第12歩 『讃歌』
「少し食料が尽きてきてしまいました・・・」
食料庫の一角でフラエが呟く。
「フラエは食料って町に出て買ってるの?」
「はい、それくらいの外出なら問題はないようなので」
含みのある言い方だ。
少し気になりながら、レイは自分が行こうか、と提案した。
「いえ、いつもお世話になるお店があるんです。そこで買いたくて」
「分かった。じゃあ行こっか」
レイはスッと、座っていた椅子から立ち上がる。
「・・・・・・・・・え?い、いえいえ!ここで待っていて下さって大丈夫ですよ?」
いつも、私一人ですし、と続けるフラエ。
「それはちょっと出来ないかな。女の子一人に物を持たすっていうのもね」
「お、女の子・・・」
レイの言葉を反芻しながら、両手を頬に当てるフラエ。
その頬は心なしか赤くなっている。
結局、二人で行くことにし、屋敷を出た。
森の中は、今日も小動物の鳴き声や水音。葉の重なる音が四方八方から聞こえてくる。
「よし、行こっか」
レイが先導し、道を開く。
“ゴブリンの王”を倒したことによってこの辺りのゴブリンは全て姿を消したハズだが。
いつ、他のモンスターが出てきても不思議ではない。
警戒を怠らず、腰の鞘に閉まった剣に手を当て、進んでいく。
想定よりも早く町に着いた。
ここからは、フラエの案内にしたがって進んでいく。
多くの冒険者が集まる町一番の酒場、その向かいにある店こそが、フラエの言っていた行きつけの店だった。
食料だけではなく、包丁等の調理用具も売っていた。
フラエが食料を選んでいる間、レイが店の中をぶらぶらしていると、見たことのある男がレイの方に近寄ってきた。
「おお!!少年じゃねえかっ!!」
レイに“ゴブリンの王”の情報を与えた冒険者だった。
「生きてここに、いるってことは・・・まさか、倒したのか!?」
倒した・・・・・・王の話だろう。
「え、えぇ。まぁ・・・・・・・・・」
「ぶふっ!ガハハッッ!ハハハハハッ!!」
と、いきなり彼は笑い出した。
「あぁ、いや。すまないな。しかし、そうか・・・・・・王を、ねぇ」
そう言い、レイの肩をバンバンと叩く。
「やるじゃねぇか、少年!あれを倒したとなると、しかも駆け出しとなると・・・よっぽど名を売れるぜぇ!!」
仮にも冒険者の腕で叩かれるのは中々痛い。
気づくと、周りにいた他の客も集まってきていた。
「へぇえ!兄ちゃん、倒したのか!?あれを!!」
「すげぇもんだな。倒そうと思って倒せるもんじゃないだろう」
口々に賞賛の言葉を送ってくる。
中には、レイに王を倒せるわけがない、と思っている者もいるようだが。
それでも大半の者が褒め讃えてくる。
レイは照れくさくなり、その場をこっそりと逃げ出した。
◆◆◆
伝説の1頁目。
今はまだ序章に過ぎない。
【少年】が真に【英雄】になる日は何頁目か。
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