第6話 ご飯食べたい

「まあ、待てヒナミ」

 女の子に奴隷の首輪なんてモノを勝手につける鬼畜が話しかけてくる。当然、私は無視した。

 居間には座布団のほかに足の短いテーブルがあったので、私はその下に潜り込む。


「おい、ヒナミ出てこい」

「知らなーい」

「はやく、ちゃぶ台から出てこい。まったく、何を怒っているのだ?」

「……わからない?」

「わからん、教えろ」

 相変わらずの偉そうな態度。絶対に教えてやらない。こんなヤツの言うことを聞くなんて嫌だ。こうなれば、徹底コウセンしてやる。


「へそを曲げおって。どれ、ちょっと待っておれ」

 そう言いながらヤマトが何処かへ歩いていく。ヤマトがどんな手を使ってきても私は負けない。ごめんなさい、と言わせてやる。決意も新たに私はテーブルの下で体を丸くする。

 そうだ。よくよく考えてみればやっぱりヤマトなんかと一緒にいる必要はないかも。もっと他に親切な人がいるかもしれないし。それに、なんだかよくわかないけど、この首輪をされても平気だ。なんともない。隙を見てこの家から逃げ出してみようかな? この街に、お巡りさんはいないだろうけど、似たような人ならいるかも。そういう人たちに守ってもらえばいいのでは。


 ……私がそんなことを考えていると、いい匂いがしてきた。

 これは、ご飯の匂い。出来立てだからか、とってもいい匂いがする。

 __ギュールウルルル。

私のお腹が空腹を訴えてきた。


「ヒナミとりあえず、飯でも食え。ほら、腹が減っておるだろう?」

「お腹なんて空いてないもん」

 __ギュルルルルル。


「ほう。そうか、では俺だけで食うとするかな。今日はお前がいるから、おかずを少し奮発したのだがなぁ。肉も、良い月ウサギの肉が手に入っていたからそれを使って料理していたのにな。ほら、いい匂いがするだろう?」

 __ギュルギュルギュル

「月ウサギは知っておるか? こいつは、すばしっこくて中々捕まらん。肉も露店であまり出回らん貴重品だ。値も張る。だが、その味は何ともいえん。焼いた時の油の甘さと肉の柔らかさが絶妙でな。これに塩か醤油をかけて食えば……」


「うわーー! ご飯で釣るなんて、ずるい!?」

 テーブルの下から這い出る。私はヤマトに負けたのではない。月ウサギに負けたのだ。


「ふ。……まあ、まず飯を食え」

「いただきまーす!」

 テーブルの上には美味しそうなお肉、真っ白いご飯、お味噌汁と漬物がある。

 まず一番いい匂いがするお肉を食べる。


「ほおいしい!」 

「食いながら喋るな」

 ヤマトの言うようにこの肉はとってもおいしい。肉が甘くて、ぷりぷりしてて、噛めば噛むほど良い味がして、ちょっと塩味もして、なんていうかとても美味しい!


「それで。何を怒っておったのだ?」

 私が食事を終えたころにヤマトが聞いてきた。


「だって、首輪つけて無理矢理言うこと聞かすなんてひどい」

「そんなことか」

「もお! なによ、そんな事ってー。私は、酷いと思うよ!」

「ふ。ヒナミに首輪をつけたのは、それが目的ではない」

「じゃあ、何が目的でこんなのつけたの?」

 そもそも、この首輪……外せない。一生懸命引っ張ってみても、緩まないし。どうやって外せばいいのだろう。


「可笑しなやつだ。お前が俺のモノだという証明のためにつけたに決まっておろう? 初めに説明したと思うが、お前が一人ノコノコこの街を出歩いていれば他の者に攫われるか、食われる。だから、そうならない様にその首輪をつけた。その首輪をつけているということは所有者がいるということ。勝手にヒトの奴隷に手を出せば、その首輪の呪いがかかる」

「へー。呪いがかかると、どうなるの?」

「お前に危害を加えれば、その相手に呪印がつく。すると、その場所が俺にわかるようになる」

「え? それだけ? それに私に危害を加えるって?」

「お前を殺したり、喰ったり、犯したりとかだな」

「ええええ!? そんなことされるの!」

「普通だろう? 弱いものは、そうされる。だが、その首輪をしていれば、たぶん大丈夫だ」

「たぶん!?」


 怖いなー。弱いものは普通に殺されるって。この街は、思っていたよりヤバい場所なのかもしれない。


「さあ、今日はもう寝ろ。明日は、塔へ挑む準備をする。ヒナミ、お前に何ができるか確認させてもらうぞ?」

「ええー」

 ただ飯は食わしてくれないのかなあー。ヤマトは人使いが荒いのかも。私は、もっとダラダラしていたいのに。


 

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