第20話

「じゃあ次はハルくんのが見たいな」

 春翔はこの作品の後に出したくないんだけどと、言いながらちゃぶ台の上に原稿を置く。


【意味が分かれば怖い話】

                作者:中島 春翔


私の姉はスノードロップと言うらしい。

私が産まれた時にはもう家に姉の姿はなかった。

私が姉の存在を知ったのはタンスの奥に私のでも家族のでもない新品の洋服が何着かあった。

この洋服が誰のものなのか気になり母に聞いてみると、私が産まれる前に家から姿を消した一つ上の姉の洋服だと知った。

私は姉に会いたくなり、母にどこにいるのかを聞くと山の奥にいると聞いた。

なぜ母は姉がどこにいるのかを知っているのか気になったがそんなことよりも姉に早く会いたいと思い、山奥へと向かった。

山奥へと向かうと私と同じくらいの背丈の女性がいた。

その女性に姉を見なかったか聞くと女性は知らないと答えた。

山はすぐに暗くなり危ないとその女性は女性の家に招いてくれた。

  ・

      ・

何日も私は山で出会った女性の家で暮らしながら姉を探していた。

どこを探してもこの山には私と女性以外の人を見かけない。

この山にはもう姉はいないのではないかと考え始めたある日女性は食料が尽きそうだと言い動物を狩りに出かけた。

私も何か力になろうと木の実や薬草を探しに出かけた。

家の近くで、ある白い花を見つけた。

その花を調べてみるとスノードロップという花らしい。

姉と同じ名前だからと言う理由でスノードロップを摘み花瓶に入れ飾った。

    ・

その日から何日もたったが女性は帰ってこなかった。


《異世界からの救いの手》

 

「え? これだけなの? これだけに二時間もかかったの? しかも、あんまりよくわからないし」

トモはあきれたと言い近くにあったちーちゃんと出会った時に買ったせんべいを食べる。

 「ねえ。なんかこれふにゃふにゃしてて気持ち悪いんだけど」

 いやいや。ぬれせんはそういう食べ物だから。

 「この話って、山で出会った女性は姉のスノードロップでいて今はスノードロップの花に姉の魂が乗り移っている幽霊なんでしょ? だから、妹さんが花を抜いたらお姉さんは姿が見えなくなったんでしょ?」

 「多分そうだね。語彙力がなくて言葉にすることが難しいけどそんな感じ」

 ちーちゃんはでも私の作品の勝ちねと胸を張ってこっちを見てくる。

 そりゃああの作品にはかないませんわ。

 「それじゃあ最後はトモのみしてよ」

 え? なに? 忙しんだけど、とトモはぬれせんと戦ってる。

 トモの足元に原稿が落ちてたので拾って読もうと手を伸ばすとトモの足が僕の顔面に直撃した。

 「なに、私の足に触ろうとしてくれたわね! 私の足に触ろうとするなんてハルのエッチ! スケベ! ろくでなしな豚!」

 豚ではないし、ハルの足を触ろうとしたわけじゃない。

 触らしてくれるなら何時間でも・・・・じゃなくて、ただ原稿を取りたかっただけなのに。

 「作品みして」

 「いやです」

 まだ二人は心が打ち解けてないらしく会話がぎこちないし、すぐ途切れる。

 「まあまあ。次はトモの番なんだから見せろって。俺に、え? これだけなの? これだけに二時間もかかったの? しかも、あんまりよくわからないし。なんて言ったんだからとてもすごい作品なんだろうね?」

 トモはぬれせんを口に銜え何かを言っている。

 「え? なに? 聞こえないなぁ~」

 いじわるっぽく言ってみるとぬれせんを口から出し、私に口には合わないといって俺の口の中に指ごと入れてきた。

 ゲホゲホと咳き込む俺にトモはゴメンね。想像力が豊じゃなくて何も書けてないの。と上目づかいで言ってくる。

ずるいわ。


《リアルと妄想》

 

「ごめんなさい。全く意味が分からないんですけど。・・・・バトルものですよね? なのに、何で物語書いてるんですか? ポーク&ポーク+チーズinハンバーガーや、ちーちゃんの登場の下りまでは良かったのに何でいきなり物語を書きはじめるんですか? 先生のバトル系は九十パーセントがバトルの物語だからこそ売れてたのになんでこんなに落ちぶれちゃったんですか? 一回死んでリセットされてからまた戻ってきてください。あ、でもちーちゃんが書いたさくらは面白かったですよ」

 僕は丸くなりながら謝ることしかできなかった。

 「放課後の宮殿。と放課後の宮殿。ⅬⅤ.2は直すところは直してどんどん書いて行ってください。異世界からの救いの手は物語を書かない方向ならこれも進めてください。卓球の物語についてはもう触れないでください。ちなみにどれも終わり方はどんな感じなんですか?」

 まさか三作品も手直し際すれば進めていいなんて言われると思っていなかったので美梨みりさんが僕の顔の前で手を振るまで直立不動に立っていた。

 拓海・卓球部(仮)のラストは言ったので三つの企画書を渡した。

 

そこに書いてあったラストは、放課後の宮殿。は、

“太陽たち三人は夏美からもらった緑の石を使って水のドラグレスを封印し青の石を獲得。

その後、光と土のドラグレスは現れることがなかった。

夏美とつまらないことで喧嘩をした太陽にハートの石、桜に茶色の石、モコに黄色い石を仲直りの証にと夏美が渡した。

ハートの石以外の石はドラグレスを封印する知手に入る石だった。

そのため街にはまた平和が訪れた。“

 

 放課後の宮殿。ⅬⅤ.2は

“小春たちは忍者の能力を持ったヴェアハノンをはじめ四つのヴェアハノンを封印した。

戦いは終わるはずだった。

しかし、戦いは終わらずリザードマンのような姿の赤いドラレラスとの戦いで街も崩壊状態になってしまった。

しかも、さくらは二人をかばって戦死してしまう。

最悪な結末になってしまったが小春たち二人はさくらの死で気を新たに持ち封印することに成功。

そして街にはまた平和な日々が訪れたのだ。“

 「ん? 異世界からの救いの手の企画書はほぼ真っ白なんですがなぜですか?」

 「あ、いや、あのこれは・・・・」

 僕は目をそらす。

 「先生? 水瀬みなせ先生? 水瀬優先生? きちんと話してくださいよ」

 僕ははおるものをもって逃げようとしたが美梨さんはベッドから冷蔵庫へとジャンプし、僕の前に立ったと思えば僕にタックルをして押し倒す。

 決して嬉しくないとは言わない (だって女の人が僕の上に乗ってるんですよ? 嬉しくない人なんていませんよね?)が、今はそれどころじゃない。

 「すみませんでした。美梨さんに先ほど怒られました通り、この作品は無計画に何も考えずに作ったもので、選ばれるとも思ってもいませんでした。ですので、企画書も何もかも中途半端で、真剣に面白い作品を僕と一緒に作って下さる美梨さんの気持ちも考えずに行動をとりました。本当にすみませんでした」

 僕は本当のことを打ち明けた。

 美梨さんに怒られるのが嫌だが、それ以上に嫌われたりするのが嫌で今まで打ち明けられなかった。

 美梨さんは怒りもせず、穏やかに

 「そうなのであれば、まず初めにこの作品は世の中に出すのか出さないのかを決めてください。出さないのであればこのまま趣味で書いていてください。出すのであれば、次来るまでに企画書をまとめて私に提出してください」

 それだけ告げ、美梨さんは編集部へ帰って行ってしまった。

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