第13歩 『鍵』


 もう、主人公の性格が不安定です。

お気をつけてお読み下さい。


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 何日分かの食料を買いだめ、森の中の屋敷に戻る道を歩く。

レイは隣を歩くフラエの横顔を見つめながら、彼女の言葉を思い返していた。

町に出るとき、それぐらいの外出なら大丈夫だと、フラエは言った。

じゃあ、大丈夫ではない外出があるのか?

外出時間か、距離か。

「あ、あの・・・」

 フラエが堪えきれないといった様子で、口を動かした。

「私の顔に、何かついてますか?」

「あっ、ごめん!嫌だったかな。気を付けるよ」


 ーーーこれがデリカシーがないって事なのかな・・・?

    母さんに注意されてたのに。


「あ、いえっ!嫌じゃないです!決して!た、ただ、少し恥ずかしいといいますか・・・・・・・・・」

 必死に否定するフラエにレイは安堵する。

「そっか。よかった」

「でも、どうかされたんですか?何か気になることでも・・・」

 こてっと首を傾げるフラエ。

同時に肩にかかった白髪はくはつがさらっと流れる。

「うん・・・。フラエが外出出来ない理由とか、何かあるのかな、って・・・」

言うと、フラエは少し驚いたような顔をし、そしてすぐに困ったような表情になった。

「あ、もちろん言いたくないならいいんだ」

しかし、彼女は意を決したようにレイの方を向き、

「いえ、言います。いつまでも隠してはいられないですからね」

そう力強く言った。

「でも、こ、心の準備をさせて下さい。今日の、・・・・・・夜には言いますので」

フラエの深紅の瞳は不安そうな色をうつしていた。

「うん、もちろん」

レイは、微笑み肯定する。





ーーーとは聞いてはみたものの・・・・・・・・・。

   ・・・秘密って、なんだろう。


   すごい気になるんだけど・・・・・・。

   

 現在、レイは屋敷の一室。

今は自身の部屋となっている場所のベッドの上で身悶えていた。


ーーー・・・・・・屋敷から離れすぎたら命を落とすとか?

   屋敷外はフラエの命を狙う暗殺者で一杯とか?


 思春期特有の妄想は加速していく。




 ◆◆◆


 そしてーーーー。


 レイの部屋の扉を叩く音が聞こえた。

「あ、あの。レイさん?起きていらっしゃいますか?」

扉の向こうからフラエの声が聞こえる。

緊張しているのか、声が震えている。

「うん、起きてる。どうぞ・・・」

ガチャ・・・と、扉が開きフラエが顔を覗かせた。

「お、お邪魔します・・・」


 フラエは、部屋に入ると、椅子に座ったレイの前に来て正座した。

慌ててレイも椅子からおり、姿勢を正す。


数秒経過し、フラエが口を開いた。

「も、もし。話を聞いてしまったら、レイさんは、私のことを重いと思うかもしれません・・・」

「それはない。絶対」

断言する。

「分かりました。それでは・・・・・・・・・。

 実は、私・・・・・・・・・このお屋敷から離れすぎるといけないんです」


「・・・・・・・・・うん」


「お母様とお父様の言いつけで、その決まりは絶対で・・・」


「・・・・・・・・・うん?」


 彼女の話によると、フラエの両親はとても厳しく、そして過保護だという。

二人はこの屋敷にはおらず、フラエが幼児期を過ぎたころから少し離れた町の豪邸に住んでいるそうだ。

 彼女の家系が屋敷に一人で住むのは代々の決まり事らしい。

ただ、彼女を目の届く場所に置いておきたいという両親の思いで、屋敷から、離れてはいけないのだという。


ーーーそれを律儀に守って・・・。いい子、というかもしかして、フラエって

   天然?


 「ど、どうですか?重いですよね。幻滅しましたよね。軽蔑しましたよね」

フラエが自嘲気味に笑う。

「いやいや、してないよ」

予想よりも、理由が浅かった。

いや、色々事情もあるんだろうけど。

もしかすると、彼女は病みかけているのかもしれない・・・。

「ねぇ、フラエ」

「な、なんですか?やっぱり、もうこんな私とは関わりたくないですよね」

「いきなり重いよ!?」

「お、おも・・・・・・・・・。やっぱり重いんですね・・・」

とうとう、泣き出す始末。


ーーー出会ってまだ数日だけど。フラエのことは分かってるつもりでいた。

   でも、知らなかった。こんな一面もあるんだ。

   なんというか、フラエって・・・。


「ふふっ」

「うぅ、笑うなんて酷いです・・・」

ブツブツ呟くフラエ。

「ごめんごめん。でも、フラエって、可愛いなって思ってさ」

「う・・・・・・・・・分かってます。自分が重いなんてこと・・・・・・え?」

彼女はレイになんと言われたか気付き、ボッと顔を赤く染め上げた。

「か、かわ・・・?」

慌てるフラエにレイは声をかける。

「ねぇ、フラエ。フラエはさ、屋敷よりも、遠くに行きたくないの?」

「・・・・・・そ、それはもちろん。・・・・・・・・・行きたいです、けど。でも、お父様達が許しては」

彼女が行きたいなら、レイの言葉は決まっている。

「じゃあ、行こう?」



「・・・・・・・・・え?」


「外の世界。屋敷より、遠く遠くに行こう」

「で、でも!お父様が」

フラエの言葉を遮り尋ねる。

「レイは?」

「え・・・・・・?」

「行きたいんだよね。じゃあ行けばいいよ」


 レイはフラエの手を取り、言う。

「で、でも!私生まれてからこの屋敷を離れたことがないですし・・・・・・!」

、一緒に行こう」

レイは手をにぎる力を強める。

「え?え?なんで・・・・・・」

戸惑うフラエの瞳を見つめて、そして言葉を紡ぐ。

彼女の笑顔を最初に見たときに芽生えた。

彼女がゴブリン達に攫われたときに気づいた。

出会って数日で、軽いと思われるかもしれない。

それでも、この気持ちは本当だから。


ーーー僕は・・・・・・・・・。




「僕はフラエが好きだよ?だから一緒に旅をしたい。だめかな?」




 


 檻を開ける音が響く。













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