第4話 おかまとおなべ

           おかまとおなべ


 「いらっ・・・しゃいませ。」

 「あ~ニシちゃん。来ちゃった!いいかしら?」

 「おぉ。いらっしゃい。どうぞ好きな席に。」

 「あっ。どうぞ。」

 

 ん?おかまさん?ニューハーフって言うのかな。もう1人も同じ

かな?

 ス~っと隅っこの1番テーブルに着きました。そこは何か座りや

すいんだよね。


 「いらっしゃいませ。何にいたしましょうか?」

 「あたしクリームシチューセットでパンね。」

 「俺はこのホワイトカレーと後でコーヒーね。」

 「はい。かしこまりました。クリームシチューセットをパンで。

ホワイトカレーですね。しばらくお待ちください。」


 ん?もう1人のお客様は男なのかな。ちょっと声が高いし、しぐ

さも微妙だね。


 『滝くん、流石クリエーターだね。いい洞察力を持っているよう

です。そうね、おかまさんね。今で言えばニューハーフともう1人

はおなべさんみたいね。こういう人たちって結構繊細で感性豊かな

のよ。注意して見てね。勉強になるかもよ。』


 「ねえ~、りょうちゃん。何か良い方法はないかしらね。このま

まじゃお店が危ないわよ。どうしよう。」

 「ああ。わかっているよ。かおりはどう考えているの?お客を増

やすこと。それに定着させること。何かいいアイデアがないかな。

トークだけじゃ無理だろうし、ショーと言っても人数は少ないし、

場所もそんなに広くないから大きなことは出来ないよな。」

 「そうなのよね。それで、ニシちゃんが居るこのお店に来たのよ

ね。ニシちゃんにいつでも相談に乗るからって言われていたからね。

3時くらいからちょっと暇になるらしいから後で尋ねてみようよ。」

 「だな。ニシさんは経験が豊富って感じだし、このカフェも前か

ら気になっていたしね。」

 「確かにこのお店って雰囲気が良いわね。何故なのかしら。」

 「そうだね。・・・あっ、庭がすごく綺麗だよ。美しい。

 おぉ、桜が咲き始めているし良い風景だなぁ~。白い石と緑の苔、

そして、桜色に空の青となったら言うこと無いね。ちょっと外に出

てみたいけどダメかな。」

 「いいですよ。ご自由に観てください。

お待たせいたしました、クリームシチューセットとパン。そして、

ホワイトカレーです。コーヒーは後からお持ちいたします。ごゆっ

くりどうぞ。」

 「ワァ~可愛い~。あなた店員さんよね。そのファッションすご

く可愛い。魅力的ね。」

 

 お。流石ニューハーフさんだ。やっぱりファッションには敏感で

すね。マキさんの服装を見たらだれでもびっくりするし店員らしく

ないよね。でも今日はちょっとシンプルかな。全身を白でまとめて

頭巾のような帽子も白だけれど、何で手袋が赤なの。それに赤いネ

クタイをして赤いピアスを着けて、え~コンタクトレンズも赤じゃ

ないの?白と言ってもレース柄が入っていて可愛い感がいっぱいだ。

 理解不能・・・。


 『うん。確かに、マキちゃんの今日のファッションはシンプルな

んだけれど、それは色だけで、テクスチャーやディテールはちょっ

と派手目ですね。でも、ニューハーフさんたちには可愛いのかなぁ。

 ところで、このおかまさんとおなべさんは何か悩み事があるよう

ね。ニシさん、深入りしなければいいけど。』


 「へぇ~。このシチュー美味しい!真っ白だけどポイントにトマ

トが添えられて綺麗ね。それにクリームシチューだけど洋風じゃな

いのね。少しだけだし味もあるし、そんなに牛乳の風味がないから

ちょっと異なった旨みがあるわね。

 あっ、そうか。店員さんのファッションはこのカラーに合わせた

ってことかしら。ん?りょうちゃんのカレーもすごい!」

 「おぉ。本当に白だ!中に入っている人参の赤がポイントになっ

ているね。これも店員さんのファッションとコラボレーションして

いるようだ、味はしっかりカレーしているよ。うむ。」

 「アハ。ありがとうございます。ご理解感謝します。ではごゆっ

くり。」


 うっ。鋭い。ニューハーフさんたちは、そういうデザインという

か、エンターテイメント仕様に敏感だね。


 「いらっしょい。かおりさん、りょうさん。来てくれたんだね。

ゆっくりしていってね。ん?2人ともあまり元気が無いな。そっか、

まだ昼間だから夜にならないと元気が出ないか。アハハハ。」


 ニシさん。鈍い。


 「あのね、ニシちゃん。今ちょっと時間いいかしら?」

 「うん。いいよ。どったの?へへへ。」


なんと軽い人だ。お客さんも少ないし、俺もちょっと休憩をして庭

を観に行こうかな。でも、気になる。


 「実はね。ニシちゃんに相談がってきたのよ。」

 「そっか。じゃここでは他のお客様もおられるので、別の場所で

話そうか。食べ終わったら声をかけてね。」

 「うん。わかった。ごめんね。」

 

 ん~。何の相談だろう。つい気になってしまう俺。だけど、庭

を観て来よう。

 わぁ~、奥にも建物があるし、庭も奥の方までつづいているんだ。

やっぱり苔と小石、岩の組み合わせに大小の木が植えられていて、

遠近感もある。

 あっ。細い小川もあって水の流れる音が聞こえてきそう。それに、

大小の飛び石が配置されていて歩けるんだね。ここも奥へ行くほど

石や木を少し小さくしてあり、遠近感が出て広く感じるね。

 ここの庭の寸法バランスも黄金比を用いているようだ。実際には

そんなに広くは無いけれど、深見があって落ち着いた空間にコーデ

ィネートされていて良く計算された演出だね。

それに、庭や建物の素材も落ち着いた雰囲気があると思ったら、

そう、リサイクル、再生されている。敷かれている石も俺が立って

いる回廊の床材もみんなどこかで一度使われていたものなんだ。建

物の壁も漆喰で塗られていて他の素材と調和しているし、庭との一

体感もあって、なにか自然体という感じがしてホッとする空間だね。


 『うんうん。滝くん気付きましたね。流石です。この庭もさっき

観た庭も、そして、建物や小物たちも全て再生したものです。そし

て、黄金比や遠近法を用いて空間全体を奥行き感のある落ち着いた

ものにしています。これもオーナーの拘りであり、みなさんに楽し

んでいただける空間にしたかったのよ。

 まだまだ、いろいろな楽しく面白い空間があり仕掛けもあるから

宝探しのように探索してね。滝くんには私の声は聞こえないけれど、

ちょっと、ヒントを言います。さっき滝くんも気付いた黄金比は、

要するに1対1.618の寸法バランスですが、この庭や建物だけじ

ゃなくて小物などにも所々に用いているのよ。あえて、そういうバ

ランスのモノを集めているようですが。・・・大小いろいろな所に

この比率を用いているので、注意深く観てくださいね。

 あっ。それから色彩も白や茶だけじゃなく和風系色をたくさん使

っているのでそんな所も良く観ておいてね。じゃ、またね。』


 あっ。時間切れだ。仕事に戻ろう。

ニューハーフさんたちは食事が終わったようだね。


 「ニシちゃん、ごちそうさま。すごく美味しかった。これだった

ら見た目と味でお客様を楽しませることが出来るわね。流石店長。

それに、よくわからないけれど、ここの空間や空気がすごく良くて

居心地がいいのよね。店員さんもいい人ばかりだし、また来たくな

っちゃう。さっきの店員さんのパフォーマンスや庭のコーディネー

トなんかも見ていると元気が出るし、落ち着くわ。」

 「だよな。俺って男だと感じているけれど、この料理や空間を見

ているとすごく心に刺激を与えてくれて、よくわからないけれど男

とか女とかなんてどうでもいい、相手を楽しませ自分も楽しむ。そ

れが大切なのかなって思った。小さなことを悩んでいた俺が恥ずか

しい。

この空間には魂のようなモノを感じてしまう。ちょっと大げさだけ

どね。また来たいね。何度も。」

 「ほんと、来て良かったね。」


 おふたりともジーっと庭を見ながら話しているけれど、本当にこ

この空気を感じているんだろうね。


 「うんうん。それは良かった。キミたちは他の人たちとは異なっ

た感性を持っているのだから、それを大切にしてほしいね。この空

間でそこまで感じてくれる人はそう多くないからね。相談事はもう

解決したんじゃないかな?今のふたりの気持ちでね。」


 おふたりさん。互いに顔を見合っちゃった。


 「あぁ~。そうなんだ。そうなのよ。りょう。ね。」

 「うん。そうだね。お客様を楽しませ、気持ち良く帰っていただ

いて、また来ようと思っていただいたら・・・それでいいんだよ。

それだけを考えて目標にすれば・・・。

 よし!もう一度見直して頑張ろう、かおり。」

 

 あっ、ニシさん。気付いていたんだ。鈍感なフリをして。流石、

経験豊富というのか、いろんなことをやってきたことだけはある。


 『滝くん。感心しているのは良いけれど、ちゃんと勉強になった

の?いかに人の気持ちを感じ取って、自分に何が出来るかを思慮す

るのは難しいことだけど少しは努力をしないとね。滝くんにはいい

クリエーターになってほしいから・・・。

 あっ。でもね、ニシさんはここからが問題なのよ。このニューハ

ーフさんたちの悩みを感じ取った以上は、一肌脱ぐつもりかもよ。

ほどほどのところでやめてちょうだいね。』


 「じゃ、俺、近いうちにまたお店に行くから、その時にもっと具

体的に話そう。」

 「は~い。ありがとうニシちゃん。それに、さっきの店員さんと

この空間にも。ごちそうさまでした。バイバイ。」

 「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしています。」


 うっ。いつの間にマキさん。どこに居たのかな?あぁ~また服装

を変えている。どうなってんの、この人は・・・。


 『このおかまちゃんとおなべちゃんとのお付き合いはこれで終わ

りそうもないようですね。面白そうというか、ちょっと不安です。

多分、また現れるでしょうね。うふふ。

 それじゃ~みなさん、またお会いしましょう“白い家”でした。』

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