2087年 全米連邦

第5話 2087年9月1日 ローマ参画政府 ミラン州 ミラン衛星国際空港

丘陵地帯を抜けたミラン衛星国際空港 衛星空港随一と呼ばれるラウンジは賑わう限り その人通りの中に旅立つ3人と見送りの女性


渕上、意外な顔で

「おや源さん、空港まで見送りとは特別気になりますか」

源、従容と

「ネーデルラント連邦も公国会議の議長国ですから、何かと気になるのですよ一連の怪死事件 ドラフトが物足りないと言うかですね、何でしょうね」

渕上、溜息混じりに

「そんなに不安なら、ローマに堂々集めたらよろしいですよ、今や公国会議に手出しする輩は世界を敵に回しますよって」

源、慇懃にも

「ローマのお膝元ではまたの機会にしましょう、公国会議は開催国が持ち回りとの文化が根付いてますからね」

花彩、顔を改め

「源さんって、ネーデルラント連邦の内務大臣でもあるのですよね、兼務大変ですね」

島上、高揚しては

「ああ、よくもアンダー40まで面倒見るよ、結局のところ目的は引き抜きか」

源、従容と

「ベルギー・オランダ・ルクセンブルク、3国併合は思ったより大変なんですよ 就職斡旋は自然の成り行きです、島上さん」

花彩、頭をもたげては

「うーん、改めてそのアンダー40ってなんでしょう でも源さんのお年は40歳を越えてますよね」

渕上、爆笑

「これは一本取られましたな源さん、アンダー40、そろそろ卒業されてもええん違います」

渕上、毅然と

「そこはいいえです」花彩に向き直り「あと花彩さん、40は聖書に出て来る聖数ですよ、それを持ってアンダー40はローマ直属の互助会なんですよ」

花彩、頻りに頷く

「ふむ、成る程、流石ローマ参画政府 各国の人助けとは、改めて盤石な体制ですね」

島上、毅然と

「源、引き抜きの件は一旦置くが、アンダー40の卒業はいかんぞ、行政能力ずば抜けてる奴、みすみす手放せるか」

源、ときめく様に

「嬉しいですわ、島上さん、アンダー40を認めて頂けるなんて」

島上、源に気圧されては

「まあ、源あってのアンダー40の運営だよ 派遣内容は無茶が多いが、お前の運営実績あるからこそ引き合い来るんだろ」

源、瞳を潤ませ

「それを言うなら、上家衆あってこそのアンダー40ですよ」

島上、照れながらも

「そうか、」

渕上、うんざりしては

「ふー、律儀に褒め合いなんて、和やかですな」

源、首を横に振っては

「こちらは結構必死ですよ、花彩さんの一挙手一投足に関しては特に 直近ではバスク地方の件で、その都度公国会議で話題になってますよ、同じ日本人なら紹介しなさいと、無茶を言われますよ」

渕上、目を細め

「何か、キナ臭いですな」

源、頬笑んでは

「逆ですよ、皆さん花彩さんに甘い水吸わせたくてしょうがないのですよ、名刺渡してくれとこれですよ」鞄から名刺の束を差し出す

島上、苦笑しては

「おいおい源、ネーデルラント連邦にどっぷり浸かりすぎだぞ」

渕上、源から名刺の束を取り上げては拾い上げて行く

「どれもこれも一端ですな、本気度はあい分かりました しかし花彩さんは、未だ灰屋さんの特上リストにいますから、無粋な引き抜きは無しですよ、ここ大事ですよ」源に名刺の束を差し返す

源、真顔に迫っては

「ご心配無く、灰屋さんはお馴染みさんですから問題有りません 何より私もそろそろ両腕を用意しませんと、吝かではない公国会議が我を通し始めます」

渕上、舌打ちしては

「はあ、灰屋さんもいい顔しますな」

島上、腕組みしては

「いや、我を通すって深刻だな、どこだ、フランスか」

源、逡巡しては

「ええ、アフリカへの思いやり支援、度を超えてます」

花彩、思い倦ねては

「どうでしょう、アフリカ再開発なら、止む得ないと思いますよ」

源、思いも深く

「そこが問題でして、公国会議もそれを建前に聞き入れてますが、実際は支援国の三次団体へ湯水の様に流れています 特にナイジェリアは緑化巨大プラント建設予定とかで設計施工費が優に100億ユーロに膨らんでいます、未だ上昇に歯止めがきかない様です」

島上、溜息まじりに

「鑑みて旧中国閥か、特に平気に新造艦作ってる奴らだな」

源、周りを伺いながら

「話は尽きませんね、今日はここまでにしましょう」

花彩、頭の回転が早まる

「うーん」

渕上、花彩の腕を取っては

「難しい話はまた今度ですよ 花彩さん、ドルチェ行きましょう」

島上、得意気に

「そう、俺はビール飲みたいよ」

渕上、島上の尻を叩く

「阿呆違います、ビールがぶ飲みして大気圏飛び越えたら、頓死ですよって」

島上、むずがっては

「1杯ならいいだろう、」

渕上、尚も

「せっしょう言いますな、1杯でもですよって」

花彩、唸る

「ほー命懸けですか」

渕上、促す様に

「ほら行きまっせ、他の炭酸水でも含んでは爆発して悲惨な事になりますよって、あかんですよ」

源、頬笑んでは

「私はここまでにしましょう、皆さん良い旅を」一礼

渕上、ふわりと

「しんどいですが、きっと、ええ土産話出来ますで、ほなですな」一礼



ミラン衛星空港搭乗待合室 滑走路の遥か向こうの5基の発射台にはそれぞれのスペースプレーン:ボーイングプラネット 発射間も無いスペースプレーン:ボーイングプラネットが、徐々に90度の角度に向けて発射準備


花彩、嬉々と

「えっつ、まさかあれがボーイングプラネットですか、本当に直上じゃないですか、あんな体勢、おトイレに行けませんよ」

島上、淡々と

「大丈夫、搭乗口で希望者にはおむつが渡される、というか15分位我慢出来るだろ」

花彩、目を見張っては

「いやいや、どこの遊園地よりも凄過ぎます、あれですよ、あれ、うわ、もう立ってる」

渕上、淡々と

「とは言え、南部に飛ぼうにも、普通の飛行機一発で行ける訳ありませんよね、和服のエコノミー症候群は勘弁して下さいな」

島上、大窓の向こうに目を細めては

「ああトランジットだっけ、古い方々は我慢強いよな」

花彩、縋る様に

「いえいえ搭乗券凄い高い筈ですよ、無理せず乗り継ぎましょうよ、旅情を楽しみましょう」

島上、窘める様に

「今から変更は無しだ それに料金の事なら心配するな、割込み席は常に確保されてるから格安だ」

渕上、二人の背を押しながら

「何より早い方がよろしい、あちらで事件起こる前に制しますよ」



一同の目の前に、一人の働き盛りのスーツ姿の女性

「あら、島上さんに渕上さんにではありません」霧島、頬笑む

渕上、ウンザリ顔で

「どこにでもいますな霧島さん、国連さん働かせすぎと違いますか」

花彩、ポツリ

「国連の霧島さん」

霧島、思い描いては

「同行のお嬢さんは、ああ、さては、この容姿、松本花彩さんね、『あなたの向こうで』3回は見ましたよ」懐から、ゆっくり名刺を渡す

花彩、目を見張っては

「国際連合先端技術監査部の霧島初子きりしまはつこさんですか、PKOの国連さんですか」

霧島、微笑

「PKOだけが国連じゃないのよ」

渕上、苦笑しては

「さて、電器屋さんも大変ですな、ボーイングプラネットを使って行商なんて」

霧島、凛と

「渕上さん、思ってる以上に大変では有りませんよ、国連のインフラ整備は復興の一貫ですから、実にやりがいがあります」

渕上、見据えて

「それもどうでしょうな 霧島さんの通ったあとには爆発的な技術革新があるとか 見る所そのアタッシュケースですか、玉手箱の由縁は」

花彩、興味津々に

「ほう、玉手箱、ボワンですか」

霧島、面持ち新たに

「花彩さん、渕上さんのはったりに流されない様にね 私はワルシャワのトランジットがあるのでここで、またお会いしましょうね」振り返り後にする

島上、怪訝に

「渕上、おい、どうする ここは辛うじてローマだ、まだミランにいるなら空港閉鎖して無理にでも拘束出来るぞ」

渕上、鼻息も荒く

「挨拶されて拘束は無粋どす どうもこうもなら、何れ仕置きしましょう 霧島さんの通った跡のインフラ整備地域と未整備地域が拗れて紛争まっしぐらですからね、何れはですよ」

3人の視線は、霧島のアタッシュケースに注がれたまま

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