第12話 Happiness 幸福というもの 加筆修正有2021.2.26/12.26

12.

" Things happen as expected. 予定調和 "



 慎一さんと写真展に行った翌々日、設樂課長に写真展に

ふたりで出掛けた報告をした。




 「あいつ、猫好きだからなぁ~。あぁ、それとあいつ独身だから」

 ぽそっと課長が言った。


 「良かったら時々猫カフェとか付き合ってもらえたら喜ぶと思うよ。

 男がひとりで猫カフェってちょっと痛いかもしんないし・・」


 最後の言葉は聞き取れない位呟きになっていた。

 側に他の職員が来たので、課長はそれきり仕事モードに

入った。



 何気に聞いた"あいつ独身だから"の言葉は、私がずーっと

気になっていたことだ。


 ここで初めて何となくクリスマスパーティや初詣の家族ぐるみの

お誘いは慎一さんと私の為のものだったのかもしれないと思い至った。



 慎一さんを好ましく思っているのだから、このままこの流れに

身を任せてしまいたい。


 慎一さん本人も、その兄である課長も奥さんや子供達、それに

ご両親に至るまで皆善良で素敵な人達だ。

 

 だけど・・・笠原くんの時と同じ。

 私には、問題がある。

 2才年上であること、バツイチであること。


 課長は2年前に配属されてきた上司だ。

 私のことをどこまで知っているだろう。


 また同じようなことで悲しい思いをしたくはない。

 慎一さんを手放したくないほど好きになる前に、彼からもう少し

具体的なアクションがあった時、自分の身上話を伝えておこうと思う。



12-2.



 しかしそうは言っても設樂家の面々を思い浮かべる度に

不思議なのだけれど、何故か心震える未来が待ち受けているように

思ってしまう。


 幸せが簡単に手に入らないことくらい、私だってよく分かってる。


 なのに、どーしてこんなに心が震えるのだろう。

 今まで30数年間生きてきてこんな気持ちになるのは初めてのことだ。


 元夫との交際や結婚が決まった時でさえ、幸せを感じた瞬間は

あったけれど、自分のまだ決まっていない未来に心振るわせたことは

一度もない。


 まだ付き合ってさえいないのに、来るべき慎一さんとの未来に

心震わせているのだ。


 来るよ・・来るよ・・私にとって素晴らしいもの、ううん、人?

考えれば考えるほどこれって慎一さんと結婚して設樂課長他、設樂家の一員になってクリスマスイヴの夜のようにずーっと幸せなメビウスの輪のような

時間軸の中に入って行くっていうことを指しているように思えて

ならなかった。


こんな風な想いが止まらない。


 私にはそういう何か予知出来る能力なんてないけれど、ここっていう時に

一度くらいそういった人智では計りきれない能力が人には備わって

いるのかもしれない。


 ・・とは言うものの、あまりに都合よすぎて半信半疑でもいた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る