第2話 俺、今、女子修行中
俺(向ヶ丘勇)とあいつ(喜多見美亜)が入れ替わったのは、一ヶ月ちょっと前のことだった。
何でそんなことが起き得たのかは今でも全くの謎なのだけれど、起きたことは間違いようも無い極々単純なことであった。
学校の廊下の曲がり角でぶつかった「俺」向ヶ丘勇と「あいつ」喜多見美亜はその瞬間に入れ替わってしまったのだった。
幾多の映画、マンガ、アニメなんかで起きた事態が、あろうことか現実に俺の身に起きてしまったのだった。
それは、完全に偶然の、運の悪い衝突に過ぎなかった。
売り切れる前に購買のパンを買ってしまおうと、午前の授業が終わったとたんにダッシュで教室を出た俺。そして、それにたまたま気分が悪く前の授業中に保健室で寝ていた喜多見美亜が教室に戻るところに鉢合わせ。
学校ではたまに起きないでもない。そんな、ありふれては無いかも知れないが無いわけではなさそうな……そんなアクシデント——その時であった。
急角度で俺が曲がった廊下の角の先に彼女がいた。
俺は、激突を避けようと咄嗟に足でブレーキをかけたが、勢いが殺しきれずにぶつかってきた彼女を抱きかかえるようにそのまま床に倒れた。
そして……
チュッ!
一瞬何がおきているか分からなかった。
ただ妙に生々しい感触と良いにおいだけが頭の中に入って来て、くらくらとして何がなんだか分からなくなった。
自分と他人の境界が分からなくなるような感じがして、その後にひどく頭のぐるぐるする眩暈のような感覚があった。
——気付くと目の前に、あれ?
「何これ!」
その声を聞いた時に目眩のような感覚が突然消えて、はっと我に返り、俺は今キスをしてしまっていたのに気付いた。
——思わず身体を離し、キョドる俺。
「ごめん」
俺は思わず謝る。
パニックになって、取りあえず出てきた言葉だけど、しかし考えているのは謝罪なんかとはまったく別のこと。
おいおい、これってファーストキス?
こんなんで俺の貞操が——いや、不可抗力だ、ノーカンだ。
そりゃしっかりやっちゃったが、だが……いやノーカンだ……
喜多見美亜は、リア充ビッチだから、こんなの今までたべたパンの数と同じくどうでも良いだろうが、俺はショックなような……いやちょっと嬉しいような?
いや、ノーカンだけど……
——と、俺はキスのせいで混乱しまくっていて、
今それ以上の重大なことが起きていることが良く分かっていない。
でも俺より先に冷静になって事態を把握した喜多見美亜が、
「待って、何これ!」と言う。
でも、俺は、「何これ」って、まだキスのことを言ってるのかと思って、
「いや、悪い、でもわざとじゃないから不可抗力だから……」
とさらに謝るのだが、
「そうじゃなくて——何よこれ!」と喜多見美亜。
えっ?
何よ?
——あれ?
ここで始めて俺は気付いたのだった。
目の前にいるのは俺で、俺に指差されている俺は?
俺?
女言葉でしゃべってる…………俺?
俺は、目の前の「俺」を…………?
あれ………………?
「なんで!!」
俺は、自分の目の前にいる「俺」——向ヶ丘勇の姿を見て思わず大声て叫んでしまっていたのだった。
*
俺が和泉珠琴と生田緑相手に失言をしてしまった日の放課後、喜多見美亜——俺の身体に入れ替わったあいつ——と俺は放課後に他に誰もいない神社の境内にいた。
学校から自転車で十分程の丘の上にある小さな神社。
ここが俺とあいつのいつもの待ち合わせ場所だった。
普段の学生生活では全く接点のない喜多見美亜と俺が、他の生徒に見られるような場所で、一緒に会っているのを見られたらどうなるか……?
まあ、そのくらいでは失う物のない俺は良いとして、喜多見美亜にへんな評判がたつのは嫌だろう。
そう考えて、俺たちは、学校からも少し離れ、学生なんて誰も寄り付かないここを会合の場所にしてるのだったが……
しかし、
「まったく、なによあんたの身体。こんな坂で音を上げちゃって」
と汗だくで、息を激しく途切れさせた、俺の身体——の中の人、喜多見美亜が不満げに言った。
俺の体が鍛えられてないせいで、自分の体の時と同じつもりでこの神社への坂を登ったらばててしまったことに対して文句を言いたいらしい。
ま、しかし、そう言われてもな。今更過去に戻って鍛え直すわけにも行かないし。
「いやお前の身体は全く大丈夫だけどな」と俺は少し皮肉っぽい口調で言う。
「当たり前でしょこれくらい——たく、高校生がどんな不摂生なのよ」すると少し切れた感じの口調であいつ。
「いや、お前の体力が異常だと思うぞ——いや俺の体でこの坂を登って来るその精神力もか」
この神社はかなりの急坂を登った頂上にある。人目を避けるために見つけたこの場所だが、毎日のように登るには正直俺の身体には相当きつい——いや、普通の男でも、通学に俺らが使っているママチャリでは登るのはそうとうきつい場所だ。
なら、自慢じゃないが——日頃の運動不足の俺の身体じゃ、自転車を押して歩いて登るのでもぎりぎりだと思うのだが——喜多見美亜は気合いでなんとかしてしまうのだった。
自分の体力の限界を一番良く知っている俺にはそれは驚嘆の一言であるが、彼女はそれだけでは満足しないらしい……
「……まったく、こんなので……はぁ、はぁ……音を上げる身体なんて私は許せないわ。あんたの身体、このままいじめ抜かせてもらうから覚悟してなさいね」
はい、はい。ご勝手に。
俺が苦しいんじゃないのに俺の身体に勝手に体力つくなら大歓迎だ。
この入れ替わり事象が何時解決する物なのか? そもそも何時か解決する物なのか? そのへんは今は全く見通しがつかない状態なのだけれど——戻ったときに自分の体力がついてダイエットにもなっている。
なんか、これ、究極のダイエットじゃないかと俺は思った。
自分はなにもしなくても心の入れ替わった相手が勝手にダイエットをやってくれて、体力が上がってるなんて最高じゃないか。
この事件がいつか終わって身体が元通りになったらダイエット本でも書こうかな、そして印税で、いろいろたらふく食べて……とかいろいろ夢想をするのだが、
「で——覚悟するのはあなたの身体だけじゃなくて……」
——ああ、俺の現実逃避の妄想を遮る、氷のようなあいつの声。
少しかがんで、俺——元の自分の体のウェストのあたりをじっと見つめる。
「……ふうん? あんたちゃんと私の言う通りにしたかしら?」
「はっ、はい! 朝は5時に起きて5キロのジョギングしております」
「……朝食は」
「はっ! 仰せの献立の通り——本日はグレープフルーツとセロリのスムージーです。他はミネラルウォーターしか口にしておりません」
「昼は? 学校で見たけど——なんでいつもより一品オカズが多いのよ?」
「はっ! 母君がダイエットばかりだと身体に悪いのでちゃんと食べるようにと仰りましたので」
「馬鹿! そんな甘言にのってどうするの。私の身体は気を抜くとたちまち太ってしまうのよ——」
いやいや、お前、それくらいじゃそんな気にする程太らないだろ——母親の方が正しいよ。ちゃんと栄養をとって健康的に少し体重増えたって誰も気にしやしないというか気づきもしないと俺は思うのだが、
「まあ良いわ。たしかにあの人に対抗するのは、今のあなたでは無理だろうから。その一品は他の女子にうまいこと言って食べさせなさい」
「ええ! 食べさせるって」
「珠琴あたりに、『食べさせっこしましょ』『あーん』とかやったら良いじゃない。で彼女からはキュウリとかカロリーなさそうなの貰えば良いわ」
「食べさせっこ?」
「そうよ」
「俺が?」
俺はその光景を想像して少し背筋がぞくっとする。
「『俺が』じゃなく、今のあんたは『私』。そんなの女子どうしのコミュニケーションじゃないの。そのくらいすらすらやってもらわないと困るんだけど」
いや、こんな入れ替わり起きる前は、端から見てた女子どうしの食べさせ合いっこは、微笑ましいなあと見ていたが……
——無理。
自分があんなリア充グループの中で、歯の浮くような御託並べながら、ネコかぶって……
いや……ネコ……と言えば、
「『困るんだ』って言っても……お前もよくいままでそんなネコかぶっていられたな」
「ネコかぶってですって!」
ギロリと睨む俺——じゃなかった喜多見美亜。
「……あっ、いや、そうじゃないか。いつも教室ではなんか性格の良いまとめ役みたいなの演じて……」
「——『性格が良い』が演じてですって!」
目にめらめらとついた炎をともしながら一歩踏み出す喜多見美亜。
俺が入ってる時は人畜無害な俺の身体だけど怖ぇえ。あいつが入ってると怖ぇえ。
俺は後ずさりながら、
「……まあ、ちょっとまて、話せば分かる……」
「話すって、何をよ!」
「いや、待て、俺は誤解していた」
「誤解?」
「いや……いやお前、こっちの方が良いぞ」
「……へ?」
キョトンした顔になる喜多見美亜。
へえ、俺って虚をつかれるとあんな顔になるんだ……
って監察してる場合じゃなくて、
「今みたいな演じてないお前の方が……ずっと可愛いじゃないか」
「なにを……」
「だって、お前って教室の時のあの性格超うざいんだけど」
「うざいってキモオタに言われたくわよ……」
「まあ……俺のことはいいけど。疲れないのか、そんな良い子の仮面かぶって……」
「しょうがないじゃない。私が地を出しちゃったら緑とぶつかっちゃうじゃないの。仲間の平和の為には私には私の役割があるのよ」
「そういうもんかね……女言葉で生活させられるだけでもいっぱいっぱいの俺にはあんなのとてもこの後やり通せる自身がないけどな……」
と言って俺は嘆息。
「ともかく! あんたがどう思おうと、身体が元に戻った時に、私の立場がおかしくなっているのは困るので……ちゃんとしてもらわないと困るのだけど……」
「はいはい……」
ああ、やってられんと思いながら、また嘆息をつきながら、俺は言う。
人間やれるわけも無い高い目標与えられるとかえってやる気の無くなるものだが。
その時の俺もそう。
多分、俺は、まったくやる気のない顔をしていたのだろう。
すると、その様子を見たあいつは、
「ハードディスク……」
魔法の呪文を呟く。
瞬間、俺は背筋を正し直立し、
「はい!」
さらに、
「初期化……」と言われ、
即座に、最敬礼をしながら、
「はい!」
「今週末とか暇そうだから、ハードディスク探検とかもいいな。まあ、あんたが厳重に階層深く隠してるファイルなんて無いだろうけど……」
「はい! その通りでございます」
「そういや、この間、面白そうなフォルダ見つけたのよね。『ピケティと格差問題』って
名前だったけど、あんたちゃんと時事ネタもフォローしてるのね。私もそう言うの興味あるので、良ければ中を見てみたいんだけど」
そ、それは!
「……他に比べて不自然に、随分とでかいフォルダーだったわね。五百ギガとか凄いじゃない? あんたが格差問題にそんなに頭を悩ませているなんて知らなかったわ」
「いえ……」
「……ファイルの数も、もの凄いし、それだけいろいろ集めるのはさぞ大変なことだったでしょうね……凄い情熱ね」
脂汗が出て来る俺。
「私も、実は、昨今の格差問題には非情に興味があるので……参考にぜひこのフォルダーの中を見てみたいのだけど? よろしいかしら?」
「だ……」
「あら駄目? 何故かしら? あんたが社会に対してそんな真面目に考えているなんてびっくりだけど、とても素晴らしいことじゃないの。あんたの、社会に対する問題意識をぜひ勉強させていただきたいのだけど?
——嫌と言われても、覗いてみたいのだけど?」
「……………………………………」。
「じゃあ、分かってるわね」
あいつは、黙ってしまった俺に、とても冷たい笑みを浮かべながら、
「……なんならあなたの名前でうっかりネットへウェブ閲覧履歴流出しちゃうのでも良いわよ?」
と言い、
それを聞いた俺は……
はい——もう無理。
俺は、
「はい! 力の限り、教室ではそそうのないよがんばらせていただきます!」
全面降伏をして、
「分かれば良いのよ。分かれば……それじゃあんたには私の言うようにして貰うからね」
その後に続くあいつの命令を聞く——聞きながら、ああ、俺は、この入れ替わりが起きた最初の時の失敗を——自分の無策を呪った。
入れ替わったあの日、気が動転して、ちゃんとした判断ができなくなっていた俺と違い——あいつは冷静だった。
あの日も同じようにこの神社に来て、何時間もの解決に結びつかない議論の後に、とりあえず相互の身体の家に帰るしかないとなった後、なるべく喜多見家の家族とふれあわないようにさっさとあいつの部屋に入ったら——俺からのメール。
いや、それは、もちろん俺の身体に入れ替わって俺の携帯を持っている喜多見美亜からのメールなのだが、その中身は、喜多見家で過ごすための長文の注意事項とともに……
「ハードディスクバックアップ取ったから。私の私物に変なことしたら中身ネットに晒すから」
「うあぁぁぁ!」
思い出してもぞっとする、あの時以来、この身体入れ替わりはずっと喜多見美亜に主導権を握られて進行しているのだった。
パソコンのログインパスワードを忘れないように机にメモを貼り付けていた我が身のうかつさを、こうやってハードディスクをネタに揺すられる度にかみしめて後悔する俺なのだった。
そして、そんな俺の姿を見ながら、酷薄な笑みを浮かべあいつは言う。
「で、まあ、食べさせっこのこつは後で伝授するとして……そろそろ今日の本題だけど……」
「本題?」
あああれか、と俺はハードディスクのショックから立ち直って言う。
「——麻生さんの名前なんか出してどう言うつもりなのよ」
あいつは右の目をやたらと瞬きさせていた。これは本気で怒っている時の俺の体の反応だな。これは心じゃなくて体の反応だったんだと思いながら、
「どう言うつもりって——何か悪かった? 男どもが盛り上がりそうな可愛い子と言われたんで素直な意見を述べただけで……」
俺は今回そんな悪いことをしたとは思えないので反論するが、
「はぁぁ……」
俺の言葉を遮って、長い嘆息をするあいつだった。
それを見て、俺はさすがに気づき言う。
「あれ? ……俺って——なんか触れてはいけないことに触れた?」
すると、あいつは大きく首肯して、
「麻生さんが可愛い子なのは否定しないし、なんか……」
なんかトゲのある目で俺を睨みながら、
「あなたの好みがああいう子なのも、それにどうこう言う気はないんだけど……」
少しイラついた様子で言うが、
「いや好みとかそういうのじゃなくて……」
その剣呑とした様子にビビり、なんだか良く分からないまま、焦って否定する俺。
すると、俺の良く分からないといった様子を見て、眉が上がり、更にきつく睨むあいつ。
そして、
「まあ、そんなことはどうでも良いんだけど、言いたいのはね……」
「言いたいのは?」
「あの子はそんなとこに連れてっちゃいけない子なのよ——と言うことなのよ」
とあいつは言う。
でも、それを聞いて、
「なんで?」
素で何でか分からない俺。
で、俺のその表情を見てあきれた様子のあいつは続けて、
「まず一つ目の理由は——あんなおとなしい子を合コンに連れて行って場が白けたらどうしちゃうのよ」
と言い。
「……なるほど」
と、俺は首肯しながら言う。
確かにそれは一理ある。百合ちゃんは、あんまり場をぐいぐい盛り上げるようなタイプではないかもしれない。
「でも……」
と俺は言う。
「そうかな。そんなの女視線で言ってないか。男はああいうおとなしくて清楚な子の方が好きな人も多いぞ」
すると、
「だから、あんたの好み聞いてるんじゃなくて……」
と相変わらずイラついた様子であいつは言い、
「——ああ分かったぞ」
と、俺は合点が行く。
「何が?」
「百合ちゃんを連れてって、男達を取られるのを恐れてるんだな。確かにそれはちょっと怖い気もするな……」
「はあ? 怖い? あんた合コンで本当に男ひっかけようと思ってるわけ? 体は女でも中身は男なのに、あなた実はそんな趣味あるの?」
「馬鹿——違くて——あの二人の話だよ。百合さんが男達の注目引きつけるのが嫌なんだろ。自分たちが目立たなくて」
「……ああもしかしたら、相手のメンバーによってはそんなことになるかもしれないのは認めるわ。おぼっちゃま高校の運動部の連中が来ると言うから、そういう連中だとああいう清楚な子が好きな可能性も十分にあるわね。でも……」
「でも何だよ」
「でもね……空気読みなさい——二つ目の理由——あの子って私達の仲間じゃないのよ」
*
俺は、その後に、そのまま神社の境内で、合コンの作法とやらを散々叩き込まれた後、もうすぐある学内模試向けにあいつのノートを渡されて、週末中に全部覚えていなければ、覚えるまでの間ハードディスクのフォルダを十分に一つずつ開けて行くと脅かされた後にやっと開放された。
中身が俺になったからと言って「喜多見美亜」が模試で学年十番から下るのは許されないらしく——俺は試験勉強は念には念を入れてやらなければならないのだ。
なのでとても分厚いノートを渡された。
俺も劣等生と言うわけではないが、何時も中の上くらいの順番でうろうろしている今までの状態からすると、あいつの成績を落とさないためには相当がんばらないと行けないのだった。
と言うか、これくらい勉強したらあれだけ成績良いのも当然だろと言う量をあいつは要求してくるのだが……これってもしかして、あいつはあんまり要領よく無い?
俺が思うに……あいつの指定してきた何でもかんでも覚える方法でなくて、要点とかまとめるとか、ヤマはるとか、やり方覚えるのでなく原理覚えるとかすればもっと楽にやれると思うのだが。
……と言うかいままでそうやっていかに少ない時間で勉強終わらせてオタク趣味に時間をさいてた俺がちゃんと勉強したのなら?
正直、俺の方が成績良くなるような気がする。まあでも、多分あいつの半分も努力できないだろうから、俺のやれる限界までやってもあいつの成績維持できるか怪しいところだけど、でも……
「あいつって隠れて努力家なんだよな」
そのせいで入れ替わった俺がひどい目にあってるんだが、生まれと才能だけで世渡りしている浅いリア充だと俺的にはまるで興味も無かった喜多見美亜と言う人間が、陰では勉強やらスポーツやら必死に努力してそれを達成してるのだと分かり……
実は、少し見直していたのだった。
あいつも複雑な内面抱えた一人の人間で、俺が表面だけの連中と心の中で蔑んでいたリア充グループの一員だなんてレッテル付けだけでは語れない、逆に自分の浅さが分かるというか……
これは入れ替わってみて一番びっくりしたことだったが、俺はそう言う意味では、あいつに好意を持ち始めている様だった。
いやと言っても恋の好意じゃないぞ。そっちの方はむしろあいつの内面しってますますごめん被ると言った感じだけど……
——いや、悪い奴じゃないじゃん。あいつ。
教室でもあんなネコかぶったキョロ充まがいのことやめたらいいじゃんと思うのだが……
まあ、でもあいつの事情と言うのがあるのなら、それなりに(ハードディスク握られている事もあるから)尊重しようとは思うのだが……
……でもあれだけはダメだ。
何だあれ。
俺はむしゃくしゃして思わず声に出す。
今日の麻生百合への言葉を思い出していたのだった。
なんだよ、
「仲間じゃないって……!」
俺は、あいつの家への帰り道、高台にある神社からの下り道。遠く東京の夜景を見ながら、少しむかむかした気持ちになりながら更に言う。
「……じゃあ、仲間になったら良いだけじゃないか……簡単な話だろ、ふざけんなリア充ども……って」
あれ?
俺は、咄嗟に言った自分の言葉から、実に単純なことに気付く。
——じゃあそうしたら良いんじゃないか?
俺はそのシンプルな回答に気付いた。
ああ、簡単なことじゃないか。
「なんだ……仲間になったらいいだけじゃないか!」
俺は決心した。
あいつが、あいつらが何を言って来たって。
やっちまったら……
「そしたらこっちのもんだ。やっちまうぞ、馬鹿野郎!」
俺は思いついたことの爽快さに思わず叫んでしまう。
女子高生の姿をしているのに男言葉の俺の叫びは、道行く人々の奇異の目を引くけれど、
「馬鹿野郎!」
俺は叫ぶのを止めない。
「やっちまえ!」
その声は、夜の闇の中に力強くこだまするのであった。
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