいアイデアだね。よし。そのイメージを膨らませ

て展示会を作品発表会をやってみようか。うん、いいかも。」

 「あっ、オーナー。今の話を聞いておられたのですね。また、イ

ベントをやるのですか?」

 「アハ。滝くん。俺はイベント好きなんでね。でも、君たちの話

を聞いていると、その再生品と新生品のコラボレーションイベント

は、すごく面白いし、みんなの刺激になると思うな。それにこの

“白い家”とのコラボでもあるし、全体に盛り上がるよ。

よし!その企画、マキちゃんと滝くんに任せるからやってみよう。」

 「え~、私、全く自信がないし、お客さんは興味あるのかなぁ~。

それに、どこから初めていいのかわからない・・・。」

 「やろうよ!マキさん。これは面白いよ。特にモノとの関わりの

中で、この“白い家”とのコレボレーションは、建築家を目指して

いる俺にとっては、すごく勉強になります。何かが見えてくると思

うから・・・。」

 「滝くん。いいこと言うね。その通りだよ。やって見なければわ

からない。やらなければ何も見えてこない。・・・やってみよう。

アハハハ。」

 「は~い。努力します。でも、責任は滝くんと折半ね。」

 「アハ。何それ。でもいいですよ。やりましょう。」


 『やったぁ~。面白くなりそうです。私たちも全面的に協力させ

ていただきます。是非、このイベントを成功させましょう。

 アラ?私たちはどうやって協力したらいいのかしら?アハハハ。

 ジーっとしていればいいのよね~。何かやってしまうと驚かして

しまいそうだし、怖いものね。うふふ。』


 「お~い。何の話で盛り上がっているの?オーナーも一緒になっ

て。珍しいね、その3人で何が始まるのですか?」

 「あっ。ユミさん。聴こえていなかったのですか?結構大きな声

で盛り上がっていましたが・・・。」

 「エヘ。マキちゃん。俺、物に集中していると他の物が見えなく

なるし聞こえなくなるのよ。わかるでしょう。」

 「だよね。このイベントはユミさんにも沢山協力していただかな

いと・・・。ユミさんの物に対する拘りや愛を生かしていただけれ

ば幸いです。アハ。」

 「何、それ?何か協力できるの?オーナー、また何かやるつもり

ですね。」

 「うん。ユミちゃんも協力してね。責任は全てこの2人がとると

言っているから、よろしく。」

 「え~、私たち2人だけでは荷が重いですよ。責任はユミさんを

入れて3等分ということで、よろしく。」

 「何?何の話し?」

 「実はね。モノの再生と新生のコラボレーションイベントをやろ

うということになったの。古いモノと新しいモノとの組み合わせや、

古いモノ同士の組み合わせ。

 そして、この“白い家”とのコラボもやろうということです。

簡単に言えばね。」

 「うっ。説明が簡単すぎませんか、マキちゃん。・・・まっ、い

いか。モノに関しては任せておいてね。アハハハ。」


 『確かに、マキちゃんの説明は簡単すぎます。もっと丁寧に説明

をして下さい。すごくいいイベントなんだから。でも、大小の物と

マキちゃんの服とのコラボは良いとは思うのですが、何か足らない

ような気がします。何かが・・・。』


 「マキさん、説明が下手ですね。俺が後でユミさんにしっかり説

明をしておきます。それより、全体の構想を考えてください。特に

マキさんの服を中心に考えた方がわかりやすいし、演出しやすいと

思いますから。

 そう、衣と住・・・あっ。食を忘れていました。食の世界にも古

いモノと新しいモノがありますし、再生と新生のコンセプトにも合

いますね。」

 「そうだね。滝くん。よし。ニシさんも巻き込んじゃおう。へへ

へ。」

 お~い、ニシさん。ちょっとこっちへ来て~。」

 「なんすか?オーナー。明日の仕込み中なんですが・・・。明日

のお昼は発酵素材を中心として和の食事を出そうかと思っているの

ですが、どうですか?」

 「ん?発酵素材って何?」

 「簡単に言えば、おしんことか豚の味噌一夜漬け何かが良いかな

と思っています。・・・あっ、鮒ずしなどもいいかもね。へへへ。」 

 「う~。鮒ずしは、くさ過ぎるので却下だな。アハハハ。」

 「は~い。」

 「あの~、明日のランチで会話がはずんでいるようですが、さっ

きのイベントの話を進めたいのですが・・・。」

 「あっ。ごめん、滝くん。どうぞ。アハ。」

 「ん?滝くん何?」

 「ニシさん。食の世界でも古いモノの再生というのか、それを利

用したモノってあるんですか?」

 「うん。あるよ。沢山あるね。日本だけじゃなく、世界にはいろ

いろな食文化があるから、古いというのか、昔のレシピやメニュー

を生かしたものもあるよ。何?」

 「実はですね。再生と新生というイベントしようと考えていまし

た、衣はマキさんのファッションで、住はユミさんを中心とした様

々な物を集めるのですが、衣と住と言えば、あとは、食ですよね。

その食の世界も演出できれば一層盛り上がるし、皆さんのいい刺激

を与えられるじゃないかと思うのですが。どうですか?」

 「おっ。いいね。面白そうだ。俺も参加させてくれる?へへへ。

あっ、食だったらオーナーの友人シェフも巻き込んじゃえよ。より

面白くなるぞ。どうですか?オーナー?」

 「うんうん。あいつに行って見る。多分、彼もそんなのが好きだ

から、協力すると思うよ。

 じゃ、食に関しては、ニシさんに任せながら、みんなで相談して

始めよう。」

 {は~い。}

 「あっ。ついでに、衣、食、住ときたら、残るのは遊だよね。こ

の“白い家”と“白いカフェ”は、その衣食住に遊び心を組み合わ

せているから、遊も入れてやってよ。よろしく。」

 「うむ~。遊と言っても・・・何かありますか?マキさん。」

 わかんない。へへへ。」

 「アハ。あるよ。」

 「あっ。ショウさん。何があるの?」

 「うん。さっきから聞いていたけど、その全体を遊の空間にする

のよ。前に“音”と“香”のイベントをやったでしょ。あんなふう

に衣食住のコラボレーション空間に“音”や“香”を入れて演出の

幅を広げるのよ。そして、そこに遊であるゲームや玩具も忍ばせれ

ば完璧じゃない。どうかな?」

 「お~、いいね、ショウちゃん。できれば、そのゲームや玩具に

も再生と新生のコンセプトでコーディネートしてほしいね。」

 「はい。」

 「オーナーもノリがいいですね。ショウさんのアイデアいただき

ました。ご協力をよろしくお願いします。」

 「えっ。マキちゃんがしっかり考えてね。物に関しては俺がやる

けれど、責任者はマキちゃんじゃないの?」

 「いや。もうこうなったら、みんなが責任者だね。全員協力して

頑張りましょう。俺はアドバイザーということで、よろしく。」

 「え~、アドバイザーって、オーナーはなにもしないつもりでし

ょ。あんなにけしかけておきながら、自分は一番責任がないところ

にいるつもりよ。もう。アハハハ。」

 「そうですよ。ユミさんの言う通りですね。オーナーも何か手伝

ってください。たとえば全体の流れを管理するとか、自らもモノを

提供するとか、何かやって下さいよ。」

 「アハ。わかったよ。じゃ、マキちゃんの言う通り、全体の流れ

の管理のためにスケジュールを考えるよ。それと、それぞれの担当

のお手伝いをするということでサポートさせていただきます。

へへへ。」

 「了解。じゃ、本日より準備に入ります。イベントの開催は3月

の下旬ということにしたいと思います。みなさん宜しくお願いいた

します。」

 「は~い。」


 『アハ。マキちゃんがしっかりと仕切っていますね。どんなイベ

ントになるのかしら。楽しみです。でも、本業のカフェの運営もお

忘れなく。よろしくね。

 カフェ内は、正に温故知新の世界ですよ。うふふ。

 温故知新とは古きものをたずねて新しきものを知るという意味な

のです。今回のイベントは、それを実感できるものになるでしょう

ね。じゃ、私たちも頑張ります。・・・ん?何を?』


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