第4話 唐突に電車が怖くなる

まだ職場に在籍はしてたその日、うっかり風邪までひいていた俺は、かかりつけの医者に行くべく、電車に乗っていた。

ら、事件は唐突に起こった。


あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!


『おれは満員電車に乗ったと思ったらいつのまにか

知らないお姉さんに抱かれながら 電車を降りていた』


な… 何を言ってるのか わからねーと思うが

おれも何をされたのかわからなかった…

頭がどうにかなりそうだった…


わりと綺麗なお姉さんだったから俺得だとか

そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…


って言う。


そのかかりつけの病院は、通ってるメンタルヘルス科のある大学病院ではないんだけど、同じ駅が最寄駅になり。

ついでに、家から職場までの通り道の途中がその駅で。

更に言うと、実家の最寄駅だったりもする。


病院までは、3駅。

そのまま乗っても良いし、途中で乗り換えても良いし。

と言うか、乗り換えた方が早いので、通常は乗り換える。

で、通勤のときは、乗り換えないと無理なので、やっぱり乗り換えてた。


それは7月の出来事で、学生さんは夏休みとは言え、ラッシュは避けたかったから、9時過ぎに家を出て、9時半くらいに駅のホームに着いたんだけど。


何故か、ホームに着いたとたん、何となく脈が早くなり。


あれ、どーしたかなー、不整脈かなー?なんて思っていたら、だんだん動悸が激しくなってきて。

早く電車に乗りたかったんだけど、タイミング悪く、反対方面の電車のドアに荷物が挟まったとかで、緊急停止ボタンが押されていたため、乗りたい電車は中途半端にホームに入ってきてるのに、停止位置ではなかったため、ドアがなかなか開かず。


緊急停止ボタンの問題解決までは、5分くらいかかったっぽい、停車位置に電車が動いてドアが開いて、乗り込んだ後で「5分遅れました(意訳)」ってアナウンス流れたから。


ただ、電車乗ったらぎゅうぎゅうではなかったものの、ワリと満員。

電車がなかなか動かなかったことで、ホームに人も多かったし、致し方なし。


で、乗って、人の波に流されて。

ホントはドア付近に居たかったんだけど、座席の真ん中あたりまで押され。

サラリーマン風のお兄さんがスマホ弄ってる前に立って、つり革に掴まってみたものの。

その頃にはもう動悸が激しいとかってレベルを超えて、何だか体がガタガタ震え始めていて。

1駅過ぎたあたりで、謎の限界を迎え。


ぼろぼろ泣きながら、しゃがみ込んだ。


なんか、もう、自分でもワケが判らないんだけど、不安と言うか恐怖と言うか、あの感情は何だったんだろうか。


とにかく、1秒でも早く電車から降りたかった。

窓が開く仕様だったら、飛び降りてたかも知れない。

それくらい、もう今乗ってる電車が無理だった。


俺が唐突に泣きながらしゃがみこんだことで、周りはざわつき。

目の前のお兄さんがあわあわしながら、席を譲ってくれようとしたんだけど、立ち上がることもできず。

そしたら、隣に立ってたお姉さんが、おもむろに俺に合わせてしゃがみこんで、大丈夫ですか?って言いながら、背中さすってくれて。

背中に触ったことで、俺が震えてるのが判ったらしく、すぐにさするのをやめて、肩を抱いてくれ。


「大丈夫、大丈夫、次の駅で降りましょうね。大丈夫だから。」


って、ずっと1駅付き合ってくれた。


で、都合よく、降りましょうって言ってくれた駅は乗り換え駅だったので。


「大丈夫?立てますか?一緒に降りましょう。」


って、支えながら、一緒に電車を降りてくれ。

何故か電車から降りたら、その時点で少し落ち着いたので。


「ありがとうございます、もう大丈夫です、済みません。」


お礼を言ったら、駅員さん呼びましょうか?って聞いてくれたけど、ホントに少し落ち着いて、震えも止まったので、大丈夫ですって返事して。


「・・・そうですか?じゃあお気をつけて。」


って言いながら、お姉さんは、次に来た電車に乗って行ってしまったので、ちゃんとお礼とかできなかったんだけど。


ホームで少しボーっとし、乗り換え路線は端と端なので、ぽてぽて歩いてる間にも、ドキドキはしてたけどそれなりにだんだん落ち着いてきて。

都合良く病院も混んでいたから、待合室で40分くらい待ってる間に、ほぼ落ち着いて。

普通に風邪の手当と薬を貰って、乗換駅でカフェラテ飲んで一息ついてから。


意を決して、さっきダメになった路線に乗ってみたけど、往路と違ってガラガラだったせいなのか、先ほどのような謎現象には襲われず、無事帰路に。


とは言え、帰宅しても、落ち着いたのは落ち着いたけど、不安と言うか、ドキドキしてるのが治まってたわけではなくて。


とりま落ち着こうと思って、ヨーグルト食べて、布団に転がってみたけど、何かまだちょっとドキドキが残ってたから。

お気に入りの、90センチあるアザラシの縫いぐるみを抱っこして、1時間くらい布団で寝転がってたら、ようやく安心できたというか、平常心に戻ったというか。


なんで、そんなことになったのか、原因は判らない。

可能性としては。


★月曜日に出勤して倒れたときと症状が似ているので、会社に行く路線のために無意識にネガティブな何かが働いた。

・・・そー言えば、いつも会社に行くときに立つ位置と(乗り換えに便利なので)同じホームの位置に立ってた。

★普通なら素直に入ってくるはずの電車が、イレギュラーに入ってこなかったことで、「普段と違う」現象にネガティブな何かが働いた。

★ここ暫く、満員電車に乗っていなかったため、久しぶりでネガティブな何かが働いた。

★最近は外出で電車にのるとき、いつも相方が一緒で、1人で乗ったのは先日の出勤時以来だったため、「1人である」とこに対してネガティブな何かが働いた。

・・・・そー言えば、相方と乗るときはホーム上の立ち位置が違ってた。


ざっくりと、思い当たるのはそれくらい。

とは言え、じゃあどれが原因なのかと突き詰めるために、1つずつ検証していくには、同じ症状が出ないとは限らないために、確かめる勇気と元気はなかった。


以来、今までは何でもなかった電車が怖くなった。

今住んでいるマンションのリビングは、日当たり良好で、景色もそれなりに好きではあったんだけれども、カーテンを開けると電車が見えるため、カーテンを開けることも出来なくなった。

電車が通るたび、聞こえる音が怖かった。

その度に、ガタガタと震えていた記憶がおぼろげにある。

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