第6話 2087年9月2日 全米連邦 ブエノスアイレス州 ブエノスアイレス市 市内

今だ石畳が残り20世紀の風情が残る全米連邦ブエノスアイレス州ブエノスアイレス市 人の往来が止まらぬ中 黙々と任を進める、長身の男と年には似合わぬ凛とした若き女性 共に胸元には小型カメラが付いている


長身の男、阿南あなん、身振り手振りに

美久里みくりさん、本当にヘルマン・ブット、本当に探すんですか、銀行員の休暇で出来るミッションでは有りませんよ 大体、こんな第二次世界大戦の第三帝国の三下、『あなたの向こうで』のスタッフも呆れてますよ、かれこれ143年も経過してるのに何を調査するんですか、そう、何で日本の敗戦アドバイザーの俺が絡むんだ」

凛と頬笑む気高いショートカットの女性、美久里

「阿南さん、何を言ってるんです、久々の米日合同企画で『あなたの向こうでも』盛り上がってるじゃないですか、それにレシートさえあれば全米のイーストビジョンの経費で豪遊出来ますよ」

阿南、感慨深く

「全米南部の20世紀が色濃く残る街並、確かに魅力的です 全米南部の豪遊は確かに魅力的ですけど、いやー、ですから対象がですね、第三帝国ですよ、第三次世界大戦が終っても禁忌ですよ」

美久里、まなじりを上げ

「阿南さん 第二次世界大戦のC級戦犯を今更訴追出来る国等、もはや有り得ないとでも 第三次世界大戦で世界再編されましたから、諦めろとでも そんな了見一切認めません」

阿南、歯噛みしては

「いや分かってます、ですがね、たかが第二次世界大戦のC級戦犯ですよ、とっくに死んでます、そう死んでます 他の案件で確かに墓まで探しに行ったケースはありましたが、それは第三次世界大戦であって、東日本大震災等々もあれど、第二次世界大戦まで追ったら、本当にきりがない 美久里さん、やはりこれは無茶です」

美久里、凛と阿南と対峙

「いいえ、罪は罪です 白黒付けます」

阿南、捲し立てては

「ああ、本当無茶なプランニングだ、大体、美久里さんの同胞の敵とかだけで詳しく聞けてませんよね、日本ドイツイタリアの第二次世界大戦の枢軸国を加味しても、全く謎だ、何を持って追求し罰するのですか」

美久里、一歩も引かず

「同じ生死を彷徨った同胞を背負ってです、ここでは言えませんが、それはちょっと先までお待ち下さい」

阿南、目が飛び出る勢いで

「ヒントも何も無いのですか、全く」

美久里、阿南を窘める様に頬笑む

「阿南さん 手掛かりも無い第三帝国再生探しでは飽きましたか ちょっと見渡せば、この景色ですよ楽しみながら行きましょう」

阿南、憮然

「ええ満喫しましょう、ですが、敢えて釘を刺しましょう、戦争犯罪人の親族までに罪は有りません ここをご理解の上で人探しをして頂きたいものです」

美久里、尚も凛と

「親族はそうもしましょう ただ第三帝国の青年部で末端業務についていたブットは何としても探します 戦争犯罪の加担は厳罰です」

阿南、苦い顔で

「第二次世界大戦の戦犯を探して誰が溜飲下げます、かれこれ143年ですよ、美久里さんの言動からして、まるで今も尚生きている様だ 美久里さん問いましょう、ブットは生きていると本当にお思いですか、」

美久里、口元も厳しく

「オートマシーンの寿命なら、この世界のどこかで生きていてもおかしく有りません」

阿南、苛立っては

「ですので、それでも計算が合いません ヘルマン・ブットは1925年生まれ、脳移植法開始は2055年です、その頃には頓死してますよ、間違いなくです」

美久里、穏やかに捲し立てる

「阿南さんは私を子供扱いするのですか 『あなたの向こうで』の松本さん一家も見ましたし、脳移植は密かに2015年から旧中国で行われています、知らないと思っているのですか」

阿南、歯噛みしては

「ああ、これだ、仮に乗るか反るかの脳移植手術に、死に損ないが挑みますか」

美久里、尚も押し通す

「第三帝国の負の遺産、ブットが全て背負っているなら、挑みますよね ケイマン諸島の資料から偶然現れ出た、その名その金額たるや、小国の国家予算並です、もっとも他にも資産が分散しているのも確実です 正に驚異ですね」

阿南、逡巡しては

「遺産、金銀宝石財宝、コネクション、技術力、全くどこの国の連中も欲しがる、ふっつそれならですか、延命の為なら何でもすると、なんて素晴らしい推理だ 美久里さん、聞かせて下さい、それで証拠は有るのですか」

美久里、破顔

「それは直接ブットから聞きましょう」

阿南、一歩下がっては

「ああ全く、成り行きも何も、恐ろしい展開になりそうだ、いいですか美久里さん、薮をついたら何が出るか知ってますよね、仮にも第三帝国ですよ」

美久里、背筋を戯けながら伸ばしては

「阿南さんは勇敢の筈ですよね、私に人選ミスなどありませんよ」

阿南、頭を掻きながら

「指名は断ってるのに、どういう事だ、軽駿に真壁、全く」

美久里、頬笑んでは

「そうですね気分転換に、もう少し捜索範囲を拡大しましょうか、阿南さん レシートも適度に切りませんと旅情が番組に滲み出ませんよ」

阿南、苦笑

「全くやる気満々ですね、ここまで恐れも知らないか 大体調査資料も無いまま足を棒にするなんて、まいったな、真壁も連れてくれば良かったか、小型カメラだけ渡されてもどうなるんだこれ」胸のループタイカメラを触る

美久里、不意にブローチカメラに触れる

「このブローチカメラお気に入りですよ 世の中、便利になったものですね」

阿南、くしゃりと

「まあ、自動認識で録画してくれますが、何か釈然としませんよね」

美久里、ポシェットから古い画像の写真を翳す

「そうです、阿南さん この人がキーマンのブットです、見かけたら教えて下さいね」

阿南、まじまじと覗き込んでは

「ヒントがあるなら、事前に教えて下さい、ん、でも何処かで見たな」

美久里、口元だけは正し

「ふふ、鋭いですね、全米チリ州のワトソン知事に面影が有りますよね」

阿南、勢い余って美久里から写真を取り上げる

「まさかワトソン州知事が、いやご冗談を」

美久里、阿南をまじまじと見つめては

「フィレンツェ世界戦争記憶館が戦争犯罪人の偽の情報渡すとでも」

阿南、思い巡らせては

「いえいえ、フィレンツェ世界戦争記憶館が滅相も無い」

美久里、動じもせず

「フィレンツェ世界戦争記憶館は個人情報をかなり厳格に取り扱っていますからね、幾重もの審査を受けての回答がこれです」

阿南、美久里に写真を返しては

「確かに未逮捕の戦犯に時効は無いのですが、フィレンツェ世界戦争記憶館も戦争被害者に考慮しているのに、こんな真しやかな回答があるのか いや、しかし良く引き出されましたね」

美久里、砕けては

「阿南さん、何事も行動ですよ、情熱ですよ 第三帝国が潜伏すると言う南米にいよいよ乗り込みますと、フィレンツェ世界戦争記憶館に一筆認めたら熱意に打たれた様です そうですよね、こんな若い女性に無理はさせられませんものですよね、きゃっつ、それがこれですよ、邸宅にこの写真の封書が届いていました」

阿南、訝しむも

「しかし証拠がこれだけでは、ああ、偶然の一致とか、ナノマシーン整形などしていたら、本人かどうか分かりませんよ」

美久里、頬笑んでは

「そこは阿南さんの直感に頼りましょう、阿南さんならきっと大丈夫ですよ、ついでに第三帝国も狩っちゃいますか?」

阿南、つい頬笑む

「ふん、チリ州はやっと安定地域と聞きます、全米最高議会が特区税率撤廃しようとしたらワトソン州知事が漸く大人しくなったようです、まさしく亡者 美久里さんに希望を持たせる訳では有りませんが9割方間違いないでしょう」急に胸を張る

美久里、大はしゃぎしては、

「さすが阿南さんです、嬉しいな同意見、9割9分9厘9毛9糸9忽9微間違い無いです、後はワトソン州知事に直接会って吐かせるまでです」


不意に、街頭の人々の視線が集まり出す


阿南、周りを伺っては

「無論です ですが、やれやれ、全米南部地域だと遠くて三宅も連れて来れないし、どうしたものか」

美久里、手をぽんと叩いては

「人手は…そこ忘れてましたよ さて、どうしよう、ああ何とかなりますよ、何せ長い旅ですからね」密かにほくそ笑む

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