【The Epilogue】

 私の主人は、滑稽だった。

 

 自分の右手を見つめると、あの温もりを、今でもつぶさに思い出せる。

 血濡れた重みを。

 雛鳥のごとく小さく震える、あの異様な感触を。

 ――ファウラの心臓の、温もりを。


 ファウラの子は、心臓に欠陥を持って生まれた。

 生きるすべの無い赤子だった。


 そんな赤子のために、自らの心臓を使って呪書代替臓器を編んだファウラは。

 やはり私が知る中で、最も愚かな女だった。


 私の主人は、もう居ない。


 子の左手に宿るのは。

 私が殺した、愛しい主人の心臓だ。

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