第29話 全米連邦 チリ州 サンティアゴ市 旧大統領府州知事公舎 州知事執務室

混乱の極みの旧大統領府州知事公舎を搔い潜り、州知事執務室に居並ぶ、花彩渕上美久里 


只外の白い爆煙を眺める一同

ワトソン州知事、呆然と

「T28DESの信号が途絶えたのはあれか」

鯉淵、事も無げに

「無茶な兵器を使うからです」

ワトソン、ぽつりと

「あと10台は欲しかった」

鯉淵、毅然と

「お言葉ですが、チリ州の市民を皆殺しにするつもりですか」

ワトソン、じわりと

「その方が、悲劇性があって良いだろう、全米製のオモチャに殺されたとあっては、チリ州独立の気運も高まるものだ」

鯉淵、尚も

「オモチャにしては改装しすぎです、州知事の分際で」

ワトソン、深い溜め息をしては向き直る

「ふん、その結果がこれだよ、試作品は得てしてこんなものなのか、出力がまるで足りんよ」

美久里、歯噛みしては

「今からでも、島上さんと米上さん呼びませんか」

渕上、窘める様に

「まあ気張り過ぎんと、島上さん米上さん北浜さん阿南さんと、局員から事情も聞かないといけないですよって」

花彩、不服顔で

「そうですかね」

渕上、毅然と

「お話は終りましたか、そろそろお仕舞いですな」

ワトソン、事も無げに

「ほう、聞いていたかい 反米レジスタンスが収まったと思えば、こんどは第三帝国の勃興かね、どうか私をゆっくりさせて貰えないものかね」

美久里、腰の後ろのホルダーからいきなりデリンジャーエレクトロ抜いては構える

「よくも他人事の様に、この世界に第三帝国はもう入りません、」

渕上、感心しては

「まだデリンジャーエレクトロを隠し持ってるとは、えらい執念ですな」

花彩、とくとくと

「改めて、美久里さんの覚悟知りました」

鯉淵、視線を逸らし外を眺める

「物騒ですね、州警察呼びつけようにも、外がこれでは」知らぬ素振りも

美久里、凛と 

「改めて尋ねましょう、テリー・ワトソン州知事ことヘルマン・ブット 第二次世界大戦からの罪状からは勿論、パキスタン統合管理センター襲撃からの低温治療タウン始め各施設を機能停止にさせた計画実行とその所行、万死に値します、辛うじて私は低温治療タウンにて生き延びましたが、改めてデン・ハーグ統合軍事裁判所から訴状が上がる筈です」

花彩、目を見開く

「やはりワトソン州知事が主犯なんですか 低温治療タウン、母が死んだかもしれないのですね」

美久里、不意に涙が溢れる

「そう、低温治療タウンで治療中の2/3、3万人が死亡 原爆一斉投下から辛うじて難を逃れた私の父母弟親族達も多分も漏れず死にました、決して事故とは言わせませんよ 人類の叡智ブレインアーキテクツをパキスタン統合管理センターから引き抜き奪取した罪、購って貰います、ヘルマン・ブット」

ワトソン、口を真一文字に

「先程から、さて誰の事かね、ヘルマン・ブットとは、」

美久里、尚もデリンジャーエレクトロを差し出す

「だからあなたです、ワトソン州知事」

ワトソン、一笑に付す

「ふっつ、何をもって根拠にするのかね、私に有史に残る医療大事故まで擦り付けるなど、仮にもブレインアーキテクツはたかが人工チップでは無いかね、システムが貧弱過ぎないかい 寧ろ、独占したあれを誰かが引き抜いたお陰で人類が新たな一歩を進んだでは無いのかね、新たな技術の数々、特に完全な脳移植法、人類を新たなユートピアに導いた技術だよ、何れの技術は君達も恩恵に有り付けるだろう 人生は思ったより長いのです、恩讐など今直ぐ捨てるべきだね、さあ」

花彩、不意に

「ブレインアーキテクツって人工チップなんですね、そんな小さいなんて」

美久里、凛と

「その人口チップ、ここまでで誰も触れていませんね、公国会議でもやっとの噂の様ですからね」

渕上、凛と

「語るに落ちましたな、ワトソン州知事」息を深く吸い「そして架空のエデン計画も知ってはりますか」

ワトソン、保身に走っては

「ふん、落ちるも何も知る人ぞ知るだよ、それに架空では無いね、まだ道半ばだよ、人も長く生きられれば、畏くもなるだろうし、未来に絶望する事もなくなる、素敵な事ばかりだ」

鯉淵、けんもほろろに

「南米は原爆の直撃を受けなかった残された楽園の一つですが、私は退廃したこの世界が、安易に素敵とは言えませんね 第三帝国が再び息を吹き返す程ですから」

ワトソン、困り顔で

「鯉淵はリアリストだから困る」

花彩、逡巡しては

「でも、住めば都ですとかですし」

渕上、花彩の手を優しく叩く

「そこは京都だけに適用するがよろしい」

美久里、偉丈夫に

「続けます、ブレインアーキテクツを、追い詰められた旧中国に売りつけ、旧中国を完全復興させるなど、新たな枢軸国の誕生ですか」

ワトソン、机に両手を着き

「一橋さん、止むえん仮説に付き合おうか それでは聞こう、世界を牽引する国はどこかね、信仰が最優先のローマ参画政府、未だ右往左往する図体だけ大きい全米連邦、虎視眈々と主席を狙うイングランド連邦、新宥和政策で拡大するフランス公国、新規産業に次々挑むネーデルラント連邦、新たな秩序の番人となったサンクトペテルブルク公国、何れも役不足だよ 今は取り敢えず復興を成し得た麦秋の龍舜に希望を託すべきと思うがね ああ、これはつい一般論かね」苦笑

美久里、透かさず

「それはブットが決める事では有りません」

ワトソン、ほくそ笑む 

「まあ私はブットではないがね いや最適だよ龍舜は、あの戴冠式を見てそう思わんかね」

美久里、激昂

「俗物が、己の名前を忘れて何を語ります」

ワトソン、苛つくも

「くどいね、そもそも私がヘルマン・ブットで有る証拠はあるのかね」

美久里、確と

「フォレストワイナリーにあった第三帝国の10号カプセル、ご存知ですよね 全米入植準備局の北浜さんが調べて、州知事のDNAと一致しました」

ワトソン、こめかみに血管が湧く

「ふん、そんなワイナリーは知らんよ、誰かが私を嵌める為に皮膚片でも置いたかもしれん、ええい、知らん、」

鯉淵、理路整然と

「そのカプセルは誰が入っていたのですか、確実な状況証拠も無しに当てずっぽうは無しですよ」

美久里、凛と

「生憎、資料が持ち去られ分かりません、ですが必ず粗は出ます、ブット」

花彩、一人頷く

「嘘も積み重ねたら、忘れるものですね」

渕上、花彩の頭を優しく叩く

「感心せんで、ええどす」

鯉淵、促しては

「いいからそのデリンジャーを下ろしなさい、そんな小振りでも十分死にますよ」

美久里、尚も胆力の限り構える

「それは出来ません」

鯉淵、吐息を漏らす

「全く、諦めが悪いのね」

美久里、鞄からiParentを取り出し翳す 

「それでは次の証拠です ここチリ州の2083年のフォレストワイナリーの提灯記事です ブット、以前の選挙で落選しましたが彼の地で選挙支援要請していますよね、ここであなたは致命的なミスをしています」

鯉淵、嘆息

「やはり、一橋閥ね」

ブット、頭を頻りに振っては

「はは、高価なスマートフォンをお持ちとは上級市民様か お遊びに付き合うのは疲れるが、まあいい そう選挙支援要請なら、誰でもするだろう、当選してこそのチリ州の平穏だよ」

美久里、空読みのまま

「この記事、全米最高議会図書館のアプリで検索しました ワトソン州知事はこう語りました“1943年のボルドーに勝るとも劣らない味”、その時代のフランスの領土はドイツの占領下です、語るに落ちましたね」

ワトソン、唇が微かに震え出す

「お姉さんにワインの事など分かるまい、伝え聞いた話だよ」

美久里、凛と

「一歩も譲らないのですね」

ワトソン、気丈にも

「ああ、私には背負うものがある」

美久里、尚も

「それら全ては全人類から掠め取ったものです、勘違いは止めて下さい」

ワトソン、我が意を得たり

「ふん、大雑把になってきたね、決定的な証拠はやはり無いのだね」

美久里、背負う事無く

「もう手元に証拠は有りません、ですがブット、数々の戦中戦後現在この世界、これはあなた達第三帝国が望んだ世界と言えますか」

ワトソン、振り絞り

「ふっつ、何を言うかと思えば理想論かね まあ時間は十分に有りそうだね、言おうじゃないか そうだよこの世界には確固たるリーダーが必要なんだよ、思想がどうこうは後で付いて来る しかし、それがどうかね第三次世界大戦で世界の人口が半分になっては何も出来ん、行動にも移せん、奴隷の一定数が必要で有る事に何故気付かん、ここまで荒廃させて何を考えておるのだ、この地球上全ての民族は」

美久里、切に

「あなたは第三次世界大戦を経験していないから、そんな事を言えるのです あるべきものがごっそり抜け落ちています、嘆く場所はそこでは有りません 当たり前の様に死体が転がる世界が、この世の理であるとでも、私の父母弟親族の魂、私の心は、決してそこには有りません」

ワトソン、こことぞばかりに

「これだから第三次世界大戦経験者は面の皮が厚い、自分達だけが被害者か、そこまで己が可愛いか、いいや違う、悲惨さでは第二次世界大戦も敵わんよ、君もホロコーストに行ってみたいかね」吐き捨てる

美久里、たじろぎもせず

「ホロコースト、あなた方はその名を忘れてはいけません、その傷を背負いに背負った親族の言葉を見た事が有りますか、フィレンツェ世界戦争記憶館には是非行くべきですね」透かさずiParentでワトソンの連続立体写真を撮る、迸るフラッシュ

ワトソン、不意に目を背ける

「今や州知事の私にそんな時間など無い、フィレンツェ世界戦争記憶館は観光客にでも任せよう、」大仰に手を振り上げる

美久里、iParentを見つめ得心

「いいですか、そのフィレンツェ世界戦争記憶館の膨大なアーカイブの中に、ヘルマン・ブットの若かりし頃の集合写真が有りました、見せましょうか あなたにとってはただの駒かもしれませんが、あなたをしっかり見ている人はいるのですよ 第三帝国金融資産取締分隊ヘルマン・ブット曹長、若い頃の身分はお忘れですか」iParentの液晶をタッチ、ボタンを押す

高速で部位解析検索をするiParent、全ての連続立体写真部位解析が終り、ヘルマン・ブットとワトソン州知事が横並び“カーン”の通知音

美久里、画面の写真を翳し、

「画像分析完了しました、一致率99.97%、これをもってヘルマン・ブットの証拠とさせて頂きます」

鯉淵、従容と

「ここまで証拠が揃っては言い返せませんね、ブット」

ワトソン、不意にくだける

「何を言うのだ、鯉淵、」

美久里、デリンジャーエレクトロを尚も構える

「鯉淵副州知事、敢えて白旗上げるとは、まだ嗾けますか」

鯉淵、不敵にも

「いいえ、感心したまでですよ、一橋さん ですが、これ以上老人をいじめると死んでしまいますよ、はははー」高笑いが響く

ワトソン、机で両腕を支えて堪える

「ええい、誰もふざけるな!今更、第二次世界大戦かね、ああ所詮は私はC級戦犯だよ、誰が裁ける、生ける証人が果たしているかね、それはもはや時効だよ、下っ端の私に何ら関係無い」

美久里、語気が上がる

「ブット、省みず、罪の意識も無いのですか、ホロコーストには何人連れて行かれたのです、あなたはそれさえも忘れたと言うのですか」

ヘルマン、ただ両手で堪える

「全ては戦争だよ、あの時代だよ、生きて行くには何でもするさ、善悪など全て後だ」

美久里、吠える

「いいえ、違います!互いに分かり合おうとしないから、戦争が長引くのです、結果論を安易に引用しないで下さい」

ヘルマン、まなじりが上がる

「分かり合う、君は何を言うかね 和解しても、案の定ソビエトは第三帝国をたばかったよ、我々は漸くそこで学んだ、やる以上徹底的に根絶やしにする、いいかね戦争とはそんなものだ、生命とは思った以上に薄っぺらいのだよ、」コップの水をがぶ飲みする

花彩、躊躇いがちに

「この偽り、これが第三次世界大戦に繋がるのですか、」

渕上、見守っては

「悪人は追い詰められると、そんなものです、その行いたるや中々消えてくれないものですな」

鯉淵、伺う

「ブット、体調が優れないのですか」

ヘルマン、深く息を吸い

「はあ、大丈夫だ鯉淵、この体はナノマシーンで保っている、この年でも未だ盛んだよ」

美久里、一切隙を与えず

「ブット、薬の過剰投与は寿命を縮めます、ここで死なれては証言が取れません、何としても続けます」

渕上、ブットを見据え

「悪行が悪行を生むのですな 元全米担当なら、もっと早く処断すべきでしたな、たかが泡沫候補の分際で」

美久里、渕上を一瞥しては

「いいえ、渕上さんは優秀です、上家衆全米班、全米の為にいつもありがとうございます」

渕上、苦い顔で

「一橋さん、その姓、ふむ やはり、ほんまもんの一橋財閥さんなのですな」

花彩、苦笑

「もう、渕上さん、ディナーの段階で気付かないのですか」

渕上、くすりと

「一橋財閥の深窓のおばあさんなんて、噂に過ぎなかったですからね 内緒で社内報見せて頂きましたが、写真も記事も何も無かったですからね」

ヘルマン、ついに身震いしては

「ええい!逮捕などされん、誰が裁ける、禊はすでに終ったからこそのチリ州知事だよ、皆が私を待っている、反米レジスタンスを漸く排し、全米連邦の圧政からも脱し、ここで漸く第三帝国の輝かしい未来が再びここから始まるのだよ、、」一気に青ざめ「ぐあ、」胃液を吐く勢い

美久里、ただ目を細め 

「この室での一連の会話全て頂きました ハイソフィア、デン・ハーグ統合軍事裁判所へ、ヘルマンブットの第二次世界大戦C級戦犯訴追と、パキスタン統合管理センター襲撃からの低温治療タウン始め各施設を機能停止による大量殺人、経歴詐称による全米連邦入植、並びにチリ州での第三帝国による戦争行為 民事訴訟、刑事訴訟、そして戦争訴訟へ、民事調査及び公的調査を踏まえた上で審判をお願い(訴訟申請を行いました)」

ヘルマン、机にくだけても、やっと吠える

「違う、全部嘘だ、興に乗ったまでだ、訴訟を取り下げろ!」

美久里、毅然と

「駄目です、私は今日この日の為に生きて来ました」

渕上、嘆息

「ふう、美久里さん、盛り過ぎ違います、公私共に宮武さん等の事はどうされるんですか そこは私が訴訟申請をちょいと手直しさせて頂きますよって、ローマ参画政府名義に変えますな」

美久里、動じる事無く

「はい、お任せします」毅然と振る舞い

鯉淵、不敵にも

「ブット、参りましたね、今日であなたはお役御免にさせて頂きます」

ヘルマン、冷や汗止まらず

「ぐう、鯉淵、」

渕上、苦笑

「鯉淵副州知事さん、変わり身早いですな」

鯉淵、口角が上がる

「何の事でしょう、追い詰められた組織はそんなものです」


透かさず、背後からのファックスから、デン・ハーグ統合軍事裁判所からの出頭命令の令状のロール紙がカット、ワトソン摑み取っては食い入る

「何、デン・ハーグ、そんな馬鹿な、私に全部着せる気か、」

美久里、漸くデリンジャーエレクトロを携えた右腕を下ろす

「あなた以外に誰がいるのですか、洗いざらい話すべきです」

ヘルマン、あんぐりとしては

「ああっつつ、、デン・ハーグ統合軍事裁判所、出頭令状、何故だ、、」ロール紙を持つ手が震えては、崩れ落ち膝が砕ける

美久里、iParentに返信された訴状内容を確認スクロール

「もう、お時間の様ですね、さよならブット」

ヘルマン、滴る汗が全身に

「誰が出頭する、まだ死ねん、いや死ねばもろとも、そうだよ、謁見した全米連邦の議員達全てにドミネーターを飲ませた、これだよ、そうパラレルインターネットに直結したホーム端末があれば、透かさず頓死だ」

花彩、目を見張る

「まさかそちらですか、しかもパラレルインターネット経由なんて」

渕上、息巻く

「手が込んでますな、どれどすホーム端末は、言いなはれ、」

美久里、デリンジャーエレクトロの構えを正す

「ブット動かないで、」

ヘルマン、自らの汗で机に滑っては床に伏す

「知るか、すべては私の手にある、愚民共め、死に行く議員の代わりに第三帝国のエリートをあらゆる議会に送り込み全米連邦を乗っ取ってやる、新たな世界の構築だ、全米連邦から世界征服だ、見ておれ、はあ、」机に縋り付き、手を震わせ辿っては、古いオルゴールに触れようとようとした瞬間

“バン”、机の上の古いオルゴール、ドミネーターのホーム端末が砕け散る

身震い止まらぬ、ブット

「ぐお、」

美久里、目を見張り

「実弾、」

花彩、音の鳴る方に振り返る

「何故、」

渕上、動じず

「鯉淵さん、私達は生きて帰りたいものですな」

鯉淵、コルトM1911尚も構える

「相談には応じましょう」

ヘルマン、息も絶え絶えに床で身悶えては

「鯉淵、何をする、第三帝国の野望を忘れたか、ハア、ハア、誰が第三帝国の舵取りをするのだ、ハア」

美久里、デリンジャーエレクトロを鯉淵に向き直す

「何故、議員達を救ったのですか」

鯉淵、コルトM1911を美久里と対峙し、不意に

「人間として、生きて行く術は見失ってないわ」

渕上、むずがっては

「よくも言いなはる、会った全米連邦の議員達全てにドミネーターですよって まあ、全米連邦でナノマシーンカウンター生産してますから、何とか繋ぎにはなりましょうが」

鯉淵、吐き捨てる様に

「多分それ強がりよ、ナノマシーンカウンターは市場前調査にも上がってないから、まだ研究中ね 試作品が仮にあったとしても効能はさっぱり分からないわ 知らずにその件を見逃した私もどうだけど、対象者の繊維外科手術を早いうちに勧めるわね」

渕上、歯を食いしばっては

「くっつ、ハウル、、、」

鯉淵、ワトソンを見下しながら

「さてブット、私がいつ自ら第三帝国を名乗りました、先程の今でホロコーストを忘れましたか」

ワトソン、息も絶え絶えに縋る様に

「裏切り者か、裏切り者なのか、鯉淵、」

鯉淵、いよいよM1911をワトソンに構え啖呵を切る

「次はブットの頭ですよ、わざわざ鉛の弾なんてお年寄りには冥土の土産ね さあ、一発で死ねると思わない事よ」

ワトソン、弱りきった右拳を床に打つ

「ああ、ありえん、まさかシオン福音国か、」

鯉淵、尚も

「そこ以外どこの国があるの、クズに付き合うのは、本当に長かったですよ」

ヘルマン、過呼吸体中が強ばる

「死にたくない、殺すな、、ハア、ハア」

花彩、見据えては

「これが冷凍睡眠後遺症ですか、正規のカプセルに入っていない人は皆これなんですね」

美久里、渋々デリンジャーエレクトロを降ろす

「ブット、まだ死なれては困るわ 千の状況証拠より、一人の証言、証言台に必ず立たせます」

ヘルマン、辛うじて机に寄りかかり

「ハア、そうだ、まだ死ねん、私の才覚に同調する輩はいる、まだ生きる価値は残ってる」必死に机の中からナノマシーン活性錠を取り出し、勢い余ってナノマシーン活性錠を過剰に搔き込むも「ウグ、、、」気を失い激しい痙攣、ぴたりと突然硬直

花彩、室を見渡す

「まずいです、ウルトラAED何処ですか」

鯉淵、事も無げに机の中にコルトM1911を仕舞う

「もう終りよ、ここまでのナノマシーン漬けにウルトラAED施したら暴走するわ」

渕上、お手上げの素振り

「それ、聞きしに勝るリビングデッド化ですな、もう二度と見たくも無いですよって」

美久里、尚も

「それでは、裁判が、」

花彩、ヘルマンの脈を取り

「脈は止まってますね」目を見開き心臓発作で息絶えるブットの目を閉じる

美久里、声を失くす

「死ぬんですね」

渕上、首からロザリオを出し

「何れは死にます、しかしこんな体勢で棺桶に入りますかな、すでにカチコチですよって」丹念に十字を切る



州知事執務室の最後のドアを開ける、北浜と阿南 

阿南、ドアノブむんずと掴んだまま

「銃声って、ここか、物騒だな」

北浜、声を張っては

「おい、転がってるのそれ死体なのか、州知事、どうした」死体に近寄りヘルマンの脈を手繰る

鯉淵、事も無げに

「簡単に話すと寿命です、資料が欲しければ後程お渡しします」

北浜、嘆息

「全く最悪の日だ、ワトソン州知事生きたまま捕らえられないなんて、絶対八萬議長からお小言だよ」

阿南、北浜の肩を叩いては

「北浜、死んだなら後回しだ 大体、庁舎の立ち入り調査に俺を巻き込むな、島上さんと米上さんに任せっきりはいかん、北浜戻るぞ、まだ仕事が残ってる」

北浜、鯉淵を見据えたまま

「まさか、自殺に追い込んで粛正してませんよね 建前上であっても、これでも反米レジスタンスを追い出した功労者ですよ」

鯉淵、一瞥しては

「皆さんがしっかり見ていました、確かに心臓発作、寿命ですね 知事の席欲しさに副知事の私に嫌疑を掛けますか」

北浜、苦い顔で

「第三帝国もいよいよ仲間割れですか」

鯉淵、腕組みしては尚も

「私が第三帝国の幹部に見えますか、北浜さんにそんな事は一言も言ってませんよ」

北浜、伺っては

「分かりました鯉淵副州知事、信じましょう しかしまだ関係者全員吐かせていないのに、これ以上の見殺しは止めて下さい」

渕上、窘めては

「まあまあ、北浜さん 少々くどいですよって、自ら吐いて地獄行き見せられた、私達を気遣ってもくれないんどすか、」

北浜、無様に死後硬直したワトソン見つめては

「確かに、凄惨な光景だったでしょうね」

鯉淵、机に戻り引き出しからリストを翳しては

「証言なら、全て私がします あとこのリストはチリ州職員の第三帝国所属員です、捜査令状はおって出しますが、それまで一人も出さない様にお願いします、それ位お願い出来ますよね」北浜を睨みつける

北浜、鯉淵に近付きリストを受け取っては

「もちろんです このリスト、いや、こんなに紛れているのか、」

阿南、歩み寄りリストを覗き込んでは

「15人か、しかも総合職とは危なっかしい、おい、会議室に押し込むぞ、北浜」北浜の肩を叩く

阿南と北浜、室を後にする


花彩、鯉淵のリストをチラ見しては、一瞬で読み解くも

「うーん、北浜さんに渡したリストの人達、先日の違法工場の名簿リストにも載ってませんよね、やはり偽名ですか」3度目の空読みに入る

美久里、驚愕するも

「凄いわ、本当に読み解けるのね、」

花彩、胸を張り

「おじい様譲りの特技です」

渕上、毅然と

「鯉淵さん、潜入捜査とは言え、泳がしっぱなしが多いですな、シオン福音国には正式に勧告します」

鯉淵、凛と

「私の所属は名乗っていませんが、鯉淵で通るでしょう 渕上さんお言葉ですが、ここまで徹底的に潜入しませんと第三帝国の芽は摘めません そう、もう何年かけて追い詰めたとお思いですか、それをあなた方が一気に捲るなんて非常識危険極まりないです、こちらこそローマ参画政府に勧告したい限りです」

渕上、苛立っては

「しょうもなっつ、巧みに逸らしては、真の目的はなんですの、そこはっきりさせましょうか」

鯉淵、口を結び

「ブットが死んだ今、これで全てお仕舞いです、それでご納得頂けませんか」

渕上、眉間をよせては

「事実認定はもうよろしい、ただあきまへんのは、美久里さんを気張らせすぎです、一般婦女子でっせ、ほら、顔がまだ戻らんと、こちらどうするのどすか」

花彩、微笑

「美久里さん徐々に戻ってますよ、美久里さん、スマイルですよ」

美久里、思い出したかの様にデリンジャーエレクトロを腰の後ろのホルダーに戻す

「そう、終ったのですね」

鯉淵、頬笑み

「後はお任せ下さい、一橋さん」

渕上、怒り収まらずも

「鯉淵副州知事、会った時は敵で、今は味方だと、えらい便宜を通しますな」

鯉淵、深々と一礼

「ローマ参画政府 越境調整部管理官:渕上さん 何卒穏便にいきましょう」

鯉淵、深い溜め息

「今更、現在の肩書き覚えてても、どうしようもない事ですな」

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