第十一話 幸隆の最強の刀

 夜があけた。しかし、そこは冬の天気。完全には明るくならない。幸隆ゆきたか佐太夫さだゆう海野城うんのじょうの門の前に立っていた。佐太夫の草履ぞうりは、夕べの激走がたたってか草まみれになっていた。幸隆は、そんな彼の背から降りると、そのお尻めがけて弾丸の速度で蹴りをはなった。

 幸隆は閻魔様も恐怖しそうなほどの鬼のような形相で「丸腰で突入って、ボケか!?これで死んだらお前を末代まで恨んだぞ。せめて刀抜けボケ。その手はお飾りか!!!」と佐太夫の右腕をビシッと人指でさした。

 佐太夫は岩に彫られた似顔絵ほどびどうだにすることなく「何言ってんだ?何度も言わすな。死人がでたら、また気絶するだろ。そしたら、帰り際、喋る人がいなくて、俺は退屈だ。頭、大丈夫か?」と幸隆に淡々とした口調で言った。

 それに反応して幸隆は唇を噛みしめながら「てめぇ。いつかぶっ殺す」と言うのであった。

 すると、門がグワっと開き、十数名の海野兵が幸隆たちを取り囲み、兵士の間から「ぷぷぷ。ごきげんよう。」と幸義が腹が立つ顔で意気揚々と現れた。

 佐太夫の目は点になっていて幸義の存在を中々思い出せず「お前は誰だ?」と思わず彼に尋ねた。

 幸隆は佐太夫をボケかという目で見たうえで「テメェはどこに目がついてんだ。アイツは七光りの最上位互換の幸義だ。ちゃんと覚えておけよ。」と答えるのであった。

 幸義は怒りのあまり、太った体からみにくい汗をドバドバとだし「おバカさんどもめ。有象無象のカス野郎の分際で生意気だぞ!!」とその汚い汗を吹き飛ばすほどの大声をだした。

 佐太夫は、いつものように兵士に囲まれている、この現状に「......いい加減、飽きたぞ。」と、あのニコヤカナな表情はどこいったのかと思われるほどげんなりした表情をした。

 幸義はそんなのお構いなしに、その巨体に似つかない、小さな目を激しくニコニコさせて「ぷぷぷ。今度こそ、ワレに土下座しろ!!」とアホな豚みたいに叫ぶのであった。

 しかし、次の瞬間だった。幸隆は土下座するどころか幸義に塩爆弾を思いっきり投げつけた。塩爆弾は幸義の顔から落ちると爆発し、あたりを塩まみれにさせた。その間に幸隆は佐太夫を連れて逃げさったのであった。

 幸義は、あまりのショッパさと幸隆たちに逃げられたショックさで「......ショッパイよ。父上ぇええ。」とウェンウェンと泣き出してしまった。

 幸隆たちは海野城から少し離れた冬の曇天どんてんでなければ信濃しなのの山々を一望できる丘の上まで逃げ切ることに成功した。佐太夫は嬉しそうに幸隆まで駆け寄り「すげぇな幸隆!!。また、切り抜けた。」と笑った。

 幸隆は、なにやら悔しさがこみ上げたようで「スゴクねぇよ。」と言い返すのであった。

 予想外の幸隆の反応に佐太夫は驚いて「どうしてだ?」と尋ねた。

 幸隆は血相を変えて「俺は血が怖い!!。俺には才能がある。だけど、土俵に立つことすらできねぇんだ!!。どう頑張っても戦場に立てねぇんだ!!」唸り声をあげる猛牛のように佐太夫へと詰め寄ったが、そこで泣き崩れてしまったのだ。

佐太夫が幸隆に「なに、泣いてんだよ」と優しく語りかけると即座に言い合いが始まった。

「なんだ!!そのキョトン顔は、顔ごと燃やすぞ。」

「怖いこと言うなって。わかったぞ!!。ようするに俺がお前の刀になればいいんだろ?」

「あ!?何言ってんだテメェ。ぶっ殺すぞ!!」

「ちょっと待てって。俺は本気で言ってんだ。」

「お前みたいなボケナスが、どうやったら俺の代わりになるってんだよ!!」

「俺がボケだからだよ。俺は頭から綿埃がでてんじゃなかってほどボケだ。」

 幸隆は顔が少し笑顔になると「滅茶苦茶ボケじゃねぇか!!!」と言った。

 そして、佐太夫は「俺はボケだ!!だから、頭のイイお前が俺を操れ。俺はお前の最強の刀になる!!!」とたからない宣言をするのであった。

 幸隆は再びケンカ腰になり「嘘だろ!!」と叫んだ。

 佐太夫も負けじと「嘘じゃない!!」と反論した。

「嘘だろ!!」

「嘘じゃない!!」

「嘘だろ!!」

「嘘じゃない!!」

「嘘だろ!!」

「嘘じゃない!!」

「嘘だろ!!」

「嘘じゃない!!」

 二人は何度も同じやり取りをしたあと幸隆は「しらねぇよ!!でも、それが嘘がガチか、今の俺にはわからねぇ。でも、それが嘘だったら俺は許さねぇからな!!!」と今までで一番の大声をだした。

 佐太夫は人差し指で自分の目をさしたあと「この目を見ろ!!俺の目のガチな雰囲気を!!!」と、負けず劣らず大声をだした。

 幸隆は涙は消し飛ばすような大きな声で「わかるか!!」と言ってニッコリした。  

 そして、天気も気が付くと、曇天から快晴へと変わっていた。

 

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