第8話 廊下での告白

 叫んだところで、急に視界は光を浴びたかのように、なにも映らなくなる。

 わたしは驚いて、顔を上げる。

 目にしたところは、教室だった。

 教壇では、白髪の生えた男性教師が黒板に文章を書いている。

 クラスメイトらは手を休まずに、ノートに書き写しているようだった。一部は机に顔を突っ伏して、寝息を立てている人もいるけど。

 わたしは、先ほどまで眠っていたみたいだった。

 開いているノートを見ると、黒板の内容が途中で書かれていない。写しているところで、まぶたを閉じてしまったようだ。

 わたしは早く続きを書こうとした。

「ちがう! ぼくはやりたくてやったんじゃないんだ! 本当なんだよ!」

 突然の大声は、クラスメイトはもちろん、黒板に書いていた教師も顔を動かした。

 視線をやれば、荒西くんが椅子から立ち上がっていた。

「荒西、急になんだ? 大声なんか出して。今は授業中だぞ。それとも、どこか疲れているのか?」

「あっ、すいません、先生。ちょっと……」

 彼は言うなり、口をつぐんでしまった。話すと、まずいものがあるらしい。

教師はため息をつくと、廊下のほうへ顔を指し示す。

「疲れているようなら、保健室でも行ってきなさい」

「……すいません、そうします」

 荒西くんは頭を下げると、席から離れる。そばにいたクラスメイトが小声をかけると、彼はいやそうな表情で返事する。ちょっかいでもかけられたようだ。

わたしは席から自然と動いていた。

 教師はすぐに、顔を移す。

「どうした?」

「あの、一応、付き添いということで……」

「そうか」

 教師は言うと、何事もなかったかのように、黒板に続きを書き進める。荒西くんは目を合わせたが、なにも口にしなかった。

 クラスメイトは、わたしに不思議そうな目を向けてくる。もしかして、付き合ってるの? とか思われているかもしれない。

 わたしは特に周りを気にせずに、席から離れた。

 彼とは扉の前で一緒になった。開けて廊下に出ると、顔を移す。

「今ごろ、クラスでは、ぼくたちができてるとか思っているんだろうね」

「それは、荒西くんにとって、いやだったかな……」

「ううん。むしろ、付き合ってるとか思われてうれしいよ。まあ、実際は付き合ってるというはっきりとした形にはなっていないけどね」

「じゃあ、荒西くん。その、付き合ってもらえないかな……」

「えっ? ここでそういうこと言うの?」

「うん……」

 わたしは顔が熱くなっていて、恥ずかしさからか、うつむいてしまった。彼は、告白されたことに驚いているようだった。

 お互いに並んで廊下を歩き、しばらくの間、黙っていた。

「そう、だね。ぼくも白原さんと付き合いたいよ」

「そうなの?」

「当たり前だよ。ぼくのことを好きになってくれて、うれしかったから。そう思ってもおかしくないよ」

「それじゃあ、返事は……」

「オッケーってことで。白原さん」

 彼は言うと、頬を赤く染めた。照れてしまったみたいだ。

 わたしも相変わらず、顔が熱くなっていた。お互いに同じようで、おかしく思ってしまう。

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