FREEFALL

途端に身体が上方に引っこ抜かれる。

実際には、いまだに降下している訳だけれど・・・なるほど等速直線運動しているあたしに対し、唐突にパラシュートが開くことで空気抵抗によって真逆方向に運動エネルギーのベクトルが働くので、そこに質量が保存され、上へ引き上げられた様に錯覚するワケね。

取りあえず、地面に叩きつけられる様な悲劇は免れたみたい。

高校で物理の授業を真面目に受けておいて良かったわぁ!

お世話になった恩師の顔が瞼に浮かぶ。

って、今はそんな悠長に感傷に浸っている場合じゃない!

あたしの足下にはみるみる綺麗なエメラルドグリーンに透きとおったマイアミの海が近づいているのだ。


パニックこそ生命維持活動を脅かす脅威の元凶よ。

落ち着け落ち着け!リラックスよ!

自分に言い聞かせる。


見事無事着水。

直ぐさまパラシュートを外し、今度は着用していたライフジャケットの肩口の紐を引っ張ると、瞬時に空気が入って膨らんだ。


流石、WTHA御用達ね〜♪

早速さっき外したパラシュートを回収すると、リュックの背面から取り外したウレタンマットに掴まりながら数百メートル先に見えている岸に向かって、遠浅の海をパシャパシャと泳ぎ始めた。


さておき、普段は鷹の爪の如く隠されているあたしの秘められたポテンシャルが、読者の皆様にもハッキリと証明されたことと思う。


のん気に自画自賛していると、その時、頭上からけたたましく甲高い大声が響いた。


「ちょっとそこのアンター、どいて、どいて〜〜っ!」



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