第9頁「完全調和三角関係」

 三人の幼馴染。


 男が2、女が1。


 そのうち、二人は中学に入ってから付き合いはじめた。


 高校に入ってもその関係は続き、付き合う男女が一組と、あぶれた男子が一名。表向きはさして変わらない付き合いを続けていた。


「幼馴染ってマジで存在するんだー」

「マンガとかの世界だけかと思ってたわ」

「おまえら三人、ほんと仲いいよな。なんてーか、空気が独特。でも○○は付き合ってる奴いないんだっけ?」


 高校にあがってからは、周囲からそんな風に言われる事が増えた。


「でもそれならさ、○○ってつらくね?」


 唯一違うのは、誰もが想像するような展開――たとえば、嫉妬だとか、痴情のもつれみたいなのは存在しなかった。


 俺は、幼馴染の二人のことが好きだった。


 より正確に言えば、同じぐらい〝愛していた〟。


 この感情を誰かに伝えるのは難しい。ただ漠然と『普通じゃない』というのは分かっていて、無神経なクラスメイトの会話にも適当に合わせて、苦笑した。


 俺は、恋人として付き合う二人のことが好きだった。幼馴染が勝手知ったる夫婦よろしく醸し出す空気感、その一部、あるいはもっとも近くに自分が収まっていることに、得体の知れない幸福感を感じていたのだ。


 俺は幼馴染のペア二人が好きだった。ナルシストなのかもしれない。


 中学に上がってから、自分の性欲が抑えきれなくなった時、脳内でどちらかの二人に擬態し、いろいろな事を妄想したりもした。けれど普段の学校では笑って、気心の知れた三人組という関係を続けていたのだ。


 だけど、あの日。

 その三角形が崩れたのだ。


 ――あの子、おまえのことが好きなんだってさ。


 ――いい子だよー。前向きに考えてあげなさいよね。


 ――上手くいったらダブルデートしようぜ。来週末に海とか行かね?


 ――いいじゃんそれー。


 俺は笑顔で受けた。


「マジでかー。俺のこと好きな女子って、どこのダレよ」

「三組に○○っているだろ。あの子だよ」

「乗り気だね?」

「決まってんだろ。テメーら毎回見せつけて来るから、いい加減ウザいって思ってたとこだよ」


 俺たちはいつもの様に騒ぎあい、俺は初めて、そいつを殺そうと、誓った。



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落書きノート 秋雨あきら @shimaris515

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