DRIFTER

20:00きっかりに一番近い村にある教会で、あたし達はこのミッションをサポートしてくれる通訳兼コーディネーターと合流する手筈だった。

なんとかその前までに物陰からこっちを伺っているストーカーを誘い出して撃退しておきたかったのだけど、敵もさるもの、そう易々と尻尾を掴ませてはくれなかった。



英・仏・伊語なら流暢に、スペイン語とポルトガル語とアラビア語なら片言には話せるけど、それ以外の地域ではいくらあたしでも挨拶程度しか喋れない。だから、そうした場合は通訳兼交渉ごとも含めて、信頼の置けるコーディネーターに任せる事になる。交渉は、当然、お金に関する事が第一なのだから、彼らとの信頼関係が最も大事となる。時と場合によっては、現地で人材を調達するしかない状況も有るけど、あたしやROXYみたいに見た目がピチピチギャルだと、どうしても最初は舐めてかかられる事があるわ。具体的には、交渉相手と結託してぼったくろうと目論んだり、中抜きしようとしたり。だから、一度信頼を寄せた相手とは、基本的にその地域における次のミッションでも頼む様にしているの。こうして絆を築く事さえ出来れば、彼らの方もあたし達の仕事の進め方を理解し、一事が万事逐一指示を伝えなくても、以心伝心で先読みして動いてくれる様になるから自分が楽になるわ。

そりゃ多少の小遣いやチップ程度ならお目こぼししてあげるけど、なんたってあたし達の扱うのは、大概お宝でしょ?欲に目が眩んだ悪党に土壇場で裏切られたり、敵方に寝返られたりされる恐れもあるもの。余りに金に汚い相手だったりすれば、そうなる危険性も高まる事に成り兼ねないから、あたし達としては予めそうしたリスクは極力避けておく必要があるってワケ。

とはいえ、ひと昔前と違ってこの御時世、そうそうお宝とご対面なんて事にはならないもの。コーディネーターやシェルパ達だって、いちいちお宝を見つける度に映画の1シーンみたいに寝返っていたらお得意様からの信頼も得られないじゃない?彼らにしても近頃は継続してこの仕事で食べていくにはやっぱり信用第一だって事にようやく気付いたみたい。スタンスも改められてきて、比較的安定して雇い主との約束事は守られる様になってきている。

けれども今回、あたしの雇ったコーディネーターは、今、説明した様な地域に根差した人物ではない。けれどもフリーランスとして活動している中でも折り紙付きのトップクラスの実力者だ。あたしが此処に連れて行ってくれと要望すれば、たとえ火山の噴火しているアイルランドだろうが、凍結している北極圏にだろうが連れて行ってくれるだろう。その為、成功報酬もそんじょそこらのスタッフとは桁が違うので、残念なことにいくらこのあたしでも、毎度毎度彼に頼むって訳にはいかない。今回の様にここぞって場合のミッションの時だけ、仕事を要請する事にしているの。


彼の名は、“ジャスティン”。

彼は基本的に拠点を持たないドリフター(放浪者)。

世界を股に駆けて飛び回るトレジャー・ハンターのあたしとは相性もピッタリで、まさに最適のパートナーと言えるわね。



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