日本の車窓から

 大学の夏期休暇もそろそろ終わりを告げます。私はボストンバッグを肩にかけ、下宿先へ戻るため駅のホームに降り立ちました。

 そこそこに田舎なので、特急は一時間に一本。後十五分ほどで目当ての便がやってきます。

 しかし何もないホームだなあ。私の他にはカラスしかいません。ま、文庫本でも読んで暇つぶししますか。今日の旅のお供は民俗学者の宮本常一みやもとつねいちです。


 やがて特急がやってきました。栞をきちんと挟んだ『忘れられた日本人』をボストンバッグのポケットに突っこんで、意気揚々と乗り込み、窓際の席に陣取ります。

 出発進行、景色が映りゆきます。私が動いているのか世界が動いているのか、ちょっとわからなくなるこの不思議な一瞬が好きです。


 何の気なしに車窓から風景を眺めるのもいいものです。色々な発見があったりします。たとえば――。


 このあたりは農地の区画整理が進んでいるな、とか。

 五つ目の神社発見、今日はいくつ見つけられるか、とか。

 たまーにぽつねんと田んぼの中に突っ立っているお墓やら碑やらには何の由来があるんだろう、とか。

 この辺りの古い家は何で瓦の上にコンクリートブロック乗せてんの、とか。


 お気に入りはもりを探すことですかね。鎮守の森です。田んぼや住宅地の中で、いきなり木々が鬱蒼と茂っているポイントは(田舎なら)高確率で神社があるんじゃないかと。

 なんだかんだで二十一世紀の今にも残ってるんだなあ、なんて思うとちょっと感慨深いのです。神社の整理に反対運動を起こした南方熊楠みなかたくまぐすのおかげでしょうか?


 一時間半ほど、のんびり車窓を眺めて過ごしました。その間に県を一つ通り過ぎています。さて着いたのは、地元と比べればはるかに大きな、でも大都会と言えるかというと微妙な、地方都市です。

 まあ自動改札があるんだから、少なくとも都会でいいんじゃないですかね。都会のハードルが低い田舎者の私でした。

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