第8話 月待の露店通り

 月街の露店通り。


 そこは、夏祭りの屋台が並んでいる通りに近い。

 でも通路は、広い。お祭りや縁日のように、狭い場所に人がギュウギュウ詰めという感じじゃない。

 露店には服とか、刀とか、瓶の中に変な色の液体のようなものが沢山入っていたりとか。

 お人形屋さんもあるし、食べ物を売っている店もある。


「あ! あれリンゴ飴だよね。食べたい食べたい」

 露店の中にリンゴ飴を売ってる店を見つけた。お祭りの日はいつも食べていたから、見つけたら欲しくなる。


「ほう。リンゴ飴は知っているのか。何も知らん娘だと思っていたが、食い物だけは詳しいな」

 私の隣にいるヤマトは、また鉢巻きをして額の目を隠している。

 三つ目だと知られたくないのかな? ……変なやつ。

 でもそんなことはどうでもいい。露店から漂ってくる甘い匂いと、リンゴ飴の赤色が私を誘惑してくる。


「欲しいんだけどー。ねえヤマト。買って買ってー」

「よし、一本くらい買ってやろう」

「やたー」

 よし、リンゴ飴をゲットした。

 まずは周りの飴をぺろぺろと舐める。 

「むふー」

 甘くて、いい味。このリンゴ飴を作った人はなかなかの職人と見た。


「ふ」

 ……む。ヤマトが私を見て鼻で笑った。どうせ、女子供には甘いモノをやっていれば良いとか、考えているに違いない。まあ、不愉快だけど、間違えてはいない。ぺろぺろ。


 飴を舐めながら、ヤマトにくっ付いて歩いていく。しばらく歩いていると、露店というか、とても立派な木製の建物についた。看板には「道具」という文字と「矢」のマークがある。

 ……これは、道具屋さんだ! ……たぶん。

「ここだ」

「ねえねえヤマト。ここって道具屋さん?」

「そうだ。看板にもそう書いてあるだろう」

「よっし! 正解」

「何が正解なんだ?」

「いいの。こっちのことー」

 ヤマトはそれ以上聞かずに、道具屋さんに入っていく。


 道具屋さんは中も広い。ロウソクもたくさん壁にあって、この前の奴隷商のお店とは違って店内は明るい。品物とかも、よく整理されていて、なんだか高級な雰囲気がするお店だ。


「いらっしゃいませ。ヤマトさま」

 でも、挨拶をしてきたのは、ヒツジだった。

 ……和服を着て直立しているヒツジはとても違和感がある。和服が毛で、もこもこしてるし。


「ああ」

「今回は何をお求めでしょうか? もう、鉢巻きがダメになってしまわれましたか?」

「いや、大丈夫だ。まだ持つだろう。今回来たのは、この娘の装備を整えるためだ」

「はい? 娘?」

 ヒツジはそう言うと、ヤマトの後ろにいる私を見つけたのだろう、こっちをガン見してきた。

 ヒツジの目って黒い線が横になってて、なんか見られると怖い。


 それにしても、気になることがある。

「ねえねえ、ヤマト。なんでみんな私を見て驚くの?」 

「お前が異常だからだ」

「ええ!? 私おかしくなんてないもん! ヤマトの方が異常でしょう!」 

 三つ目のヤマトに異常とか言われると、とても腹が立つ。


「いやいや、お嬢さん。申し訳ありません、失礼を致しました」

「ほらー。ヤマトも謝って! ヒツジさんは謝ってくれたよー」

「愚か者が!!」

「ひゃあ」

 またヤマトに怒鳴られた。

「ヒトに向かって、そのようなことを言うな!」

「ええ? 何がダメだったの?」

「店主、すまぬ。この愚か者に代わって俺が謝罪する」

 そういと、ヤマトはヒツジさんに向かって頭を下げた。


「……いえいえ、構いません。そのお嬢さんに悪気はなさそうですしね」

「そう言ってもらって助かる。が、言って悪いことと良いことがある。道すがら、きちんと躾けておく」

「何よー。人を犬みたいに言ってー、失礼でしょうー」

「……畜生以下の愚か者め。ヒナミ、お前はそう思いながら、他のヒトには……カエルなどと蔑むのか?」  

 何? ……え。ピーンとひらめいた。もしかして、このどう見てもヒツジさんに、ヒツジさんと言うことは失礼になるのかも? そう言えば、最初に会ったカエル男にも、カエルって言ったら食べられそうになった気がする。

 じゃあ、あの奴隷商のフクロウにもフクロウって言っちゃいけないの?

 でもでも。

「じゃあ、ヤマトにも……三つ目って言っちゃいけないの?」

「三つ目は、三つ目族の誇りだ。構わん」

 はい、意味不明です。まあ、変態で鬼畜なヤマトは置いといて。とりあえず、どう見ても動物さんです、にも「人」って言ってればいいんだろう。うん、うん。きっとそう。

「店主さん? ごめんなさーい。失礼なこと言って」

 私もヒツジさんに、ぺこりと頭を下げておく。

「構いませんよ、お嬢さん。私もつい先ほど失礼なことをしてしまいました。これでお相子ということで」

 そう言いながら目を細めるヒツジさん。とても可愛い。そのモコモコの体に抱き着いて、なでなでしたいけど、何が失礼になるかわからない。……我慢しよう。


「ふ。多少は知恵があるようだな?」

「うっさいわい。変態、へんたーい」

 相変わらず鼻で笑うヤマトにコウギしておく。


「話がそれたな。……店主、この娘の、ヒナミの適性を確認してほしい。まあ、どう見ても前衛は無理だろうが、な」

「適正ですか。もしかして、五番塔に挑戦させるおつもりで?」

「そうだ。俺と組める女はコイツ位だ。適性を見て装備を整えるつもりだ」

「……なるほど。わかりました」

 何かヤマトとヒツジさんの間で、話がまとまったみたいだ。


「ヒナミさま。ではこちらへ」

「はーい」

 ヒツジさんについて行くと、机の上に一本のロウソクみたいのがあった。形はロウソクだけど、ロウの色が透明だ。その中を黒い糸が一本通っている。

「ヤマト。何これ?」

「ヒト見の蝋燭だ。火を灯すモノの適性を見る」

「えーと、これに火を灯すとどうなるの?」

「炎の色が変わる。その色で適性を判じることができる」

「ふーん」

 血印の時みたいに痛くはなさそうだ。ロウソクに火をつけるくらい私でもできる。よゆーよゆー。


「ではヒナミさま、この火を蝋燭に移してください」

「はーい」

 今気づいたけど、ヒツジさんの手は蹄じゃない。人間の手だ。顔はヒツジ、体もヒツジ、手は人間。……何ていうか、不気味です。抱き着かなくて良かったかもしれない。

 ヒツジさんの手には少し長めのマッチ棒があって、それの先に火がついてる。マッチ棒を受け取って、透明のロウソクに火を灯す。


 火は点いた。でも、すぐに消えた。


「なに?」「ええ!!」

 私の後ろで、ヤマトとヒツジさんの驚いたような声がした。

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