PC2と4が情報収集中。その舞台裏。

「あー! もう! どうしたらいいのよ!」

「おぶはぁ!」


 あたし達は秋絵ちゃんを逃した後、UGNに帰還した。自分の無力さに腹を立てて、近くにあったP266を引っ掴んで壁に叩きつける。


「待て! 今のは少し理不尽じゃないか!?」

「そうよ、八つ当たりよ! 悪い!」

「悪いに決まっておろう!」

「ごめんね! でも怒りが収まらないからもう一度!」

「謝ってないだろうがそれはごふぅ!」


 何か言ってるP266を拾い上げ、再度壁に投げつける。あたしだってわかっている。こんなことをしても何の解決にもならないだなんてことは。だけど、クララさんとセッちんが調査に出ている以上、あたしの怒りを受け止めてくれる人はいないのだ。


「つーか、情報収集はP266のお仕事じゃない! なんでクララさんやセッちんが出てるのよ!」

「分担作業だ。数ある情報のうち、警察関係の物をクララ君が。街の捜索をセツナ君が行っている。私はそれらを吟味した後に、最優先で調べなければならない情報を調べるという手筈なのだよ」

「…………えーと、要するにラスボスは最後まで控えておくってこと?」

「意味合い的には全く違うが、情報収集能力が高い私をラスボスと認定するならそういう事だ」


 あたしの例えにものすごく不服そうな声が返ってくる。電子音のくせに器用な奴。

 まあそれはともかくとして。


「セッちんて情報収集できるの? なんていうか、ずっとこの事務所で引きこもっているイメージがあるんだけど。人と話すの怖いんじゃなかったっけ?」

「セツナ君も日々成長しているのだ。……まあ、キミより怖い人はいないだろうし、ここにいるよりは外に居た方が安全と思ったのだろう」

「ねえ、携帯電話を遠投する大会があるって知ってる?」

「確かフィンランドだったか……おい待て。その流れでビルの窓を開けて何をするつもりか、おしえてもらえないかあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ…………」

「「支部長―!」」


 はるか遠くまで飛んで行ったP266。それを追うために外に飛び出すUGN支部員達。ふん、失礼な事を言うのが悪いのよ。あたしのどこが怖いっていうのさ!


『そういう所だ。何かあっては力で解決しようとするのは、キミの悪い癖だ』

「うわああ! ……なんだP266か」


 突如声を出すUGNの固定電話。おそらくP266がこの電話にダイアルして会話しているのだろう。電話のくせに電話するなんて生意気よ! ……あれ、正しいのかな?

 憮然とするあたしにP266は語り続ける。


『亜紀子君、君は強い。だが万能ではない。その短慮な部分はどうにかすべきだ』

「お説教? そーですよ。女の子一人救えない無能オーヴァードですよ」

『救えぬと決まったわけではない』

「何よ。ジャームは倒すんでしょう? だったら秋絵ちゃんを殺すってことと一緒でしょうが」

『確かにジャームは倒す。だが君の言う秋絵という娘とあのジャームが同一個体とはまだ確定していない』

「……どういうこと?」

『オーヴァードには様々な超能力エフェクトがあるという事だ。例えば血液から自分に従う『従者』を生み出したり、無から人形を創造したり……そう言った能力を使って『秋絵と同じ形をしたジャーム』を作り出した……という可能性もある』

「…………」


 沈黙するあたし。P266は口調を変えずに続けた。


『秋絵という少女はまだ生きている可能性がある。そういう可能性を考慮して――』

「――うん、そうだったらよかったんだけど」

『……どういうことかね?』

「その可能性はないの。あれはまごうことなく秋絵ちゃんだった。レネゲイトで作られた複製でもなく、本当に、間違いなく」

『確信できる何かを得たという事か。……それは百獣キュマイラの動物的勘かね? それとも影蛇ウロボロスのレネゲイト捕食能力からの結論かね?』

「それもある。だけど……」


 あたしは手を動かし、あの時の触感を思い出す。


「あたしが女体を間違えるなんてありえない! あの触感も、あの体温も、あの弾力も、あの反応も!

 あたしの体が! あたしの目が! あたしの手が! 足が! 胸が! 太ももが! 唇が! あれが本物だって告げているのよ! 作られた造形物なのではなく、正真正銘の女の子の体だって!」


 力強く断言するあたし。その声は誰もいないUGN支部に響き渡る。

 叫び声の余韻が消え去った後に、電話の向こう側からP266の言葉が聞こえてきた。


『アホだろ、君』

「何で!?」


 現場の意見を信じない安楽椅子支部長に絶望した! あたし的には100%信じられるのに!

 いや、そんなことはいい。どうあれ問題は秋絵ちゃんをどうするかだ。

 P266が上げた可能性は、あたしの中ではない。少なくともそれを信じることができない。そうであってほしいと思うけど、そう信じるに値する状況ではない。

 じゃあどうする? あたしの思考はそこで止まる。いつもここで詰んじゃうのだ。


 P266に指摘されるまでもない。あたしは無力で、アホなんだ。

 どれだけ力を振るっても、秋絵ちゃんを救えない。

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