刑事・百目鬼学と芹凛

鮎風遊

はじめに

 名は体を表す通り、百目鬼学どうめきがくという鬼のような刑事がいる。

 昔風に言えば六尺を超える大男。ゴツゴツといかつい身体に目が鋭い。その上、喋りがぶっきら棒。いかにも近寄りがたい。

 そんな百目鬼、多分昔気質むかしかたぎなのだろう、信念を曲げたことがない。

 それは刑事として当たり前のことだが、何人なにびとが犯した犯行であっても、絶対に暴いてやる、と熱い。まことに立派なことだ。


 しかし、それだけでは事件の解決はできない。情報を集めるためのな足も必要だし、柔軟な思考も欠かせない。

 そこでお天道さまは、縁は異なもの味なものってことだろうか、百目鬼に絶妙なる部下を持たせたのだ。

 名を芹川凛子せりかわりんこという。

 背がスラリと高く、現場へと駆ける折は長い黒髪をさらさらと後方へとなびかせる。なかなかの別嬪べっぴんだ。

 いや、見ようによっては、少女の面影を残すレディだと言っても過言ではない。

 さあれども、黒縁眼鏡の奥から睨み付けてくる眼差しは鋭く、上司以上に悪に対する正義感が強い。

 そのためか百目鬼さえも時として、ブルブルと戦慄わななかされることがある。


 あっと、自己紹介が遅れました。

 僕は、正面玄関に交通安全と防犯の幕がいつも垂れ下がってる警察署、そこに棲む、フクショチョウとあだ名されてる黒猫です。

 さて、もう幾年月になるでしょうかね?

 神さまの悪戯だけでは説明できない百目鬼刑事と芹凛せりりんこと芹川凛子刑事の出会いがあり、それからずっとこの二人の活躍を目にしてきました。

 そして最近思うようになったのです。二人が解決してきた事件、こんな面白いミステリー物語はない、と。


 言い換えれば、独り占めしておくのはもったいないということでして……、ここに謹んで、そのいくつかの物語を紹介させてもらいます。

 それでは――、さっ、はじまり、はじまり!


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