第29話 その方、飲め

温井紹春が飯川宗春の方をじっと見ながらもう一度言った。


「その方が飲んで良いぞ」


宗春は天地が引っくり返らんばかりに気が動転した、だた、あることに気付いた、自分の湯呑を指さし


「いえいえ、まだ茶がのこっておりますゆえ」


と笑いながら答えると、紹春は元々の宗春のものであった方の湯呑をとりあげもう一度言った


「その方、飲め」


(・・・な)


宗春の顔からは脂汗が流れだし、体は硬直し、まぶたのあたりがピクピクと動き出した、この展開に上座に座っていた畠山義綱も驚きガタガタ震えていた。

その様子を座の者も凝視してる。そしてそれが十分だと感じた紹春は宗春から本来は自分のものである湯呑をとりあげると小姓に向かい


「飲め」


と言った。


小姓がためらうと


「一族の者、皆の首をはねるぞ」と紹春はいい


小姓は観念したように茶を飲み始めた。

そしてしばらくすると声にもならぬ声をあげ絶命した。


大広間にいた一同がこれは毒であると感じた。

そしてそれを入れたのが飯川宗春であるとも。


温井紹春はそして大声で叫んだ。


「これはどういう事でありますかな?義綱様!!」


大広間にいたもの全ての視線が上座の居た畠山義綱に注がれた。


「ち、違う!!違う!!ワシではない!!ワシではない!!これは光誠が己でやると言いだしたことじゃ!!ワシではないぞ!!」


「つまり知っておられたのですな」


「あ!!いや!!そうではない!!とにかく光誠が勝手にやりおったのじゃ」



「義綱様を押し込め(自宅の座敷に軟禁)にいたせ!!」


「はっ!!」


塀の中にいた3人は普段紹春を警護してる者達で紹春の命令に忠実だった、そして義綱を取り押さえにかかったのである、不意に義綱は転がりながら走りだした、しかしこの建物に出入り口は表門の1つしかない、それでも義綱は右に左に逃げ出すのである、無駄と分かりながら。


その時、飯川宗春はある思いにつつまれた


(ああ、全て温井紹春の手のひらで踊らされたことであったのか・・・)



温井紹春は三人の兵に向かい指示を出す


「外の長続連に急ぎ飯川屋敷にむかえと伝えよ、手筈どおりになと」


「はっ!!」


温井紹春は近くの歌人から茶を一杯もらい、これをグビッっと一気に飲み干す。


(光誠も愚かな手を使うものじゃ)


(畠山はこれにて滅亡じゃ、そして能登はワシのものとなる)

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