第24話 黄金

 

「遊佐続光を探せ、探しだし連れてきた者には黄金10枚をやろう」



既に能登国は温井一族の手に渡った。

誰も温井一族にはかなわない。


これは能登に住んでいる誰もが感じることだった、それは主君の畠山義綱も例外ではなかった。この頃の義綱は温井一族のあまりの専横ぶりに頭にきてはいるがさりとて手を出す事は己の死を意味することでもあった。どうする事もできないもどかしさを感じながら日々生活するしかなかった。


温井紹春はというと、続光探しにやっきになっていた。

彼には勝者の自覚がなかった。


以前、続光が乱を起こした時は自分なりの算段が色々とあった。挑発し、挙兵させ途中の戦で負けることも想定した上で続光の全てを操り罠に陥れた。紹春が今までやってきた戦や調略とは全てのこの種の勝ち方だった。


だが、今回の乱での勝利は「運が良かった」だけだった。少なくとも紹春はそう感じていた。逐電した男が5000人もの軍隊をつれ、更に元七人衆を味方につけての挙兵。全てが温井紹春の想定外のことである。一歩間違えば晒し首になっていたのは自分の方かもしれなかったのだ、とにかく、何も無いと思われたところから突如大軍を生みだし能登国のほぼ全軍と互角に対決できるところまでもっていった遊佐続光という男が今は心底恐ろしい。



「20枚じゃ!!黄金20枚を出すぞ!!」



この父のあまりの続光への執着ぶりを見た息子続宗は適度に諌めた。

「父上!父上のあまりの遊佐殿へのこだわりよう、かえって温井の武名を汚しますぞ!」

「黙れ愚か者!!あやつがまた大軍を率いて能登に入ってきたらどうするつもりじゃ!」

「最早生きておるのかも分かりませぬ!」

「死んだ事を確認するまで枕を高くして眠れぬではないか!」

「何をおっしゃる!ここ能登国で一番の家に誰も刃向いませぬ、遊佐殿が生きていたとしても、最早この能登において味方を募る事は不可能にござる!」

「大馬鹿者!!その慢心が遊佐を大軍にさせたのじゃ!!」



紹春の続光探しは終わる事はなく国内は言うに及ばず国外にまで調査の手が及んだ。しかし、続光の行方はとんと分からずじまいだった。




だが続光は近くにいた。

紹春のすぐ近くに。



彼は畠山義綱のブレーン「飯川光誠」の屋敷の地下に匿われていたのだった。

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