家族の話とお風呂回

 学校からの帰り道。

 近所の角を曲がったところで前を行く忠を見つけて、こっそり花華が近づいていく。

「わっ! お兄ちゃん! 今帰り?」

 忠はすっごい驚いた。

「わっ……あ……。花華、か。おかえり」

 びっくりした? という表情で覗き込む今日の花華はおませさん。

 というか朝から、いや昨日からちょっと変わったからなぁと考える。

「みてみて、この髪、楓ちゃんにセットしてもらったんだー」

 笑う花華の顔を忠が直視すると、確かに朝より格段に髪が可愛くなって見えた。

 髪だけじゃないんだろうけど。

「へぇー、いいじゃないか。良かったな花華」

 うん、と頷いてにっこりと微笑む笑顔は、昨日までの花華と同じ幼さが残る顔、

 しかし女の子ってこんなにころころ変わるもんかと考えたところで、

 今日の川瀬さんはどうだったかなぁと思い出す。

「あ! お兄ちゃん? いま、女の人のこと考えてたでしょう。私じゃない。」

 う、微妙に鋭い。

「え、あ、いやいや、そんなことは、ないぞ」

 しどろもどろしてるうちに歩いて先を越されてしまう。

「ふーん、お兄ちゃんもそーんなこと考える年齢としになったのねぇ」

 といっちょ前なことをただ言ってみたかっただけらしい。

 後ろに腕を組んでツーンとした感じでさっさと数歩先を歩く。

「な、なに言ってんだよ花華、先行くなよー」

「あははっ」

 兄弟仲良く帰宅する光景である。


「ただいまー!」

 花華が玄関を開けて、二人揃ってそう告げると。

 早苗がいつもなら奥からおかえりーと返してくれる所を、今日は玄関まで丁寧に迎えに来て、

「おかえり、二人とも」

 と言ってくれる、表情はどこか硬い。

「おかえりなさい、忠さん、花華さん」

 早苗の後ろの足元からひょこりと顔を出して、

 ステファニーさんはいつもの顔でおかえりを言ってくれた。

「あれ、お母さんどうかしたの? なんか変な顔?」

 と花華が言うとちょっと困った顔をして、

「いやー、それがねぇ何というか……」

「お父さんに何かあったの!?」

 ひやっとしたので忠が聴くが、慌てて首を横に振って、

「いあいあ、そうじゃないわよ、まぁお上がんなさいな」 

 と上の空だ。

 リビングに行き掛け、ステファニーさんが、実は私の家族の事なんです。

 お二人にもお話ししようと思ってたんですけど。と切り出して話を訊いた。


 ――だいたいの話は分かってきたぞ。

「つまり、ステファニーさんの叔父はゴブリン族の王様で、

 ステファニーさんはその姪御さんってことです?」

 確認する口調になってしまって忠が言うと、彼女はこくんと頷いた。

「はい、そうなんです、でもでも、

 ゴブリン族は成人してしまうと家族に頼ったりはしない風習というか、

 習慣がありまして、王が、その叔父であっても、なんと言うんでしょうか、

 身分とか、立場とか、そういうの保障されてたりはしないんですよ」

 お母さんの当惑っぷりを見たら、

 つまりニュースに出てきたステファニーさんの叔父こと

 ゴブリン王アヌカスェアイ・エッレ・ファエドレシア候と、

 ステファニーさんは髪の色がそっくりで、

 まぁ身長が同じ100センチくらいなのは良いとして結構雰囲気も似ていたらしい。

 夕方のニュース番組で朝の映像を編集して、

 ゴブリン王と英国王室の対面の話をやっていたのでその映像を見つつ、

 ほら、この人、と。

 なるほど似ていた。髪と雰囲気か。これがステファニーさんの叔父さんか。

 しかし、花華はどう思うか知らないが、

 忠はこれで色々合点がいくところがあった、

 だって、忠の学校の友達の家に来たゴブリン族にまつわる話を聴いていると、

 ステファニーさんはどうしたって〝高貴な〟出身であることが窺われた。

 そもそも普段着がドレスで、こんなにちゃんとした喋り方で、

 祠祭クラスで、魔導師だ、しかもこんな美人。条件が良いにしたって……。

「すごい! じゃあ、ステファニーさんはゴブリン族のロイヤルファミリーなの!?」

 花華の眼は輝いている。きらっきらに。

「ロイヤルファミリー。うーん、言葉の意味合いとしてはそうなりますが……、

 でも私のお父様とお母様は王室の外の人間でしたから」

 ちょっと困った表情。苦笑いとも言える。

「ううん、でも、そんな人が今私の家に居るなんてすごい!」

 花華はノリノリ。

 まぁ、あんなドレスまでプレゼントされてそれが王家のいわく付きと判明したんだから

 気持ちは解らんでもない。

「でもさ、花華、ステファニーさんの気持ちも考えろよ?

 つまりゴブリン族は成人したら親やら身内やらはあんまり当てにしないで一本立ちして

 頑張るって事だろ? ステファニーさんのドレスだって、

 ステファニーさんの魔導師としての実力とかから考えても自分の力で勝ち取った物だろうし、

 花華がそんな眼で見たらステファニーさんが可哀想、かもよ……」

 と、フォローしようとして後半自信がないので尻つぼみ気味に言ったのだが、

 直後ステファニーさんが忠の手を取った。

 リビングの机に座って向き合っていたので、

 ステファニーさんはほぼ横に伸びをするような、

 椅子の上に立つような恰好になってしまって

 ちょっと今日の黄色のヒマワリワンピースから大きい胸がこぼれそうなんで

 はらはらするんですが……。

「ありがとう! 忠さん! 私嬉しいです!」

 ほんとに嬉しそうに忠の手を小さい手のひらが優しく握る。

 忠も優しくそっと握り返して、

「ステファニーさんは、今までと変わらずうちに居てくれますよね……?」

 と言うと、

「うんっ! 私はもーしばらく、芹沢さんのお宅でお世話になりますよ!」

 と、忠の手を握ったまま、花華と母と忠ににっこりお辞儀した。

「よかったー」

 忠は実はそこだけ心配していたので嬉しくなって、

 ステファニーと繋いだ手を上下に揺らした。

「あっ、お兄ちゃんばっかりずるい! その、ごめんなさい私……」

 ステファニーの手を取ろうとして花華は手を出したが、

 ちょっと話の流れから躊躇ためらった、

 するとステファニーの方からもう片方の手で花華の手も取って、

 兄とやっていたように嬉しそうに揺らした。

「いーのいーの、花華さんも、ありがとう! お母様、心配かけてごめんなさいね」

「あたしこそ無駄に不安煽っちゃったみたいでごめんね。

 ステファニーちゃんの方がよっぽど大人だったわ。流石の出身ってところなのねぇ」

 うんうん、と一連の流れに早苗は深く頷いた。

「あと、忠がじーっと見つめてるから、その胸の所にはもうちょーっと気をつけた方がいいわよ?」

 と付け足す。

「え、きゃっ、忠さん!?」

 と慌てて二人から手を離してワンピースの胸の所に手を当てて真っ赤になってぷくりと膨らむ。

「な、なに言ってんだよお母さん!?」

 忠は慌てて両腕をふるって否定する、が、すみませんガン見してしまいました。

「もー、ふふふ、油断も隙もないんだからっ」

 ガスが抜けたようにすっと頬の膨らみを解いてステファニーさんも微笑んだ。

 ずっと話さなきゃならないと思っていた事だったようで、

 すこし肩の荷が下りたみたいだった。よかった。


 その日の晩ご飯も食べ終わって、花華はお風呂に入ろうとする。

 ステファニーさんが来てから最初の数日は、お湯の出し方とか着替える場所とか、

 湯船とかシャワーの使い方とか解らないだろうからって、

 ステファニーさんと一緒に入っていろいろ教えたのだが、

 ここ数日は別々に入っていた、けれども、とんとんと花華の部屋の扉がノックされる。

「花華さん、いいですか?」

 ノックの音がとても軽くて小さいので当然ステファニーさんだ。

 お兄ちゃんだったらノックしないでいきなり開けかねないし。

「なんですかステファニーさん?」

 部屋のドアを開けると、ステファニーが立っていて、

 ちょっと気恥ずかしげに下を向いていた。花華の顔を見て明るい表情になって、

「――その、よかったら今日はお風呂一緒に、入りませんか?」

 万国共通ならまだしも、宇宙も異世界も共通で、

 仲良きかなは裸の付き合いからだって事だった。

 花華もステファニーの出自の話を聴いちゃったからには一歩引いたり、

 身構えたりするのもやだなぁと思ってた所なので渡りに船ならぬ〝湯船〟だった。

「はい! 今日はいっしょに入りましょっか!」

 今準備してきますっ、というなり下着とパジャマを箪笥から引っ張り出して、準備完了!

「わーい! 嬉しいです!」

 花華の前で階段を一段一段慎重に下りるステファニーさんはとってもごきげんだった。

「私も、寝間着と下着取ってきますね!」

「うん」

 階段を降りたところでステファニーは自室になってる一階の六畳間へ向かった。

「……今日はいっそ、一緒に寝るのもいいかなぁ」

 と笑って花華は脱衣所に向かった。

 脱衣所には鍵が掛かる。忠が急に入ってきたら大変だし、

 上着を脱いだところできっちりと鍵をかける。と、そこで、

 ととと、と可愛らしい足音が聞こえたので解錠して首だけ廊下に出すと、ステファニーさんだった。

 はやく、はやく。

 ごめんねっ。

 というやりとりがあって、再度鍵をかけると、女の子だけの空間のできあがり。

「お兄ちゃんに絶対覗かれたくないもんね!」

「忠さんは覗きなんてしないと思いますけど」

 ほのかに笑ってステファニーさんが優しく言う。

「ううん、油断ならないわ! 年頃の妹をなんだと思ってるんだか!」

 と言って下着を脱いで、洗濯機に放って洗面台の鏡を見る、

 楓ちゃんにセットして貰ったピンの位置をよーく覚えておかないと。

「ふふふ、花華さん、その髪、とても素敵ですね。あれ、なぜか朝より綺麗に見えますー」

「ああ、これね、ちょっと学校でトラブルがあったから、

 友達の家が美容院の子に直して貰ったの、そしたら素敵だったからピンの位置覚えなきゃって」

「なるほどー、ホント素敵ですね。

 私直毛だからピンとかであまりスタイル付けたりしたこと無いんですけど、

 今度教えて貰って良いかしら?」

 ステファニーさんは身長がちいさいからぴょんぴょんするような感じで洗面台の鏡を覗く。

 花華が振り返ってはい、喜んで! というとすごい嬉しそうに喜んだ。

 ステファニーさんも母の作ったワンピースを脱ぐ、

 すると花華には真似出来ない完璧なプロポーションが現れる。

 今日の下着は髪と同じ真っ赤な色だった。

 なんというかゴブリンさんの、

 いいやステファニーさんの下着はどれも刺激的なデザインが多い気がする。

 おしとやかキャラだから逆になんだろうかとも思う。

「はぁ、ステファニーさんどうしてそんな完璧なんですかぁ?」

 もはや羨ましいことダダ漏れで花華が言うと、

 ろくに胸を隠したりもせず、むしろ胸を張って、ちょっとだけ花華の身体を見て、

「花華さんだって、あと数年もすればすごおーく魅力的な女性になると思いますけどっ?」

 別に魔術で先見眼があるわけでは無い、が、

 単純に自信めいた物を含ませてステファニーさんは微笑んだ。

「こんなぺたんこなのに~?」

 と、自分の胸に手をあてて肩を落とす。

「胸なんて大きいばっかりでも困りますよー肩も凝りますし」

 こきこきっと音は鳴らないんだけど首を横にふってステファニーさんがポーズして、

 彼女も下着を脱ぐ。

「花華さん、もうちょっと胸を張ると、もっと素敵かも知れません~」

 そうだ、ステファニーさんの素敵の根源は姿勢でもあるんだよなと花華はなんとなく納得する。

「ああ、それはあるかも~、私、背とか胸とか自信ないからいっつも猫背気味で、

 ステファニーさんみたいにピンって背筋がしてるかたがすごく綺麗に見えるんですよ」

「そうかしら? 私は意識してはやっていないのだけど、

 あ、でも地球に来てからは、周りの人が大きいから、上を向くんで、

 ピンって伸ばしてるのはあるかも」

 そうかなるほどと頷いた。

「そっかぁ、さ、入りましょっかー」

 髪を留めていたピンを外して洗面台に置き、

 黒いストレートの髪をさっとなでつけてからお風呂場に入る。ステファニーさんも後に続く。

 シャワーで身体を軽く流してから、ステファニーさんに交代する、

「もうお湯の出し方とかは大丈夫ですよね?」

「うん、丁寧に教えて下さったから。

 そうね、あの湯沸かし器? のパネルの文字はまだ読めないですけどね」

 言葉は早々に通じてしまったのでなんら問題なくコミュニケーションは取れているのだけれど、どうやら他の多くの外国人さんと同じように、日本語だけはどうにも読み書きが難しいようで、

「ああ、漢字とかカタカナはねぇ、

 魔法で何とかなるのかなって思いましたけどそうでもないんですね」

 ステファニーさんが、身体を流している。

 触れたら壊れてしまうかのような白いきめ細か肌に、赤い髪の色が栄えて見える。

「うんー、日本語はやっぱり難しいですね、でも早く覚えたいな」

 うーむ、お兄ちゃんじゃなくたってそわそわしちゃう身体よね!

「……身体、洗いっこしましょっか?」

 花華の提案はただそのステファニーの肌に触れてみたいと思ったからだったけれど、

「ありがとう! 花華さん、私も洗ってさしあげますね!」

 ふん、と鼻息で気合いを入れて両腕をぐってしてるところを見ると、

 彼女も花華に触れてみたいと思っていたようだ。

 ボディシャンプーを花華用のスポンジに付けて、

 よーく泡立ててから先ずは背中から。

 ステファニーさんの背中はまるで綺麗な壺の一面でも眺めてるかのようにツルツルして綺麗で、

「あー、ステファニーさん綺麗な背中! こーんなに綺麗だったら少し露出する服もありですよねぇ」

「そうかなぁ、花華さんだってすごく肌綺麗じゃないですか。

 昨日のドレスだって私よりも似合ってましたし、ね?」

 背中を花華に預けたまま、気持ち良さそうな声でそう言ってくれたのだけど、

 昨日の恥ずかしい気持ちがまた込み上げてきそうだった。

「わ、私なんてちっとも」

 花華が手を止めてしまったところで、

「交代しましょ!」

 と、今度はステファニーさんが、花華の背中をこする。

「ほら、こんなに綺麗なのにー」

 ぺたりと小さな彼女の手が背中に触れる。

 ステファニーさんの指先は少し温度が低くてひんやり心地よい。

「じ、地黒ですし、特に夏場は背中なんて、ぜんぜん自信ないですよ」

 中学の水泳の授業はもう始まっていて、学校のお洒落な、

 身長の高い女子の友達の中には日焼け止めを塗ってプールに入ってる子も居るけれど、

 花華は自分から進んでそんなことをやるタイプではぜんぜんなかったし、

 背中なんかほったらかしだ。

 小麦色の背中の花華が前方向に逃げるように縮こまって言うから、

 ちょっとステファニーさんはいたずらしたくなったらしい。

 オトナな手つきで、すーっと、花華の背中を撫でた。

「ふにゃっ!」

 絶対お兄ちゃんには聴かれたくないような、普段出ない声が漏れてしまった。

「す、ステファニーさんっ!?」

 驚き過ぎて怒りもせず、肩から頭のてっぺんまでを真っ赤にして振り返ると、

「あはは、ごめんなさい花華さん、ちょっとあんまり可愛かったから、

 ついいたずらしたくなっちゃって、すごく、色っぽい声」

 悪気が全くないところが悔しい! まるで天使みたいぃー。

「もうっ、仕返しですっ!」

 背中についてた泡の塊を掬いあげて、それごとステファニーさんの胸を包んで触ってみた!

「ふぁっ!」

 驚いて声を上げたのは花華の方だった、

「んっ……、花華さんっ!?」

 遅れてさっきの花華なんか目じゃない嬌声っていうのかな、

 で反応されて慌てて泡から手を引っ込めたのだけれど。

「や、柔らかいっ!」

 泡越しでも判るステファニーさんの豊かな胸は、

 マシュマロなんてもんじゃないくらい柔らかかった!

 完全に負けよねと傷つきつつも、確かめるためにもう一回、えいっ。

「やん、もうっ、花華さん、ゆるしてくださいー」

 と言いつつ、いやいやもしないステファニーさんに気を良くして、

 もう一度そっと触ると、やはりものすごく柔らかかった。

「ステファニーさんすごい! 柔らかい!」

 もうっ、とステファニーさんもいい加減恥ずかしくなって、

「じゃあ、私も仕返しの仕返しですっ!!」

 と、花華の胸に手を伸ばして触れた。

 自他共に認めるであろうぺたんこ、もとい発育途中の胸を、

 ステファニーさんの指が優しく触る。

「な、なんにもないですよう……」

 と花華は承知で言うが、

「あら、花華さんだってすごい柔らかいじゃない!」

 ほんのすこーしだけの膨らみをふにっとやっての感想なようだ。

「うう……ぜんぜん、嬉しくありません」

「そぉお? あのね。花華さんに良いこと教えてあげるわね?」

 向かい合ってお互い泡だらけですこし変な感じだけど、

 ステファニーさんがにこっと微笑んで、

「胸が小さい頃に柔らかいと、大きくなっても柔らかくなるのよ!

 いっぱい寝て、いっぱい食べれば花華さんは若いんだからすぐ大きくなるわよー」

「そうかなぁ」

「うんうん。私だって子供の頃は胸もぺたんこだったんだから間違いないっ」

 ステファニーさんの子供の頃ってどんな子だったんだろう。

「だといいなっ。ステファニーさんの子供の頃ってすっごく可愛かったんでしょうねぇ」

「ふふ、おてんばで大変だったって叔父様に言われたことがあったかな?

 ささ、身体が冷えちゃう! 湯船に入りましょ」

 お互いに泡に包まれた身体を洗い流して、湯船に浸かる。

 芹沢家の湯船は普通サイズの湯船だけど、

 花華とステファニーが二人で浸かっても結構余裕があった。なにせ二人が小さいからなんだが。

 7月の半ばの暑い季節とは言え湯船に浸かって手足を伸ばせば気持ちいい。

「ふあー! 生き返るー」

 今日は水泳じゃない体育もあったし、すごく気持ちいい。

「私も! うーん!」

 ステファニーも花華の隣で真似してのびをしてすごく気持ちよさそうだ。

 二人で顔を合わせると自然と笑いが溢れた。


 さてそんなことは露も知らず、なら良かったんだけれど、

 お風呂の外に面した窓が開いていたらしくて、

 二階の自室の窓を開けてた忠は風に乗って時々聞こえてくる

 二人の話し声を聞いて気が気じゃなかった。

「あの二人、お風呂でなーに遊んでるんだか……、

 ステファニーさんの胸がどうのとか……、いかんいかん、素数を数えて落ち着こう。

 1,3,5,7,11,14、あれ――」

 煩悩とちっぽけな戦争を繰り広げていた。ちょっと情けないお兄ちゃんである。


 その夜、のぼせてできあがり気味の花華とステファニーの二人は

 仲良くステファニーの部屋にお布団を並べて寝たのだった。

「ステファニーさん。おやすみなさい」

「花華さんおやすみなさい~」

「電気、消しますねー」

 電気を消して、月明かりが窓から優しく差し込む部屋で、

 ステファニーさんの隣のお布団に横になる。

 花華とステファニーはお互い見つめ合って、何気なく手をさしのべて、

 手を繋いでみて、微笑みあって、そのまま眠りに落ちていった。今日はよく眠れそうだ。

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