森でクマさんではなくオオカミさんに出会ってしまった件

@tamu_tamu

○月△日

 森の中でゴブリン五体を仕留めたはいいものの、さすがに無傷とはいかなかった。手元にポーションはあるが、その金額を考えると何とか使わずに済ませたいところだ。

 傷を押さえておけば街までは何とかたどり着けるだろうが、さんざん我慢した挙げ句に結局ポーションを使う、そんな間抜けなことになるかもしれない、さあどうしたものかと悩んでいたところ、一人の女性が現れた。


 その女性はルプーと名乗り、こちらの傷を見て即座に手当をしてくれたのだ。

それも、ただの手当ではない。回復魔法を用いた手当で、たちまち痕もなく痛みもなく傷が消え失せたのだ。

 回復魔法にお世話になったことは何度かあったが、これほど効果てき面な回復魔法は初めてだ。

 その女性、ルプーさんに神々しさを感じる。だが、近寄り難い雰囲気はみじんもない。明るい口調で、

「これくらい朝飯前っすよ」と、言ってのけたのだ。感心とともに親しみをも強く感じる。


 ルプーさんの話を聞くと、メイドをやっており、俺と同じ街までお使いの途中だという。

ならばとばかりに護衛を申し出る。ルプーさんに申し出を受けてもらえ、ルプーさんは冒険者ではないが、街まで即席のパーティを組んだ。


 ルプーさんは先頭を悠々と進んでいく。周囲への警戒をしているように思えなかったが、ならばこそ俺が気をつけるべきなのだろう。

 もっとも、ルプーさんの二つの揺れる三つ編みが余りにも愛らしく、思わず注意が散漫になってしまうのだが。

 それに別の注意も必要であった。こちらがモンスター(というか、狼か)になって、ルプーさんに飛びかからないように理性を保つ必要があるからだ。

 この日記を書けていると言うことは、何とか俺の理性が保ち切れたと言えるのだろう。よく我慢した、俺。




 街に着くとルプーさんと別れることとなった。当然のことではあるのたが、ここ最近で味わった最大の落胆であった。

 だが、別れてから二時間程度たつかたたないかの頃、俺の泊まっている宿の部屋に、ルプーさんが訪ねてきたのだ。

 なぜここが?と疑問に思ったが、誰かに俺の居場所を尋ねたのかもしれない。そもそも探してもらったのだ、喜ぶことがあっても納得がいかないと思う理由は何一つない。


 メイドの仕事が終わったので会いに来て、メイド仲間を紹介したいと言われた。もちろん断る理由も存在しない。

 ソリュちゃんとエンちゃんと呼ばれた二人を紹介された。共に申し分なく美人の女性であった。

 メイドと言うからにはふだんは屋敷内で働いていて、冒険者は珍しいのだろう。

 その二人は俺のことをジロジロと見回している。それは失礼な視線ではなかった。腕がたくましい、足腰ががっしりしている、胸板が厚くてかっこいい、その他あれやこれやと褒めちぎってくる。恥ずかしさは感じたが、冒険者として悪い気はしない。


 ルプーさんが「独り占めしなさそうで安心したっす」と言っていた。

 両手に花といった展開が頭をよぎる。ルプーさんを入れれば両手でも足らない。ああ、うれしい悲鳴だ。

 そのうえ、今晩の食事に誘われた。逆にこちらから頼み込むかのような勢いで応じる。

「帰さないから覚悟しておくっすよ」とルプーさんに宣言される。食事だけでなく、その後も、その後のことも期待して良いのだろうか。

 降って湧いてきた素晴らしすぎる幸運に、ただただルプーさんの台詞にうなずくことしか出来なかった。


 今もこの日記を書く手が震えている。

 帰ってきたら日記にどう書こうか。まさかこの日記が年齢制限ものになるなんて。いや気が早すぎるだろうか。

 ともかく日が暮れるのが待ち遠しい。



……手記はここで途切れている。

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