独占欲の果て

生明ゆめ

この温もりを独り占めしたい

「ねえ、抱っこ」

「もう幾つになったんだっけ?」

「抱っこして」

「やれやれ。甘えん坊は変わらないね」



困ったように笑って私を抱き上げてくれる腕にすっぽりおさまることが何よりの幸せ。間違ってるのは百も承知。なんせ血が繋がってなくても兄妹なんだから。


再婚したママの相手にも息子がいて、私より10歳も年上で…小さい頃は我儘ばっかり言って構い倒してもらっていた。


あの頃からお兄ちゃんの腕の中が大好きで、この腕に包まれていると私は世界一幸せな女の子になれるって疑わなかった。


18になった今日、お兄ちゃんが結婚するって言い出すまでは…。



「妹よ…、いつまでこの体勢でいなければならないのかな?」

「…」



あの会話からほぼ半日が過ぎたままお兄ちゃんのベットの上でお兄ちゃんの膝に乗っかって、ぎゅっと抱きついてる私。ポツポツと会話はしていたものの、流石のお兄ちゃんも私の行動に意味を問いかけてきた。



「…の」

「え?」

「独り占めしたいの」

「…」

「今日だけでいいから」



お願い、と言うようにお兄ちゃんの肩に顔を埋める。身体の隙間なくぴったりと抱きついてその温もりに包まれようと身を縮めれば、お兄ちゃんは私を優しく抱きしめて頭を撫でてくれた。



「ごめん、ごめんな…」

「…」

「やっとなんだ。やっと…お前以外に好きになれそうなんだ」

「…、わかってる。今日だけでいいから」

「うん…」



きつくきつく抱きしめて。私のことを独占して。私に独占させて。このまま二人だけの時間が止まればいいのに…この一日が終わらなければいいのにって…。よくある恋愛小説の主人公みたいなことを思いながら心の中で嘲笑ってしまった。



「心から幸せを祈ってるよ、お兄ちゃん」

「……」



私が精一杯の思いで紡ぐ背中を押す言葉なのに、お兄ちゃんは無言で…ありがとうすら零さない。それが何を意味してるかなんてわかりきってて、だからって道を踏み外す気もお互いにないんだから報われない。



「好きって言ったら困る?」

「まさか。…むしろ一番聞きたいって思ってるから困る」



私の問いかけに困ったように笑うお兄ちゃんが無理した笑顔でそのまま私を抱きすくめてくる。それ以上のことは決してしないしされたこともない。この温もりだけが私の幸せであり私の不幸でもある。


この温もりに独占され続けてるって考えるのが正解なのか、私がこの温もりを独占してるって考えるのが正解なのか…。



「好きだよ。不幸になってこい」

「ははっ。その送り出し方、最高」



まあどっちにしたってお互い様だ。

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