2087年 煙

第18話 2087年9月20日 全米連邦 チリ州 サンティアゴ市 プラザコースト ラウンジレストラン

各地よりの来訪者、ついにプラザコーストのラウンジレストランに勢揃い 長机の上座には、美久里阿南北浜 下座に花彩渕上島上と堂上米上 席にディナーの準備が進む


美久里のマイアミの惨劇の話が終り、頭を抱えては戸惑う一同

花彩、涙腺も弛み

「うう、お母さんはそんな事言ってませんよ、そんなギリギリの事故なんて」

美久里、力む机の上の手を解し

「歩美さんは、冷凍睡眠教育カリキュラムと児童育成保守とはいえ、中身は生まれたての子供よ、やや覚えてないのも無理がないわ むしろ思い出して頂きたく無いわね」微笑

阿南、目を皿にし

「いや、壮絶な話ですね」

北浜、従容と

「この空気、絶対年の話はするなよ」

渕上、ぴしゃりと

「そう無粋は無しですよ、それ絶対ですよって」

美久里、場を和ませようと、弾む

「3年前に起きましたから、きゃっつ20才ですよ」


一斉に静まる一同


花彩、淡々と

「辛うじて同い年ですね」

美久里、一人笑い

「はは、そうね、何か気が合いそうよね、花彩さん」

米上、苦笑混じりに

「一方皆さんは、冷たい反応だけど、誰か笑いなさいよ」

渕上、深く息を吸い

「ニューヨークからの天然さんは子気味良いどすな、これはかなりの大物ですよ」

美久里、訴えるように微笑

「気を使わせますね、渕上さん」

渕上、くすり

「いえいえ、ここに万上まんじょうさん程、気遣い出来るのおりませんからな」

米上、ドヤ顔で

「万上も所詮口だけよ そう男は誠実さよ、うちの旦那とか見なさいよ」鼻息も荒く

堂上、米上を右手の甲で叩きツッコミ

「俺、それ違うと思う」

米上、堂上の手を払っては

「ここは、ハイと言うべき所よ」目を見張る

阿南、ぐるり見渡し

「しかし日本人が漸く揃いも揃ったな、チリ州どうした」

北浜、思いも深く

「まあ、さすがにここまでは計算外かな、出張延長申請しないとまずいかな」

美久里、微笑

「北浜さんありがとうございます これも何かの縁です、主に感謝します」厳かに手を組む

渕上、促しては

「ほら、皆さんもしましょう」

暫し手を組み黙祷が続く


阿南、堂上を見据えては

「それで自称堂上、本当に武士かよ、大体そのあるべき尾はどうしたんだ」

堂上、不快にも

「偽物扱いか、それなら上さんに切り取られた、すぱっとね」

阿南、苦笑混じりに

「ふっつ、それは縁起でもないな、痛み入るよ ああ、言っとくが、武士とは二度と張り合わんぞ、ここは仲間だからな」立ち上がり、堂上に手を差し伸べる

堂上、立ち上がり阿南と握手

「相手が最上なのが運の尽きだな」

米上、ゲラゲラと

「それ、ホテルパシフィックの一件でしょう、ちょっと笑える さっき思い出して支配人に言って、またビデオ見ちゃった タングステン鋼のサバイバルナイフが、ぱきんだって、音声被せてないわよね」

阿南、果敢にも

「笑い話になるか、あれから硬度は上げた、コヨーテセキュリティーマシーンの首抉ったぞ」

堂上、とくとくと

「それなら話が早いけど、もっと刃を鍛えておきな 次の手に時間が掛かる」

阿南、不敵にも

「ふん、あんな数のコヨーテセキュリティーマシーンに対応出来るか」

堂上、阿南を指を差し

「何の為の要人警護だ、困ったら立て篭れよ それでこの先も美久里さんを守れるのか」

阿南、吐き捨てては

「家毎噛み砕く奴が相手では、逃げるの精一杯だ、篭城戦なんて、貴様は戦国時代の人間か」

米上、呆れ果てては

「言うわね、」

美久里、割って入っては

「堂上さん、そこに至る思考過程でどんな訓練しろと言うんですか」

堂上、困りは果てては

「そこだよね、一般の方には判断力上げてと言うしかないよね」

島上、眺めては

「反省会もそこそこだ、そいつらをこれからも先、相手にするんだよ」

花彩、ぽつりと

「第三帝国手強そうですね」

渕上、隣りの花彩の手を握る

「花彩さん、それを今言ったら食事が進まなくなるどすよ」思わず給仕に愛想笑い

米上、憮然と

「皆さん込み入ってそうね 言っておくけど、あまり旦那に頼らないでね、あっちには武士もいるから対応も考えないと」


一時の沈黙が流れ、各々思い描く


美久里、繰り出しては

「さて個別ではまとまりませんね 皆さん合流されましたので、このまま初めての会議を行いましょう、忌憚なき御意見宜しくお願いします」

堂上、困り顔で

「まず、ディナーじゃないの がっつり行ってからの、がっつり会議でしょう」

米上、堂上の腕を引く

「こら、催促しないの」

阿南、怪訝に

「全米南部で指折りの日本人がこんなに集まるなんて、やはりとてつもない事か 第三帝国、何しでかす気だ」

北浜、悩まし気に

「これだけのお歴々、調査書書いても信用してくれないぜ」

渕上、頬笑んでは

「北浜さん、手伝ってくれたら、ちょちょいと証人書書きますよって」

北浜、溜息混じりに

「手伝うも何も、現時点で俺等、渕上さん等、堂上等の三手それぞれの仕事に別れてますよね、どう書くんですか」

渕上、尚も微笑

「ですから、ちょちょいですがな、北浜さん生真面目どすな」

米上、嘆息

「こっちはいいわよ、ややお手隙、義体の密輸追って来たら、シオン福音国に仕事取られたし 観光楽しめって、お陰で満喫してるわよ」

堂上、憮然と

「第三帝国が絡んでるからって、あれな」

渕上、窘める様に

「こちらははなっから第三帝国絡みですし、都合が宜しい、皆さん合流決定ですな」ニコリと

阿南、険し気に

「第三帝国にシオン福音国、そしてこのお集り、素直にシオン福音国に案件渡しませんか こちらとしてはゲストの美久里さんを危険に晒せません」

渕上、ぴしゃりと

「あきまへんな、こっちの仕事はうっかり間違ったら、第三帝国が世界征服する勢いどす その為の検証はさせて頂きますよって」

島上、思い描いては

「この第三帝国の勢い、そして、全てはチリ州に通づるか、渕上どんと言ってやれ」

渕上、一瞬躊躇うも緒

「こちらの第三帝国案件は、通称”ドミネーター”世界征服の為の違法神経毒ナノマシーン工場を追っています しかしまあ、この長閑な全米南部のチリ州で作れるなんて、どうなんでしょう、可能でっしゃろうか」


絵空事の様に、沈黙する一同


渕上、空気を読んでは

「そら、この反応ですな」

北浜、繰り出しては

「おいおい、本当物騒だな、どれも看過出来んな、本当に第三帝国手広いな、本当なら凄いな」

美久里、北浜の表情読み解いては

「でも北浜さんなら、察しはついてるんですよね、そんな電力供給賄える所は限られている筈ですよ」

北浜、不意に目を背ける

「そんなのチリ州に来たばかりで、全ての報告書集まってませんよ、何とも言えません」

島上、語気も荒く

「いいから吐けよ、北浜、一つでも綻んだら、こっちにも支障が出る」

美久里、制しては

「北浜さんは私達のチームですよ、私を思っての発言ですのでもう少しお時間頂きましょう」

堂上、ぴしゃりと

「もう、ここまで揃ったら、全てがチームだ だんまりは許さないよ」

美久里、微笑

「ありがとうございます、堂上さん」

北浜、切に

「違法神経毒ナノマシーン工場は一旦置く 今から全米連邦の実情話すが怒らず聞いてくれ、義体もナノマシーンも供給不足です、分かるだろう、これ以上の価格高騰はプレジデントケアの負担増で全米連邦が破産だ」

美久里、凛と

「北浜さん手緩いですよ 一緒に見分しましたよね、プレジデントケア云々より、ここチリ州が反米レジスタンスも沈静化した事から、知らず知らずに内にチリ州全土が第三帝国に牛耳られようとしています、看過出来ません」

渕上、押すように

「そうですな、私達もローマから態々来ているんですよ、何もせんと無様に帰れますか」

美久里、まなじりが上がる

「私の案件より、今となっては渕上さん達の”ドミネーター”が最重要課題です、ここは皆さん膝を詰めましょう」

阿南、襟を正し

「どうしても、違法工場の急襲になるのか、えっつ、」

米上、嘆息

「その違法工場も一つだけである可能性は低いでしょう こっちは違法義体探り込んだものの、ルーチン化されてて倉庫9棟の臨検だけ、工場までは辿り付けなかったわ そう大体何の部品を配送しているか、働いてる人達さえも分からないのよ、相当闇は深いわね」

花彩、冴え渡る

「違法工場の場所、その心配は無いかと思います、ナノマシーン工場の維持費は尋常では有りませんからね 各資料を読込み人員を当てれば自然と絞られる筈です」

米上、食いよる

「地道ね、それも推論でしょう 第三帝国なら隠し財産あるでしょうし、どこからか捻出しては幾つか或る筈じゃないの」

美久里、毅然と

「残念ながらそこまで利回り資産運用はしていません、第三帝国と言えど無尽蔵ではありませんよ これは私の仕事が銀行員なのでしっかり言えます、市場に出たら一発でバレますから、違法業務に手を出して稼いでいるのですよ」

島上、俄然

「おいおいチリ州でやりたい放題だな、やはり、まずは物騒な違法工場潰すか、花彩の言う通りローラー作戦でもやるか」

北浜、苦い顔で

「それは無理だ、とある官民パーティーに出たが、州関係者に第三帝国がかなり潜り込んでると見た 何も無かったで片付けられる」

阿南、吐き捨てる様に

「ふん、どいつもこいつもだ」

美久里、凛と

「それならばここにいる方々で何としても摘発しましょう 改めて確認します、違法工場を摘発に異論がある方いらっしゃいますか」

島上、改めて驚いては

「あるも何も、俺たちの案件手伝ってもらっていいのか」

渕上、はんなりと

「ええではありませんか、チームスピリット、燃えますがな」

堂上、くしゃりと

「やれやれ出張の目的が膨らむな、いっそ怪しいところ全部爆撃すりゃいいんじゃない」

島上、慄然と

「おい、手を抜くな堂上」

米上、堂上の腕にグーパンチ

「さすがにそれはちょっとね、日本人が物騒聞こえるじゃない」

堂上、尚も

「もう今日の宮武との大立ち回りで、筒抜けでしょう、今更構わないんじゃない」


静まる一同


北浜、不意に冷や汗

「爆撃は駄目だ、違法工場はサンティアゴ市の中にある」

島上、声を荒げ

「おい北浜、とっくに知ってるなら言えよ」

美久里、とくとくと 

「北浜さん、そろそろ違法ナノマシーン工場の場所を教えて下さい」

阿南、諭す様に

「北浜、躊躇するのは分かるが、財政圧迫より巨悪の駆逐だ、公僕が目的を失うな」

北浜、尚も押し黙る

「全米連邦は人類の最後の望みだ、」

花彩、凛と

「2063年、全米連邦を統一されたカーター大統領演説ですね、“皆で同じスタートライン立とう”、趣旨は分かりますが、全米だけが潤えばのお考えは捨てましょう」

北浜、尚も逡巡

「いやな、兼ね合いが難しいな」

渕上、切に

「北浜さんのお悩みも分かります、全米最高議会を立てんと、そんな難しい問題なぞ、公国会議に丸投げでよろしい、やんわりとお返しするのはお得意ですよって」

美久里、尚も

「北浜さん、全米を支えるのは全米に忠誠を誓った国民だけです、不届き者は誅するだけです、その気概あってこその他国と皆さんからの協力ですよ」

堂上、目を見張る

「すげー正論ばかり、感情論全く無いのかよ」

米上、堂上の掌を二度も叩く

「ちょっと、私の当てつけかしら」

美久里、表情も険しく

「いいえ堂上さん 並行して、私のヘルマン・ブット退治も協力して頂きます、私事になりますが協力お願いします」

花彩、必死に頭の中のページを捲る

「ヘルマン・ブットさんですか、えーと、政治家、実業家、文化人、あれ、」

美久里、驚愕しては

「知らないのも無理がありません、第三帝国C級戦犯ヘルマン・ブットことチリ州知事テリー・ワトソンのハントです」

花彩、ぽんと叩いては

「ふむ、第三帝国C級戦犯ヘルマン・ブットことチリ州知事テリー・ワトソンとは、面白い切り口ですね」


突拍子もない一連の発言に、沈黙する一同


島上、じりりと

「おい、まさか冷凍睡眠か、」

阿南、毅然と

「ええ、間違いありません、巨悪はなかなか死なないものですよ」

渕上、悩まし気に

「阿南さん、いつから『あなたの向こうで』はハント番組になったのですか 大体州知事まで上り詰めたら、訴追が厄介ですがな、出来たとしても混沌としますで」

阿南、鼻息も荒く

「ふん、『あなたの向こうで』の特集ばかりしか見てないからそれなんですよ、長年の番組の1割は結果としてそれなだけです」

米上、椅子に仰け反っては

「ああ真っ黒、全ては第三帝国に繋がってるのね」

渕上、くすりと

「さてさて、また飽きましたか、米上さん」

米上、機嫌も悪く

「いいえ、シオン福音国に仕事取られたし、切り口は何でもいいわ、第三帝国にギャフンと言わせてやるわ」

堂上、一瞥もせず

「ムキになると、真っすぐは止めようぜ、米上」

米上、嘆息

「説教かしら、今更私の心根が変えられる訳も無いでしょう、大体それ込みで惚れたんじゃないの」

堂上、事も無げに

「さあね、そこは成り行き」

米上、耳を塞ぐ

「ああ、聞きたく無い、聞きたく無い」

美久里、北浜を見据え

「総意は得ました、あとは北浜さんですよ」

北浜、顔を上げ

「ああでも、いや、止む得ませんね、趣旨はよく分かりました 工場と思しきは恐らくサンティアゴ市の南の区画です、モニュメント競技場が近くにあるから、幾らでも電力の融通は利く筈です これは佐古さんのフォレストワイナリーの過剰電力消費で閃いて、改めてチリ州全域を精査しましたら、ジリ貧の義体工場が上がりました、ジリ貧の癖に何故電力をこんなに使うか電力会社も不思議に思っていたそうです 証拠を積み重ねて検挙するつもりでしたが、勢いに乗じた方が良さそうですね」

美久里、深く頭を下げる

「北浜さん、ご理解ありがとうございます」

堂上、耳を澄ます

「物騒な話が続いたね」

島上、矢継ぎ早に

「堂上気になるか、ここのフロアに他の客はいないぞ」

渕上、得心しては

「ここは猿滑オーナーのホテルです、そこはつつがないですよって」

花彩、破顔

「ほう、猿滑さん、やはりお金持ちなのですね」

阿南、えらい勢い拳を握っては

「くっつ、聞きたくない名前だ」

美久里諭す様に

「阿南さん北浜さん、ここでの話はくれぐれも他言無用に願います」

渕上、割って入る様に

「但し上役さんへの報告は必須どすよ 今更嘘みたいな第三帝国の名が出て、報告無しでは、職務怠慢で皆さんクビではまんじりともしませんがな」

阿南、目を見張っては

「しかし、これ素直に全米連邦に上げたら爆撃しないか、さすがに震えるぜ」

北浜、毅然と

「それは無い、全米の領土内を自ら爆撃したとあれば、国連常任理事国の権威が落ちるから心配するな」

島上、唾棄しては

「ふん、第三次世界大戦勝っても負けてもいない、中途半端な国が常任理事国になるなよ」

北浜、怒りも露わに

「おい、こっちは、全米連邦に忠誠を誓ってるんだ、無闇な事言うなおっさん」

米上、不意にディナーベルを鳴らす

「進んだと思ったらまた後ろ、空中戦に縄張り争いもどうかよ、ねえ、一先ず料理持って来て貰いましょう」

美久里、頬笑んでは

「いいえ、胸焼けを起こしますから、まずは食前酒にしましょう」

花彩、微笑

「ほー見事に仕切りますね、美久里さん、全米連邦法なら18才以上でワイン行けますね、ふふ楽しみ」

美久里、嬉々と

「銀行会議は手慣れたものですよ、花彩さんワイン楽しみね」

北浜、やさぐれては

「そりゃそうだ」

美久里、微笑

「北浜さん、食前酒は程々にですよ」

歩み寄って来る総支配人、保科

「これはこれは、ホストのミス美久里様始め皆様、ディナーは何時でも御用意出来ますよ」

美久里、満面の笑みで

「保科さん、ここは香りの少ないワインから頂けますか」

保科、凛と

「テイスティングは如何しましょう」

美久里、微笑

「見立てで構いません」

保科、笑みを湛え

「宜しいでしょう、桜のフレバーが含まれたレニーワイナリーの“さくらの里ワイン”がお勧めです、皆成人で宜しいですね」

美久里、くすりと

「おべっかまでは入りませんよ」

保科、慇懃と

「それではご用意しましょう」

阿南、ついぼやく

「たく、どこも老人はしゃらくさい」

保科、苦笑混じりに

「阿南様、老人で悪かったですな」

阿南、姿勢を正す

「おっとー」

北浜、囃し立てては

「阿南も気が回るのか回らないのかさっぱり分からんな」

美久里、不思議顔で

「でも、レニーワイナリー?って聞いた様な、絶対聞いてますよ」

阿南、苦笑混じりに

「それ宮武の勤め先ですよ」

美久里、きゃんと

「きゃっつ、宮武さん」

堂上、刮目

「えっつ、宮武に頭突き食らわせて、それないんじゃないの、あれで雷に打たれたとかなの、」

花彩、破顔

「なるほど、恋とはそういうものなのですね」

美久里、頻りに頷く

「うんうん、」

渕上、得心しては

「ふむふむ宮武、あの坊主も手強いお人相手にしますな」

美久里、潤んでは

「坊主って、渕上さん、うう、何か知ってる」

渕上、ぽつりと

「ディナーになったら、ワインを交えてお話しましょう、素のまま情をごっそり持って行かれたら厄介どすからな」

阿南、慇懃に

「宮武も腕はどうなんだ、あいつの間合いなのに美久里さんに頭突き食らわせられたんだ、気になってしょうがない」

美久里、力こぶ作る様に

「私これでも、合気道有段者なんですよ、ふふ」


席全員にワインが注がれ、舌鼓を打つ一同


美久里、ワインに感激もひとしお

「ふふ、おいしい さて北浜さんもひざを詰めましたから、話はかなり進みましたね」

島上、憮然と

「そうだな、でも皆何考えてるか分からんだろ」

米上、釘を刺す様に

「あら、島上さんも分からないわよ、こっちの都合も省みず合流しろだなんて 義体工場の件、シオン福音国が引き継いで手が空いたとお思いでしょうが、こちらはまだまだ北米案件抱えているのよ、まとまった休暇が先送りじゃない」ブスッと

堂上、伺っては

「そちらは3人、こちらは2人、上気衆案件は基本二人一組ですよね 花彩のアンダー40研修に付き合うとは思え無いし、第三帝国絡みと言えど本当の大事ですか」

島上、うんざり顔で

「ああ、ここでは言いづらいな」

渕上、したり顔で

「言うたらよろしい、皆に隠しても詮無き事です」

島上、言葉を繰り出しては

「いいか、相当な奴が出て来た、溝端だ 取引先の帳面洗ったが、このサンティアゴ、恐らく要の工場にどっかりいる筈だ」

米上、興奮しては立ち上がる

「溝端、、冗談じゃないわ、どうやって戦えって、瞬間転移持ちをどうやって倒せって」

渕上、淡々と

「そう、普通なら勝てませんな、ですから人数がいるのですよ」

堂上、構えるも

「いやいや溝端相手に、この人数でも勝てるかって きっときつい戦績証明してお仕舞いなんでしょう 30年前にでもさ、上家衆10人相手にしても逃げ切ったんでしょう、またじゃないの」

阿南、溜息

「おい溝端って、まさかあいつか」

北浜、まんじりともせず

「あいつなら、こっちも大統領権限でいつでも逮捕出来る、出来るが、どうやって捕まえるんだ」

花彩、動向伺っては

「溝端さん、そんなに有名な方なんですか?」

渕上、口火を切り

「ここで言いましょう、あの狂った爆弾魔、歴代上家衆の天敵、ローマ参画政府の最重要犯罪人、殺しまくった人数は一万人の大台、負傷者大多数数知れず」

花彩、空読みしては

「ふむ、強敵なんですね ですが瞬間転移のお話って誰彼と読んだ事ないですね、本当にいるのですね」

渕上、嘆息

「当たり前です、ローマ参画政府図書館でも第七自習室に調書一式押し込めてます」

島上、慌てながら

「おいおい言ったら、入り浸るぞ」

渕上、ぴしゃりと

「花彩さん、莉ちゃんと一緒にこそこそしてるのバレてますよ、絶対入れませんよ」

花彩、照れては

「はあ、まあ、ばれてるんですね」

渕上、消沈しては

「まあ、ここで言いましょうか2055年のブルックリン消失のあれこれ」


一同、固唾を飲む


花彩、淡々と

「2055年のブルックリン消失は、ブルックリン近海の旧中国の原爆不発弾が炸裂したのでは有りませんか 結果として150万人の退避勧告して良かったですね、英断ですよ」

島上、毅然と

「いや原爆と違う、溝端が関係している ここにいる上家衆の先代達が死闘を繰り広げたが、逃げ切れぬと見た溝端が原子崩壊起こしやがった お陰で被害は原爆そのものだ」

渕上、口を真一文字に

「うちのおかんと、楠上さんのおかんと、階上のおじいがきばって結界出しては、皆生還しましたね やんちゃな島上さん行ってたら死にましたで」

花彩、得心しては

「確かに、逃げるのが遅いですからね」

島上、ムキになっては

「痛いところつくな、ああ必死に逃げるよ、でも殿は任さんぞ」

渕上、毅然と

「妙に頑固ですな、上家衆最年長気取らんでよろしいですよって」

島上、捲し立てる様に

「そう、ブルックリン消失がそもそもなんだよ、ファニーズジュエリーでのサファイア展、100カラットのティアーズアバウトティアーズをダミーに掏り替えたから、溝端が怒ったんだろ いつから掏り替えたんだよ」

渕上、大仰に

「ティアーズアバウトティアーズは宝物と最初から判断してます、ローマがそう簡単に貸し出すますか、溝端も脳味噌足らんと違います」

島上、尚も

「この手の策は、食えねえ勝爺だろ、本当無茶しやがる」

米上、溜息混じりに

「ちょっと、うちの勝爺死んでるけど、悪口は無しよ 大体強欲な溝端相手にはこれしかないでしょう」

花彩、飄々と

「一万人殺してる溝端さん相手では、死者の出なかったブルクッリン消失は致し方有りませんね」

阿南、目を剥く

「花彩さん、ブルックリンが奇跡の復興したとは言え、不謹慎ですよ」

渕上、制しては

「阿南さんもちっこいですな 構いません、それ位の覚悟は必要と言う事ですよって、考えを改める事ですな」

美久里、ポツリと

「その隙に起こった事が、マイアミの惨劇ですか」

渕上、凛と

「美久里さんも幾ばくか知ってる素振りですな そう、溝端が撒き餌となり、その隙にパキスタンの統合管理センター襲撃されたのは不徳の致すところです まさか2055年まで第三帝国が潜伏しているとはどこの国も察知出来なかったのですよ」

阿南、押し止めるかの様に

「ちょっと待った、第三帝国の再活動は今では無いのですか」

渕上、毅然と

「国家機密が幾重に連なっていますので、これ以上言えませんが、第三帝国は2055年以降再び地に潜った為、見守るしかありませんでした ただこうして表に出て来た以上、何としても捻りますよって」

美久里、怒りも露わに

「第三帝国、何としても方を付けます、皆さん残らずご賛同お願いします」

米上、窘め得る様に

「美久里さん、分かったから、冷静になりましょう」

堂上、不意に

「強敵なら、宮武もだ、前哨戦やったけど、出だしが早い」

米上、微笑

「早い割には、美久里さんの頭突きで追い払ったじゃない、ねえ」

美久里、一転恥じらう

「あら、何度も嫌ですよ」

阿南、頭を抱え

「ああ、武士に負けない一般人なんて、信じられん」

島上、苦笑しては

「だからな、武士に知ってて挑む、阿南もどうかだぞ、これ何度も言うぞ」

阿南、唾棄しては

「島上さん、最上とはもう終った事です、二度とやるか」

渕上、凛と

「さても照れては宮武の坊主に一目惚れどすね、でも敵さんですよ、美久里さん距離を置くどす」

美久里、口籠り

「いや、それは、いや、なる様になります」

堂上、目尻が下がる

「あるある、チャラい奴に同情しちゃうケース」

島上、下卑た笑いで

「堂上、それ、お前だろう」

堂上、自ら指差し

「えっつ、俺がなの」

米上、頭を抱え

「全く私も恥ずかしいわ、旦那も相も変わらずどこかチャラいから、私も引き合いに出されるのでしょう」

花彩、綻ぶ

「成る程、最後は目出たしなんですね」


静まる一同


堂上、口火を切り

「いやいや惚れちゃ、まずいでしょう」

米上、机を何度も小突く

「もう、惚れるときは惚れるのよ、ここから先、私達を引き合いに出さないでね、はい終り」

渕上、綻ぶ

「米上さん、自己紹介終ってませんで 各々のお家さんに土下座しまくって、ようやく結納、自ら照れ臭くて言えませんな」

堂上、思い描いては

「京都最長の提灯行列か、最後尾は調子に乗って仮装行列だったな」

米上、憤慨

「そうよ、あれどこの勢力よ教えてよ」

島上、とくとくと

「あれな、さあ、仮装してたから分からん」

渕上、制する様に

「善意どすがな、皆さんの気持ち受け取りなはれ」

米上、涙目で

「そんな、或る事或る事、事有る毎に引き出されて恥ずかしいったら、ありゃしない」

阿南、苦笑混じりに

「ひょっとして、あの映像ってお前等か、横浜のウェディング会社が真似てがっぽり貰ってるらしいぞ」

渕上、口を尖らせ

「横浜はいかんですね、ぐさり釘刺しておきましょう」

島上、正しては

「渕上のぐさりは堪えるぞ、会社潰すなよ」

堂上、溜息混じりに

「まあ、何か面倒臭いな、いいや、宮武は俺が相手をする」

渕上、思い描いては

「確か宮武の坊主なら、京都で兄貴分で八反さんいましたな、そちらも手強いですよって」

米上、思い描いては

「いるいる、チリ州なら、そう八反さんとその妻菜穂子なほこさんね、そっちはいいわよ、結局何もしないもの 何事も京都の寄合所通せって、本当こっちは急いでるのにつれないわね」

堂上、吐息混じりに

「いや、宮武、八反、菜穂子、三人相手か、どうにかなるものか」

美久里、前のめりに

「あの!宮武さんって、」

島上、飄々と

「ああ、どこかしこで名前上がるが実力はな、どうなんだ」

渕上、つれなくも

「もっぱら便利屋ですよって」

美久里、じりりと

「宮武さん、そして八反さん、そして菜穂子さんもとなると、幾ら積めば味方になってくれますか」

渕上、理路整然と

「美久里さん、方々の目的は不明ですが今は第三帝国側ですよ、武士の主人鞍替えは御法度ですよって、積む積まないの話は通りませんよ」

美久里、勢い余って手を差し出す

「これでどうですか、」指5本をどんと差し出す

島上、躊躇いがちに

「5億円か、微妙だな」

北浜、目を見張り

「おいおい、500万円の間違いじゃないのか、一案件ならそれだろう」

阿南、得心しては

「いや、一般相場でも5000万円固いな、」

島上、憮然と

「お役人の癖に人の命軽いな、お前等」

美久里、毅然と

「いいえ、500億円ですけど、駄目ですか」


一瞬静まるも、爆笑する一同

「またまた、」


美久里、引き攣る

「はは、冗談ですよ」

北浜、一人目を剥く

「本気ですか、」

渕上、美久里の表情読み取り 

「美久里はん、金の話はもうよろしい 敢えて最後に聞きます、宮武の坊主に本気どすか、されど武士、一般女子には扱い切れないですよ」

美久里、食い下がる

「渕上さん、私はこれでもここにいる皆さんより遥か年上ですよ」

渕上、慇懃に

「それは失礼しましたな、ですがまだまだ子供ですがな、惚れた腫れたの一喜一憂で、腕はそこそこでも武士一人を支えきれますかよって」

堂上、不意に

「なにこの空気、宮武強いって事じゃないの、まだ伸びるよ奴は」

米上、右眉が上がり

「もう旦那、後でゆっくり話すわ、とても難しい話よ、宮武は兎に角五体満足ね、これお願いね」

美久里、微笑

「堂上さん、頼みますね、」

渕上、頻りに頷いては

「さあ、これ以上は無粋ですな、話が逸れ過ぎましたわ ささ続けましょう」

美久里取り繕うかの様に

「さて、話も乗ってきましたね 皆さんの話の先にあるのは、そしてこのチリ州でのさばってる奴らと言えば」一呼吸しては「改めまして、第三帝国です」


一同、嘆息溜息


北浜、呟く

「いざ言われるとな、流石に俺でも怯みそうだぜ」

美久里、毅然と

「北浜さん、もはや、全米連邦が口を噤む事は許されません」

花彩、嘆息

「第三帝国、うーん第二次世界大戦ですか」

一同項垂れる

堂上、溜息混じりに

「そこまで、第二次世界大戦の戦争責任追求するのか」

米上、堂上を小突いては

「ちょっと、パキスタンの統合管理センター襲撃忘れているわよ、それで各国の施設が停止して10万人も死んでるのよ」

堂上、溜息

「それって、只の火事じゃなかったの、やはり第三帝国なの」

米上、得心しては

「ああそうよ、考えてみれば只の火事で、10万人も死ぬ惨劇なんてある訳無いじゃない」

渕上、偉丈夫に

「そうですな、第三帝国は今も尚です そしてこのチリ州から反転攻勢しかけて、違法ナノマシーンドミネーターの神経毒で世界征服を企んでいます、ここ決して忘れないで下さい、大義は私達に有りますよ」

阿南、尚も

「分かりました、第三帝国にいる奴らは片っ端から捕らえる 負の遺産を何としても、俺らが片付けるんだよ これは美久里さんに代わって、俺から言わせて貰う」

美久里、ゆっくり一礼


意を決する、一同


ワインを持ち寄る総支配人、保科

「皆さん、少々声が響きますね、ここはお継ぎしましょう」

堂上、不意に

「今日は出るな、か」

保科、笑みを湛え

「左様です」

島上、嘆息

「明日か、それもどうかな」

渕上、すっぱりと

「ええどすか夜襲は危険ですよ、溝端が見えませんからね」

堂上、憮然と

「見える見えないだから、迷うんだよ、これから夜襲でケリを付ける」

阿南、確と

「堂上も格好良い振りしたいだけか、ここは真っ昼間にだ、銃弾なら逃げ切れまい」

島上、思いも深く

「だからと言って、溝端甘く見るな、本業は爆弾魔だ 有利に運ぶためかなり仕込む筈だ、早い方がいいな」

渕上、頑と

「ええ、議論は無しですよ、見えないは致命的です 作戦は陽が出ている内に行いますよ」

米上、渕上を見据えては

「ちょっと渕上さん、旦那が折角いい事言ったのに打ち消すの」

渕上、口元隠しては

「私達に奇襲はそぐわないですよ、そんなに旦那さん可愛いなら、首輪付けたらよろしい」

堂上、素直に

「ワンとか」

米上、堂上を肘で突く

「そのノリいらないわよ、」

島上、逡巡しては

「いや渕上の意見も然りだ、感情的になるなよ、ここは話し合うぜ」

米上、尚も

「だって、私もいるのよ」

堂上、とくとくと

「そう溝端だけじゃない、宮武がいるって事は、他の京都の寄合所の奴も出て来る可能性がある、夜襲が無難だよ」

渕上、怒りも露わに

「くどいですな堂上さん、京都の寄合所がポンポン人出しますかよって、兎に角夜襲は却下です」

北浜、困り顔で

「やれやれ、どれだけ寝返った奴いるか分からんが、州警察投入するか」

阿南、府攻め勝ちに

「外交筋で国連の太平洋保守艦隊呼ぼうにも、事を荒立てては流石にな 北浜の言う通り州警察が限度だ」

渕上、朗らかに

「決まりましたな、一般の方を率いるなら、尚更陽が出ている内です、決まりです、皆さん手打ちは無いのどすか」


漸く拍手が巻き起こる


堂上、憮然と

「やれやれ」

米上、堂上の手をしっかり握りしめる

「抜け駆けは無しよ、私がいる限り絶対黒星付けさせないから」

堂上、米上の手を払い、陽気に手を振る

「分かってるって、二人の方が強いからね」

渕上、堂上を睨みつけては

「ええどすね、抜け駆けの罰は、報告書に相当な記述にさせて頂きますよ、覚えておくどすね」


つい伏せ目がちになる一同


美久里、取り直しにワイングラスを掲げる 

「皆さん、勇ましいですね、ですが今日は料理が控えています 今日は勝利を祈って乾杯しましょう」

一同、ワイングラスを掲げ

「乾杯」

美久里、勢い余って一口のつもりが半分まで進む

「ふふ、桜の香りですね、感動ものですよ」

渕上、ほんのりと

「ええ、どすな、是非うちらも仕入れましょうか」

美久里、頬笑んでは

「レニーワイナリーの蔵ですよ、宮武さんもこのワイン作ったのかな」

渕上、つい破顔

「美久里さん、突っ込みどころ多いですな、出来上がりすぎると、男は逃げますよって」

美久里、くすりとグラスを何度も差し出すも

「それもそうですね、あれ、」

保科、ゆっくり首を振る

「美久里様、明日は大事です、続きは明日の食前酒になさいましょう」

美久里、頬を膨らます

「もうー、全て片付いたら、思いっきり飲んで上げるわ」

米上、ほんのりと

「ねえ渕上さん、敢えて聞くけど、素人連れて歩いて、それもどうなの」

花彩、淡々と

「それ私の事ですよね、」

渕上、釈然と

「米上さん、アンダー40とは言え、連れて来たルーキーさん甘く見ない事ですね」

島上、淡々と

「米上、それは俺が保証する、足手まといにはならん」

美久里、不意に拳を固める

「そうです、ここにいる全員が戦力です、もはや目標は捉えました、皆さん挙党一致ですよ」


こことぞばかりに、テーブルに前菜が次々運ばれて来る 綻び始める一同

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