第33話 花鳥風月 ヤマトの視点

 花番と風番の呪術で、鳥どもが枯れ葉のように落ちていく。

 呪が効きにくい相手は物理攻撃専門の鳥番が仕込み刀で切り裂く。人形の体の何処から出てくるか分からぬ刀はさぞ避けにくかろう。


 ヒナミと接続した花鳥風月の様子を探るべく狂鳥の餌場で戦闘をさせてみたが………思った以上に強い。


「さぁみんなどんどん、やっちゃてー!」

 ヒナミの命令を受け呪物兵器達が動く。

 こやつらは賢い。

 先程のような曖昧な命令でも、宿主の意志を汲んで動くのだ。

 

 防御専門の月番はヒナミの防御を固め、他の人形達で連携までしている。

 

 

「……ここまで厄介とはな」

「え! ヤマト、何か言った?」

「いや……何も」

 ヒナミは楽しそうだ。

 自分の言うことをよく聞く玩具を手に入れて機嫌がいいのだろう。


 だが、ヒナミは良くわかっていない。

 今の自分自身の力を。


 そもそも呪物兵器は使い捨ての特攻兵器、特攻隊だ。

 人を呪わば穴二つ。

 呪いの力は、代償は使用者に跳ね返るが道理。

 兵器に命令し対価を受け取った者は……代償に命を吸われる。

 呪いの代償は凄まじく、攻撃性の高い呪物兵器なら一体使うだけで命を吸い付くされる。それも、半日程で。

 使用者が生け贄と言われる由縁だ。

 

 だが、ヒナミは。


 俺の呪いが効かぬのだ。おそらくヒナミは大丈夫と考えたが……それがこれ程までとは。

 

「あ! でっかいキョウリュウが出てきたよ! ヤマト、ヤマトあれ倒せるかな?」

 ヒナミが不安そうに聞いてくる。


「……ソイツらとヒナミなら大丈夫だ」

 俺は嘘を言った。

 流石に狂鳥は倒せまい。更に花鳥風月の連番を接続すれば別であろうが、今の四体では厳しい。


「そう? でもでも危なそうになったら助けてよ?」

「わかった」

 試しにどれ程までいけるか、見てみたい。

 危険となれば直ぐに助けよう。


「じゃあ、みんな頑張ってこぉー!」

 人形たちが獲物きょうちょうに向かって行く。

 

 狂鳥は強い。

 硬い鱗。鋭い足爪。口の牙。

 何より厄介なのはその大きさ。

 膨大な体を使った踏みつけは食らえば即死。

 さらに狂鳥、その名前の由来となる特性。

 傷を負えば負うほど狂暴に、そして素早くなる。理性と血を引き換えにした生態呪術特性を持っているのだ。

 あれが、あれほどの大きさが素早く動くなど悪夢でしかない。

 故に、狂鳥を狩ろうとするなら一撃必殺を狙うのが正道。

 出来るだけ体に傷をつけず、脳や心臓を狙うのだ。

 動きの鈍いうちは出来る。さて、それを知らぬヒナミはどうするか。


 風番、花番は比較的遠くから呪術を撃ち始めた。狙いは顔のようだ。

 鳥番は狂鳥の足を刀で切りつけている。機動力を削ぐのが目的と見た。

 

 他の場合なら健全なやり方だが相手は狂鳥。傷を増やすだけなので当然、悪手だ。

 

 ____ごゴぉオオオオオ!?


 狂鳥が吠える。

 体に赤い呪紋が浮かんできた。これから狂鳥の真義が発揮される。

「えぇえー、何かすんごく強そうになってるよ、ヤマトー?」

 ヒナミが泣きそうな顔で、いや実際に涙目だなあれは。見てくるが、俺は返事はしなかった。


「無視された!?」

 ヒナミは驚いた様子だ。


「ううぅ、みんな頑張ってー!」

 ヒナミが言う。

 曖昧な命令だ。

 だが、それで人形は動く。


 暴れる狂鳥の足を、鳥番は器用に避ける。

 鳥番に集中している様子を見たのか、花番、風番が更に呪術を重ねる。

 効果は薄い。

 狂鳥は、呪術特性が高く、呪紋が浮かんでいる状態ではさらに抵抗力が上がる。


「うう、てやー!」

 ヒナミも風術を飛ばす。

 なかなか威力が高まってきたが鱗を切り裂く程度で止まる。

 いたずらに傷を増やすだけだ。


 流石に狂鳥は相手が悪かったか、と助けに入ろうとした時。

 

「お! やったぁ!」

 ヒナミの放っていた風術の一つが狂鳥の腕を切り落とした。


「何?」

 何が起こった?

 ヒナミの術にそれほどの威力は未だ無いはず。

 じっと魔力に目を凝らす。

 

 ヒナミが風術を放つ、そして、俺は見た。

 ヒナミの放った風術に人形どもが、月番、花番、風番が呪術を


 考えもしなかった。

 ヒナミ自身に術は効かぬ、しかしヒナミの放つ術には?


 呪物兵器の呪が盛大に乗った風術は、威力が増し増しになり狂鳥を切り裂いていく。

 

 ____ごゴぉオオオオオ!?


 右足を切り飛ばされた狂鳥は、転び、それでも体をくねらせ、もがきながらヒナミに迫ってくる。

 動きは俺が見た中で一番の早さだ。こうなった狂鳥は決して逃げぬ、ただ己を傷つけた相手に向かって行く。

 その相手を食い殺そうと目を見開いて。


「ひぃいいい!? やーまーとー!!」

 ヒナミは狂鳥を見て怯えているようだ。

 そのまま術を頭か心臓に向けて放てば相手は死ぬというのに。


「……やれやれ。ヒナミそこを動くな」

 

 俺は走った。

 ヒナミの脇を通りすぎて狂鳥に向かう。


 もはや、狂鳥は俺など見ない。ヒナミだけを狙っている。

 

「……すまぬな」

 故に簡単だった。もがく狂鳥の頭に、随時と低い位置に晒しているその頭に刀を差し込むことは。

 

 狂鳥よ、俺など眼中になしか。

 ……貴様は正しい。

 

 俺はヒナミのことを低く見積もっていた。

 

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