第9話 適性って何おいしいの?

 私は、何かヤラかしてしまったのかもしれない。

 ヤマトとヒツジさんの反応で不安になった。

 えーと、確かこのロウソクの火の色で適性とかが分かるらしい。


 でも、ロウソクの火はすぐに消えた。それがおかしいのかな?


 マッチの火はまだ残っている。

 私はもう一度ロウソクに火を移す。ロウソクに火が点いた。すぐに消えた。火を移す。点いた、消えた。移す、点く、消える。

……5回ほど同じことを繰り返す。結果は全部同じ。

「ちょっと! これ、不良品じゃないのー」

 私はヒツジさんに文句を言ってみた。


「いえいえ、そんなはずは……」

「店主、いい。……ヒナミそれを貸してみろ」

 ヤマトは私からマッチを取り上げて、ロウソクに火を点ける。火は消えず、濃い青色になった。


「おかしなところは無いな」

「むうー」

 きっとすぐ、いやもう消えるはず、とロウソクの火を観察していたけど……消えない。青色の火がゆらゆらとロウソクに点っている。


「フゥー」

 ヤマトはロウソクに息を吹きかけて、消した。


「さて、これでおかしいのはヒナミであることが判明したが。弱ったな」

「……何が弱ったの」

「ヒナミの適性が分からん」

「……きっと私には適正なんてありませんよーだー!」

 ヤマトだけ上手くいくなんて、変態のくせに、生意気だ。私は拗ねた。


「適正無しか。そういうモノも、稀にだがいる。だがそういう場合、ヒト見の蝋燭は通常の色の火を点すだけだ。消えたりはせん。……だろう店主?」

「ええ。仰る通りです。この蝋燭の火が勝手に消えるなど、初めてです」

「だが消えた。この蝋燭はどうやってヒトの適性を判じているのだ?」

「……この蝋燭は、火を点すモノの魔力を読み取っています」

「ということは……ヒナミには魔力がない?」

「いえ、ヤマトさま。そのようなヒトは存在しませんし、できないでしょう」 

「ではなぜ火が消える?」

「……おそらくですが、ヒナミさまは蝋燭の干渉を絶っているのでは?」 

「干渉を絶つ、か。……なるほど。だから奴隷の首輪も……いや、だが首輪に呪印は付いた。術の効果も正常。しかし、ヒナミに命令しても効かない。これは……」

 ヤマトが何か考え込んでる。でも無駄だと思う。ヤマトは、アホだから。


「アホー、アホー」

 小声でこっそり、考え込んでる様子のヤマトを馬鹿にしてみた。


「ふ」

 げ。聞かれてた。ヤマトが私をじろりと睨みつけて、鼻で笑う。ヤマトの顔にはいやらしい笑みが浮かんでいる。私はゾッとした。女の勘が働いたのだ。きっとヤマトはロクでもないことを考えている。

「店主。ヒナミに術を放て。風でよい」

「何ですと!?」

 術ってなんだろ? 風?

 ヒツジさんは慌てている様子だけど。


「いや、ヤマト様それは……」

「良いといったであろう。ああ、首輪は心配ない。ヒナミの主としてする。不安なら威力は抑えめにしてくれ。少し切るくらいでいい。ほら、術代の一朱銀だ」

 そう言ってヤマトは、長方形で小さい銀色の物をヒツジさんに渡す。

 あれってお金なのかもしれない。

「……商売人として、お得意様に代金を頂いたとしても、断る権利はございますが?」

「大丈夫だ。……ヒナミは俺の呪が効かない。これがどれほどの異常か、この街の住民なら分かるだろう。威力を抑えた術など効くはずがない」

「しかし万が一……」

「今後、ヒナミは塔に挑む。ヒナミに何ができるか、調べる必要があると思うがな。なあに、術の制御にかけては店主ほどの腕前はそうはおらん。言ったであろう? 不安なら抑えめでいい、と」

「はあ。……わかりました。確かに私は威力はあまり出せません。しかし制御は自信がございます。やってみましょう」


 ヤマトとヒツジさんの話が終わったみたい。ヒツジさんが私を見た。


「ヒナミさま。失礼します。……風術―鎌鼬かまいたち

 ふわっとした風が部屋の中に吹いた。ふわー、涼しくて気持ちがいい。


「ほお。やはり効かぬか。これは……いい拾いモノをしたのかもしれん」

「なになになにー。何があったの、ヤマト?」


「……お前には術が効かん」

「術って?」

「ふむ。先ほど店主にヒナミに向かって風術を撃ってもらったのだが」

「何、風術ってー?」

「どう言えばわかるか……そうだな。風の力で鎌鼬かまいたちを起こしてもらったのだ。これを撃たれると、切れる」

「何が切れるの?」

「主に体だな。威力があれば、ヒトの胴体くらい真っ二つにできるぞ」

 ……何ナニ? えーと、話をまとめるとこうなる。

 ヤマトはヒツジさんにお金を払って、人の胴体をちょんぎれるだけの風術を、私に向かって撃ってもらった?   


「死ね! あほー!?」

 目だ。目を狙うのだ。私はジャンプした。身長差があってそのままでは私の拳はヤマトの目に届かない。私の怒りを乗せた右拳は、またしても空振りに終わった。

 ……でも、一発じゃあ諦めない。

 着地と同時に、二発目を放つ。一発目はフェイク。左手を握りしめて、……男の人の大切な場所を狙う。フフフ、もしもの時はココを狙うと良いとお母さんが言っていたのを思い出したのだ。

 見ててお母さーん! 


「そりゃあーーー!」



「ほう。なかなか的確に狙ってくるな」


 あ! ……左腕も空ぶった。……くそう。 

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