狐の意を狩る虎

 とある森に、ずる賢い狐がおった。力もないその狐は、言葉巧みに森の仲間を騙して毎日を生きておった。

 しかし遂には仲間達に嫌われ、森を追い出されおった。


、仕方なく、狐は隣の森に居場所を移したのじゃが…そこには、獰猛で恐ろしいとされる虎が住み着いておった。


「ひぃぃぃ~!命だけはお助け下さい!」


 虎とばったり出会ってしまった狐は、虎の前で膝を着いて命乞いをしおった。

 そしていつものように、言葉巧みに虎を騙し、この森に居座ろうとしおった。


「私は天から命を受け、この森を守る為に来ました。私がいなくなれば、森はたちまち秩序を失い、木々は枯れ果てる事でしょう。」

「………。」

「嘘だと思うなら、私の後ろをついて来て下さい。森の者は既に、私に与えられた使命を知っています。天の遣いが来たと、恐れて逃げ去る事でしょう。」


 そう言って狐は、早速虎を後ろに従わせた。

 虎は黙って、狡賢い狐の後ろを付いて歩いた。


「ほらっ!森の者達は私を恐れ、皆、逃げて行きます!私は森に、必要な狐なのです!」

「…………。」

「それでも私を食べたいくらいお腹が空いていらっしゃるのなら、代わりに、私が食料を調達しましょう!」


 狐の嘘は止まらなんだ。虎から逃げるように立ち去り、森の中を走り回って餌を集めた。

 とは言っても虎の威を狩り、森の仲間に食料を集めさせたのじゃ。甚だしくは『生け贄』を差し出させて虎に食わせ、また、おこぼれも抜かりなく得おった。



 狐はこれを『しめた』と思い、これからずっと虎の威を狩り、食事に困る事はありませんでした。


 一方、虎は…


(何だ、こいつ?僕と出会うや否や1人で喋り出して…。話す暇すら与えてくれない…。まぁ、良いか。こいつが代わりに食事を持って来てくれるなら…。

 何せ僕は、弱く情けない虎なんだ。群れを追われてこの森に辿り着いたのも束の間、こんな嬉しい出来事が待っていたなんて…。狩りも成功した事ない僕には、あの口が達者な狐は正しく、天からの贈り物だ。)


 こうして弱く情けない虎は、一生食べ物には困らなかったそうな…。

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