第二十六話

 戦場は大混乱に陥っていた。男は髪の毛に火がつき、あるいは衣服が燃えている。またある者は目を炎で焼かれ、ひどい者は顔全体に大火傷を負っている。

「ぎゃああああ!」「顔が! 俺の顔が!」「熱っじいいいい!」

 次々と悲鳴をあげる人々の頭上を飛ぶ小さな生き物がいた。それはネミールの魔法である炎の小鳥で、実際は生物ではない。なのでいくら手や剣で払おうとしても無理だった。逆にその手が炎の熱で火傷を負う有様だ。

 小鳥たちは縦横無尽に人々の頭上と周囲を飛ぶ。十羽の塊もあれば五羽のものもあり、また一羽で人の間を飛ぶものもいた。その鳥が飛ぶ範囲は広く、ネルゴット達を取り囲むイヴュル帝国の前線部隊、捨て駒の農奴と傭兵達の集団のほとんどへ襲いかかっていた。

 何羽かの小鳥が一斉に火を小さな口から発射し、髪の毛や衣服を燃やす。またはその顔を焼いて視界を奪う。一羽の鳥が男の顔の周りを飛び回り、狼狽したところでその目を焼く。手で払おうとした者はその熱さに悲鳴を上げ、剣を振り回した男は鳥の体を剣がすり抜けることに驚愕する。

 その被害を受けなかった者たちも、突然周囲の人間達が燃え上がり、顔を押さえて悶える姿に戸惑う。悲鳴がいたるところから聞こえ始めると、それまで暴力に興奮していて麻痺していた恐怖が、抑えられず徐々に体を支配し始める。

 頭上を何羽もの炎の鳥が飛び交い、体の横を通り抜けていく。それを感じた瞬間、隣の男の体から炎があがった。驚いて飛びのくと、今度は背後から悲鳴があがった。人の間から炎と、髪の毛や皮膚が燃える臭いが漂ってくる。

 悲鳴は消えることは無く、次々と様々な場所から聞こえた。腕のすぐ横を何かが速い速度で通り抜けた感触がした瞬間、男は悲鳴をあげた。その顔は恐怖に染まり、真っ青だ。そして震える手から武器である麦刈り用の鎌を地面へ落とすと、叫びながら逃げ出した。

「うわああああああ!」

 もともと彼らは人と殺し合うことなど考えもしない農民なのだ。それが騎士たちに無理矢理連れてこられ、さらに後ろから暴力で強制的に戦わされていただけだった。一人が逃げ出すと、あとは雪崩をうつように誰もが逃げ出した。

「待てっ! 逃げるな! 弓兵は矢を放って農奴どもを止めろっ!」

 マルヒンは唾を飛ばして怒鳴るが、それは意味が無いことだった。放たれた矢が刺さった男を見て立ち止まる者は誰一人おらず、それどころか倒れた男を踏み潰して逃げる。

「くそっ、貴様らは殺されたいのか! 戦え! 農奴を押さえろ!」

 バラバラの方向へ逃げ出す農奴たちは、左右だけでなくマルヒム達騎士がいる後方へ向かう者たちも数多くいた。恐怖に支配された彼らには逃げる方向さえ考えることもできない。ただ誰かが逃げている方向へ走るだけだ。

「止まれ! 止まれ!」

 騎士達が矢を放ち、武器を構え止めようとするがそれが目に入らないかのように走る。突き出された槍に貫かれ、剣で体を切り裂かれた。それを見ても彼らは止まらない。次々と押し寄せる人間を、イヴュル帝国の騎士たちは機械的に殺害していった。


 エインとネミールを乗せた馬は、逃げ惑う人間達を切り裂くように駆けていた。自分に向かって突進してくる馬を見た人間は、驚愕に目を見開くと咄嗟に横へ飛んで逃げる。それができなかった者は頭を抱えてその場にしゃがみこむ。その上を馬は優雅に飛んでかわす。何人かをはね飛ばしているかもしれないが、お構い無しでエインは馬を一直線に走らせていた。

「どう、ネミール?」

「大丈夫、みんな逃げ出した」

 ネミールの額から大粒の汗がしたたり落ちる。多くの鳥を群れではなく、一羽一羽を別々に操るのはかなりの集中力と体力が必要なのだった。

 しかしネルゴットを助けるには取り囲む敵を一斉に排除するしかなかったため、こうやって鳥を広範囲に散らして攻撃するしか方法が無かったのだ。その効果は絶大で、すでにまともに戦おうとする人間は誰一人いない。

「見えた」

 エインが目指して馬を走らせていたのは、巨大な炎の鳥がいる場所。つまりネルゴットのいる場所だ。騎兵の集団のなかに一人、赤いマントを身につけた姿があった。

「お母様っ!」

 鳥の視界を通じてその姿を見ていたが、ネミールは閉じていたまぶたを開け、母親の姿をその目に映した。

「ネミール!」

 聞き覚えのある声が耳に届き、思わずそちらへ顔を向けた。するとまさかいるはずも無い人間の顔を見つけ、驚愕の叫びをネルゴットはあげる。

 近づいてくる不審な馬に周囲の騎士たちは武器を向けるが、それをネルゴットは止めさせた。彼らには信じられないかもしれないが、母親である自分には確信がある。あの姿は間違いなく娘のネミールだ。再び名前を叫ぶ。

「ネミール!」

 騎士達の手前で馬を止めると、エインは馬からネミールを抱えて飛び下りた。人を抱えているとは思えない身軽さだ。エインが手を離すと、ネミールは一直線にネルゴットへ向かって走る。

「お母様!」

 ネルゴットも馬を降りて走っていた。騎兵達の隙間を走りぬけ、ネミールを抱きしめる。

「ああ、ネミール! 本当にネミールなのね! どうしてこんな所へ?」

「お母様! お母様!」

 ネミールは母親の胸で泣き叫ぶ。ネルゴットも抱きしめた娘の髪に顔を埋め、愛しげに頭を何度も撫でた。その温かさに笑いながら涙がこぼれた。

「……ネミール。なぜあなたがここにいるの?」

「……お母様が心配で、死んじゃうんじゃないかって不安で、どうしても、どうしてもお母様に会いたくて……アイリーンに頼んで連れて来てもらったの……」

 嗚咽混じりの声に、思わず嘆息する。こんな危険な場所にたった二人で城を抜け出すなど何を考えているのか。しかしネルゴットは怒る事ができなかった。一度は諦めた愛しい娘との再会に、怒りよりも喜びのほうが勝っていたからだ。

「まったく……それで、これはあなたの魔法なの?」

 ネルゴットは頭上を見上げた。炎の小鳥が飛び交っている。

「うん! 私、一羽しか鳥を出せなかったでしょ。そうしたらエインがもっとたくさん出せないのって言って、やってみたらできちゃったんだよ!」

「できちゃったって……そのエインは一体誰なのかしら?」

「えっと、途中で吹雪にあって、そのとき助けてくれて、そうだ! 村の人が大変なことになって、だからここまでついてきてくれたの!」

「ごめんなさい。あなたの説明じゃよくわからないわ。エインという人は、あの子でいいのかしら?」

 ネルゴットが視線を向けると、ネミールも振り返る。そこにはつかみどころない表情をした、いつものエインが馬の横に立って抱き合う二人を見ていた。

「うん! エインはね、おじい様とおばあ様がすごい狩人で、いろいろ教えてもらったからエインもすごい狩人なの! 投げナイフが得意で……」

「ネルゴット様」

 ネミールの言葉は騎士の声で遮られる。ネルゴットもこんな会話をしている場合ではないと気付く。表情が真剣なものになる。

「話はあとでしましょ。まずは敵を何とかしなければ……ネミール。エイン君をちょっと呼んできてくれる?」

 頷いたネミールが駆けていくと、ネルゴットは鋭い目で副官を見る。

「陣形を整えて。敵が散った今は好機よ。イヴュル帝国の本隊へ突撃するわ。そして指揮官の首を取る! 準備を急いで……ああ、あなたエイン君、でいいのかしら?」

 ネミールに手を引かれ、片手に手綱を持って馬を連れた少年は小さく頷いた。

「ここまでネミールを案内してくれてありがとう、と言えばいいのかしら? そういえばアイリーンはどこにいったの? 姿が見えないけど」

「アイリーンなら馬に乗れないから置いてきた」

 ネルゴットは思わず頭を押さえた。つまりこの危険すぎる戦場に子供二人で来たということになるのだ。なぜアイリーンは止めなかったのかと怒りを覚える。

「そう……それでお願いがあるのだけれど、ネミールを連れて遠くへ逃げてほしいの。これから私達は、決着をつけに行くから」

 ネルゴットの両目が強い光を放つ。

「そんな! せっかくお母様と会えたのに!」

「わかってネミール。ここまで来てくれて嬉しかったわ。でもこれ以上ここにいたら死んでしまうかもしれない。私も、死ぬつもりはないけれど……最後に会えてよかったわ」

 涙を流しながら言葉も無く抱き合う二人。そのまま感動的な別れになるかと思いきや、エインがとんでもないことを言い出した。

「ううん。ネミールはネルゴットさまが連れて行ってよ。僕は向こうに行くから」

「「え?」」

「ネミールの魔法を見たよね。あれならあの敵も倒せると思うよ」

 ネルゴットは虚を突かれた様子でネミールを見て、頭上を見上げた。たしかに広範囲に多数の人間を混乱させることができれば、残っているイヴュル帝国の騎士達を相手にするには効果的だ。こちらは疲れているし、戦力差も呆れるほど違うのだから。

「でも、ネミールを危険な目に合わすわけには……」

「ネミールは死ぬかもしれないお母さんに会いに来たんだ。だったら死ぬときも一緒にいさせてあげればいいよ。急に死んじゃうよりそっちがいいよ……」

 そう言うとエインは馬に身軽に飛び乗ると、その方向を変えた。

「僕は向こうをやるよ……仇だから……」

 エインは馬の腹を蹴り、もと来た方向へ向かっていく。そこではノゴ地方領騎士団とエル地方領騎士団が激しい戦いを繰り広げていた。

「ちょっと待って……!」

 あっという間にエインの姿は小さくなっていく。

「一体何がどうなってる!」

 傭兵達が逃げ去ってしまったため、ザリーヌは自分が従える騎兵のみで攻撃を行っていた。彼は戦場に起きた変化に思わず攻撃の手を止めてしまう。イヴュル帝国の軍勢が無数の鳥に襲われ、次々と逃走をはじめていたのだ。その光景を見て、ネミールを追っていた騎士達が失敗したことを知る。

「あの無能どもが!」

 ザリーヌが憤怒に顔を染めて叫ぶ。そんな彼の元へ鎧を汚し、疲れた表情の騎士がやってきた。ネミールを追っていた者の一人だ。

「ザリーヌ様。あと一歩のところで及ばず、魔法で返り討ちにされました……」

 悄然とした様子の騎士を気にする余裕も無く、ザリーヌは憎悪に満ちた目でネルゴット達エル地方領騎士団を睨む。その目がこちらへと向かってくる一頭の馬を発見した。

 エインはすでに長時間走り続け、全身から汗と白い蒸気を立ち上らせる馬の首を労わるように叩く。もともとネミール達を探していた騎士のものだったが、今ではまるで昔からの相棒のようになっている。

 エインは鋭い目で前方を見据えた。百人近い騎兵がいる。しかしエインは恐れない。村人達を殺された怒りが彼の脳裏を占めていた。

 数人の騎兵が向かってくる。瞬く間に距離は縮まり、剣が振り下ろされた。それをエインは馬上で器用に回避すると同時に、騎士の腕を切りつける。悲鳴とともに手放された剣を空中で掴んだ。一瞬の早業であり、切られた騎士は何が起こったのか理解できない。

 すでに次の騎士が剣を振り上げている。しかしエインは冷静に奪った剣で攻撃をいなし、逆の手に持つナイフで確実に傷を与える。それは攻撃をしてきた手指へ、すれ違いざまに足へ、そして急所である首へ深々と刻まれた。戦闘を続行できるような傷ではない。

 次々と返り討ちにされる騎士たちに、ザリーヌは半狂乱になりながら指示を出す。

「たった一人に何をやっている! 私に続けっ!」

 エインへと駆け出したザリーヌを部下達は慌てて追う。いくらなんでも指揮官を先頭にして突撃はさせられない。追い抜くとザリーヌの前に陣形を作る。

 大量に雪を蹴り上げながら迫る騎兵の群れに臆することなく、エインはさらに速度を上げた。先頭の騎兵が槍を突き出す。それを体を捻ってかわし、ナイフで腕を切る。左から接近した騎士の剣が振り下ろされたが、崩れた体勢のままで難なく剣で防ぐ。すると次は右から騎士が剣を振り上げ迫る。まだ距離があるのにエインの手が閃いた。騎士の首へナイフが刺さっていた。

 それは唯一残っていたエインの武器で、それを投げた手にはもう武器が無い。それが好機だと判断した騎士が接近する。その瞬間、魔法のようにエインの手へナイフが戻っていた。それに驚く間もなく、首へそのナイフが突き刺さり、騎士は命を落とした。

 エインがナイフを投げた状態の腕を引くと、騎士の首に刺さったナイフが空中を飛んで手に戻ってくる。よく見るとナイフの柄に細い紐が巻かれていた。それはエインの手と繋がっている。この技は誰かに教えてもらった技ではなく、エイン独自のものだ。

 次々と襲い掛かる騎士を、エインは剣で防ぎ、ナイフで攻撃する。攻撃を受けた者は確実に戦闘不能になり、攻撃を防がれただけの者は反転して追撃したくても、走っている馬を急旋回させるのは簡単ではない。エインは騎兵のただ中を切り裂いていく。

「さっさとアイツを止めろおおおおお!」

 並ぶ騎士の隙間から、叫ぶザリーヌの姿をエインは見た。一瞬でその男が群れの頭だと理解する。狩人として長い時間山で獣と接していたため手に入れた能力だ。エインの両目が鋭い光を放った瞬間、馬の背を蹴って空中へ飛んだ。

 正面にいた騎士は突然空中へ飛び上がったエインに驚愕し、その表情のまま息絶えた。首に投げた剣が刺さっている。騎士の体がずり落ち、誰もいなくなった鞍へ着地すると、すぐさま再び空中へ体が舞う。

 エインの姿が接近していることに気付いた騎士は、このままでは自分にぶつかるということに悲鳴をあげた。そしてバランスを崩し、あえなく落馬する。姿が消えた馬上に着地すると、エインはすぐに飛ぶ。次の着地地点である馬に乗る騎士の顔が引きつっていた。

 ザリーヌは驚愕のあまり言葉を失う。これは夢ではないかとさえ疑った。疾走する馬の上を次々と飛び渡るなど、普通の人間にできる芸当では絶対に無い。その姿は着実にザリーヌがいる場所まで近づいてきていた。

「あれを近付けるさせるな! 何をしているんだっ!」

 叫んだところでもう手遅れだった。眼前にエインの姿がすでに迫っていた。

 声を出す暇も無く、衝撃とともにザリーヌ体は宙を舞う。一瞬の浮遊感の後、背中が雪が積もる地面へ叩きつけられた。馬の疾走の勢いがあり、何度も体が回転する。停止したときにはすでに意識を失っていた。

 エインも同じく地面を転がったが、受身を取っているので怪我はない。少し離れた位置に転がっているザリーヌに冷たい視線を向ける。そんな二人を離れた位置で停止した騎士達の目が捕らえていた。しかしその目は戸惑いに揺れている。指揮官を失ったためどうすればいいか決断できないのだ。そんな膠着状態を破る爆発音が響く。

「ネミール、いくわよ!」

「うん! お母様!」

 ネルゴットとネミールは同時に魔法を使った。二つの巨大な火炎弾が、イヴュル帝国の隊列に突き刺さる。爆発で騎士達の体が宙を舞った。

「突撃!」

 ネルゴットが剣を突き出すと、騎兵達が一斉に駆けだす。それを見ていたネルゴットの体が揺らぎ、馬から落ちそうになる。

「お母様!」

「……大丈夫よ、ネミール……」

 魔法の使いすぎにより限界に近い体力だが、安心させるように笑顔を浮かべる。その額に浮かぶ大粒の汗だけは隠せないが。

「私より、あなたは大丈夫?」

「う、うん! まだ全然大丈夫だから!」

 そう言うネミールの額にも大粒の汗が見て取れた。彼女も魔法の使用により疲労している。鍛えられていない彼女の体力は普通の少女とかわらない。

「そう……じゃあ、お願いするわ」

 ネミールは目を閉じ、鳥達の操作に集中する。火炎弾を発射するために集まっていた鳥達が、一斉にイヴュル帝国軍へ拡散していく。鳥はイヴュル帝国の騎士の頭上や周囲を飛び回り、発射した炎でその顔を焼く。さらには彼らが乗る馬の顔や尻尾を燃やし、更なる混乱を起こした。悲鳴がいたる場所から聞こえ始める。

 ネルゴットは複雑な気持ちで自分の前に座るネミールを見る。

 エインが去って行った後、ネミールを一人残すわけにもいかず、ネルゴットは彼女と共に馬へ跨る。危険な戦場へ連れて行くことに不安と、その戦闘へ参加させることに嫌悪感をおぼえたが、結果としてそれは正解だった。イヴュル帝国の騎士たちは、炎の鳥達に追いかけられて混乱の坩堝と化していた。

 ネルゴットは魔法という力を持ったが故に、面倒ごとに事を欠かなかった。なので娘が魔法を使ったときは喜べず、月日がたってもその力が成長しなかったときは喜んだ。そのことにネミールが悩んでいたことに気付いてはいたが、ネルゴットとしてはそれで良かった。しかし、ネミールは力を手に入れた。

 こうして娘と並んで敵と戦えることは、正直嬉しい気持ちもある。根っからの武人の血がそうさせる。しかし、母親としてはこれからネミールに降りかかるであろう出来事に、憂鬱なため息を漏らしてしまう。

「でも……それを考えるのは、ここを切り抜けてからね……」

 ネルゴットの両目が鋭く光を放った。


「一体どういうことだ!」

 マルヒンは混乱し、意味を成さない言葉を叫ぶしか無い。周囲の騎士達の耳にはそんな声は届きはしなかった。それよりも悲鳴のほうが大きく、顔を焼かれ、尻尾を燃やされて暴れる馬に翻弄されているからだ。

 体の周りを飛び回る鳥を追い払おうと剣を振るい、それが周囲の人間を傷つけて悲鳴があがる。顔を焼かれた騎士と、それを目撃した騎士が叫ぶ。暴れた馬から放り出された騎士が地面に叩きつけられ、さらに馬の足で踏み潰されて声も無く死亡する。そんな光景がイヴュル帝国軍の全ての場所で見られた。

「早く、早く陣形を立て直せっ!」

 ひときわ大きな叫びと、悲鳴が聞こえた。突撃するエル地方領騎士団と、彼らに弾き飛ばされ剣で斬られるイヴュル帝国の騎士のものだ。百にも満たない騎兵達だというのに抵抗することもできていない。陣形を保つこともできず右往左往するしか無い騎士など、すでに意味を失っていた。流星のようにマルヒムの元へ向かっている。

「あああああああっ!」

 マルヒムの悲鳴は戦場の騒乱に埋もれて消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る