二話

 高坂鋼屋は、小坂井せつなの家族のことを『絵に描いたような幸せそうな家族』と表現していた。

 そしてその表現を借りるなら、矢霧燈花の家族は『幸せな家族を具現化したような家族』だった。

 親二人に、子供一人の三人家族。

 決して金持ちではなかったが、一軒家を構えることが出来る程度には収入があった、極々一般的で、非の打ち所のない家庭だった。

 両親は一人娘の矢霧燈花を溺愛していて。

 矢霧燈花は、そんな両親を尊敬していて、愛していた。

 そんな三人が住んでいた家は、偶然にも、小坂井せつなの家の近くに、建っていた。


 もし高坂が家の中で一人泣きじゃくっている小坂井に注視したりせず、もう少しだけ首を動かして、周りを見ていれば、きっと気づくことが出来ただろう。

 二つの上下が揃った服の前で、呆然と膝をついて立ち尽くしている幼き頃の矢霧の姿に。


「あの時はまるで意味がわからなかった。いや、理解(わか)らなくて当然か。なんせその時には、私たち超能力者はその才能を開花してなかったし、あんたたち欠陥能力者は暴走し始めたばかりで、誰もその存在を知らなかったんだから」

 矢霧は小坂井の手を踏みつけたまま、彼女の目を覗きみる。

「ねえ、知ってる? 欠陥能力者が外ではなんて呼ばれているか」

「……『時計がついてない時限爆弾』」

「そ、いつ爆発するか分からない。どの規模で爆発するかも分からない不発弾。そんなものを懐に入れて置けるほど、人は人が出来てない。あんたたちはすぐに拒否されて、拒絶された」


 それ自体は別に良かった。なんなら胸がすっとしたぐらいよ。と、矢霧はあざ笑うかのように言って。


「けどね」

 首の辺りを押さえながら続ける。


「喉に小骨が刺さったままみたいな、そんな違和感だけはずっと残り続けた。私のお父さんとお母さんを消したあいつが、今もまだどこかで、晴天の空の下で虐げながらも、のうのうと生きている。それだけがずっと気がかりで、苛々した」

 ヒントは青髪だということ、女子だということ、人を消すことができる能力だということ。


「正直言って無謀な事だと思ったわ、けど、やらずにはいられなかった……いや、やらない訳にはいかなかった。このまま諦めたら、きっと私はお父さんとお母さんの死を受け入れた事になる。受け入れて、乗り越えて、踏みにじって、二人を捨てていくことになる。二人を忘れて、過去を置いていくことになる。それだけは私には出来なかった」


 長い前髪の合間から垣間見える小坂井の目を見据えながら、矢霧は吐露する。

 なんというか、少し雨夜と似ている境遇ではあった。

 呪縛のごとく、二人の人生を縛りつける過去。

 共に家族を外的要因で、理不尽に失ってしまい、その怒りを相手にぶつけている。

 違う点があるとすれば。

 一人は過去にしがみついてしまい、動けなくなり。

 一人は過去から目を逸らして、結果的に前を向いている。

 そんな二人の意見は今、小坂井せつなを挟んで、対立している。

 助けるか、倒すか。

 共に相手を否定して、自分を肯定している。

 両方が両方を肯定する方法は、ない。 


「あんたを見つけるために、私はなんでもした。『超能力』という才能に開花してからは、その絶大な権力だって利用した。あの怪力骸骨にも言ったけど、恨んでいる人がこの世にいるから、あんたらみたいな無条件に嫌われる存在がいるから、私たちは『ヒーロー』として社会に迎合できた」


 そこだけは、あんたに感謝しないとね。

 そこだけは。

 矢霧は強調しながら、そんな事を言う。


「そうして私は迎合するためにいざ仕方なくヒーローをし続ける傍ら、あんたを探し続けた」

 そうして私はあんたを見つけた。


「あんたを退治してほしい。と、私に頼み込んでくる人がいた。まあそれが誰なのかは、個人情報保護の観点から、まあ非公開にさせてもらうけど、ともかく、そうして私はあんたの居場所を見つけだして、私がなにか失う必要も無く、あんたを潰す大義名分を手に入れた」


 分かる?

 矢霧は足に更に力を込めながら、言う。

小坂井の目に涙が浮かぶ。


「これは私なりの復讐なの。復讐した所で、お父さんとお母さんは帰ってこないけど、私はすっきりする。小骨がようやく消えて、私は前に進める……ねえ?」


 と、唐突に。

 矢霧はアゴを上げて、背中側に体全体を逸らして、向こうを挑発的に見下すようにして見た。

 小坂井もその視線を追って向こうを見た。

小坂井が逃げようと必死に走っていた道の先、暗がりの中にポツンと存在する電灯の下に、一人の少年が立っていた。

 その少年はさっきまで走り回り続けていたらしく、息を切らしていて肩を上下に揺らしている。

 長身痩躯の体躯、まるで針金細工のような手足は不自然に長い。

 白髪が混ざっているようにも見える色素が抜けた黒髪を、目に入らない程度に切り揃えたそいつに、矢霧は言う。

 過去にしがみつく、自分の為に他人を利用する、ヒーロー失格の彼女は言う。


「あんたはそれでも、こいつを庇うと、助けると言うつもり?」

「それでも庇うし、助けるよ」


 対して雨夜はそう返した。

 過去から目を背ける、他人の為に頑張ろうとしている、ヒーロー未満な彼は返した。


***


「ふうん、なるほどね。あんたが『雨夜維月』か」

「あれ、僕お前に名乗ったっけ?」

「こいつがさっき『雨夜維月』に連絡したのは知ってるから」

「なるほど」

「あ……」


 来た。本当に来た。

 雨夜維月がここにやってきた。

 助けを求めたら、本当にやってきた。

 たったそれだけの事なのに、小坂井の心には安堵と安心が生まれていた。

 今の今まで死の恐怖しかなかった心の中に余裕が生まれた。

 これ以上ないぐらいの安心感だった。

 まだ助けられた訳ではない。

 なにか事態が好転した訳でもない。

 ただ雨夜がここに現れただけだと言うのに、小坂井はもう嬉しくて嬉しくて涙を流してしまいそうだった。


「まあさっきの話を聞く限り間違いないとは思うけど、間違うはずがないとは思うけど、一応聞いておくな」

 僕、お前と会ったときの記憶がないからさ。

 雨夜は一歩前に踏み出しながら聞く。


「お前は、小坂井の敵で間違いないんだな」

「そうだけど」

「なるほど、じゃあ僕の敵って訳か」

「ストップ」

 雨夜がもう一歩踏みだそうとすると、矢霧は片手を前につきだして、それを制した。


「動くなよ、ヒーロー気取り。動けば私はこいつの首を問答無用で踏み砕く」

 手から足を離した矢霧はそれを小坂井の首の上に移動させる。

 小坂井は小さくうめき声をあげる。


「少し話をしましょうよ。ヒーロー気取り」

「……」


 矢霧は小坂井を踏みつけながら、雨夜を嘲笑するように口元を歪める。

 少しでも動くのなら、この細首を踏んづける。

 彼女はそう言っているようだった。


「あんた、今の話を聞いていたでしょ?」

「聞いてた」

 雨夜は半歩後ずさりながら答える。

「どこから聞いていた?」

「あんた、人の親を殺しておいて、知らないとかぬかすつもりって所から」

「殆ど最初からか。どうして乱入したりとか考えなかったの?」

「普通に驚いて、タイミングを見失ってた」

「それで、タイミングを見失うほどの驚きを聞いても、あんたはまだ、こいつを守ると言うつもり?」


 小坂井は首を踏みつけられて苦しそうに呻き、目に涙を滲ませながら雨夜を見る。

 雨夜は特に肯定も否定もする訳でもなく、矢霧の言葉を聞いていた。

 ふう、と雨夜は息を吐く。


「助けると言うつもりだ」


 ビキリ、と音がした。

 なにかが破壊された訳ではない。

ただ、矢霧が青筋をたてただけ。それだけなのに、音が鳴ったと小坂井は錯覚してしまった。


「そいつを渡せば、見逃してあげると言っても?」

「そんな風に助かっても、嬉しくねーよ」

「……あんたさ、聞いてたんでしょ、今の話を」

「聞いてたよ、そいつがお前の両親を暴走に巻き込んで、殺したってことも」

「あ……」


 小坂井は消え入るようなか細い声をだした。

 死にそうな声だった。

 そもそもこの争いに、小坂井たちに『正義』はない。

 間違えたのは小坂井であって、彼女に殺されても、まあ仕方ないといえば仕方ない。

 小坂井の心は、矢霧にその話を聞かされてから、既に折れていた。

 助けを望んでいたけど、自分は助けを望んではいけない存在だと思ってしまうぐらいに、彼女の心は折れていた。


「けど」


 そんな小坂井を一瞥してから、雨夜は言った。


「そのぐらいだろ」


 前髪の奥に隠れた、小坂井の両目が見開いた。

 その桜色の唇は何かを喋ろうと必死に動くが、言葉は何も出てこない。


「はあっ!?」

 矢霧は声を荒げる。

 雨夜はぎこちなく、首を傾げる。

 ぎぎぎ、と油が切れたロボットみたいな挙動だった。


「おかしいか? 暴走時に人を巻き込むなんて、この街じゃあ、別段、珍しい事じゃない。それこそ、街一つ凍らせた奴だっている。むしろ、暴走で人を巻き込まないで済んだやつなんて、殆どいないだろ」

 僕は自分の体を壊しただけだから、まあ周りを巻き込んではいないけどな。と雨夜は続ける。


「けど僕だって、僕を助けてくれた孤児院を崩壊させてしまった。だから僕らは嫌われて当然の生き物なんだよ」

 だから僕らは隠れている。

 こんな山奥にひっそりと暮らしてる。

 誰とも関わらないように。

 誰も傷つけないように。


「……嫌われて当然だと思ってるなら」

 沸々と怒りを煮えきらせながら、矢霧は言葉を吐く。

「だったら、抗うなよ悪役ヴィラン。当然だと受け入れて死ねよ」

「嫌だよ」


 雨夜はさらりと返した。

 矢霧の額に、青筋がもう一本増えて、辺りの空気が更に熱せられ、歪んでいく。


「確かに僕らは嫌われて当然なのかもしれない、暴走が罪ではないとされていても、それでも、世間一般から見たら悪役なのかもしれない」

 けどさ。と雨夜は続ける。


「だからって、死を受け入れろなんて無理な話だろ。僕らだって、人間なんだぜ?」

 悪役が足掻いちゃあいけないルールはない。

 悪役が幸せになろうと思っちゃいけないルールも、ない。


「……」

 小坂井は無言で手を伸ばして、指を地面に喰いこませる。

 ――そうだ。

 ――足掻いちゃあいけない訳じゃないんだ。諦めちゃいけないんだ。

 ――諦めたら、ここまでせつなを助けてくれた、駆けつけてくれた彼に、申し訳ない。


「あっそう」

 矢霧は冷静さを見せつけるように、落ち着いた口調で言う。

 しかしその声色には、怒気が見え隠れしている。


「じゃあ悪役は悪役らしく、惨めに敗北しろ」

 矢霧は足に力をこめる。

 そのまま矢霧は、小坂井の首を踏み潰そうとした。

 しかし、それが実行されることは無かった。

 それよりも先に、小坂井がかき集めていた砂や小石とかを、矢霧の顔めがけてぶちまけたからだ。

 雨夜が行った目隠し――ではなく、目や口、果ては鼻の穴までを狙った目潰し。

 『人形師ハウンドプライズ』のぶちかましを受け止められる程度の肉体強化が施されている超能力者でも、さすがに目に異物がはいってきたら瞼を閉じる。思わずのけ反ってしまう。

 その隙に小坂井は、拘束から脱出を果たした。


「せ、せつなたちは、悪くない……っ!」

 そう言い返して、小坂井は再び逃走を開始する。


「っ……待てこの欠陥能力者ああぁぁ!!」

 目に入ったゴミを払いのけ、矢霧は叫びながら、小坂井を追いかける。

 二人の間には少しの距離が開いていたが、矢霧はさっきのT字路の時のように、地面を蹴り飛ばし、一気に跳躍した。

 右手に炎をまとい、自分に背を向けて逃走している小坂井の背後に迫ると、そのまま小坂井にとどめを刺そうとする。

 隙だらけの小坂井の背中めがけて、炎をまとった手刀を、繰りだした。


「――ひ、ああぁぁ!?」

 肉を貫く感触に、肉が焦げる臭い。骨肉が裂ける音がして赤い鮮血が飛び散り、小坂井は悲鳴をあげた。

 ただ、その裂けた骨肉は、小坂井のものではなかった。


「ナイスだ、小坂井」

 その間に、小坂井と矢霧の間に遮るようにだされた手のひらを、矢霧の手刀は、貫いていた。

 雨夜はその炎を纏った手刀を掴む。

 その握った手刀は炎をまとっていた。

 だからその手は一気に焼けて、雨夜は「あっつ!」と叫んで、膝を曲げた状態で突きだし、矢霧の腹部あたりを、靴底で擦りつけるように、蹴飛ばした。

 矢霧の体は少し後方に弾かれて、手刀は手のひらから離れる。


「ほらさっさと逃げろ。ここは僕が喰いとめる!!」

 小坂井は一瞬迷うように、おろおろしていたがここに彼女がいた所で何か役に立つ訳じゃない。むしろ足手まといになるだけだ。


「気を、つけて……っ!」

 小坂井はそう叫んでから、すぐに逃げだした。それが自分が取れる最善の一手だと信じて。


「ああ、分かってるよ」

小坂井を肩越しに見ながら、雨夜は風穴が空いてしまった手のひらをだらりとたらした。


「逃がすと思ってんのっ!」

「思ってねえから、僕がこうして残ってんだろうが!!」


 雨夜は小坂井を追おうとしている矢霧の眼前まで一気に迫る。

 自分の爪が、自分の手のひらに喰いこむほどに力を込めて、拳を握る。

 追いかける隙はつかせない。

 隙をつくるつもりもない。

 上半身を捻って加速をつけて、雨夜は矢霧に殴りかかった。

 対して、矢霧は避けようとさえしなかった。


「はっ」

 ただ鼻で笑って、靴底でアスファルトの地面を一度蹴った。

 瞬間、地面は膨張しそのまま爆発した。

 アスファルトの塗装はその爆発によって砕け散り、さながらショットガンの弾のように、雨夜に襲いかかる。


「ぬがっ!?」

 体が炎に包まれ、アスファルトの破片に襲われ、雨夜の体は吹き飛んで、回転しながら宙を舞う。

 全身くまなく這いずり回る痛みに顔を歪めながらも、宙を舞う雨夜は目を見開いて、矢霧をしっかりと捉える。

 矢霧は。

 赤髪を逆立たせながら、片手をピストルの形にして、雨夜の方に向けていた。

 その指の先には、ライターでつけたような小さな炎が浮かんでいる。

 悪寒がはしっていた。たかたがライターでつけたような小さな炎に、恐怖を抱いていた。


「燃え尽きろ」

 そして、その恐怖は現実のものとなる。

 矢霧が言い切った直後、指先に浮いていた炎が爆発するように、膨張した。

 矢霧の指の先から放たれたのは『火の玉』だった。

 巨大な火球。

 雨夜一人を焼き尽くすには充分すぎる大きさの炎の塊が、弾丸のように飛来した。


「う、おおおおぉぉぉぉぉ!?」

 雨夜は腹の底からの絶叫をあげながら、地面に靴底がついたのと同時に、その軌道上から飛び退いた。

 火の玉はそのまま軌道上にあったものを割り、貫き、溶かして、我侭顔でやりたい放題焼き尽くしたあげくに、消えていった。

 火の玉が通っていった場所には何一つ物が残っておらず、そこから炎は広がり、辺り一面が炎に包まれ始めた。

 炎に照らされ、二人の姿は朱色に染めあがる。


「あちゃ、やり過ぎたか」

 その豪火に照らされながら、矢霧は気楽な風につぶやく。


「ま、いいか。どう、これで分かった? あんたと私の間にはこれだけの力の差がある。楯突くだけ無駄だと思うけどっ!」

 矢霧の片腕が消えた。

 それは比喩的表現でもなんでもなく視覚的に、片腕の肩から先全てが消えた。

 雨夜は咄嗟に、顔面を守るべく両手を眼前でクロスさせる。

 が、矢霧の一撃はまるで腕自体が弱点になってしまったかのように、防御の上から雨夜の全身を、衝撃で貫いた。

 クロスしていた腕からは太い木の枝が折れたようなぐもった音がして、華奢な雨夜の体はいとも簡単に吹き飛ばされる。

 地面に何度も激突しながら、雨夜はまるで西部劇にでてくるような回転草のようなものに変貌する。

 ゴロゴロと床を転がり、そのまま壁に激突。

 転がっている途中に頬でもかんだのか、口から一筋の血を流しながら、雨夜はゆっくりと立ち上がる。

 視界はぐちゃぐちゃに溶けていて、補正しようにも意識が混濁していて上手く出来ない。


「それでもまだ楯突くつもり? 私としては、二人も相手するのは面倒だから勘弁してほしいぐらいなんだけど」

 そんな事を言う割には、彼女のその口調には『一人相手するのも二人相手するのも一緒だけどね』と言いたげな、余裕ぶったものがあった。


「……ああ、本当だな。すげー分かりやすい」

 雨夜は口元からたれる赤い血を親指で拭う。

 しかしどうしてか、その声色には恐怖とか後悔とか、そういった負の感情は含まれていなかった。

 むしろ、まだやる気だと言わんばかりの勝ち気な声だった。


「あんた、まだ――」

 それが気にさわったのか、矢霧は眉をひそめながら何かを言おうとした。

 しかし矢霧はその先を言う前に固まってしまった。

 鼻から血が流れている事に気づいたからだ。


「あの時の……? まさか」

「全力でやったのに、かすりしかしなかった」


 いつの間にか。

 降り続けていた雨も、ポツポツとやみ始めていた。

 よろよろと雨夜は歩き、再び矢霧の前に立ち塞がる。

 体の調子はすこぶる悪い。悪すぎると言ってもいい。

 既にその意識は朦朧とし始めているし、片腕は折れている。

 あちこちにガタもきている。次に瞬きしたら、もう二度と目を開けないかもしれない。

 けど、だからと言って。

 雨夜は逃げることはしない。

 自分を守るために、周りを見捨てて逃げたりしない。

 だってそんな事をして生き残ったとしても、彼にとってそれは、死んだと同じだから。


「次は当てる」

 雨夜はふう、と息を吐く。

 後ろには自分を頼ってくれた、守るべき相手がいる。

 だから雨夜は、倒れる訳にはいかない。

 今まで自分のために動いてきた少年は、せせら笑いながら敵と相対する。

 今までの自分のように、自分の為に動いている敵と相対する。


「さあ、名乗らせてもらうぜ、口上をあげさせてもらうぜ。ヒーロー然として、名乗りあげるのは必然的ルールみたいなものだからな」


 腰を両手で挟み込むように叩く。

 両手の甲を少し垂らして、両腕を交差させながら前に勢いよくつきだす。

 子供の頃に考えていたポーズを決めて。

 子供の頃に考えていた口上をあげる。


「『人形師ハウンドプライズ』雨夜維月! 僕の大切を傷つける奴はぶっ潰す!!」


 ――さあ、ヒーローを始めよう。

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